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第一章
ダークエルフ 前編
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「指名依頼?」
「そうだ」
いつものように素材を納入して帰ろうとしたところをオルテガに捕まって、俺はギルドマスター室に連行された。
なんかヤバい事でもしたのかと思って緊張してたのに、指名依頼とは拍子抜けもいいところだよ。
でも、わざわざオルテガが連れてきたってことは、なんか別の事情がありそうだ。
「指名依頼は前にも受けた事があるから構わないけど、他に何か言うことはないか?」
「お前にはない。むしろお前も誰にも何も言うな」
おいおい、何かおかしな事を言い出したぞ?
誰にも何も言うな?
それって指名依頼相手がヤバい奴って事なんじゃないか?
オルテガが悪い奴等と手を組むとは思えないし……めっちゃ偉い人とか?
例えば貴族とか、ツヴァイの領主とか……まさかっ! 国王なんて事はないだろうなっ!?
「依頼主は? もしかして、こくお……」
「薬屋のシエンナだ」
がっくし……勿体ぶるなよ! たかが街の薬屋くらいで!
オルテガも人が悪い!
いや、ミノタウロスだから牛が悪いと言った方がいいのか? って、どっちでもええわ!
「はぁ……薬屋のシエンナさんね? 初めての依頼主だけど、条件次第で受けるよ」
「依頼は毒紫花蔓の採取だ。1本を金貨1枚で買い取るそうで、最低でも2本は欲しいらしい」
げっ、毒紫花蔓かよ。
確か湿地帯に生息する紫色のつる性植物で、色んなの薬の原料になる貴重な植物だったっけ?
だけど、こいつは名前の通り毒を持っているし、茎から出ている気根と呼ばれる根を使って、近くにいるものを絡めとり、養分を奪おうとする危険植物なんだよなぁ。
採取にはかなりの危険が伴うから、誰も依頼を受けたがらないし、正直言えば俺も嫌だ。
そもそも、この辺りに生えてるもんでもないしね。
「どうする? 断るか?」
「できればやりたくない依頼だな。俺だって生命は惜しいし、生息地まで急いでも2日はかかる。俺は基本的に遠出はしない主義だからなぁ」
「そうか……では、帰る時は俺が送って行こう。この前のうどんの礼だ」
は? 何で俺が帰るのにオルテガが付いてくるんだ?
俺1人なら【跳躍】で帰れるのに、オルテガがいたら歩きになるじゃないか。
面倒だから断ろ。
「いいよ。1人で帰る」
「それは危険だ。お前は指名依頼を受ける気はないんだからな」
うん? あっ……なんとなく読めたぞ。
つまり、シエンナってのはヤバい系の人で、依頼を断ったら落とし前をつけに来る感じの人なのか?
面倒な依頼だなぁ。
逃げ足には自信があるけど、どんくらいヤバいんだろ?
「その……けっこうヤバいか?」
「けっこうヤバいな。お前が骨抜きにでもされたら冒険者ギルドとしても困るしな」
ほ、骨抜きって、どんな拷問だよ!?
まさか……生きたまま骨を引きずり出すとかじゃないだろうな?
おいおいおいおいっ! マジでヤバいじゃん!
こうなったら別の都市に……
「まったく……男って奴はつくづく馬鹿な生き物だよなぁ」
「逃げるしか……は? なに? 馬鹿?」
「ああ、まったく馬鹿だよ。お前も気をつけるんだな」
今日のオルテガはおかしいくらいに言っている事がよくわからん。
散々脅しておいて、ただの薬屋とかだったり、拷問かと思ったら男は馬鹿とかって言い出したり。
何の話をしているのか、全然わからないぞ?
「オルテガ。俺にはお前の話がまったく見えてこないんだが?」
「だろうな。だが、アレを見ればわかるだろう」
オルテガは窓の近くに移動して、溜息混じりにギルド前の通りを見下ろした。
アレって、なんだ?
