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第四部二章 会議

会議。

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 二日酔いになりながらも、今日は会議だから顔を洗いおめかしする。
 金のドレスももちろん素敵だけれど、今日は真面目な日だから真面目な服の方が信用を買ってもらえる。
 例えば、オシャレすぎないドレスなんかがちょうど良いところだろう。
 
 確かにスーツもいいけれど、なんだか堅苦しいように思われるかもしれないので、ラフな感じで行こうと思う。

 パーティーに行く時よりも少し控えめのドレスである。
 プランスの服装はまだわからない。理由は先に何処かへと行ってしまったからだ。
 多分誰かに会いに行っているのだろう? それか、極密会議をしているのかもしれない。まあそんなことはないか。

 それにもうそろそろ帰ってくると思う。分かる理由は勘である。

 正確に魔力探知ができていないので分からない。

 ふと、昨日アンがルドラのことを好きと言っていたことを思い出した。まさかあのアンがルドラに恋をするなんて。
 ルドラは、元々アンの専属護衛官だったけど・・・。それだけで恋をするのか? もしかしたらルドラもアンのことを気になっていて意識をして、かっこいいところを見せてアンの気を引いたのかもしれない?

 だとしたら姉としてちゃんとルドラのことを観察しなくてはならない。これは大事なことだ。

 そして、プランスが帰ってきた。ちょうど私もおめかしが終わり、会議の準備ができたところである。

「ミア、行くぞ」
 
 プランスは酔いが醒めたのかいつも通り強気な声音で言った。
 なんともいえない、性格であるが私は好きだ。名前を呼ばれるだけでドキドキしてしまうほど好きなのだ。

「うん、それで今日はルカの件についてだよね?」

 私はそんな彼に対して正反対の優しい声で返した。プランスはいつも、冷めたような声で話すから嫌われたのかと思ってしまうことがほとんどだ。
 だけど、私は逆である。

「そうだよ、だからルカのことを一番知ってる君が必要ってわけ」

 プランスは私のところに来て、「ほら早く」と言った。私は服を着てドアを開けて外に出た。
 魔王城の最上階だけど、会議をする場所は、すぐ下なので階段で行ける。
 魔力でテレポートすることもできるけど、少しの運動も兼ねて階段を使うことした。
 
 魔王城は百階もあって最上階から眺める魔界は息を呑むほど綺麗な景色で、たまにこの景色を夜、兵士全員で眺めることがある。
 そうすることによって、自分が守ってきている物はこれだけ美しく、自分たちが美しくしてると思えるのだ。

「どうした行くぞ?」

 プランスは何か用事があるのか、急いでいる。確かに今私は魔界の絶景に見惚れていた。

 私は少し息を整えながら、プランスの後に続いて階段を下りていた。百階ある魔王城の階段を下りるのは、意外といい運動になる。周囲の魔力の影響で身体も鍛えられているから平気だけど、それでもやはり、魔界での階段の長さは並大抵のものじゃない。

 それでも、こうして階段を使うことには意味がある。魔王城の建物自体が、膨大な魔力を秘めている。階段を上り下りするたびに、その魔力が足元からじわじわと体内に染み込んでくる感覚があるのだ。それが私たちの力をさらに引き出す。テレポートでは味わえないものだ。

 最上階から下りる途中、私はふと窓越しに魔界の風景を見上げた。真っ青な空が広がり、遠くには火山の噴火する煙が雲と混ざって流れている。地表には魔物たちが蠢く森が広がり、魔界独特の花々が咲き誇っている。恐ろしいほどに荘厳で、同時にどこか儚さも感じさせる景色だった。

「何をしている、遅れるぞ」

 プランスの声が響き、我に返る。彼の背中はすでに階段の数段下で、私を待っているようだった。急ぎ足で追いかけると、彼はまた前を向き、言葉を続けた。

「君にはルカの魔力を封じてもらいたい。それができるのは君だけだからな」

「ルカの魔力を封じる・・・・・?」

 私の声には驚きが混じっていた。確かに、私がルカと最も深い関係にあり、彼の力の性質についてもよく知っている。けれど、その魔力を完全に封じるとなると、一筋縄ではいかないはずだ。ルカは単なる魔物ではなく、古の魔王とも言われる存在。彼の力を抑えるためには、強力な封印の術が必要になるだろう。

「そのために、特別な術を使う準備をしている。だが、君の力がなければその術は完成しない」

 プランスの声は静かだったが、その言葉には重みがあった。彼がそこまで考えているなら、きっと万全の策を立てているはず。だが、それに私が関わるとなれば、当然その責任も重い。

「でも、私にそんな大役が務まるのかな・・・?」

 自信のない言葉が自然に口からこぼれた。私が本当にルカを封じられるのか、成功するかどうか不安は募る一方だった。

 プランスは一度立ち止まり、振り返ると私の目を真っ直ぐ見つめた。その視線は鋭く、逃れようがない。

「君ならできる。だから、君が必要なんだ」

 その言葉に、私の心が揺れ動いた。プランスは普段、あまり感情を表に出さない。それでも彼が私に向けて発したこの言葉には、特別な信頼が込められていた。それがどれほど大きな意味を持つのか、私は痛いほど感じていた。

「わかった・・・やってみる」

 決意を固めるように、私は軽く頷いた。プランスがそれを見届けると、再び前を向き、階段を下り始めた。

 会議室へと続く長い廊下を歩く途中、私は再び昨日のアンとの会話を思い出していた。彼女がルドラのことを好きだと言ったとき、驚いた気持ちと同時に、姉としての不安が胸に込み上げてきた。ルドラは忠実で優秀な護衛官だが、アンとの関係が進展するとなると話は別だ。

 もしルドラがアンを守るために、自分を犠牲にするような選択をしたら・・・。私はそれを止めるべきなのか? それとも、見守るべきなのか? 姉としての責任感と、彼女の幸せを願う気持ちの狭間で揺れていた。

「ルドラとアンのこと、どう思う?」

 ふとプランスに聞いてみた。彼は冷静な性格だし、感情的なことにはあまり深入りしないタイプだけれど、だからこそ彼の意見が聞きたかった。

「どうも思わない。二人のことは二人で決めるべきだ」

 即答だった。予想通り、彼は干渉しないつもりらしい。だけど、そう簡単に割り切れないのが家族というものだ。

「まあ、そうだけど・・・・・」

 私がそう言いかけた瞬間、会議室の大きな扉が目の前に現れた。重厚な木製の扉が、私たちの前に立ちはだかる。プランスが扉に手をかけると、静かにその巨大な扉が開かれた。

 部屋の中には、既に何人かの魔界の重鎮たちが集まっていた。重々しい空気が漂い、これから始まる会議の緊迫感が感じられる。

「さあ、始めようか」

 プランスの言葉とともに、私は深呼吸をして心を落ち着けた。ルカの件、アンとルドラのこと、そして自分の役目。すべてが絡み合っているように感じたけれど、今は一つずつ、目の前のことに集中しなければならない。

 そして、私は会議室へと足を踏み入れた。
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