今日も誰かが飯を食いに来る。異世界スローライフ希望者の憂鬱。

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第二章

エルフとダークエルフ①

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 修羅場。
 激しい戦いや争いが起こる場を指す言葉だが、今まさに俺はその真っ只中にいる。
 何故こんな事になったのかはわからない。
 さっきまでの俺は、確かにいつも通りの日常の中にいたはずだ。
 朝起きて、軽く朝食をとってからギルドに来て素材採取の依頼を受ける。
 無事に依頼をこなして報酬を得て、たまには新鮮な魚でも買おうと市場に向かおうとしていた。
 そう、ここまでは普通!
 まさに俺の日常だったんだ!
 なのに、今はエルフとダークエルフに挟まれて、身動きが取れなくなってる!
 何でだよ!

「ティラミアのシエンナ。まさか、灰色の隠者の末裔とこんな所で会うとはね。会いたくなかったけど」

「そう言う君はバロアのヴァイオレットだよね? エルフ一の才女と言われる君が冒険者やってるなんて意外だね~でも、早く里に帰った方が良くない?」

 こ、この二人は知り合いなのか?
 だったら何でこんなに歪み合っているというか、睨み合ってるんだ?
 漫画的な表現で言うなら、バチバチッと火花が散ってるような感じ。
 そして、間に挟まれた俺は浮気のバレた旦那状態だ!
 結婚してないし、浮気どころか本気もまだだってのに!

「随分と親しげにリョウちゃんと話してたけど、なに? 仕事の付き合い? だったら邪魔して悪かったね」

「お仕事の依頼もあるけど、今日はたまたま出会っただけ~時間もあるし、ご飯でも一緒に行こうって誘おうとしてたとこだよ」

「えっ? そうなの? さっきは薬草採取の……」

「君は~少し静かにね~」

 うっ、有無を言わせぬ圧力。
 笑顔の奥底から狂気を感じる。
 これは……逆らわない方がいい!

「ちょっと! 私の大事なリョウちゃんを脅かさないでよ!」

「脅してないよ~」

「アンタみたいな性悪が睨むだけで十分脅しなのっ! もういいからアンタは帰りな! リョウちゃんは私とご飯に行くから」

「いや、今日は買い出しに……」

「リョウちゃん!」

 こ、怖い……
 何故だ? 何故俺が怒られなければならないんだ。
 しかも、大声のせいで人が集まり始めた。
 見せ物になるのは勘弁して欲しい。

「おい、見ろよ! ヴァイオレットさんとシエンナさんだぜ」

「マジだっ!? ツヴァイ二大美女エルフが揃うなんて凄ぇぞ!」

「あの間にいるのは……万年銅級の素材屋じゃねぇか! なんであんな奴があの二人と!」

「……呪おう」

 不吉っ! 今、すっごい不吉なワードが聞こえたぞ!
 お願いだからやめてくれ!
 ついでに言うなら俺を助けてくれ!
 変わって欲しいなら、すぐにでもこの場所と変わってやるぞ!

「人が集まり始めたわね。場所を変えるわよ」

「いいよ~でも、この場で別れてもよくない? 僕はリョウくんとご飯に行くから」

「リョウちゃんは私とご飯に行くの!」

 いや、俺は今日は家でご飯作りたいんだけど。
 ご飯に行きたいなら二人で行けばいいじゃん。
 顔見知りなんだし。

「しょ、食事だと? 俺がヴァイオレットさんにお願いした時は『無理』の一言だったのに!」

「シエンナさんと食事だとっ! そんな畏れ多い事を、あいつは!」

「あの素材屋……祟ろう」

 祟るっ!?
 なんか呪いよりも怖いんですけど!?
 っていうか、俺は何にもしてねぇぞ!

「ここで話していても埒があかないわ。とりあえず、ギルドの個室に行くわよ」

「いいよ~」

「えっ? 俺も行くの? 俺は市場に……」

「リョウちゃん!」

「……リョウくん?」

「はい……行きます」

 二人の圧が怖いよ!
 もう逆らわない方がいいと思った俺は、連行されるように、再びギルドへと戻った。
 硬い表情のエルフ二人に連れられた俺を見て、職員達は何事かと思って変な視線を俺に向けてきた。
 そんな眼で見ないで。
 俺は無実、というか何もしていない。

「あの……」

「悪いけど、商談用の部屋を借りるわ」

「二等個室。お願いね」

 二等個室っていうと、前に使った密談用の一等個室よりは劣るけど、かなり防音がしっかりした部屋だ。
 別に商談でも密談でも無いんだし、普通の三等個室でいいと思うけど。

「さぁ、行くわよ」

「リョウくん。お先にどうぞ」

 逃げられないように前後を挟まれたか。
 別に此処まで来て逃げるつもりはないけど、何かやたらと厳重だな。
 個室に入ると、シエンナさんが内側から鍵をかけて、更に何か魔法を唱えている。
 あれは【閉錠ロック】の魔法?
 随分と念入りだ。

「これで大丈夫かしら?」

「うん。防音は効いてるし、鍵もかけた。【透視シースルー】対策はしてないけど、入るところは見られちゃってるし、大丈夫だよ」

「そう。これで遠慮なく言えるってわけね」

「そういうことだよ」

 遠慮なくって、今まで遠慮してたの?
 あんなにバチバチにやり合ってたのに?
 それじゃあ、今からはどうなるんだよ……
 マジで誰か助け……

「もう! シーちゃん! リョウちゃんは私のなんだから取っちゃダメなの!」

「ヴィオちゃんの頼みでもそれはダメ。リョウくんは私がもらうの!」

 ぶふっ! 
 さっきまでの重苦しい雰囲気はなんだったんだよ!
 急に二人とも幼言葉になってるじゃないか!
 ギャップがあり過ぎて、ついていけねぇよ!


 
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