なんか怖いからそろっと外を見てみると、そこには冒険者の男達に囲まれたダークエルフの女がいた。
エルフには珍しく、肩までのミディアムレイヤー風の銀髪に小柄ながら豊満な身体。
ちょっと幼さの残る大きな瞳と優しい顔は不思議な魅力がある。
一瞬、絡まれてるのかと思ったけど、どうもそうじゃないらしい。
だって、男達の鼻の下はデロデロに伸びきって、女はそれを優しい眼で見つめていただけだからな。
ん? 囲んでる男の一人は、若手有望株のサイモンじゃないか。
最近彼女が出来たってはしゃいでたけど、あそこで何やってんだ?
「シ、シエンナさん! 俺が必ず毒紫花蔓を採ってきます!」
「ありがとう。でも、無理しないでいいんだよぉ? それより、彼女とはどう?」
「い、いや……それが、彼女はなかなか身持ちが硬いっていうか何も……」
「そっか。でも、それは良い事だよ? 軽い女の人は嫌でしょ?」
「そ、そうだけど……でも、俺はもっと……」
「うんうん。わかるよ? でも、彼女さんに無理に迫ったら駄目だよ? 代わりに僕がいっぱい癒してあげるのはダメかなぁ?」
「シ、シエンナさんっ!? そ、それは……」
「大丈夫。浮気なんかじゃないよ? 気持ちは全部彼女さんに向けてあげていいんだからね? 僕はただ、彼女さんが君にしてあげないことを代わりにしてあげるだけなんだからね?」
「そ、そうか。気持ちは彼女に……だ、だったら浮気じゃない……よな?」
「そうだよぉ。君が疲れて帰ってきたら僕がいっぱい癒してあげるからねぇ」
「シ、シエンナさんっ! うぉおおおお! 俺はやるぞ! 必ずシエンナさんの依頼を果たしてみせるぞぉおおお!」
サイモンは雄叫びを上げると、都市の外に走り去ってしまった。
あのダークエルフ……ヤバいわ!
「そうだ」
いつものように素材を納入して帰ろうとしたところをオルテガに捕まって、俺はギルドマスター室に連行された。
なんかヤバい事でもしたのかと思って緊張してたのに、指名依頼とは拍子抜けもいいところだよ。
でも、わざわざオルテガが連れてきたってことは、なんか別の事情がありそうだ。
「指名依頼は前にも受けた事があるから構わないけど、他に何か言うことはないか?」
「お前にはない。むしろお前も誰にも何も言うな」
おいおい、何かおかしな事を言い出したぞ?
誰にも何も言うな?
それって指名依頼相手がヤバい奴って事なんじゃないか?
オルテガが悪い奴等と手を組むとは思えないし……めっちゃ偉い人とか?
例えば貴族とか、ツヴァイの領主とか……まさかっ! 国王なんて事はないだろうなっ!?
「依頼主は? もしかして、こくお……」
「薬屋のシエンナだ」
がっくし……勿体ぶるなよ! たかが街の薬屋くらいで!
オルテガも人が悪い!
いや、ミノタウロスだから牛が悪いと言った方がいいのか? って、どっちでもええわ!
「はぁ……薬屋のシエンナさんね? 初めての依頼主だけど、条件次第で受けるよ」
「依頼は毒紫花蔓の採取だ。1本を金貨1枚で買い取るそうで、最低でも2本は欲しいらしい」
げっ、毒紫花蔓かよ。
確か湿地帯に生息する紫色のつる性植物で、色んなの薬の原料になる貴重な植物だったっけ?
だけど、こいつは名前の通り毒を持っているし、茎から出ている気根と呼ばれる根を使って、近くにいるものを絡めとり、養分を奪おうとする危険植物なんだよなぁ。
採取にはかなりの危険が伴うから、誰も依頼を受けたがらないし、正直言えば俺も嫌だ。
そもそも、この辺りに生えてるもんでもないしね。
「どうする? 断るか?」
「できればやりたくない依頼だな。俺だって生命は惜しいし、生息地まで急いでも2日はかかる。俺は基本的に遠出はしない主義だからなぁ」
「そうか……では、帰る時は俺が送って行こう。この前のうどんの礼だ」
は? 何で俺が帰るのにオルテガが付いてくるんだ?
