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第一章

孤児院からの依頼⑥

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「うぉおおおおおおお!!」

 猛り狂った男達が俺に襲い掛かってくる。
 これが綺麗な御婦人達なら喜んで両手を広げるんだけど、むっさい男には興味がないのでおねんねしてもらうとしましょうかね。
 どうせ、こいつらは金にならないし。
 
「愛しのベレッタちゃんにはメインをやってもらうから、前菜は君に任せるよ。たっぷり味わってくれ。サブマシンガンの傑作H&K MP5だ!」

 安全装置セーフティーを解除されたMP5は小粋な発砲音を奏でながら迫ってくる男達を次々と穴だらけにしていった。
 男達は断末魔の叫びをあげながら二度と覚める事のない眠りへとバタバタと落ちていく。
 子守唄にしてはちょいと騒がしい気もするけど、俺はこの寝かしつけ方しか知らないから勘弁してくれ。

「な、なんだ……何が起こった……」

「あ、あぁ……あああ……」

 残るはザウェルとシモンの二人だけど、困ったね。
 ザウェルは腰を抜かしているだけで済んでいるが、シモンの奴はへたり込んで地面に水溜りを作ってやがる。
 女の子が毅然と立っているってのに情けない。
 それでよく偉そうに出来たもんだ。
 
「さて、お二人はどんな寝かしつけがご希望かな? 生憎とそんなにバリエーションは無いが、なるべくご希望には沿うつもりだぜ?」

「ま、ま、ま、待て! 待ってくれ! か、か、か、金……金ならいくらでもやる! だから俺だけは助けてくれ!」

「わ、儂も! そ、そうじゃ! お前にこの娘をやろう! いや、この娘だけじゃない! 孤児院の子達は全て自由にして構わん! じゃから……あぐぅ!」

 ムカつくザウェルの口に転がっていた石を突っ込む。
 残り少ない歯が折れて口が血まみれになっちまったが、そんくらいじゃ俺の気は収まらない。
 とりあえず先にボンボンから済ませるから、お前は黙ってろ。

「おい」

「は、はひぃ!」

「取引に来たって事は金持ってきたんだろ? 全部出せ」

「は、は、はいっ!」

 元気で威勢の良い返事と共にシモンは金を取り出した。
 地面に置かれた金はざっと20万リド。
 少女の人生を買うにしては随分と安いな。

「こ、これで俺は見逃して……」

「他には無いのか? ネックレスとか指輪とかの装飾品だ。出さないってんなら、死体から取ってもいいけど?」

「あわわ……ま、待って! 出す! 出します!」

 焦ったシモンが差し出したのは、金ピカのネックレスとデカい宝石の付いた指輪が二つ、それと家紋の入ったブローチだった。
 さすがは貴族のボンボン。
 良いもの身につけてんじゃん。

「こ、これで全部です。も、もういいだろ? これで俺は……」

「ああ、これでお前は用済みだ」

 引金を引くと同時にシモンの眉間を9みりが貫いた。
 金を出したら許してやるなんて言った覚えはない。
 勝手な勘違いはやめた方がいいぞ。
 来世では気をつけてな。

「は、はぐぅ! シ、シモン様を…… お、お主……わ、儂も殺す気か!?」

「そうだよ。お前達みたいな外道を生かしておくわけないじゃん。外道には相応しい末路ってもんがあるんだ。潔く諦めて……ん?」

 地獄への招待状を渡すためにザウェルに近づいた俺の前に、女の子が立ちはだかった。
 震えながらも両手をいっぱいに広げた構え、どうやら俺を一歩も通さないつもりのようだ。

「お嬢さん、お兄さんはそっちのお爺さんにちょっと用があるんだけどな」

「駄目! この人がいなくなったら家に残った子達が死んじゃう! 私はどうなっていもいいから、この人を殺さないで」

 泣かせるじゃないか。
 残された子ども達の為に、自分と引き換えにクズ野郎を身を挺して守るなんてな。
 うーん、ここはこの娘に免じて……

「は、はははははっ! そ、そうだっ! よく言った、エレン! どうだ? 殺し屋? これでもお前は儂を殺せるか? エレンの言うとおり、儂がいなければ残された奴等はまた街のゴミに逆戻りだ! そうすれば野垂れ死ぬだけ! つまり、お前には誰も救えないのだ! ひゃははははははっ!」

 ……やっぱり許せんわ、こいつ。
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