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第32話 その後のこと

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 聖花はギルドから離れた後、辺を散々彷徨った挙げ句に意識を失った。その場に倒れ込む形だ。
 体力の限界をとうに超えていたのだろう。

 勿論、小さな騒ぎにはなった。人気の多い大通りで突然倒れたのだから。
 が、殆どの人は見ているだけで動こうともしなかった。遠巻きに心配しつつも、その場を通り過ぎていくだけだ。
 面倒ごとには巻き込まれたくないのである。

 通行人の噂話を耳にして、アデルたちが駆け付けた時には、既に聖花が横たわっていたのだ。それも、道の真ん中で。
 丁度、衛兵たちが聖花を保護しようとしているところだった。正体はまだ見破られていないようだ。

 何とか衛兵たちに事情を説明して聖花を回収した後、アデルたちはダンドール伯爵家へと直帰した。
 意識のない聖花をメイド達が部屋へと運んで行く。

 そうしている途中で、アデルに招集がかかった。ヴィンセントが執務室で待っている、と。当然、理由は明白だ。

 アデルは血の気が引くのを感じた。だがしかし、行かないという選択肢など端から存在しない。
 重い足を引きずるようにして、彼女は執務室へと向かった。

 すると、アデルは護衛騎士と偶然にも合流することになった。どうやら彼も呼び出されたらしく、向かう場所はアデルと同じである。

 執務室の扉を開ける。
 するとすぐに、正面にいるヴィンセントが2人の目に入った。顔の前で手を組んで椅子に腰掛けている。
 心なしか空気が重い。

 片割れが扉を締め終わるのを確認して、ヴィンセントが口を開いた。


「一体何があった?」

 彼は2人を一瞥して、相変わらず威厳のある声で言い放つ。表情をいちいち確認せずとも、相当苛立っているのが見て取れる。

 アデルは無言のまま俯き、対する護衛騎士は真っ直ぐにヴィンセントを見ている。何とも対象的な光景である。


「セイカ様が露店街で突如として離脱され、行方不明となられました。その後、…………………」

「もう良い。続きは言わずとも分かる」

 アデルの様子を勘づいたのか、護衛騎士が少し間を置いてから説明し出した。が、直ぐにヴィンセントに止められる。
 今聞いているのはお前ではない、と言わんばかりに。

 続いて、ヴィンセントの視線はアデルへと向いた。それでもアデルはじっと黙って俯いている。
 視線には気が付いているのか、小さく震え出した。


「アデル、お前はセイカの側にいた筈だが」

 そんなアデルの様子を意にも介さず、ヴィンセントは彼女に言葉の圧をかけた。
 皆まで言わずとも、彼の言いたいことは即座に理解できる。

 そのせいかアデルは顔面蒼白になり、依然として口を閉ざしている。当然だが、完全に怯えている。

 
「何を黙っておるのだ。早う話せ。
 話さねば、、、、。?」

 その瞬間、アデルの目の色が変った。伏せた顔を上げ、ヴィンセントと視線を合わせる。
 ただならぬ恐怖で震えは引き、一気に声を上げた。


「申し訳ございませんでした!!!」

 初めにアデルから飛び出したのは、単なる謝罪だ。

 ヴィンセントが続きを促すように顎を小さく動かした。

「ほう?」 

「私が、私が…………、純粋に買付を楽しんでしまったのです。
 次の時には、絶対に絶対に、セイカ様から一時も目を離しません…!見逃して下さいなどは言いません。
 ですが今回だけは、どうか罰を軽くして下さい!!」

 そこまでアデルが言い切った。目をギュッと瞑ってヴィンセントの言葉を待つ。


「………生ぬるいな」

「そんな‥‥‥‥!」

 しかし、ヴィンセントから返ってきたのは無慈悲極まりない一言だ。

 情状の余地はないのか、と、アデルは今にも泣き崩れそうな顔になる。
 横でそれを聞いている護衛騎士はいたたまれない気持ちになった。同時に、何故アデルがこんなにも必死なのかが理解できなかった。


「お願いです!罰を先延ばしにして下さるだけでも構いません。挽回の機会を下さい!!」

 アデルは滅気ずに懇願を続ける。

 ヴィンセントは少し考える仕草をした。損得勘定をしている、そんな所だ。
 勿論、アデルの懇願など今は聞いちゃいない。右から左へと流れていく。


「………良いだろう。が、次はない」

 暫く考えた後に、ヴィンセントが言い放つ。少しの間は何とか救われたのだ。

 アデルは安堵と不安が混じり合った溜息を漏らした。
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