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15 魔王獣
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「ボクについて来て」
歩き出したノムを追って森の奥を進んで行く。
彼女はぬかるんだ地面を軽やかな足取りでスキップしている。
足をつけた部分が石となって固まっていた。おかげで俺たちの足取りも軽くなる。
「それで、その魔獣ってのはそんなに強いのか?」
移動がてら暇なのでノムに話しかける。
精霊が俺たちに依頼するんだ。彼女の手に負えない凶悪な魔物なんだろう。
まぁ魔物であれば咲の【消滅】でどうとでもなりそうだが。甘い考えか?
「君たちは、魔王獣と呼ばれる魔獣たちを知っているかな?」
「何だそれ。また物騒な名前が出てきたな」
「この世界では有名な話だよ」
さも知っていて当然のように言われても、俺も咲もこの世界についての知識はない。
召喚されてから今日まで戦闘や移動続きで、落ち着いて教えてもらう機会も少なかったしな。
こういう時は黙ってニケさんの反応を見るに限る。
「まさか、魔王が復活させたという古の魔獣ですか!? 西の大陸ハウルストを滅ぼした闇へと誘うモノや三大国家連合軍を壊滅させた嵐を纏うモノなどが有名ですが……」
「次から次へと凶悪な肩書きの連中が出てくるな。終盤のボスラッシュか?」
「かっこいい―! 咲も見たいみたい!!」
リヴァルホスの名が霞んでくるほどの圧倒的な名前力。
残念ながら、ドラゴン相手にサハギンでは太刀打ちできない。
咲は大はしゃぎでニケさんの話を聞いていた。俺も見てみたいぞ。
「王国の英雄たちが束になっても敵わなかった、魔王軍最強と謡われる四大魔将軍に勝るとも劣らない魔獣たちです……こ、この森にそのうちの一体が住み着いているんですか……?」
顔面を蒼白とさせて震えだすニケさん。
彼女の震えの強さに応じて、状況の重さが判断できる。
魔王獣か。一体、咲の攻撃を何発耐えられるんだろうな。
あと何気に四大魔将軍とかも出てきたけど。魔王軍の戦力多すぎだろ。
「とりあえず、今はその魔王獣の話は置いておくとして。まずは君たちに見せたい物があるんだ」
代わり映えのしない景色を歩きながら眺めていると。
魔の森の中心に位置するらしい、大きな泉の前に辿り着く。
泉といっても泥土で覆われ相変わらず土地は死んでいるが、休憩するには十分な場所だ。
ノムはこちらを向いて、腕を大きく伸ばす。
「さぁ出ておいで。ボクの友人たち」
その瞬間――
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
――森の全域を低く大地をならす声が響いていく。
深い濃霧の中をドミノ倒しの如く連鎖していき。
そして、複数の巨大な生き物と思われる眼光が浮かび上がる。
「ひぃ、で、出たああ! 魔王獣うううう!?」
「わー! わー!」
ニケさんが泣き叫びながら、俺の背中に隠れる。
そのスピードは一瞬、転移能力を所持しているのかと思わせるほどに手慣れていた。
大きな胸がバネのように縮んで弾む。咲も真似してニケさんの後ろに隠れた。団子状態だ。
「フフッ、よく見てよ。この子たちが魔王獣に見える?」
ノムは悪戯っぽく微笑んだ。
霧が部分的に晴れて、前に飛び出してきたのは両耳の辺りに大きな角が生えた毛むくじゃらの顔。
像のような太い四肢、尻尾。見上げないと全貌が把握できないほどの巨大な体躯。
「先の大戦で魔王軍が戦術兵器として導入した魔獣だよ。戦後、扱いに困ったのか放棄されてここに住み着いちゃったんだ」
「カトブレパスです! 魔王獣ほどではありませんが、かなり強力な魔獣ですよ! 目を見てはいけません、石にされてしまいます!」
「ふーん。大きな牛みたいだな。って、ニケさん何で目を塞ぐんだ?」
「お牛さんだー! 可愛――――お姉ちゃん暗いよ?」
「私は見てはいけないって言いましたよね!?」
俺と咲の視界を両手で必死に塞ぎだすニケさん。
仮にも味方の精霊が対策も講じず、危険な魔獣を紹介するとは思えないんだがな。
