上 下
40 / 95

40 君の名は

しおりを挟む
「それって、『オモテ』に一緒に行きたいって事?」
「いかにも」

天狗は、佐久夜の瞳をしっかり見据え返事をした。

「ダメにゃ!お前に佐久夜は、任せられないにゃ!」
「…朧」

朧が、天狗に拒否する理由を、佐久夜は改めて知り、朧の思いを嬉しく思った。佐久夜は、胸元に抱いた朧を優しく撫でる。

「朧、大丈夫だよ。天狗さん、朧は、俺たちの事を真剣に守ってくれてるんだ。君を朧が信じられる方法を教えてくれるなら、俺は、構わないと思っているよ」

天狗は、沈黙のまま考える。

「確かに、俺は、朧さまを喰らおうと試みて、朱丸さまに阻止されました。その後、朧さまには、負傷した身体を治癒していただきましたが、まだ恩を返しておりません。ただ、俺に主従関係を明確にする名を名付けてくだされば、俺は、佐久夜さまの下僕も同然となりますぞ」

「俺が、君に名を与えれば良いって事?…朧、天狗さんの話した事合ってる?」

朧は、佐久夜の腕の中で、嫌そうな顔をしながらも頷いた。

「天狗に、契約の名付けをすれば、佐久夜を裏切ることはできないにゃ」

「じゃあ、決まりだね。ただ、俺には君を連れて行く方法が解らないから、そこは臨機応変って事で良いかな?」

天狗は、烏帽子を脱いで傅いた。佐久夜は、すうっと息を吸い込み天狗に言い渡した。

「佐久夜より天狗に浅葱あさぎの名を与える」

「浅葱の名。確かに承りました」

名付けをすると、天狗の身体が、仄かに光りを帯びて行った。天狗は、自分の身体を包む光りを見て、満足気に微笑んでみせた。

「素晴らしい。名を与えられることで、これ程までに力が湧き出るとは……さすが、神の神使で有られる」

「朧…どういう事?俺、名付けただけだよね」

朧は、面白くない顔をしたまま、佐久夜の腕から飛び出して、取り敢えず浅葱を蹴飛ばした。

「あはは、朧さま。オイタはいけませんよ。私も、佐久夜さまが仕える神に恥じぬよう精進しますぞ」

「クソ~。やっぱり生意気にゃ。佐久夜、オイラたち妖は、名前なんかないにゃ。名を与えられる事で、オイラたちは、種族としてより、個の存在となるにゃ」

佐久夜が、首を傾げる側で、京平はぽんっと両手を叩いた。

「わかった!名前があるだけで、妖としての能力が解放され、レベルが上がるわけだ!!」

「レベルって…そんなゲームじゃないんだから」

どこまでも楽観的な京平に、佐久夜は苦笑いをした。

「佐久夜さま。京平さまの例えは、あながち間違いではございませぬぞ。ただの天狗から、俺は、佐久夜さま、神使さまと契約を交わした浅葱となりました故、妖気も妖力も格段に跳ね上がりましたぞ」

「そ、そうなの?取り敢えず、破壊行動や、攻撃行為はしたらダメだよ」

「承知!」

あどけない顔で、鼻の短い天狗が、正式に佐久夜の仲間に加わった。

「浅葱どん!よろしくな」

「もちろんですとも、朱丸さま。共に、佐久夜さまを支えましょうぞ」

楽しそうに朱丸と浅葱は、拳を握り、コツンと手を合わせた。神さまに相談なく、浅葱に名前を与えたが、嬉しそうな二人を見ていると、これも良いかと佐久夜は、思った。

「朧、これからも俺たちをよろしくな」
「もちろんにゃ」

プイっとそっぽを向く朧を見て、これも通常営業だなと、佐久夜と京平は、お互いに笑った。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

少女探偵

ハイブリッジ万生
キャラ文芸
少女の探偵と愉快な仲間たち

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達

フェア
キャラ文芸
小学校でいじめに遭って不登校になったショウが、中学入学後に両親が交通事故に遭ったことをきっかけに山奥の神社に預けられる。心優しい神主のタカヒロと奇妙奇天烈な妖怪達との交流で少しずつ心の傷を癒やしていく、ハートフルな物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...