嘘は吐けない

みど里

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4 無罪

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 恋愛模様で混線極まる原告側に構わず、親娘の質疑応答は繰り返される。

「ルヴィ。リュゼとは個人的に交流はあったのか?」
「いいえ。私が、一方的に好いて……みているだけ、でした。話をしたことも、ありません」
「何故リュゼを好いた?」
 異様な空気に包まれたこの場にいる全員が呑まれていた。だから、父が娘にする質問が深堀りしすぎていると、誰も気に留めなかった。
「彼、の、強い忠誠、義理堅さ、愛情、の深さ、彼女を見る、優しい瞳……すべてが、彼をかたちづくるもの、で、彼のすべてで……素敵、だと思いました。いけないと思っても、どうしても、惹かれてしまい、ました」
「他の女に惚れている男を、好いたのか」
「はい……どうせ、誰が相手でも叶わない……」
「だからあの娘に嫉妬したと言うのか?」
「あれほど、素敵な方に想われている、のに、どうして、殿下なんかを、と思っていました。くやしくて、嫉妬、しました」
 エルネストを睨んでいたはずのリュゼは、体中が熱く、顔も火照り、真っ赤になって固まっていた。

「っ、なんか、とはなんだ! 貴様、やはり不貞をしていたのだな!」
 これには、場が一層ざわついた。
 情報が錯綜していたのだ。原告が害されそうになったのは、恋人の元婚約者が嫉妬した故の逆恨み、という前提の元、この審問は開かれていた。なのに、不貞、とはどういうことか、と。
 戸惑う周囲を置き去りに話は進む。
「不貞とはおかしなことを。娘は、その護衛とは話をしたこともないと言っていますが?」
「そんなもの偽装だ!」
「用量以上の自白剤を投与せよ、と命令しておいて何をおっしゃるか」

 ここで、ようやくエルネストは気付いた。
 娘を政の道具にしか見ていない、貴族の中の貴族、システィーヌ卿。娘に無関心だと有名な彼は、娘を庇っている。恐らく、最初から。
 被告側の席が用意されなかったため、傍聴側から援護をしている。
 父は、娘の体に後遺症が残っても、娘を公然の場で辱めても。娘の名誉を第一に、同情という形で回復させる方向へ転換シフトした。


 被告、ルヴィ・システィーヌは無罪。
 例え有罪でも情状酌量の余地ありと世間は判断した。原告リアンナ・マードックの恋人、エルネスト王子は、婚約関係の継続中に不貞をしていたと、明らかになったからだ。
 婚約が破棄されたのは、リアンナが襲撃されそうになった後だったのだ。
 そして、あろう事か、恋人が婚約中であるとリアンナも知っていた。
 リアンナという令嬢は、特に悪辣でもないが善良でもなかった。恋人の「もうすぐ婚約はなくなる。君と一緒になれる」という言葉に安心して、関係を続けていた。
 その事実を、全国民が知るところとなってしまったのだ。

 王子と令嬢の恋物語。障害となる意地の悪い元婚約者を退けの愛で結ばれた二人。
 を知った世間は、その物語を鼻で笑うようになった。改変した二次創作が出回るようになる程に、反発アンチが増えた。
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