輪廻血戦 Golden Blood

kisaragi

文字の大きさ
上 下
88 / 90
第零章 九尾のきつねの琥珀さんをご奉仕します!!

ご奉仕その七 デートして下さいな!

しおりを挟む
 

 何故、琥珀が最後の一本の尻尾に逃げられるのか。
 あの晩で良く分かった気がするな。

 翌日、俺は真っ先に聡に謝った。
 通学中の聡に駆け寄る。
「いいって。これぐらいのコブなら慣れてる」
「なら、良かった」
「大会も近いしな!」
「おう!」

 その言葉に俺は相槌を打つ。

 そうだ。時間は幾らでも経過する。
 このクラスメイトは皆が人間で、普遍的で、自分もそうだと思っていた。
 しかし、あの時。
 俺はただバットに球を当てただけだ。それなのに、球は華麗に俺の望む軌道を描いた。
 俺は投手ではない。あくまでも四番だ。小技もこなすが、あれは狡になるのか?

 ぐるぐると色々な思考が巡る。

 尻尾が九本揃ったら。どうなるのだろう。

 あの神社に戻るのだろうか? きっとそれが良いのだ。

 最近は嫌な思考ばかりだ。だから誤魔化すように黙々と練習に打ち込んだ。

 家に帰れば琥珀がいる。相変わらず、人のベッドを占領して。笑顔で俺を出迎える。

 例え俺が人間でなくとも?

 琥珀は人間ではない。けれど九尾のきつねというアイデンティティーがある。俺には何がある??
 野球選手になれるのか。話は来ている。それとも大学に行くのか。

「おかえりなさい!!」
「ああ……」
「あれ、何か妙に元気がないですね? 聡さんは怒ってました?」
「いいや。……なあ。お前、ずっとこの家に居っぱなしだけど、何処か行きたい所はないのか?」
「え!?」
「また、勝手なことをされても困るしな」
「……本当に?」
「ああ。勝手にこそこそ外に出られるよりは」
「ギクッ……バレてる……じゃあ、夜のお散歩です!」
「夜の散歩?」
「もう、鈍いな、ご主人様。……デートです!」
「けどその姿は目立つぞ……」
「お任せあれ!!」

 ポンッと音がした、と思ったら。琥珀はセーラー服を身に纏い、尻尾と耳が消えていた。

「それは……」
「そう! 変化です!!」
「おおー!!」

 俺は素直に感心する。いかにも、九尾のきつねらしい。

「けど、夜だと何もないぞ。繁華街は原則校則で深夜には行けないし」
「んんー。二人きりの場所が良いです。ご主人様、知りません?」
「ああ、それなら近場に公園がある。オブジェもアスレチックもあるし、明るいから大丈夫だろう」
「そこ! そこにしましょう!!」

 それも良いか、と俺は寮から外に出る。

 今日は二日月、既朔だ。うっすらと細い月が見える。あれがあの人。確かに似ていた。顔も。色が違うだけ。

「ご主人様?」

 琥珀が心配するように屈むと、さらりと銀髪が数本落ちる。

「いや、わるい。行こう」

 その場所は少し開けた広場で、お洒落な噴水とベンチと芝生がある。琥珀はベンチに座ると伸びをした。

「んー。こうして外に出てみるのも良いですね」
「つか、別に好きに出れば。もう力は大分戻ってんだろ?」
「……と、思って」
「……あ?」
「ご主人様が寂しがるかと思って!」
「な、俺は……」
「私の居ない部屋に一人で帰るご主人様を想像したら悲しくなりました」
「琥珀……」

 妙な間に俺は焦る。

 デート。そういえば、デートだなんてしたことない。女性が好きな話題? それは……何だ、動物の話……を琥珀にしてどうする!!

「今日は星が綺麗ですね」
「そうだな」
「星は良いですね。何千年経っても変わらない。正確には一秒の単位で変化しているのですが。その概念と光り輝く姿は変わらない」

 妙な小難しい話。畏まった態度。

「何、お前照れてんの?」
「だって……私だって人間とデートなんてしたことありません」

 そんなの、俺だってない。

「……お前はさ、尻尾が戻ったらどうするんだ? また酒池肉林? するのか?」
「しませんよ! 次こそ消されちゃいます。……そうですね。あるには……あるのですが……」
「んだよ」
「秘密です~!」

 琥珀はふふふ、と嬉しそうに笑う。

「琥珀……お前はどうしていつも一人なんだ? こうやって姿も変えられれば別に……」
「それは……」

『それは、この女狐が大妖怪だからだ』

「あれは……面!?」

「お前は最後の……」
「あれが……」

 狐の面がふよふよ浮いている。俺はもう何が起こっても驚くまい。

「何しに来た、裏切り者!!」

 琥珀はいつになく、物凄い迫力で叫んだ。

『我が主の恩義によってのうのうと生きているだけでも御しがたい』
「ちょっと、どういうことだ!?」
「……昔、言ったでしょう。ちょーっとやり過ぎちゃった時に退治されかけたって。その時に最後の尻尾はアイツに付いたのです!! 忘れもしない。一ノ宮 月臣!!」

『しかし、滑稽』

 面に巻かれていた帯が解ける。

 スラリ、と歌舞伎の様な姿をした男。

 大丈夫だ。まだ驚かない。

『主人? 笑わせる。その狐が? ならば、我を倒してみよ!!』


「うわぁああ!!」

 狐の面に巻かれていた帯が放たれる。すごい量の白い帯が。流石の俺も叫ぶ。

 そうだ、琥珀!!