「この子たちは平気だよ。この森で僕の聖素をふんだんに取り込んだからすごく人懐っこいんだ。――聖素というのは女神様や、僕たち精霊を構成する血液みたいなもので、人間にも微量だけど含まれてるよ。君たち兄妹の力の源も同じだね」
そう言ってカトプレパスの頭を優しく撫でるノム。自分もやりたいと咲も別の子を撫でだす。
咲が触れても【消滅】が発動しない。彼女の話は本当らしい、要は魔獣から聖獣になったと。
俺たちが宿しているらしい聖素とやらに反応しているのか。甘え声で頬擦りしてくれる。
『ムオオオオオオオオ』
「へー、モサモサしてて気持ちがいいな。おーよしよしいい子だ」
俺も一緒になって撫でてみたが、中々愛嬌がある。
瞳を覗けば石化されるというが、毛が太すぎて肝心の眼が見えない。
ノムに飼い慣らされて野生の牙が抜けたんだろうか。もはや愛玩動物だ。
「どうしてお二人はそう柔軟に対応できるんですか……!?」
ニケさんは相変わらず、今度は木の裏に隠れている。
彼女は小心者だなぁと思うのと同時に、自分がおかしいのだという事に気付いた。
この世界に来てから俺たちは危機感というか、恐怖心がどうも薄い気がする。
女神の力で精神まで人外になってしまったか。
だからどうしたって話だが。とにかく、いい出会いができた。
「コイツを物資運搬に使えば長距離移動も可能になるな。仲間もこれまで以上に連れていける」
「おー、お牛さんをお馬さんにするの? 乗りたーい!」
カトプレパスをここで飼殺すのは非常にもったいない。
是非うちの荷物持ちとして採用したい。数もそれなりに揃っているし。
俺は隣にいるノムの顔を伺う。
「もちろんそのつもりで紹介したんだ。ボクともども自由に使っていいよ」
ノムは首を縦に振った。
気前のいい精霊だ。それに彼女も同行してくれるらしい。
謎が多い子だがその実力は折り紙付き。これで一気に戦力が跳ね上がる。
「でもその前に、ボクの依頼を果たしてもらうよ?」
「ん? ああ、そういえばそうだったな。で、肝心の魔獣はどこにいるんだ?」
「もうすぐ来るよ――――ほら、あそこ」
ノムがそう言って、人差し指を出した時だった。
ズドドドドドドドーーーーーーーーーーン
「うおお!? なななななんだぁ!?」
「にぎゃあああああああああああ!?」
「わーーーーーーーーーーーーーい!」
地面の岩盤を砕く炸裂音。一瞬世界が崩壊したのかと錯覚するくらい大地が揺れ動いた。
恐怖心が薄いと自覚した俺ですら、心臓が跳ね上がるほどに驚いた。咲もひっくり返っている。
遠くの方で木々が次々と上空に吹き飛ばされていた。そして周囲に泥の雨を降らしていく。
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
「な、なななんですかこの音は!? こわ、こわ、怖いですっ何かが近付いてきます!!」
「……ッ! 全員近くに集まれ! 囲まれるぞ!!」
「おー、また泥でべちょべちょだー」
衝撃波と共に立ち込めていた濃霧が一瞬にして晴れる。
咄嗟に眼を使い対象を視野に捉えるもごく一部分しか映らない。
カトプレパスの比ではない巨大生物だ。
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
高速でうねりながら動き回るそれは網目模様で彩られ、水を出すのに使うホースにも見える。
現実世界に照らし合わせれば直ぐに思い浮かぶ生物、だがその大きさ故に理解が追いつかなかった。
「ヘビさんだー! おっきいヘビさん!」
そう――――蛇だ。
超巨大な蛇が俺たちの前に突如として現れたのだ。
ここまで大人しく眺めていたノムが、初めて口を開いた。
「奴はここアウルランド大陸南西にあった聖都イザラールを一夜にして壊滅させた魔獣――大地を喰らうモノ。さて、一緒に魔王獣退治といこうか」
歩き出したノムを追って森の奥を進んで行く。
彼女はぬかるんだ地面を軽やかな足取りでスキップしている。
足をつけた部分が石となって固まっていた。おかげで俺たちの足取りも軽くなる。
「それで、その魔獣ってのはそんなに強いのか?」
移動がてら暇なのでノムに話しかける。
精霊が俺たちに依頼するんだ。彼女の手に負えない凶悪な魔物なんだろう。
まぁ魔物であれば咲の【消滅】でどうとでもなりそうだが。甘い考えか?
