上 下
94 / 103
第三章

狐獣人とダークエルフ④

しおりを挟む
「なんだぁ、それならそうと早く言えばいいのに~相変わらず人騒がせだね、君は」

「す、すいません……」

 あまりの天使のような悪魔の笑顔の圧に負けて、俺は全てを正直にシエンナに話した。
 怒られるかと思ったんだけど、意外にもシエンナはホッとしたような顔で笑って許してくれた。
 こんな事なら最初から正直に言えば良かったよ。

「じゃあ、このお金はありがたく研究資金にさせてもらうね。本来なら見返りは完成品の優先取得権とかだけど、君には必要ないよね?」

「まぁ精力剤は今のところ必要ないな」

 というか永遠に必要ない。
 むしろ不能になってもいいくらいだ。
 どうせこの先も使う予定もないんだし。

「じゃあ、今は必要ないって事で。だとしたら売り上げの何割かを回そうか? まだ値段決めてないから幾らになるかはわからないけど」

「いや、金銭を得るのは避けたいんだ。下手に収入がある事がバレるのも困るから」

「そうかぁ。でも、そうなると君には何を返せばいいの? 言っておくけど見返りが無しなんてあり得ないからね」

「わかってる。それで提案なんだけど、この店の商品を安く買えるようには出来ないかな?」

 俺自身はカミさんの能力のおかげで回復薬とは無縁だけど、回復薬だけが薬屋の仕事じゃない。
 虫除けとか生活に必要な薬品も薬屋にはあるからね。
 山の中に住んでる俺にとっては結構入り用で金銭的にも馬鹿にできない。
 だから安く買えるなら俺としても有難いんだ。
 
「どうかな?」

「わかったよ。だったら君には今後この店で取り扱ってる一般商品に関しては3割引って事でどうかなぁ?」

「それでいいよ。じゃあこれで交渉成立だね」

 よし!
 色々あったけど、これで大金を消費する事ができたし、狙われる心配もなくなったぞ!
 シエンナは冒険者達のファンがたくさんいるから狙われる心配も無いし、これで俺も心置きなく普通の生活に戻る事ができる!

「じゃあ、交渉成立したところで君に相談したい事があるんだけど、いいかな?」

「えっ? な、なにか問題でも?」

「問題というか今作ってる精力剤に使えそうな素材とか知らない?」

「精力剤に使える素材?」

「うん。精力剤には豚鬼オークの睾丸がよく使われるでしょ? でも、最近この近辺の豚鬼の数が減っていてね。そのせいで睾丸の流通量が減って精力剤の価格が高騰してるんだよ。今はまだ大丈夫だけど、今後は平民には手が出ない値段にまで上がる可能性もある。だから、僕は新しい豚鬼の睾丸に頼らない精力剤を作ろうと思ったんだよ」

 そういう意図があったのか。
 そういや、俺は取ったことないけど豚鬼の睾丸って、一応生物なまものだから保存が難しくて、他所の地域から取り寄せるのは大変って聞いたな。
 だから、この辺りに豚鬼がいなくなったら素材が足りなくなって、価格が高騰するのも無理はないか。
 しかし、精力剤なんて気にしたことがなかったから素材って言われても見当がつかないぞ。
 
「今のところ思い当たる物はないかな? 薬草なら言われれば取ってくるけど」

「ううん、薬草とかは大体揃ってるから今のところお願いする物はないよ。欲しいのは精が付く物だね。それさえあれば、あとは薬草とかで効力を増進させられるから」

 そう言われてもなぁ。
 滋養強壮に良いとかならともかく、精が付く食べ物ってなんだ?
 一番に思いつくのは鰻だけど、この辺りの川にいないのは確認済みだ。
 大好物だから速攻で探したけど、いなかったとわかった時は寂しかったなぁ。
 鰻は異世界転生あるあるの食材なのに、いないなんて酷すぎるわ!
 他に精の付く物と言えば……スッポンとかか?
 でも、あれも見たことないぞ。
 そもそも、どんな所に生息する生き物なのかも知らんしね。
 完全にお手上げだな。

「悪いけど、今のところ思い当たる物はないな」

「そうか。なら仕方ないね。ごめんね。無理なこと言って。あっ、そうだ。お詫びに漁師さんに分けてもらったのをあげるよ。ちょっと待ってて」

 シエンナは店の奥に駆けて行き、平たい木箱を持って帰ってきた。
 中身はゴツゴツとした不恰好な石……じゃないな。
 なんだあれ?

