35 / 46
4章 藍色のお空に
10話
しおりを挟む
夜が明けて、床下から庭先にダイフクが出てくると、縁側にご飯が用意されていた。
「ばあちゃん?」
一瞬、ばあちゃんが帰って来たのかと思ってご飯に近づいた。ダイフクは、用意されたご飯を見て、肩を落とした。
「ばあちゃんじゃない。お皿がいつもと違うダニ」
ご飯は、息子のタカシが用意した物だった。ダイフクが食べやすいように平べったいお皿でななく、お椀に入れられたご飯だった。だけど、タカシが悪いわけではない事は、ダイフクもわかっていた。
「ばあちゃん、俺はどこに行ったら良いダニ?」
ダイフクは、タカシが用意してくれたご飯を、寂しいなと思いながら食べた。ご飯を食べ終え、縁側からぼんやりとダイフクは庭先を見ていた。
あれ程、キラキラして楽しかった庭先が何とも言えないほど、色褪せて見える。
「ばあちゃんは、お庭に毎日お水をかけてたダニ」
蛇口には乾いたホースがぶら下がっている。
「お天気が良い日は、あの竹の棒に良い匂いがする大きな布が、ぶら下がってたな.......クロッチと飛びついたら、ばあちゃん凄く怒ってたダニ」
お空は、秋晴れ。そよそよ気持ち良い風が、ダイフクの鼻先をかする。物干し竿には、大きなシーツもお洋服もぶら下がっていない。
「あのちっちゃな松の木を、ばあちゃん大事にパッチンパッチンと枝を切っていたな。ひっくり返して、怒られるかと思ったら、俺に怪我がないか凄く心配してたダニ」
松の木の盆栽に施された水苔が、カピカピに乾いている。
どこもかしこも、ばあちゃんとの思い出が溢れて来る。短い間だったが、ダイフクにとって、とても大切な場所だった。
玄関から物音が聞こえ、お家に誰かがやってきた事がわかった。慌てて、ダイフクは床下に隠れた。
縁側の固く閉ざされた雨戸が、開けられた。タカシの声が聞こえてくる。タカシ以外の声も聞こえてきた。
『仏様は、この場所でよろしいでしょうか?』
『ありがとうございます』
『お迎えは、明日の10時頃、お棺を持って参ります。お通夜は、明日の18時からとなりますので、ご遺体と一緒にお越しいただくことになります』
タカシと誰かが色々話しをしていた。だけど、ばあちゃんの声は、聞こえて来なかった。
しばらくの間、タカシたちの話し声が続いた後、人間達が帰っていったのがわかった。人間の気配がするため、残っているのはタカシだろうと思った。
『おい、ちっこいの居るんだろ?今日が、母さんとの最後の日だ。しっかりと、別れをしろよ』
足音からタカシが、部屋を離れたことがわかった。ダイフクはゆっくりと床下から出てきた。
「......!!」
ポロポロ、ポロポロ涙が止まらなかった。縁側に飛び乗り、お家の中を除いた。
「ばあちゃん、おかえりなさいダニ」
お顔には、白い布がかけられている。お胸で両手を組んでいたが、お布団に横たわっていたのは、紛れもなくダイフクが大好きなばあちゃんだった。
タカシは、ばあちゃんのお顔の側にお座布団を用意してくれていた。
ゆっくりと部屋の中に入る。お座布団の上に立ち、ばあちゃんにおでこをごちんとつけた。
「ばあちゃん?」
一瞬、ばあちゃんが帰って来たのかと思ってご飯に近づいた。ダイフクは、用意されたご飯を見て、肩を落とした。
「ばあちゃんじゃない。お皿がいつもと違うダニ」
ご飯は、息子のタカシが用意した物だった。ダイフクが食べやすいように平べったいお皿でななく、お椀に入れられたご飯だった。だけど、タカシが悪いわけではない事は、ダイフクもわかっていた。
「ばあちゃん、俺はどこに行ったら良いダニ?」
ダイフクは、タカシが用意してくれたご飯を、寂しいなと思いながら食べた。ご飯を食べ終え、縁側からぼんやりとダイフクは庭先を見ていた。
あれ程、キラキラして楽しかった庭先が何とも言えないほど、色褪せて見える。
「ばあちゃんは、お庭に毎日お水をかけてたダニ」
蛇口には乾いたホースがぶら下がっている。
「お天気が良い日は、あの竹の棒に良い匂いがする大きな布が、ぶら下がってたな.......クロッチと飛びついたら、ばあちゃん凄く怒ってたダニ」
お空は、秋晴れ。そよそよ気持ち良い風が、ダイフクの鼻先をかする。物干し竿には、大きなシーツもお洋服もぶら下がっていない。
「あのちっちゃな松の木を、ばあちゃん大事にパッチンパッチンと枝を切っていたな。ひっくり返して、怒られるかと思ったら、俺に怪我がないか凄く心配してたダニ」
松の木の盆栽に施された水苔が、カピカピに乾いている。
どこもかしこも、ばあちゃんとの思い出が溢れて来る。短い間だったが、ダイフクにとって、とても大切な場所だった。
玄関から物音が聞こえ、お家に誰かがやってきた事がわかった。慌てて、ダイフクは床下に隠れた。
縁側の固く閉ざされた雨戸が、開けられた。タカシの声が聞こえてくる。タカシ以外の声も聞こえてきた。
『仏様は、この場所でよろしいでしょうか?』
『ありがとうございます』
『お迎えは、明日の10時頃、お棺を持って参ります。お通夜は、明日の18時からとなりますので、ご遺体と一緒にお越しいただくことになります』
タカシと誰かが色々話しをしていた。だけど、ばあちゃんの声は、聞こえて来なかった。
しばらくの間、タカシたちの話し声が続いた後、人間達が帰っていったのがわかった。人間の気配がするため、残っているのはタカシだろうと思った。
『おい、ちっこいの居るんだろ?今日が、母さんとの最後の日だ。しっかりと、別れをしろよ』
足音からタカシが、部屋を離れたことがわかった。ダイフクはゆっくりと床下から出てきた。
「......!!」
ポロポロ、ポロポロ涙が止まらなかった。縁側に飛び乗り、お家の中を除いた。
「ばあちゃん、おかえりなさいダニ」
お顔には、白い布がかけられている。お胸で両手を組んでいたが、お布団に横たわっていたのは、紛れもなくダイフクが大好きなばあちゃんだった。
タカシは、ばあちゃんのお顔の側にお座布団を用意してくれていた。
ゆっくりと部屋の中に入る。お座布団の上に立ち、ばあちゃんにおでこをごちんとつけた。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる