食うために軍人になりました。

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第六章

静かなる怒り

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「失礼します」

 感情のこもっていない無機的な言葉と4人が一緒に入ってきた。
 まるで士官学校に入りたての生徒のような淡々とした動きに和やか雰囲気はなく、ただ漠然としていてどこか突き放されている気になる。
 いかんな。
 少し悲観的になり過ぎている。

「ジェニングス中将閣下。ヴォルガング少佐以下3名、に任務を遂行して参りました」

 言葉に棘がある。
 だが、まだ抑えている方だろう。
 私なら胸ぐら掴んで罵声を浴びせるくらいはしたかもしれんからな。

「ご苦労」

「いえ、特に苦労するような事は何もありませんでした。我ら中央からの援軍全てが領都サザントールで遊兵となっていただけですから」

 アリシアはこんなに口が悪かったのか?
 それとも事が事だからか?
 リクトの事になると何かと熱くなってしまう。
 それは私も同じか。
 私を諌めたアンダーソンの苦労がよくわかる。
 これは後で労ってやらねばならんな。

「閣下。質問をしてもよろしいでしょうか?」

「……なんだ?」

「ここ数日、軍に広まっている不謹慎な噂は何事でしょうか? 早急に出所を押さえて何らかの処分をすべきと考えます」

「不謹慎な噂とは?」

「決まっているではありませんか? リク……、シュナイデン中佐の戦死の事です」

 不謹慎な噂か。
 確かにリクトを心よく思わない軍上層部が流した嫌がらせという線も無くはないか。
 信じたくない思いもあるんだろうが、そう思わないと心がもたないのだろう。
 
「その件か。それならば出所は既に押さえてある。既に関与したと思われる将校達も拘束した」

「っ!? ほ、本当ですか!? で、では、リクトは戦死していないのですね!?」

 八つの瞳が一斉に私を射殺さんばかりに見つめてくる。
 いや、次の言葉を発せば本当に殺されるかもしれんな。
 その時は甘んじて受けるのも悪くないかもしれん。
 平静を装ってはいるが、正直良心の呵責に押し潰されそうだからな。
 それにあの世であいつと再開する事になったらそれはそれでいいのかも……
 いかん、本当に気分が沈んでいるぞ。

「閣下? 閣下!? そ、それでリ、リクトは今どこに……」

 言わねばならない。
 これは私の責任だ。

「リクトは……行方不明となっている」

「ゆ、行方……不明……?」

「そ、そんなぁ……う、嘘ですよねぇ? な、何か極秘の作戦行動中って事じゃ……」

「リクトがいた場所には激しい戦闘の跡があった。また結界が張られていた痕跡もあり、罠に嵌められた可能性が高い……」

「でも、それだけじゃ何もわからないじゃないですか!? 敵を発見して追いかけてる可能性も!」

「現場には大量の血痕と……これが落ちていたそうだ」

 現場から回収された鞘を見せると、4人全員が固まった。

「こ、この鞘はぁ……リっくんの……」
 
「そ、それじゃあ中佐が今何処にいるかわからない……あ、安否もわからないって事ですか!?」
 
「あの馬鹿……」

「そうだ。敵が現状動いていない事から、最初からリクトが狙いだったと思われる。現在はアンダーソンが指揮する隊が捜索を……」

「……何故ですか? 何故、閣下はリクトを!」

 アリシアの呟きが私の心を突いた。
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