鑑定能力で恩を返す

KBT

文字の大きさ
上 下
41 / 155
第一章

種明かし

しおりを挟む
 サトの鑑定能力かんていスキルの精度の高さにロンメルは危機感を募らせ、顔色を悪くしていた。
 
「ロンメルさん? 大丈夫ですか?」

「ん? あ、ああ。すまんのぅ。年寄りはたまにボッーとするでな。気にせんで続けてくれ」

「は、はぁ。まぁ、それで呪いをかけた人物と渡した人物が異なるのであれば、渡した人物、つまり前伯爵様からすれば呪いを解いて欲しいんじゃないかと思ったんです。秘宝である水晶玉から呪いを解く事こそが彼の言う『秘宝の真価』だったんじゃないかって」

「なるほどな。呪われた物を所持するのは貴族としてあってはならん事じゃが、家宝であれば簡単に捨てるわけにもいかんからのぅ。カミル様も悩まれんたじゃろうなぁ」

「ええ、それで俺は呪いを解く方法を探しました。さすがに鑑定ではわかりませんでしたからね」

「探したという事は、古代の叡智からか? 伝説の魔導師マーセルは呪術にも精通しておったんじゃな」

「まぁ、そうなんですけど……実は呪術って思っていたより凄い物じゃなくて、簡単に解けちゃったんです」

「なんと? では、あの訳のわからない詠唱とこの蝋燭、それにその人型の紙で呪いを解いたのではないのか?」

 ロンメルの言葉にサトは照れながらカウンターに置いたままの蝋燭と紙の燃え滓を片付け始めた。

「あれはミネルバァ様達に呪いを解いたと思わせるためのパフォーマンスというか、鑑定能力かんていスキルを隠すための芝居だったんです。実は呪いって術者がバレた時点で解けてしまうんです。つまり、俺が鑑定でクサーヴァーが術者だと断定した時点でもう呪いは解けていたんですよ」

「な、なんじゃ、そんな簡単な事で解けるのか? いや、待てよ。そう簡単でもないか。サトであれば鑑定でわかるが、他の者なら呪いをかけた人物なんぞ特定しようもないからのぅ。疑わしいだけでは駄目だとすれば容易ではないか」

「そうですね。特定できないと意味がないそうです。だから昔から鑑定能力かんていスキル持ちは呪術師の天敵だったそうです。それで話を戻しますが、その後が大変だったんですよ。この事実を鑑定能力かんていスキルを隠したまま、どうミネルバァ様達に伝えるかです」

「うーん、そうじゃな。ただ『呪いは解けました』と言ってもミネルバァ様は信用なさらんじゃろうからな」

「でしょう? そこで色々考えた結果があの芝居だったんです。みなさんが言い争っている間に紙を人型に切って、そこに果汁で術者の名前を書いておきました。それを希少アイテムと偽った蝋燭の火で炙って文字を出したんですよ」

「あれはあぶり出しか? なんとも古典的な方法を……じゃあ、あの詠唱はなんだったんじゃ?」

「あれは俺の元いた世界でのまじない言葉ですよ。信憑性が出るかと思いましてね」

「あれもハッタリか。しかし、また次に呪いを解いてくれと言われたらどうするんじゃ?」

「もう蝋燭が無いから無理だと言い張りますよ。あくまで呪いが解けたのはあのダンジョン産の希少アイテム《破邪の霊火》のおかげという事でね」

「ふむ、確かにダンジョン産の希少アイテムと言えば通らなくもないかのぅ。ダンジョン産の品物は同じ物が何個も出るとは限らんからなぁ。となると、最後の光もペテンか?」

 ロンメルの言葉にサトはカウンターの下から魔石を取り出した。

「なるほど、光の魔石か。一気に魔力を流し込んで瞬間的に強く光らせたわけか。やれやれ、儂も騙されたわぃ」

「すいません。説明する間もなくて。とりあえず、これが説明の全てです。まずかったですか?」

「いや、大丈夫じゃろう。あぶり出しなんぞ昔の子どもの遊びじゃしな。燃えてしまって証拠もない。それに実際に呪いが解けたんじゃ。細かい事まで気にはせんじゃろう。要はミネルバァ様が次期伯爵となれば問題ないわい」

