上 下
86 / 103
第二章

異世界人⑧

しおりを挟む
 怒れる料理長は放っておいて、俺は使用人用の厨房へ案内してもらった。
 さっきの厨房に比べたら狭くて設備も古いけど、この世界の水準からすれば全然問題ないレベルだ。
 
「あの……頼まれた物をお持ちしましたけど、本当によろしいのですか?」

 後から来た使用人が俺の頼んだ食材を持ってきてくれたけど、その顔は心配って書いてあるかのように不安そうにしていた。
 どうやら、さっきの話が気になってるみたいだな。
 
「構わないよ。それより、伯爵様は本当にに馬鈴薯カルトッフェルを食べた事がないのか?」

「いえ、付け合わせ程度でしたらテーブルに上がる事はありますので。ですが、メインとなると聞いたことがありません。それに馬鈴薯カルトッフェルを使った料理自体、聞いたことがありません」

 やっぱりね。
 今の話で確信したけど、美味い芋料理がこの世界には広まってないせいで、救荒作物って認識しかないんだ。
 勿体無い話だよ。

「まぁ、俺は俺の料理を作るだけだ。さっさと終わらせて帰らせてもらおう」

 俺は不安な顔をした使用人に厨房から出ていってもらってから、料理に取り掛かった。
 先ずは豚鬼オーク肉を薄切りにしていく。
 使うのはフォルニゲシュから貰った【裁断者の右腕】だ。
 これは本当によく切れるし、何より俺が切りたいと思った形に切れる優れ物だ。
 マジで使いやすくてありがたいよ。
 それにしても、この豚鬼オーク肉は、本当に最上級品だな。
 あの料理長が嫌がらせで質の悪いのを寄越すんじゃないかと思ったけど、そこまで陰湿じゃなかったか。
 ちょっと反省。

「次は問題の馬鈴薯カルトッフェルだ。皮を剥いて一口大に切っていく。人参カロッテも同じく一口大に切って、玉葱ツヴィーベルは繊維に沿って1㎝幅に切る」

 そういや、どんくらいの量を作ればいいんだろ?
 うーん、とりあえず20人分くらいにしとくか。
 余ったら持ち帰ればいいしね。

「えっと、次は油だけど……植物油はあるけど、さすがに胡麻油はないか。仕方ない。ここは自前のを使おう」

 【収納】に入れておいた自家製の胡麻油を取り出した。
 なんせこの辺りだと料理に使う油は獣脂がほとんどで、他は高価なオリーブオイルしかないからね。
 なのでカミさんから貰った能力で胡麻油を作らせてもらいました。
 
「フライパンに胡麻油を引いて豚鬼オーク肉を火にかけて、ある程度火が入ったら鍋に移しておく。そして、空いたフライパンに一口大に切った馬鈴薯カルトッフェル人参カロッテを入れて炒めていく」

 この時にあんまりかき混ぜ過ぎると形が崩れるから、焦らずにじっくりやるのがポイントだ。
 さて、表面に焼き目が付いてきたら、豚鬼オーク肉の入った鍋に移して、今度はフライパンにこいつを入れる。
 
「遂に手に入れた日本酒の代用品、龍酒! いやぁ、本当に嬉しい! うーん、この香りが堪らないね!」

 空いたフライパンに龍酒を注いで沸騰させる。
 こうする事で肉と野菜から出た旨みが酒に移るらしい。
 沸騰したら鍋に移して、そこに玉葱ツヴィーベルを入れてから砂糖と、醤油の代わりの黒墨樹こくぼくじゅの実を加える。
 水はさっきの龍酒だけで、他は一切加えない。
 野菜から出る水分だけで作る方が美味いものができるからな。
 
「落とし蓋の代わりに薄く切った木を上に被せて、更に鍋に蓋をする事で煮汁を逃さないようにする。あとは【調整】で竈の火を弱火にして煮込んで【鑑定】で煮込み具合を見るだけだ」

 いやぁ、本当にカミさんから貰った能力のおかげで助かるわ。
 ただ、フォルニゲシュが言っていた事は気になる。
 俺はカミさんがくれた能力はこの世界に普通にある魔法だと思っていたけど、実際は世の中の法則からかけ離れた神の奇跡だったらしい。
 人間に神の力を与えるなんて、普通に考えればあり得ない事だ。
 カミさんには俺に話していない何か別の思惑があるのかもしれないな。

「まぁ、今考えても仕方ないか。そろそろ煮えてきたかな?」

 細い木の棒で馬鈴薯カルトッフェルを刺してみると抵抗なくスッと刺せた。
 よし、いい感じだ。
 あとは【収納】から取り出した隠元ボーネを上に乗せれば完成だ!
 ちょいと味見……こ、これはっ!?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男爵令嬢のまったり節約ごはん

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
旧題:【美味しい】男爵令嬢のまったり節約ごはん! 〜婚約破棄したのに戻ってこいなんて、お断りです。貴族の地位?いらないのでお野菜くださいな? 書籍化決定! レジーナ文庫さんより12月下旬発売予定です。 男爵令嬢のアメリア・ローズベリーは、長年の婚約者であった伯爵令息のスペンス・グレイに突然の婚約破棄を突きつけられた。 さんざん待たされた上の婚約破棄だった。 どうやらスペンスは、数年前からメイドとできていたらしい。 結婚適齢期をとうに過ぎていたアメリア。もう貰い手もない。 あまりお金のない弱小貴族である実家・ローズベリー家のためもあり、形式上の婚約に、これまでは耐えてきたが…………。 もう我慢の限界だった。 好きなことをして生きようと決めた彼女は、結婚を諦め、夢だった料理屋をオープンする。 彼女には特殊な精霊獣を召喚する力があり、 その精霊獣は【調味料生成】という特殊魔法を使うことができたのだ! その精霊は異世界にも精通しており、アメリアは現代日本の料理まで作ることができた(唐揚げ美味しい)。 そんな彼女がオープンした店のコンセプトは、風変わりではあるが『節約』!  アメリアは貧乏な実家で培ってきた節約術で、さまざまな人の舌と心を虜にしていく。 庶民として、貴族であったことは隠して穏やかに暮らしたいアメリア。 しかし彼女のそんな思いとは裏腹に、店の前で倒れていたところを助けた相手は辺境伯様で……。 見目麗しい彼は、アメリアを溺愛しはじめる。 そんな彼を中心に、時に愉快なお客様たちを巻き込みながら、アメリアは料理道に邁進するのだった(唐揚げ美味しい) ※ スペンスsideのお話も、間隔は空きますが続きます。引き続きブクマしていただければ嬉しいです。 ♢♢♢ 2021/8/4〜8/7 HOTランキング1位! 2021/8/4〜8/9 ファンタジーランキング1位! ありがとうございます! 同じ名前のヒーローとヒロインで書いてる人がいるようですが、特に関係はありませんのでよろしくお願い申し上げます。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

幸子ばあさんの異世界ご飯

雨夜りょう
ファンタジー
「幸子さん、異世界に行ってはくれませんか」 伏見幸子、享年88歳。家族に見守られ天寿を全うしたはずだったのに、目の前の男は突然異世界に行けというではないか。 食文化を発展させてほしいと懇願され、幸子は異世界に行くことを決意する。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜

藤*鳳
ファンタジー
 楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...?? 神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!! 冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。

追放されましたがマイペースなハーフエルフは今日も美味しい物を作る。

翔千
ファンタジー
ハーフエルフのシェナは所属していたAランクの勇者パーティーで魔力が弱いからと言う理由で雑用係をさせられていた。だが、ある日「態度が大きい」「役に立たない」と言われ、パーティー脱退の書類にサインさせられる。所属ギルドに出向くと何故かギルドも脱退している事に。仕方なく、フリーでクエストを受けていると、森で負傷した大男と遭遇し、助けた。実は、シェナの母親、ルリコは、異世界からトリップしてきた異世界人。アニメ、ゲーム、漫画、そして美味しい物が大好きだったルリコは異世界にトリップして、エルフとの間に娘、シェナを産む。料理上手な母に料理を教えられて育ったシェナの異世界料理。 少し捻くれたハーフエルフが料理を作って色々な人達と厄介事に出会うお話です。ちょこちょこ書き進めていくつもりです。よろしくお願します。

こちらの世界でも図太く生きていきます

柚子ライム
ファンタジー
銀座を歩いていたら異世界に!? 若返って異世界デビュー。 がんばって生きていこうと思います。 のんびり更新になる予定。 気長にお付き合いいただけると幸いです。 ★加筆修正中★ なろう様にも掲載しています。

処理中です...