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一章 ベロリン王国編
自由な旅の始まり
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昼夜兼行。
俺は今、疲れた身体に鞭を打ちながら暗い夜道をひたすら西へと歩いている。目指すはウィダー王国。ベロリン王国が次に戦争を仕掛けようとしているせいで、国境封鎖されかねないから早く国境を越えないとまずい。そう思って強行軍で進んでいるんだけど、タングー村の村長の家で休んだとはいえ、まだまだ疲れが残ってて結構きつい。歳はとりたくないねぇ。
「それにしても真っ暗過ぎるだろ。これじゃ、何が出て来ても気づかないんじゃないか?」
村を出る時にシュウさんが近道を教えてくれたから、すぐに森を抜けて街道に出れたのは良かったんだけど、夜の街道は灯りが全くなくて真っ暗だった。街灯がないのはわかっていたけど、ここまで真っ暗とは思わなかったなぁ。松明とかランプを点ければ多少はマシなんだろうけど、下手に灯りを点けると遠くからでも目立ってしまうから襲われる危険が高くなるらしい。
時々、【鑑定】で周囲を見ているから、不意打ちを喰らう事はないだろうけど、真っ暗な夜道をただ歩き続けるってのは気が滅入って仕方ないなぁ。
「そうだ。今の内に自分の特殊能力について色々試してみるか」
暗闇の恐怖を払拭するかのようにわざと声に出してから、俺は自身の唯一の武器でもある特殊能力【四字熟語】について色々と試してみる事にした。
その結果、わかった事がいくつかある。
①特殊能力は使っても魔力は減らないが、体力が減っている時がある。
②同じ四字熟語は重ねて使っても効果は重ならない。
③特殊能力の効果は自分だけで他には影響しない。
④使えない、又は発動しない四字熟語がある。
歩きながらの検証で不確かなところはあるけど、これだけの事がわかった。使えない四字熟語については今後も調べていく必要があるな。なんて事を考えていると、東の山間から朝日が昇って来るのが見えた。
やれやれ、自由な旅の第一歩目が徹夜とはついて無いなぁ。まぁ、とにかく今は一刻も早くウィダー王国に行かないと危険だ。ベロリン国王に捕まったら自由どころの話じゃない。
一意専心。
今は進む事だけを考えよう。休憩を挟みながら真っ直ぐにウィダー王国に向かって伸びる街道を歩き続けた。途中に村があったり、行商人らしき人とすれ違う事もあったけど、先立つ物がなくてシュウさんから貰った食糧で何とか食い繋いだ。
3日目。食糧が尽きかけた時になってようやく砦を要した街に到着する事が出来た。
「ここはウィダー王国との国境の街、デロリンだ。身分証を出せ。無ければ入市税の大銅貨3枚を払え」
街に入るのに金がいるのか。手持ちは少ないけど、大銅貨3枚ならギリギリあるし、こんな所で揉め事を起こすわけにもいかないから、ここは素直に払おう。これで残りは銅貨6枚だけ。日本円にすると600円。
ひ、ひもじいよぉ……シュウさんから貰った食糧ももう無いし、このままじゃ宿にも泊まれないぞ。ううぅ……貧乏って怖い。
でも俺にはあの森狼の素材がある! きっと異世界物のお約束で『こ、これは貴重な素材だ! 是非譲ってくれ!』と高値で売れるに違いない! そして、取引と言えば冒険者ギルドだ! 先ずは冒険者ギルドに行くぞ!
「すいません。この街の冒険者ギルドって何処ですか?」
通りすがりの人に場所を聞いて町の中心部に向かうと、そこには西部劇の酒場みたいな木造二階建ての建物があった。な、なんか思っていたより随分とごぢんまりとしているなぁ。ちょっとイメージと違うかも。
中に入ると、そこには多くの冒険者でごった返しになっているなんて事はなかった。人はまばらで、最初に目に入ったのはおばちゃんがカウンターを拭いている姿だった。想像していたよりもずっとファンタジーは現実的です。
「おや? 見ない顔だね。新人さんかい?」
「は、はい。あの、素材の買取をお願いできますか?」
「はいはい。じゃあ、この上に置いとくれ」
カウンターの上に出されたトレーの上に俺は森狼の素材を全て出した。さぁ、賞賛してくれ! そして高値で買ってくれ!
「おや? こいつは森狼じゃないかい?」
「ええ、まぁ。運良く狩れたので」
「こりゃ大したもんだよ。じゃあ、査定するからちょっと待っててね」
愛嬌のあるおばちゃんは素材を抱えてカウンターの奥へと消えていった。な、なんか思ったよりも普通だったな。おばちゃんは受付で価値がわからなかったのかな? うん、そういう事にしておこう。それにしても冒険者ギルドって、もっと殺伐としたのを想像してたけど、思っていたより普通だな。なんていうか役場とか郵便局みたいな淡々とした雰囲気がある。どうも俺の知ってるファンタジーとは違うようだ。
「待たせたね。これが買取金だよ」
おばちゃんがお金を載せたトレーを持って戻ってきた。待ってました! さぞや金貨がどっさりと……うん?