 ロンメルの言葉通り、ミネルバァは細かい事は気にしていなかった。
 いや、気にする暇すらなかったのである。
 数日後、公都ハメルンに次期アルヴォード伯爵はミネルバァ・フォン・アルヴォードである事が発表されたからである。
 それと町外れの古びた館が全焼し、焼け跡から1人の遺体が見つかったそうだが、それはアルヴォード家の次期当主発表の影に隠れ、誰の記憶にも残る事はなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

絶対防御とイメージ転送で異世界を乗り切ります

真理亜
ファンタジー
有栖佑樹はアラフォーの会社員、結城亜理須は女子高生、ある日豪雨に見舞われた二人は偶然にも大きな木の下で雨宿りする。 その木に落雷があり、ショックで気を失う。気がついた時、二人は見知らぬ山の中にいた。ここはどこだろう? と考えていたら、突如猪が襲ってきた。危ない! 咄嗟に亜理須を庇う佑樹。だがいつまで待っても衝撃は襲ってこない。 なんと猪は佑樹達の手前で壁に当たったように気絶していた。実は佑樹の絶対防御が発動していたのだ。 そんな事とは気付かず、当て所もなく山の中を歩く二人は、やがて空腹で動けなくなる。そんな時、亜理須がバイトしていたマッグのハンバーガーを食べたいとイメージする。 すると、なんと亜理須のイメージしたものが現れた。これは亜理須のイメージ転送が発動したのだ。それに気付いた佑樹は、亜理須の住んでいた家をイメージしてもらい、まずは衣食住の確保に成功する。 ホッとしたのもつかの間、今度は佑樹の体に変化が起きて... 異世界に飛ばされたオッサンと女子高生のお話。 ☆誤って消してしまった作品を再掲しています。ブックマークをして下さっていた皆さん、大変申し訳ございません。

料理人がいく!

八神
ファンタジー
ある世界に天才料理人がいた。 ↓ 神にその腕を認められる。 ↓ なんやかんや異世界に飛ばされた。 ↓ ソコはレベルやステータスがあり、HPやMPが見える世界。 ↓ ソコの食材を使った料理を極めんとする事10年。 ↓ 主人公の住んでる山が戦場になる。 ↓ 物語が始まった。

異世界ネット通販物語

Nowel
ファンタジー
朝起きると森の中にいた金田大地。 最初はなにかのドッキリかと思ったが、ステータスオープンと呟くとステータス画面が現れた。 そしてギフトの欄にはとある巨大ネット通販の名前が。 ※話のストックが少ないため不定期更新です。

異世界召喚されたのは、『元』勇者です

ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。 それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。

【BL】死んだ俺と、吸血鬼の嫌い!

ばつ森⚡️4/30新刊
BL
天涯孤独のソーマ・オルディスは自分にしか見えない【オカシナモノ】に怯える毎日を送っていた。 ある日、シェラント女帝国警察・特殊警務課(通称サーカス)で働く、華やかな青年、ネル・ハミルトンに声をかけられ、【オカシナモノ】が、吸血鬼に噛まれた人間の慣れ果て【悪霊(ベスィ)】であると教えられる。 意地悪なことばかり言ってくるネルのことを嫌いながらも、ネルの体液が、その能力で、自分の原因不明の頭痛を癒せることを知り、行動を共にするうちに、ネルの優しさに気づいたソーマの気持ちは変化してきて…? 吸血鬼とは?ネルの能力の謎、それらが次第に明らかになっていく中、国を巻き込んだ、永きに渡るネルとソーマの因縁の関係が浮かび上がる。二人の運命の恋の結末はいかに?! 【チャラ(見た目)警務官攻×ツンデレ受】 ケンカップル★バディ ※かっこいいネルとかわいいソーマのイラストは、マグさん(https://twitter.com/honnokansoaka)に頂きました! ※いつもと毛色が違うので、どうかな…と思うのですが、試させて下さい。よろしくお願いします!

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

異世界を【創造】【召喚】【付与】で無双します。

FREE
ファンタジー
ブラック企業へ就職して5年…今日も疲れ果て眠りにつく。 目が醒めるとそこは見慣れた部屋ではなかった。 ふと頭に直接聞こえる声。それに俺は火事で死んだことを伝えられ、異世界に転生できると言われる。 異世界、それは剣と魔法が存在するファンタジーな世界。 これは主人公、タイムが神様から選んだスキルで異世界を自由に生きる物語。 *リメイク作品です。

処理中です...