「きゃぁああ!!」

 琥珀は帯に絡まり動けなくなっていた。
 俺は必死にもがいて琥珀を助けようとする。しかし、琥珀はその帯に捕まってしまった。

「琥珀……琥珀!!」

『時刻は明日。場所はあの社にて』


 あの神社に? またか、またなのか?

 その時、トンッと空から烏天狗が現れる。
「琥珀が、……おい、……えっと……」
「落ち着け。我が名は紅天狗じゃ。お主、全て知っておるな」

 俺は真っ直ぐ紅天狗を見返して頷く。

「おうおう。その面構え。よう似とるわい」
「知っているのか?」
「我々、烏天狗組は全て月臣の支配下にあるからの」
「知ってて、黙ってたのか!!」

 俺だって、こんな幼女(姿は)に怒りたくはない。しかし、全てを知っていたのだとしたら。なんて堂々巡りだ。

「ああ。知っておった。しかし、我らが主に止められておったのじゃ。少し様子を見よう。さすればあの狐の素行も変わろう、と」

 全て、言う通りなのか。何が宇宙人だ。そんなことが出来るのなんて神ぐらいじゃないか。

 訪れたのは無音。俺は、また一人になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

心に白い曼珠沙華

夜鳥すぱり
キャラ文芸
柔和な顔つきにひょろりとした体躯で、良くも悪くもあまり目立たない子供、藤原鷹雪(ふじわらのたかゆき)は十二になったばかり。 平安の都、長月半ばの早朝、都では大きな祭りが取り行われようとしていた。 鷹雪は遠くから聞こえる笛の音に誘われるように、六条の屋敷を抜けだし、お供も付けずに、徒歩で都の大通りへと向かった。あっちこっちと、もの珍しいものに足を止めては、キョロキョロ物色しながらゆっくりと大通りを歩いていると、路地裏でなにやら揉め事が。鷹雪と同い年くらいの、美しい可憐な少女が争いに巻き込まれている。助け逃げたは良いが、鷹雪は倒れてしまって……。

伝える前に振られてしまった私の恋

メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。

「お節介鬼神とタヌキ娘のほっこり喫茶店~お疲れ心にお茶を一杯~」

GOM
キャラ文芸
  ここは四国のど真ん中、お大師様の力に守られた地。  そこに住まう、お節介焼きなあやかし達と人々の物語。  GOMがお送りします地元ファンタジー物語。  アルファポリス初登場です。 イラスト:鷲羽さん  

邪気眼先輩

なすここ
キャラ文芸
†††厨ニ病††† 誰しも一度は通る道と言っても過言ではない、The黒歴史。 そんな黒歴史の真っ只中を最高に楽しんでいる奴らの他愛ない日常の1話完結型の物語。 ※この作品は色々な媒体の方に楽しんで頂くため、Novelism様、小説家になろう様、カクヨム様、ノベルアップ様、NOVEL DAYS様にも掲載しております。

宵どれ月衛の事件帖

Jem
キャラ文芸
 舞台は大正時代。旧制高等学校高等科3年生の穂村烈生(ほむら・れつお 20歳)と神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳)の結成するミステリー研究会にはさまざまな怪奇事件が持ち込まれる。ある夏の日に持ち込まれたのは「髪が伸びる日本人形」。相談者は元の人形の持ち主である妹の身に何かあったのではないかと訴える。一見、ありきたりな謎のようだったが、翌日、相談者の妹から助けを求める電報が届き…!?  神社の息子で始祖の巫女を降ろして魔を斬る月衛と剣術の達人である烈生が、禁断の愛に悩みながら怪奇事件に挑みます。 登場人物 神之屋月衛(かみのや・つきえ 21歳):ある離島の神社の長男。始祖の巫女・ミノの依代として魔を斬る能力を持つ。白蛇の精を思わせる優婉な美貌に似合わぬ毒舌家で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の頭脳。書生として身を寄せる穂村子爵家の嫡男である烈生との禁断の愛に悩む。 穂村烈生(ほむら・れつお 20歳):斜陽華族である穂村子爵家の嫡男。文武両道の爽やかな熱血漢で人望がある。紅毛に鳶色の瞳の美丈夫で、富士ヶ嶺高等学校ミステリー研究会の部長。書生の月衛を、身分を越えて熱愛する。 猿飛銀螺(さるとび・ぎんら 23歳):富士ヶ嶺高等学校高等科に留年を繰り返して居座る、伝説の3年生。逞しい長身に白皙の美貌を誇る発展家。ミステリー研究会に部員でもないのに昼寝しに押しかけてくる。育ちの良い烈生や潔癖な月衛の気付かない視点から、推理のヒントをくれることもなくはない。

骨董品鑑定士ハリエットと「呪い」の指環

雲井咲穂(くもいさほ)
キャラ文芸
家族と共に小さな骨董品店を営むハリエット・マルグレーンの元に、「霊媒師」を自称する青年アルフレッドが訪れる。彼はハリエットの「とある能力」を見込んで一つの依頼を持ち掛けた。伯爵家の「ガーネットの指環」にかけられた「呪い」の正体を暴き出し、隠された真実を見つけ出して欲しいということなのだが…。 胡散臭い厄介ごとに関わりたくないと一度は断るものの、差し迫った事情――トラブルメーカーな兄が作った多額の「賠償金」の肩代わりを条件に、ハリエットはしぶしぶアルフレッドに協力することになるのだが…。次から次に押し寄せる、「不可解な現象」から逃げ出さず、依頼を完遂することはできるのだろうか――?

処理中です...