「内訳を聞いてもいいですか?」
「ああ、いいよ。森狼の皮が銀貨3枚だね。それと牙が4本で銀貨1枚、爪が6個で大銅貨3枚だ。皮が少し傷んでたけど、新顔さんだからおまけしといたよ」
「そ、それは……ありがとうございます」
お、思ってたとの違う。全部で銀貨4枚と大銅貨3枚? それって日本円に換算すると43000円ってこと? めっちゃリアルじゃん。『これは貴重な素材だから100万の価値がある!』とかお約束は無いんだね。
「どうかしたのかい?」
「いえ、何でもありません。ちょっと夢を見ていただけです。それよりここで冒険者登録って出来ますか?」
「もちろん出来るよ。この書類に必要事項を書いとくれ。わからないところは空白でいいからね。それから一応聞くけど、過去に犯罪を犯してないだろうね? 犯罪歴のある人は登録できないよ」
今のところ真っ当に生きてます。名前はセイゴ、年齢は30……29歳にしとこう。性別はもちろん男です!そういや、普通に字が書けるな。こういう所はお約束なんだね。
「はい。ありがとう。じゃあ、これが鉄級冒険者のギルドプレートだ。首から下げておくといいよ」
へぇ、この鉄のプレートが身分証になるのか。 なんだか軍隊の認識票みたいだな。
「いいかい? 冒険者ランクは鉄級、銅級、銀級、金級、白金級の順に高くなっていくんだけど、大抵の人は銀級で終えちまうんだ。白金級なんてこの世界に数人しかいない大英雄だからね。でも、目指すのは自由だよ。あんたも大英雄目指して頑張りなっ!」
「っ!? ありがとうございます!」
おばちゃんに背を押されて、俺はやっとファンタジーの世界に足を踏み入れた気がした。ありがとう! おばちゃん! そうだ、ついでにウィダー王国への行き方も聞いてみよう。
「すいません。ウィダー王国に行きたいんですけど、どういう手続きを取ればいいんですか?」
「え? あんたはウィダー王国には行けないよ?」
…………はい?
俺は今、疲れた身体に鞭を打ちながら暗い夜道をひたすら西へと歩いている。目指すはウィダー王国。ベロリン王国が次に戦争を仕掛けようとしているせいで、国境封鎖されかねないから早く国境を越えないとまずい。そう思って強行軍で進んでいるんだけど、タングー村の村長の家で休んだとはいえ、まだまだ疲れが残ってて結構きつい。歳はとりたくないねぇ。
「それにしても真っ暗過ぎるだろ。これじゃ、何が出て来ても気づかないんじゃないか?」
村を出る時にシュウさんが近道を教えてくれたから、すぐに森を抜けて街道に出れたのは良かったんだけど、夜の街道は灯りが全くなくて真っ暗だった。街灯がないのはわかっていたけど、ここまで真っ暗とは思わなかったなぁ。松明とかランプを点ければ多少はマシなんだろうけど、下手に灯りを点けると遠くからでも目立ってしまうから襲われる危険が高くなるらしい。
時々、【鑑定】で周囲を見ているから、不意打ちを喰らう事はないだろうけど、真っ暗な夜道をただ歩き続けるってのは気が滅入って仕方ないなぁ。
「そうだ。今の内に自分の特殊能力について色々試してみるか」
暗闇の恐怖を払拭するかのようにわざと声に出してから、俺は自身の唯一の武器でもある特殊能力【四字熟語】について色々と試してみる事にした。
その結果、わかった事がいくつかある。
①特殊能力は使っても魔力は減らないが、体力が減っている時がある。
②同じ四字熟語は重ねて使っても効果は重ならない。
③特殊能力の効果は自分だけで他には影響しない。
④使えない、又は発動しない四字熟語がある。
歩きながらの検証で不確かなところはあるけど、これだけの事がわかった。使えない四字熟語については今後も調べていく必要があるな。なんて事を考えていると、東の山間から朝日が昇って来るのが見えた。
やれやれ、自由な旅の第一歩目が徹夜とはついて無いなぁ。まぁ、とにかく今は一刻も早くウィダー王国に行かないと危険だ。ベロリン国王に捕まったら自由どころの話じゃない。
一意専心。
今は進む事だけを考えよう。休憩を挟みながら真っ直ぐにウィダー王国に向かって伸びる街道を歩き続けた。途中に村があったり、行商人らしき人とすれ違う事もあったけど、先立つ物がなくてシュウさんから貰った食糧で何とか食い繋いだ。
3日目。食糧が尽きかけた時になってようやく砦を要した街に到着する事が出来た。
「ここはウィダー王国との国境の街、デロリンだ。身分証を出せ。無ければ入市税の大銅貨3枚を払え」
街に入るのに金がいるのか。手持ちは少ないけど、大銅貨3枚ならギリギリあるし、こんな所で揉め事を起こすわけにもいかないから、ここは素直に払おう。これで残りは銅貨6枚だけ。日本円にすると600円。
ひ、ひもじいよぉ……シュウさんから貰った食糧ももう無いし、このままじゃ宿にも泊まれないぞ。ううぅ……貧乏って怖い。
でも俺にはあの森狼の素材がある! きっと異世界物のお約束で『こ、これは貴重な素材だ! 是非譲ってくれ!』と高値で売れるに違いない! そして、取引と言えば冒険者ギルドだ! 先ずは冒険者ギルドに行くぞ!
