6 / 50
第6話 アレシアの祈り
しおりを挟む
聖堂には中央奥に祭壇があり、その手前には、緑色の敷物が敷かれた一角があった。正面には、座椅子が1脚。
アレシアはそこに腰を下ろすと、巫女達は両側に控えた。
神官が並んでいる人々に声をかけて、1人ずつアレシアの前に進むように誘導を始めた。
「こんにちは。今日はどうなさいましたか?」
そう言いながら、アレシアはまるでお医者様みたいね、と思って、柔らかく微笑んだ。
わたしも、お医者様のようにお役に立てたらいいな、そんな想いがある。
アレシアの前に座ったのは、若い女性だった。緊張したように顔を赤くしているが、アレシアに促されて、話し始めた。
「姫巫女様、今日はお会いできて光栄です。私は王都の大学に通う学生なのですが、故郷の両親に、もう学問は辞めて実家に帰るようにと説得されていて、困っています。できれば、大学を卒業して、良い仕事を見つけたいと思っていますので。両親は、どうやら私に結婚して実家を継いで欲しいようで、お見合いを準備しているのです」
アレシアはうなづいた。
「ご実家でお店か何かを経営されているのですか?」
女性もうなづいた。
「はい。代々、絹織物を扱っております」
「失礼いたしますね」
アレシアは微笑むと、女性の手を取った。
アレシアは呼吸を整えると、目を閉じた。
すると、アレシアの中で、まるで超スピードの映画のように、さまざまな場面が現れ、移っていく。
王都の風景の中で、本を何冊も抱えて歩く女性の姿があった。
古い商店を前に、穏やかに微笑む初老の男女の姿。
やがて、1人の男性の姿が、商店の前に現れた。道を歩く少女を大切そうに見つめている。
少女は今目の前にいる女性だろう。そして男性は、女性の年の離れた兄のように見えるが、兄ではないのが、アレシアにはわかった。
「あなたが願っているのはどんなことですか?」
目を閉じたまま、アレシアが質問をする。
「そうですね……。先ほども申し上げた通り、大学は続けたいのです。私が学んでいるのは、会計学、経営学、外国語などで、家業にも役立つものです。それに、今すぐ見知らぬ人と結婚してまで家に入れだなんて。そんな風に縛られるのは嫌なのですわ」
女性は困った顔になり、ため息をついた。
「大学を無事卒業すること。家業の役にも立つこと。それにできれば、お互いに尊敬し、愛せる方と結婚したいですわ」
アレシアはうなづいた。
「では、改めて、あなたのお願いを、女神様にお祈りしてください。わたしはあなたにとって、関係する皆様にとって、最善となるように、お祈りいたします」
「はい」
アレシアと女性は、しばし祈った。
アレシアの全身が淡く光り、一瞬、女性を白く包んだ。
やがて目を開けると、アレシアは言った。
「あなたのお見合い相手は、まったく知らない男性ではないかもしれません。一度、故郷のご両親を訪ねてみられてはいかがでしょう。もしかしたら、あなたが大学で学び、経験を積むことを後押ししてくれる、そんな人かもしれませんよ?」
女性ははっとしたようにアレシアを見た。その表情に、明るさが戻る。
「姫巫女様、ありがとうございます……!」
女性は何度もお礼を言うと、晴れやかな笑顔で、神殿を後にした。
その後もアレシアは、途中の休憩を挟んで、午後4時頃まで、神殿で待つ人々の話を聞き、共に祈って過ごした。
最後の人を神殿から送り出すと、アレシアは共に働いた巫女と神官と共に女神に感謝を捧げる短い祈りを行い、聖堂を出た。
「お疲れ様でした」
聖堂の入り口では、アレシアの侍女ネティが待っていて、アレシアと共に、宿舎にある私室に戻る。
この後は姫巫女の正装姿を解き、湯浴みをし、食事を取って、静かに過ごすのだ。
これがリオベルデ王国の王女にして、神殿最高位の巫女、国民に愛され、尊敬されている姫巫女アレシア・リオベルデの姿だった。
リオベルデ王家は、国民の声を、どんな小さな声でも蔑ろにすることはない。それゆえに、王と国民の距離は近く、人々は団結して国をより良くしていこうと思う、そんな国であることを誇りに思っているのだった。
アレシアはそこに腰を下ろすと、巫女達は両側に控えた。
神官が並んでいる人々に声をかけて、1人ずつアレシアの前に進むように誘導を始めた。
「こんにちは。今日はどうなさいましたか?」
そう言いながら、アレシアはまるでお医者様みたいね、と思って、柔らかく微笑んだ。
わたしも、お医者様のようにお役に立てたらいいな、そんな想いがある。
アレシアの前に座ったのは、若い女性だった。緊張したように顔を赤くしているが、アレシアに促されて、話し始めた。
「姫巫女様、今日はお会いできて光栄です。私は王都の大学に通う学生なのですが、故郷の両親に、もう学問は辞めて実家に帰るようにと説得されていて、困っています。できれば、大学を卒業して、良い仕事を見つけたいと思っていますので。両親は、どうやら私に結婚して実家を継いで欲しいようで、お見合いを準備しているのです」
