上 下
21 / 26

21話 馬車の旅

しおりを挟む
 車輪がコロコロと音を鳴らし車体が上下に揺れている。外の景色がゆったりと変化していた。
 俺たちは今、たまたま空いていた馬車に乗せてもらっている。ハーミルから出てすぐの事だ。
 交渉にダンジョンで拾った骨董品を渡すと、御者が驚きのあまりひっくり返っていたのが記憶に新しい。

「あんなにもたくさん渡して。もったいない気がしますけど……」

 クレルがそう言って俺の顔をじっと見つめてくる。少しむっとしているような。
 最初に出会った時は神秘的な雰囲気もあり。感情を表に出さない子なのかと思っていたが。
 考えていることが顔に出やすいところは、フランの姉だなって思う。

「薬草いっぱい採れましたね。フランも頑張りました!」
 
 フランは床から浮いた足を、ぶらぶらと揺らし旅を楽しんでいた。
 ニコニコと採ったばかりの薬草を眺めている。この辺では珍しい上薬草でいっぱいだ。
 
「高価な品を見せびらかしていては、悪い人たちに目を付けられますよ?」
「うう、残念です。もっと見ていたかったです……」
「次の村に着いたら、薬剤師を探して薬を調合してもらおう。中級回復薬はよく効くからな」 
「そうですね。カイルさんの怪我もまだ完治していませんし」
「なにを言っているんだ。クレルが一番酷い怪我をしているんだからな?」

 応急処置で両手両足に包帯を巻いたクレルが強がっている。

「私は剣精ですから。フランのマスターを優先するのは当然です」
「それ以前に女性だろ。放置している俺が悪い奴みたいになるじゃないか。譲らんぞ」
「も、もう……。大丈夫だと言っていますのに」
「なくなったらまた採りにいけばいいさ」

 ダンジョンは宝の宝庫だ。
 世界中の冒険者たちが我先にと殺到し。国もその資源を欲しがり権利を主張する。
 俺の周りに湧き出るダンジョンはその全てが手付かずのまま。つまり一人占めなのだ。

 入るたびに形状が変わるので、そこだけが唯一の欠点なのだが。
 時間の許す限りは無限の可能性に満ちた能力といえる。戦闘向けじゃないけどな。

 俺も未だにこの能力の全貌を掴めていないが。
 知らないまま置いておく訳にもいかないので。最近も暇なときは調査を続けている。
 クレルが仲間になった事で、散策範囲が広がり上薬草やら珍しい宝も見つけられるようになった。

 エルフの詩は万能だ。
 魔物を眠らせる子守唄のおかげでドラゴンの縄張りも怖くない。
 対象が多いと魔力が分散するらしく。群れには効果が薄いらしい。三人でも油断はできないか。

「カイルさんがスキルを持たない事にも驚かされましたが……。ですが、あのダンジョンはスキルと呼んでもいいのではないでしょうか? もしかしたら待遇が改善されるかもしれません。これ以上……誰かに糾弾されずに済むはずです」
「それを決めるのは俺たちの創造主様だし。その忠実な信徒である教会の連中だからなぁ。調べてもらってそれで結局、間違いでしたは笑い事では済まされないぞ。……つまらない事に巻き込みたくない」

 死を超越せし者との戦いのあと。
 クレルには一通りの説明はしていたが。
 それから彼女はやけに俺の身を心配してくれるようになった。

 可愛い妹の、フランのマスターだからというのもあるだろうが。
 何というか。同族意識に近いものを感じる。そういえば彼女も捨てられたんだっけ。

 戦場で傷つき仲間に見捨てられた彼女と、両親に捨てられた俺。
 こういう負の感情、傷の舐め合いはよくない気がするが。止められないよな。

「それに今さらスキルにこだわりなんてないからな。というか、それで今まで冷遇してきた連中に手のひらを返されても反応に困る。お前たちがいてくれるだけで。俺はそれで満足だ」
「……カイルさん」

 だからなんで、そんな泣きそうな顔をしているんだ。
 困ったな。実際、俺はもうどうでもいいと思っている。受けた痛みなんて忘れたし。

 一番欲しかった友人も、剣精だけど二人も見つけた。オッサは……よし三人にしておこう。
 そうだ。ロクも入れたら四人だ。なんて恵まれているんだろう。生きているって本当素晴らしい。

「マスター。そんなにスキルが無いことがいけないんですか? マスターは正義の味方なのに……」

 フランが悲しそうな表情で真理を問うてくる。
 スキルの有無で人を判断するのはくだらない。まったくもってその通り。
 だが大多数は違う。みんなスキルがあるのが当たり前すぎてそういう視点を持てないんだ。
 
「スキルは祝福だからな。神様に認められた。愛されて生まれた事を意味する。逆にそれを持たないのは神の目を盗んで生まれ落ちた異端者なんだよ。忌み子。悪魔の子とも呼ばれているな。大層な名だよ」

 古い時代では発覚した時点で火炙りにされたり。両親に殺されたりしていたらしい。
 現在ではそこまで野蛮ではないが。それでも冷遇は受ける。今は孤独に衰弱死するのが一番人気だな。
 どうも自分の手は汚したくないらしい。あぁどっちもくだらねぇ。

「想像を絶する苦しみを味わってこられたのですね……」
「まっ、気にしないでいいぞ。もう子供の頃の話なんて殆ど忘れたしな」

 多分、詳細に覚えていたら。俺はもっと早くにくだらない死に方をしていたはずだ。
 人間の防衛本能なんだろうな。一定以上の痛みを味わうと。脳が勝手に忘れてくれるんだ。

 あとは運がよかったのもある。

「俺がフランと最初に出会った街。ゴルテロって所なんだが。世界中からどうしようもない屑が集まるごろつきの街で有名でな。まぁ確かに酷い目には会ってきたが。それでも最低限生きる事だけは許されてきたんだ。ちょうどその街の近くで捨てられたんだよなぁ……懐かしい」

 金さえ払えば。仕事さえこなせば。身分なんてどうでもいい。
 元犯罪者やら訳ありの連中ばかりで。俺が混ざっても何も言われなかった。
 暴力を振るわれるのもスキルが無いからではなく、単純に使えないからだったしな。

 宿にだって泊めてもらえるし、買い物だってできる。
 これが他の場所なら。穢れを持ち込むとされて追い出されるところだ。
 
 ギルド長は最悪だったが。悪くはない街だったと思う。
 オッサだって他人に深く踏み込まないという、暗黙のルールに従って接してくれたし。
 最後の方は完全に入り込んでたけど。まっ、友人だし許す。

「今はフランがお傍にいますからね! ずーーっとずーーーーっとです!」
「お前はそうやっていつもいつも人が喜ぶ台詞を!」
「えへへ」
 
 頭を乱暴に撫でると、フランが顔を上げて喜ぶ。
 クレルはその様子をずっと眺めていた。なんだ。一緒に混ざりたいのか。違うか。

「カイルさんは強い人です。私は貴方を心から尊敬します」
「強いか? まぁいずれは心身ともに強くなりたいと思っているが。クレルにも負けないくらい」
「もう既に心の方は抜かれてしまっていますね」
「お前も褒めるのが上手いな……」

 フランのように撫でようかと思ったが、途中で腕を戻す。
 妹分のフランと違い、クレルはどうしてもたまに異性として見えてしまう。
 剣精であると意識すればおさまるが。最近まで友人がいなかった俺に異性は眩しすぎる。

「……訂正します。少しだけ、意気地なしですね」
「それは言わないでくれ……」

 ご機嫌なフランの隣で、クレルは不満げにしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

裏アカ男子

やまいし
ファンタジー
ここは男女の貞操観念が逆転、そして人類すべてが美形になった世界。 転生した主人公にとってこの世界の女性は誰でも美少女、そして女性は元の世界の男性のように性欲が強いと気付く。 そこで彼は都合の良い(体の)関係を求めて裏アカを使用することにした。 ―—これはそんな彼祐樹が好き勝手に生きる物語。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョンを探索する 配信中にレッドドラゴンを手懐けたら大バズりしました!

海夏世もみじ
ファンタジー
 旧題:動物に好かれまくる体質の少年、ダンジョン配信中にレッドドラゴン手懐けたら大バズりしました  動物に好かれまくる体質を持つ主人公、藍堂咲太《あいどう・さくた》は、友人にダンジョンカメラというものをもらった。  そのカメラで暇つぶしにダンジョン配信をしようということでダンジョンに向かったのだが、イレギュラーのレッドドラゴンが現れてしまう。  しかし主人公に攻撃は一切せず、喉を鳴らして好意的な様子。その様子が全て配信されており、拡散され、大バズりしてしまった!  戦闘力ミジンコ主人公が魔物や幻獣を手懐けながらダンジョンを進む配信のスタート!

創造眼〜異世界転移で神の目を授かり無双する。勇者は神眼、魔王は魔眼だと?強くなる為に努力は必須のようだ〜

ファンタジー
【HOTランキング入り!】【ファンタジーランキング入り!】 【次世代ファンタジーカップ参加】応援よろしくお願いします。 異世界転移し創造神様から【創造眼】の力を授かる主人公あさひ! そして、あさひの精神世界には女神のような謎の美女ユヅキが現れる! 転移した先には絶世の美女ステラ! ステラとの共同生活が始まり、ステラに惹かれながらも、強くなる為に努力するあさひ! 勇者は神眼、魔王は魔眼を持っているだと? いずれあさひが無双するお話です。 二章後半からちょっとエッチな展開が増えます。 あさひはこれから少しずつ強くなっていきます!お楽しみください。 ざまぁはかなり後半になります。 小説家になろう様、カクヨム様にも投稿しています。

S級スキル【竜化】持ちの俺、トカゲと間違われて実家を追放されるが、覚醒し竜王に見初められる。今さら戻れと言われてももう遅い

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
ファンタジー
 主人公ライルはブリケード王国の第一王子である。  しかし、ある日―― 「ライル。お前を我がブリケード王家から追放する!」  父であるバリオス・ブリケード国王から、そう宣言されてしまう。 「お、俺のスキルが真の力を発揮すれば、きっとこの国の役に立てます」  ライルは必死にそうすがりつく。 「はっ! ライルが本当に授かったスキルは、【トカゲ化】か何かだろ? いくら隠したいからって、【竜化】だなんて嘘をつくなんてよ」  弟である第二王子のガルドから、そう突き放されてしまう。  失意のまま辺境に逃げたライルは、かつて親しくしていた少女ルーシーに匿われる。 「苦労したんだな。とりあえずは、この村でゆっくりしてくれよ」  ライルの辺境での慎ましくも幸せな生活が始まる。  だが、それを脅かす者たちが近づきつつあった……。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...