「すいません。この街の冒険者ギルドって何処ですか?」
通りすがりの人に場所を聞いて町の中心部に向かうと、そこには西部劇の酒場みたいな木造二階建ての建物があった。な、なんか思っていたより随分とごぢんまりとしているなぁ。ちょっとイメージと違うかも。
中に入ると、そこには多くの冒険者でごった返しになっているなんて事はなかった。人はまばらで、最初に目に入ったのはおばちゃんがカウンターを拭いている姿だった。想像していたよりもずっとファンタジーは現実的です。
「おや? 見ない顔だね。新人さんかい?」
「は、はい。あの、素材の買取をお願いできますか?」
「はいはい。じゃあ、この上に置いとくれ」
カウンターの上に出されたトレーの上に俺は森狼の素材を全て出した。さぁ、賞賛してくれ! そして高値で買ってくれ!
「おや? こいつは森狼じゃないかい?」
「ええ、まぁ。運良く狩れたので」
「こりゃ大したもんだよ。じゃあ、査定するからちょっと待っててね」
愛嬌のあるおばちゃんは素材を抱えてカウンターの奥へと消えていった。な、なんか思ったよりも普通だったな。おばちゃんは受付で価値がわからなかったのかな? うん、そういう事にしておこう。それにしても冒険者ギルドって、もっと殺伐としたのを想像してたけど、思っていたより普通だな。なんていうか役場とか郵便局みたいな淡々とした雰囲気がある。どうも俺の知ってるファンタジーとは違うようだ。
「待たせたね。これが買取金だよ」
おばちゃんがお金を載せたトレーを持って戻ってきた。待ってました! さぞや金貨がどっさりと……うん?
「内訳を聞いてもいいですか?」
「ああ、いいよ。森狼の皮が銀貨3枚だね。それと牙が4本で銀貨1枚、爪が6個で大銅貨3枚だ。皮が少し傷んでたけど、新顔さんだからおまけしといたよ」
「そ、それは……ありがとうございます」
お、思ってたとの違う。全部で銀貨4枚と大銅貨3枚? それって日本円に換算すると43000円ってこと? めっちゃリアルじゃん。『これは貴重な素材だから100万の価値がある!』とかお約束は無いんだね。
「どうかしたのかい?」
「いえ、何でもありません。ちょっと夢を見ていただけです。それよりここで冒険者登録って出来ますか?」
「もちろん出来るよ。この書類に必要事項を書いとくれ。わからないところは空白でいいからね。それから一応聞くけど、過去に犯罪を犯してないだろうね? 犯罪歴のある人は登録できないよ」
今のところ真っ当に生きてます。名前はセイゴ、年齢は30……29歳にしとこう。性別はもちろん男です!そういや、普通に字が書けるな。こういう所はお約束なんだね。
「はい。ありがとう。じゃあ、これが鉄級冒険者のギルドプレートだ。首から下げておくといいよ」
へぇ、この鉄のプレートが身分証になるのか。 なんだか軍隊の認識票みたいだな。
「いいかい? 冒険者ランクは鉄級、銅級、銀級、金級、白金級の順に高くなっていくんだけど、大抵の人は銀級で終えちまうんだ。白金級なんてこの世界に数人しかいない大英雄だからね。でも、目指すのは自由だよ。あんたも大英雄目指して頑張りなっ!」
「っ!? ありがとうございます!」
おばちゃんに背を押されて、俺はやっとファンタジーの世界に足を踏み入れた気がした。ありがとう! おばちゃん! そうだ、ついでにウィダー王国への行き方も聞いてみよう。
「すいません。ウィダー王国に行きたいんですけど、どういう手続きを取ればいいんですか?」
「え? あんたはウィダー王国には行けないよ?」
…………はい?
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