アレシアはうなづいた。
「ご実家でお店か何かを経営されているのですか?」
女性もうなづいた。
「はい。代々、絹織物を扱っております」
「失礼いたしますね」
アレシアは微笑むと、女性の手を取った。
アレシアは呼吸を整えると、目を閉じた。
すると、アレシアの中で、まるで超スピードの映画のように、さまざまな場面が現れ、移っていく。
王都の風景の中で、本を何冊も抱えて歩く女性の姿があった。
古い商店を前に、穏やかに微笑む初老の男女の姿。
やがて、1人の男性の姿が、商店の前に現れた。道を歩く少女を大切そうに見つめている。
少女は今目の前にいる女性だろう。そして男性は、女性の年の離れた兄のように見えるが、兄ではないのが、アレシアにはわかった。
「あなたが願っているのはどんなことですか?」
目を閉じたまま、アレシアが質問をする。
「そうですね……。先ほども申し上げた通り、大学は続けたいのです。私が学んでいるのは、会計学、経営学、外国語などで、家業にも役立つものです。それに、今すぐ見知らぬ人と結婚してまで家に入れだなんて。そんな風に縛られるのは嫌なのですわ」
女性は困った顔になり、ため息をついた。
「大学を無事卒業すること。家業の役にも立つこと。それにできれば、お互いに尊敬し、愛せる方と結婚したいですわ」
アレシアはうなづいた。
「では、改めて、あなたのお願いを、女神様にお祈りしてください。わたしはあなたにとって、関係する皆様にとって、最善となるように、お祈りいたします」
「はい」
アレシアと女性は、しばし祈った。
アレシアの全身が淡く光り、一瞬、女性を白く包んだ。
やがて目を開けると、アレシアは言った。
「あなたのお見合い相手は、まったく知らない男性ではないかもしれません。一度、故郷のご両親を訪ねてみられてはいかがでしょう。もしかしたら、あなたが大学で学び、経験を積むことを後押ししてくれる、そんな人かもしれませんよ?」
女性ははっとしたようにアレシアを見た。その表情に、明るさが戻る。
「姫巫女様、ありがとうございます……!」
女性は何度もお礼を言うと、晴れやかな笑顔で、神殿を後にした。
その後もアレシアは、途中の休憩を挟んで、午後4時頃まで、神殿で待つ人々の話を聞き、共に祈って過ごした。
最後の人を神殿から送り出すと、アレシアは共に働いた巫女と神官と共に女神に感謝を捧げる短い祈りを行い、聖堂を出た。
「お疲れ様でした」
聖堂の入り口では、アレシアの侍女ネティが待っていて、アレシアと共に、宿舎にある私室に戻る。
この後は姫巫女の正装姿を解き、湯浴みをし、食事を取って、静かに過ごすのだ。
これがリオベルデ王国の王女にして、神殿最高位の巫女、国民に愛され、尊敬されている姫巫女アレシア・リオベルデの姿だった。
リオベルデ王家は、国民の声を、どんな小さな声でも蔑ろにすることはない。それゆえに、王と国民の距離は近く、人々は団結して国をより良くしていこうと思う、そんな国であることを誇りに思っているのだった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。
あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。
そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。
翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。
しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。
**********
●早瀬 果歩(はやせ かほ)
25歳、OL
元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。
●逢見 翔(おうみ しょう)
28歳、パイロット
世界を飛び回るエリートパイロット。
ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。
翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……?
●航(わたる)
1歳半
果歩と翔の息子。飛行機が好き。
※表記年齢は初登場です
**********
webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です!
完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる