食うために軍人になりました。

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第三章

スティーグ・ルーストレーム

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 スティーグ・ルーストレーム。
 俺は聞いたことないけど、どうやら結構凄い人らしい。
 共和国建国の際に活躍した百人の英雄、それにあやかって出来たのが現在の百勇士らしい。
 その内の1人でゲリラ戦によって敵を翻弄し、恐怖のドン底に陥れた《密林の隠牙》と呼ばれた伝説の人物の直系がスティーグらしく、その伝説とやらの技術を全て継承しているそうだ。
 共和国百勇士の中でもバリバリの武闘派で、かつて西の隣国バルムとの境界線を巡っての争いの際はたった1人で敵の軍勢10000を足止めしたって逸話は近隣諸国にまで広がっているそうだ。
 俺は知らんかったけどね。
 まぁ、そんなわけでそいつが近くまで来ているとわかった文官達の慌てようは酷いもんだ。

「か、閣下! こ、ここは撤退しましょう! ゲリラ戦のエキスパートで一騎当万と言われるスティーグには敵いません!」

「そうです! すでに敵の右翼を壊滅させたのです! これ以上の深追いは不要! 一刻も早くこの場から撤退すべきです!」

 おいおい……随分と勝手な事を言うもんだな。
 俺達が撤退したからって相手が引いてくれるとは限らないだろ?
 撤退中に襲われる方が混乱するわ。

「……それは出来ない。我々左翼部隊が撤退すれば奴の牙が我らの本隊や右翼部隊に向くかもしれん。そうなれば被害は増すばかりだ」

「し、しかしっ!」

「我々はシュナイデン大尉の活躍もあって、百勇士の1人を討ち取り、敵の右翼を壊滅させたが、余力はまだある。ならば奴の相手は我々がすべきだ」

 さすがは閣下だ。
 軍にもまだまだマトモな人がいるんだね。
 まぁ全部腐ってても困るけど、文官どもが俺を恨みがましく睨んでいるのを見るに、結構な範囲で腐ってるのは間違いないようだな。
 さっきまではお手柄とか言ってたくせに、今は親の仇みたいな目で見てきやがる。

「な、ならばっ! シュナイデン大尉に対応を任せては如何ですかっ!?」

「そ、そうだ! それがいい! 帝国の若き英雄ならば時間かせ……い、いや……十分戦えるでしょう!」

「右翼壊滅だけでも十分な功績です! そうしましょう! 少将閣下殿!」

 はぁ……情けない。
 特に真ん中のやつなんか時間稼ぎと言いかけただろ?
 俺が戦ってる間に理由をつけて逃げる気だな。
 卑劣で恥知らずな事だ。
 こんなのが上官として偉そうにしてるんだからな。
 兵士や下士官達が面白いわけないよなぁ。
 でも、このままだとラチがあかないな。

「閣下、小官が出ましょうか?」

 どんな相手かも気になるし、それで死んだら俺もそこまでって事だ。
 閣下と中佐は苦い顔をしていたけど、結局俺の特進を上申する事を条件に命令を出した。

「小隊壊滅の調査をせよ」

 俺は敬礼してから天幕を出た。
 
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