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82 見える者と匂う者

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「何処で、そんなもんつけて来たにゃ?」

浅葱に濡れた体を拭いてもらいながら朧は、佐久夜に尋ねた。まだ脚には力が入らないらしく、大人しく体を拭かれている。

いつもは、纏わりついてくる朱丸も、鼻を摘んだまま佐久夜から距離をとって浅葱の後ろ隠れている。

「昼、京平の肩に黒っぽい影が見えて、気になって左手で払った時かなぁ?」

左肘のあたりから、くるくると濡れたサラシを巻きつけ黒く変色した腕を隠していく。

「京平だぁ?やっぱりアイツは、面倒ばかり持ってくるにゃ」

「いや、京平は気づいてなかったんだよ。肩が凝った、肩が凝ったって言ってただけだったし…?」

二重、三重とサラシを巻いたため、佐久夜の左腕は、骨折してギブスを嵌めたようにカチカチになってしまった。

「まだ臭い?」

左腕を突き出して、首を傾げる佐久夜。浅葱は、朧を両手で抱くとゆっくり朧を前に突き出した。

「おぅわ!」

朧は、力の入らない体では、抵抗が出来ず、顔を背けて匂いから遠ざかろうと試みるが、ずいっ、ずいっと浅葱が、鼻先を佐久夜の腕に近づけようとする。

「朧さま、出番でござりまするぞ!」

「オッチャン、頑張れ!」

佐久夜は、匂いを嫌がる三人の妖たちにガッカリと肩を落とす。

「京平も臭いって言ってたけど、何で?」

「それは、オイラたちが穢れなき神やその神使と契約を交わした妖だからにゃ」

「神や神使は、色で見分けるでござりまするが、我ら妖は、鼻が利くでござりまするぞ」

生まれてそれ程月日が経っていない朱丸でさえ、佐久夜と契約を交わしているため、穢れの匂いを感じることができた。

「あれ?京平は?」

「アイツもひいと契約を交わした妖の類いに分類されたにゃ」

ケケっと笑って見せる朧だが、腰砕けた状態のため、全く威厳が感じられない。

「お主ら、いつまでそこにおるつもりなのじゃ」

不意に背後から声をかけられた四人。その声の主が誰なのか、皆がわかった。

「ちんちくりん、来るなとオイラは言ったはずにゃ」

朧が、不機嫌な声で浅葱に抱かれたまま背後に立つ神さまに言った。

神さまは、ゆっくりと佐久夜に近づく。

「佐久夜よ。我が、その穢れを祓ってやるぞ」

神さまは、佐久夜の左腕に小さな手を添えた。

「我は、ただ待つだけじゃ耐えられぬ。佐久夜は、我の神使ぞ。窮地であれば、我が動かぬ訳にはいかぬ」

「神さま……」

神さまは、くるりと後ろを向くと、何か言いたそうに見ている朧に言った。

「朧が、我を守る為に動いてくれておるのも解っておる。じゃが、この度は、口出し無用。我に従うのじゃ」

体は小さくても、その場にいる誰よりも神さまの気迫が大きく感じられた。

「佐久夜、準備はできておる。直ぐに楽にしてやるからな。ついて参れ」

神さまは、佐久夜に呼びかけるとゆっくりと社の中へ向かった。

佐久夜たちは、神さまの意に従うべく、その背について行った。

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