「この前、薬を買いに来た漁師さん沢山くれた【魔女貝】だよ。1人じゃ食べきれないから持って帰ってくれたら嬉しいよ」

「ああ、貝だったのか。でも、【魔女貝】ってのは初めて見るな。どれどれ……」

 俺はシエンナにバレないようにこっそり【鑑定】をしてみた。
 ん? これってもしかして、アレか?
 うーん、俺は酷い目に遭ったことがあるから苦手なんだよなぁ。
 待てよ、そういやあの時は年上の先輩に連れて行かれたんだよなぁ。
 そん時に確か言ってたぞ!
 そうだ! 
 これならいけるんじゃないかっ!?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男爵令嬢のまったり節約ごはん

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
旧題:【美味しい】男爵令嬢のまったり節約ごはん! 〜婚約破棄したのに戻ってこいなんて、お断りです。貴族の地位?いらないのでお野菜くださいな? 書籍化決定! レジーナ文庫さんより12月下旬発売予定です。 男爵令嬢のアメリア・ローズベリーは、長年の婚約者であった伯爵令息のスペンス・グレイに突然の婚約破棄を突きつけられた。 さんざん待たされた上の婚約破棄だった。 どうやらスペンスは、数年前からメイドとできていたらしい。 結婚適齢期をとうに過ぎていたアメリア。もう貰い手もない。 あまりお金のない弱小貴族である実家・ローズベリー家のためもあり、形式上の婚約に、これまでは耐えてきたが…………。 もう我慢の限界だった。 好きなことをして生きようと決めた彼女は、結婚を諦め、夢だった料理屋をオープンする。 彼女には特殊な精霊獣を召喚する力があり、 その精霊獣は【調味料生成】という特殊魔法を使うことができたのだ! その精霊は異世界にも精通しており、アメリアは現代日本の料理まで作ることができた(唐揚げ美味しい)。 そんな彼女がオープンした店のコンセプトは、風変わりではあるが『節約』!  アメリアは貧乏な実家で培ってきた節約術で、さまざまな人の舌と心を虜にしていく。 庶民として、貴族であったことは隠して穏やかに暮らしたいアメリア。 しかし彼女のそんな思いとは裏腹に、店の前で倒れていたところを助けた相手は辺境伯様で……。 見目麗しい彼は、アメリアを溺愛しはじめる。 そんな彼を中心に、時に愉快なお客様たちを巻き込みながら、アメリアは料理道に邁進するのだった(唐揚げ美味しい) ※ スペンスsideのお話も、間隔は空きますが続きます。引き続きブクマしていただければ嬉しいです。 ♢♢♢ 2021/8/4〜8/7 HOTランキング1位! 2021/8/4〜8/9 ファンタジーランキング1位! ありがとうございます! 同じ名前のヒーローとヒロインで書いてる人がいるようですが、特に関係はありませんのでよろしくお願い申し上げます。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

追放されましたがマイペースなハーフエルフは今日も美味しい物を作る。

翔千
ファンタジー
ハーフエルフのシェナは所属していたAランクの勇者パーティーで魔力が弱いからと言う理由で雑用係をさせられていた。だが、ある日「態度が大きい」「役に立たない」と言われ、パーティー脱退の書類にサインさせられる。所属ギルドに出向くと何故かギルドも脱退している事に。仕方なく、フリーでクエストを受けていると、森で負傷した大男と遭遇し、助けた。実は、シェナの母親、ルリコは、異世界からトリップしてきた異世界人。アニメ、ゲーム、漫画、そして美味しい物が大好きだったルリコは異世界にトリップして、エルフとの間に娘、シェナを産む。料理上手な母に料理を教えられて育ったシェナの異世界料理。 少し捻くれたハーフエルフが料理を作って色々な人達と厄介事に出会うお話です。ちょこちょこ書き進めていくつもりです。よろしくお願します。

処理中です...