俺1人なら【跳躍】で帰れるのに、オルテガがいたら歩きになるじゃないか。
面倒だから断ろ。
「いいよ。1人で帰る」
「それは危険だ。お前は指名依頼を受ける気はないんだからな」
うん? あっ……なんとなく読めたぞ。
つまり、シエンナってのはヤバい系の人で、依頼を断ったら落とし前をつけに来る感じの人なのか?
面倒な依頼だなぁ。
逃げ足には自信があるけど、どんくらいヤバいんだろ?
「その……けっこうヤバいか?」
「けっこうヤバいな。お前が骨抜きにでもされたら冒険者ギルドとしても困るしな」
ほ、骨抜きって、どんな拷問だよ!?
まさか……生きたまま骨を引きずり出すとかじゃないだろうな?
おいおいおいおいっ! マジでヤバいじゃん!
こうなったら別の都市に……
「まったく……男って奴はつくづく馬鹿な生き物だよなぁ」
「逃げるしか……は? なに? 馬鹿?」
「ああ、まったく馬鹿だよ。お前も気をつけるんだな」
今日のオルテガはおかしいくらいに言っている事がよくわからん。
散々脅しておいて、ただの薬屋とかだったり、拷問かと思ったら男は馬鹿とかって言い出したり。
何の話をしているのか、全然わからないぞ?
「オルテガ。俺にはお前の話がまったく見えてこないんだが?」
「だろうな。だが、アレを見ればわかるだろう」
オルテガは窓の近くに移動して、溜息混じりにギルド前の通りを見下ろした。
アレって、なんだ?
なんか怖いからそろっと外を見てみると、そこには冒険者の男達に囲まれたダークエルフの女がいた。
エルフには珍しく、肩までのミディアムレイヤー風の銀髪に小柄ながら豊満な身体。
ちょっと幼さの残る大きな瞳と優しい顔は不思議な魅力がある。
一瞬、絡まれてるのかと思ったけど、どうもそうじゃないらしい。
だって、男達の鼻の下はデロデロに伸びきって、女はそれを優しい眼で見つめていただけだからな。
ん? 囲んでる男の一人は、若手有望株のサイモンじゃないか。
最近彼女が出来たってはしゃいでたけど、あそこで何やってんだ?
「シ、シエンナさん! 俺が必ず毒紫花蔓を採ってきます!」
「ありがとう。でも、無理しないでいいんだよぉ? それより、彼女とはどう?」
「い、いや……それが、彼女はなかなか身持ちが硬いっていうか何も……」
「そっか。でも、それは良い事だよ? 軽い女の人は嫌でしょ?」
「そ、そうだけど……でも、俺はもっと……」
「うんうん。わかるよ? でも、彼女さんに無理に迫ったら駄目だよ? 代わりに僕がいっぱい癒してあげるのはダメかなぁ?」
「シ、シエンナさんっ!? そ、それは……」
「大丈夫。浮気なんかじゃないよ? 気持ちは全部彼女さんに向けてあげていいんだからね? 僕はただ、彼女さんが君にしてあげないことを代わりにしてあげるだけなんだからね?」
「そ、そうか。気持ちは彼女に……だ、だったら浮気じゃない……よな?」
「そうだよぉ。君が疲れて帰ってきたら僕がいっぱい癒してあげるからねぇ」
「シ、シエンナさんっ! うぉおおおお! 俺はやるぞ! 必ずシエンナさんの依頼を果たしてみせるぞぉおおお!」
サイモンは雄叫びを上げると、都市の外に走り去ってしまった。
あのダークエルフ……ヤバいわ!
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