穢れの螺旋

どーん

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可哀想な村娘

第19話 - 新兵器

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クベアは仕立て屋で革を鞣す作業をしていた
皮を木枠に固定してナイフで余分な脂を削ぎ落す作業をしている最中だった

「クベア、話がある」

クベアは俺に気づくと手を止め、クマのできた目で嬉しそうに駆け寄ってきた

「はい、なんでしょう」
「一体いくら払うつもりなんだ?」
「えっと…銀貨400枚くらいです…足りないでしょうか…」

たった銀貨400枚のために三日も寝ずに働くのか…
冒険者は命を賭ける分随分と割高だ

「残りの依頼はどんな内容だ?」
「え…それを聞いてどうされるんですか?」

クベアはおどおどしながら俺の顔を見上げた

まぁそうなるな…怪しい事この上ない
さすがに見ていられない、装備も義手も買い替えればまた資金が底をつくのでしばらく街にいるのは確定している
その間くらいは一緒にいてやろう
金銭に余裕ができたらいくらか残していけばいいだろう

「お前を俺が引き取る。残りの依頼で材料を買って済むものがあれば俺が立て替えてやる」

クベアは涙を浮かべながらうつむいた

「そんな…そこまでご迷惑おかけするわけには…」
「もう十分かかってるよ…ベロニカには怒られるしハーベイにも嫌味を言われた」

ため息をつきながら不満を漏らすとクベアはさらに小さくなった

「ご、ごめんなさい…」
「お前のせいではないさ、ゆっくり返してくれればいいんだ。無理をするな」

クベアから依頼の書かれた羊皮紙を受け取ると街の外に出る依頼も受けていた、ゴブリンスウォームが警戒される今こんなことしたらバルトにも怒られそうだ

「これとこれは俺がやる。残りの依頼を片付けたら宿に来てくれ、引っ越すぞ」

クベアは座り込み、泣きながら何度も謝っていた
俺はクベアの頭を撫で、しばらく慰めてからクベアの依頼を手伝った

日が傾き始める頃、クベアから受け取った依頼を済ませて冒険者ギルドに報告した
引き取る話も早速伝わっておりベロニカは上機嫌だった

「ふふ、やる時はやるね。狂戦士殿」

ベロニカは他人の恋話を聞く乙女のようににこにこしながら話しかけてくる

「あんまり長くは居られないけど…それまではな」

諦めたような顔で返答すると、ベロニカは少し悲しそうな顔をしながら頷いた

「まぁそれは仕方ないですね…冒険者ですし…クベアを幸せにしてあげてくださいね」

善処しよう

次は兵器ギルドへ寄って新しい義手を受け取りにハーベイと会った

「よう旦那。お嬢ちゃんを引き取るんだってな、男前の狂戦士ってうわさだぜ」
「どうしてこの街はそんなに噂が広まるのが早いんだ」

俺はもう開いた口が塞がらなかった
ハーベイは笑う

「冒険者は噂が広まるのが早いからな!特にお前さんは注目されているんだよ」
「そうか…」
「元気出せよ!新しい義手をみたらきっと元気が出るぜ」

うなだれる俺を元気づけ、ハーベイは他人事を心の底から楽しんでいた

「いい性格してるな、新しい義手を見せてくれ」
「おー、さっそく見てくれるか。今回のは自信作だ、絶対に気に入るぞ」

ハーベイは棚に行き、義手を取り出すと戻ってきた

義手は相変わらず4本の支柱に支えられた筒状のものだったが中を見ると細い鉄の柱が無数についていた
重量は前とほとんど変わらないか少し重いくらいだ

「どうだ?すげえだろ」
「そう…だな…」

ハーベイはあからさまに不満そうな顔をしながら新しい義手の説明を始めた

「てめぇ…わかんねーならそう言え!まず、今回は鋼という特殊な鉄を使った。鉄より硬くしなやかであるにも関わらず鉄とほとんど重さは変わらない。さらに強度を底上げするためにいくつか支柱を追加してある。それで衝撃に強くなるんだ、他には仕込み刃を搭載した。手を上にあげてみてくれ」

ハーベイに言われるがままを上にあげていくとカチッっという音と共に掌の付け根から剣が飛び出した

「おお、これはすごいな」
「そうだろうそうだろう」

ハーベイは満足そうに何度も頷く

「敵の頭を掴んで押し付ければ刃が出てトドメを刺せる。さらに出したまま戦う事もできる、手持ちの武器がなくなったとしても戦えるぜ。まぁ普通はそんなに自由に手を動かせる作りじゃねーからあんた専用だ」

これは使える、取り付けもしっかりしており多少無茶もできるだろう
さらに刃は取り換えが可能な作りになっており整備もしやすい
重量が前とさほど変わらないというのも評価が高い
今すぐに買おう

「買った、いくらだ?」
「可哀想なクベアを引き取ってくれた英雄に吹っ掛けるわけにはいかねーしなぁ…うーん…金貨5枚だ。それ以上は赤字になる」
「わかった、助かる」
「よし、印を彫るからちょっと待ってくれ」

金貨を渡すと呪印を彫って戻ってきた

「よし、クベアを頼んだぜ旦那」
「まったく、みんなそんなにクベアが好きなら自分で引き取ればよかっただろう」
「そう言うな、クベアもあんたじゃなければ応じてないさ。絶世の美女ってわけじゃねーが気立てはいいし努力もするし苦労して家族を支えてきたんだ。あんなことになっちまって若いのに不幸なままじゃ見てらんねーだろ。みんな心配してんだよ、頼んだぞ旦那」

やれやれ…気が重くなるようなこと言う…
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