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第一章

万年青銅級の男④

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「うーん。だいたいこの辺りだったかな?」
 
 ギルドを出て【陽の光サンライト】と出会った森の奥までやって来た。
 俺の考えが正しければ、明日の早朝にでも奴等は此処にやって来るはずだ。
 その時が来るのを木の上で寝て待つとしましょうかね。
 それから俺は仮眠をとった。
 眠っている間に夜が過ぎて陽が昇り、尻が悲鳴をあげるのと同時に目を覚ました。
 
「うーん、尻が痛い……」

 もう少しで尻が横にも割れそうだ。
 そんな可哀想な尻を摩りながら待つ事しばらく、街道の方から複数の足音が聞こえて来た。
 やっと来たか、思ったより遅かったな。
 足音からして来るのは四人、これは予想通りだ。

「上手くいって良かったよ。ゴードンもアメリアも二ヶ月間お疲れさま」

「おう! 真面目を演じるのは面倒だったが、これも5000万リドためだ! どうって事ねぇよ!」

「ええ。さっさとこいつを引き渡して、隣国のリンブル王国で豪遊しましょうよ」

 やっぱりハイド、ゴードン、アメリアの三人か。
 どうやら、目的を達した後は大金を持って高飛びする気らしい。
 しかし、5000万リドとは羨ましい。
 俺は50万だってのに、可哀想な俺。
 と言っても、あっちほど可哀想じゃないか。

「貴女も大人しくしていれば命の保証はしますよ」

 ハイドが連れていた女性に声をかけたが、返答はない。
 当然だ。
 後ろ手に縄で縛られて猿轡までされているんだからね。
 それに似合わない綺麗にまとめられたブロンズ髪、高級そうなドレスと装飾品、あれが子爵の令嬢だな。
 猿轡のせいで顔はよくわからないが、奴等を睨む瞳はめっちゃ強い。
 気の強い女性は嫌いじゃないけど、あれは相当にお転婆だろうな。

「しかし、あの逃げたメイドは惜しかったな。あいつは顔も身体も良かったし、売ればそれなりに金になったのによ!」

「仕方ないさ。このお嬢さんが思ったよりも剣の腕が立ったからね。それに欲をかいて失敗でもしたら僕達の命が危ないよ」

「そうね。あの門閥貴族ならやりかねないわ」

 おっ、やっぱり今回の件には門閥貴族が関わっているらしいな。
 どこの派閥の誰かを知りたいところだけど、どうやら無理なようだ。
 森の奥の方から依頼主のお出ましだ。
 なんだ? 黒いローブをまとったいかにも怪しい風貌の三人組が現れたぞ?
 よくあんな『僕達は怪しいです』って格好できるよなぁ。
 目立って仕方ないだろ?

「時間通りですね」

「首尾は?」

「問題ありませんよ。こちらがベリエール子爵家の令嬢、マリン・フォン・ベリエール嬢です」

 ハイドが黒ローブの男達の前に令嬢を引き出した。
 うーん、こんな状態になっても怯える事なく相手を睨みつけるなんて、このマリンって令嬢も相当なもんだな。
 俺の持ってる貴族の令嬢のイメージとはかけ離れている。
 いや、実際に離れているようだ。

「いいだろう。よくやった」

「ええ。では、約束の……」

「ああ、これが報酬だ!」

「っ!?」

 黒ローブの男がいきなりハイドに斬りかかった。
 咄嗟に避けるハイドだったが、その間に他の男が令嬢の身柄を押さえた。
 おやおや、仲間割れかな? 好都合だ。

「よく避けたな」

「予想はしていたからね。端から僕達に報酬を支払う気なんかなかったんだろ?」

「秘密を知った者共を生かしておくわけあるまい。貴様らはベリエール子爵令嬢誘拐犯として死んでもらう」

「そして、貴方達は誘拐犯から令嬢を救った恩人としてベリエール子爵から鉱山の経営権を譲り受けるわけだ。譲らないと令嬢は返さないって脅し込みで」

「察しがいいな。やはり、その軽口は永遠に塞いでおいた方がよさそうだ」

「遠慮するよ。僕達は二ヶ月も貴方達のくだらない茶番に付き合わされたんだ。報酬として、その令嬢を人質に子爵から身代金を取る事にするよ。それに貴方達の死体を使えば、貴方達の飼い主からも金が取れそうだ」

「やってみるがいい。下民風情が」

 黒づくめの三人と【陽の光サンライト】の三人が互いに武器を構えて対峙する。
 悪党が潰し合ってくれるのは手間が省けるからいいんだけど、あの嬢ちゃんが巻き込まれて怪我でもしたら、じっちゃんから何を言われるかわかったもんじゃない。
 あっちの黒ローブの奴等も報酬に入るかわからないけど、とりあえず外道には違いないからやっておくか。

「はーい。そこまでそこまで」

 俺は木から飛び降りて奴等の前に姿を現した。
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