「君たちは、魔王獣と呼ばれる魔獣たちを知っているかな?」
「何だそれ。また物騒な名前が出てきたな」
「この世界では有名な話だよ」
さも知っていて当然のように言われても、俺も咲もこの世界についての知識はない。
召喚されてから今日まで戦闘や移動続きで、落ち着いて教えてもらう機会も少なかったしな。
こういう時は黙ってニケさんの反応を見るに限る。
「まさか、魔王が復活させたという古の魔獣ですか!? 西の大陸ハウルストを滅ぼした闇へと誘うモノや三大国家連合軍を壊滅させた嵐を纏うモノなどが有名ですが……」
「次から次へと凶悪な肩書きの連中が出てくるな。終盤のボスラッシュか?」
「かっこいい―! 咲も見たいみたい!!」
リヴァルホスの名が霞んでくるほどの圧倒的な名前力。
残念ながら、ドラゴン相手にサハギンでは太刀打ちできない。
咲は大はしゃぎでニケさんの話を聞いていた。俺も見てみたいぞ。
「王国の英雄たちが束になっても敵わなかった、魔王軍最強と謡われる四大魔将軍に勝るとも劣らない魔獣たちです……こ、この森にそのうちの一体が住み着いているんですか……?」
顔面を蒼白とさせて震えだすニケさん。
彼女の震えの強さに応じて、状況の重さが判断できる。
魔王獣か。一体、咲の攻撃を何発耐えられるんだろうな。
あと何気に四大魔将軍とかも出てきたけど。魔王軍の戦力多すぎだろ。
「とりあえず、今はその魔王獣の話は置いておくとして。まずは君たちに見せたい物があるんだ」
代わり映えのしない景色を歩きながら眺めていると。
魔の森の中心に位置するらしい、大きな泉の前に辿り着く。
泉といっても泥土で覆われ相変わらず土地は死んでいるが、休憩するには十分な場所だ。
ノムはこちらを向いて、腕を大きく伸ばす。
「さぁ出ておいで。ボクの友人たち」
その瞬間――
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』
――森の全域を低く大地をならす声が響いていく。
深い濃霧の中をドミノ倒しの如く連鎖していき。
そして、複数の巨大な生き物と思われる眼光が浮かび上がる。
「ひぃ、で、出たああ! 魔王獣うううう!?」
「わー! わー!」
ニケさんが泣き叫びながら、俺の背中に隠れる。
そのスピードは一瞬、転移能力を所持しているのかと思わせるほどに手慣れていた。
大きな胸がバネのように縮んで弾む。咲も真似してニケさんの後ろに隠れた。団子状態だ。
「フフッ、よく見てよ。この子たちが魔王獣に見える?」
ノムは悪戯っぽく微笑んだ。
霧が部分的に晴れて、前に飛び出してきたのは両耳の辺りに大きな角が生えた毛むくじゃらの顔。
像のような太い四肢、尻尾。見上げないと全貌が把握できないほどの巨大な体躯。
「先の大戦で魔王軍が戦術兵器として導入した魔獣だよ。戦後、扱いに困ったのか放棄されてここに住み着いちゃったんだ」
「カトブレパスです! 魔王獣ほどではありませんが、かなり強力な魔獣ですよ! 目を見てはいけません、石にされてしまいます!」
「ふーん。大きな牛みたいだな。って、ニケさん何で目を塞ぐんだ?」
「お牛さんだー! 可愛――――お姉ちゃん暗いよ?」
「私は見てはいけないって言いましたよね!?」
俺と咲の視界を両手で必死に塞ぎだすニケさん。
仮にも味方の精霊が対策も講じず、危険な魔獣を紹介するとは思えないんだがな。
「この子たちは平気だよ。この森で僕の聖素をふんだんに取り込んだからすごく人懐っこいんだ。――聖素というのは女神様や、僕たち精霊を構成する血液みたいなもので、人間にも微量だけど含まれてるよ。君たち兄妹の力の源も同じだね」
そう言ってカトプレパスの頭を優しく撫でるノム。自分もやりたいと咲も別の子を撫でだす。
咲が触れても【消滅】が発動しない。彼女の話は本当らしい、要は魔獣から聖獣になったと。
俺たちが宿しているらしい聖素とやらに反応しているのか。甘え声で頬擦りしてくれる。
『ムオオオオオオオオ』
「へー、モサモサしてて気持ちがいいな。おーよしよしいい子だ」
俺も一緒になって撫でてみたが、中々愛嬌がある。
瞳を覗けば石化されるというが、毛が太すぎて肝心の眼が見えない。
ノムに飼い慣らされて野生の牙が抜けたんだろうか。もはや愛玩動物だ。
「どうしてお二人はそう柔軟に対応できるんですか……!?」
ニケさんは相変わらず、今度は木の裏に隠れている。
彼女は小心者だなぁと思うのと同時に、自分がおかしいのだという事に気付いた。
この世界に来てから俺たちは危機感というか、恐怖心がどうも薄い気がする。
女神の力で精神まで人外になってしまったか。
だからどうしたって話だが。とにかく、いい出会いができた。
「コイツを物資運搬に使えば長距離移動も可能になるな。仲間もこれまで以上に連れていける」
「おー、お牛さんをお馬さんにするの? 乗りたーい!」
カトプレパスをここで飼殺すのは非常にもったいない。
是非うちの荷物持ちとして採用したい。数もそれなりに揃っているし。
俺は隣にいるノムの顔を伺う。
「もちろんそのつもりで紹介したんだ。ボクともども自由に使っていいよ」
ノムは首を縦に振った。
気前のいい精霊だ。それに彼女も同行してくれるらしい。
謎が多い子だがその実力は折り紙付き。これで一気に戦力が跳ね上がる。
「でもその前に、ボクの依頼を果たしてもらうよ?」
「ん? ああ、そういえばそうだったな。で、肝心の魔獣はどこにいるんだ?」
「もうすぐ来るよ――――ほら、あそこ」
ノムがそう言って、人差し指を出した時だった。
ズドドドドドドドーーーーーーーーーーン
「うおお!? なななななんだぁ!?」
「にぎゃあああああああああああ!?」
「わーーーーーーーーーーーーーい!」
地面の岩盤を砕く炸裂音。一瞬世界が崩壊したのかと錯覚するくらい大地が揺れ動いた。
恐怖心が薄いと自覚した俺ですら、心臓が跳ね上がるほどに驚いた。咲もひっくり返っている。
遠くの方で木々が次々と上空に吹き飛ばされていた。そして周囲に泥の雨を降らしていく。
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
「な、なななんですかこの音は!? こわ、こわ、怖いですっ何かが近付いてきます!!」
「……ッ! 全員近くに集まれ! 囲まれるぞ!!」
「おー、また泥でべちょべちょだー」
衝撃波と共に立ち込めていた濃霧が一瞬にして晴れる。
咄嗟に眼を使い対象を視野に捉えるもごく一部分しか映らない。
カトプレパスの比ではない巨大生物だ。
ズゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ
高速でうねりながら動き回るそれは網目模様で彩られ、水を出すのに使うホースにも見える。
現実世界に照らし合わせれば直ぐに思い浮かぶ生物、だがその大きさ故に理解が追いつかなかった。
「ヘビさんだー! おっきいヘビさん!」
そう――――蛇だ。
超巨大な蛇が俺たちの前に突如として現れたのだ。
ここまで大人しく眺めていたノムが、初めて口を開いた。
「奴はここアウルランド大陸南西にあった聖都イザラールを一夜にして壊滅させた魔獣――大地を喰らうモノ。さて、一緒に魔王獣退治といこうか」
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