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第1話 プロローグ
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ある交差点で、突然それは起こった。
彼女はいつものように、単にそこを通り過ぎようとしただけだった。
普段と違うことと言えば、たった少し浮かれていたくらいだ。
友人に借りたゲームを手に、彼女は軽やかな足取りで我が家へと向かっていた。
だが、それは唐突に終わりを告げた。
いきなり悲痛な叫び声が聞こえてきたかと思うと、彼女の身体は宙を舞っていた。
初めは何が起きたか分からず、彼女はただ混乱するだけだった。
彼らの言葉を聞くまでは。
「女の子が轢かれたぞ!!」
その一言で彼女は瞬時に自分のことだと理解した。
不思議と頭の回転は早かった。
彼女の周りに大勢の人々が集まる。
群衆は、安否を心配して駆け寄ったり、あまりのショックで呆然としていたり、興味本位で観に来たりと様々だ。
不謹慎にもカメラを構えている者さえいた。
(あぁ、痛い…)
彼女は状況を知った途端、身体中に痛みが走ったが、不思議と落ち着いていた。
体が微動だにせず、遂には上手く声も出すことが出来なくなってしまった。
ーーーねぇねぇ聖花、このゲームお薦めだよ~。
新しい乙女ゲームで面白いよ!
ぼんやりと意識が離れていく中、彼女、郡聖花は、友達との会話を思い出していた。
丁度この日交わした会話だった。
その友達は、彼女にとって一番の大切な人で、笑顔がとっても似合う素敵な人だ。
聖花は少なくとも、そう記憶している。
ーーー貸してあげるから今度感想聞かせてよ、約束ね!!
そんな幻聴に「ごめん、返せないや」と心の中で謝りつつ、彼女は、自身の逃れられない最期を悟っていた。
痛みも自然と引いていき、考えることさえままならなくなってきた時、最後の力を振り絞りゆっくりと目を閉じた。
大騒ぎしている雑踏の叫び声など彼女の耳には全く入らない。
そうして、薄れ行く意識の中で、大切な唯一の親友のことを思い出しながら、彼女は静かに息を引き取った。
◇
ある屋敷の一室で、少女は心地良さそうに眠っていた。
清潔で高級感のある布団が首元まで掛けられている。
「んうぅ‥‥」
その少女は不意に唸り声を上げ、ゆっくりと目を開いた。
すぐ真上に天井が見える。
否、それは天井などではなくベットの頭の部分で、天蓋が取り付けられている。
そこで、今度は起き上がってみた。
少し日が差しているのか、眩しい光が少女をほんのりと照らす。
そのまま、辺りを呆然と見回した。
ランプやドレッサー、キャビネットなどの家具が彼女の目に映る。
まるで中世ヨーロッパのような装飾の数々は、彼女に衝撃を与えるのには十分だった。
更に、一つのことに気が付く。
(身体が、どこも痛くない‥‥‥)
唖然として、身体のあちこちを見回すも、どこにも傷が見当たらない。
有るとすれば、脳裏にこびりついたあの時の記憶くらいだ。
「……ここは何処??」
少女ーー聖花が呟いた。
天国にでも行ってしまったのだろうか、とさえ思っていた。
しばらく放心状態でいた聖花は、扉からのノックの音で我に返った。
誰だろうか、と扉を凝視していると、あろうことか見知らぬ女が部屋の中に入ってきた。
その女は、黒と白が基調の服を見に纏っており、20にも満たないような顔立ちをしている。
「お嬢様、失礼いたします。なかなかお返事が頂けないので入らせて頂きました。さて、起きておられますか?」
女がゆっくりと近付いてくる。
聖花の方へと向かって一歩一歩。
「あなたは、どちら様ですか、?」
聖花は女の足を止めようと、質問に質問を返す。
少し脅えて声が震えている。
「‥‥?‥お嬢様、寝惚けていらっしゃるのですか?私はお嬢様の専属侍女であるメイと申しますが、、、、」
不思議そうな顔でメイは答えだ。
主の様子を見て面白がっているのか、微笑を浮かべている。
害意は感じない。
メイは聖花の変化に気づいていないのか、用意していた白湯を笑顔で聖花に差し出した。
そんな表情を見て、聖花は何故だか受け取らない訳にはいかなくなった。
遠慮がちに受け取り、控え目にそれを口に含んだ。
丁度よい温度の白湯が彼女の喉を潤していく。
不思議と心も温まった、気がしていた。
ふと、友達が語っていた話を思い出す。
ーーーこの乙女ゲームはね、異世界に転生した子の話なんだ!
(異世界…転生……)
聖花は頭の中で、そう静かに呟いた。
そんなこと現実である筈ないと思いながらも、この状況を見て自然と腑に落ちる。
こんなこと、余程のことがない限りありえない。
誘拐にしても、高級感のある部屋に連れさらわれる意味も分からない。
加えて、彼女は一つのことに気がついた。
彼女自身のことについては少しは思い出せる。
けれども友達や家族など、他人についての記憶をこれといって呼び起こせないことだ。
記憶に靄が掛かったかのように、思い出そうとしても振り払うことができない。
しかも、元の少女の事さえ分からない。
ある種の記憶喪失といっても過言ではない状態だ。
「メイ、さん?ちょっと不思議に思うかもしれませんが、私について教えて欲しいです」
「お嬢様‥‥??本当にどうされましたか?失礼ですが、頭をお打ちになられたのではないでしょうか。医者の方を呼びましょうか、、?」
聖花が自分について遠慮がちに聞くと、メイは驚いたように目を丸くした。
本気で心配している様子だった。
聖花は医者を呼ばれたら困るので、全力で否定する。
「……お嬢様、‥‥いえ、マリアンナ・ヴェルディーレ様はルアンナ奥様とダンドール伯爵様との第三子のお方です」
何とか踏みとどまったものの、メイは怪訝な顔をして答えた。
聖花は何かが引っかかり、まだ半分も話しきれていないメイの話に、つい口を挟んだ。
「えっ?マリアンナって………どこかで‥‥」
「何処かも何も、他ならぬお嬢様のお名前ですよ?」
聖花が聞き覚えのある名前に困惑していると、声に漏れていたようだ。
メイが間髪入れずに突っ込んだ。
聖花の疑問を残したまま、その場では結局何も分からず仕舞いに終わってしまった。
しかし、彼女の記憶の片隅には確かにそれは残っていた。
ーーー『異国の国の聖女』の主人公はね、
マリアンナって言う名前なの。
彼女はいつものように、単にそこを通り過ぎようとしただけだった。
普段と違うことと言えば、たった少し浮かれていたくらいだ。
友人に借りたゲームを手に、彼女は軽やかな足取りで我が家へと向かっていた。
だが、それは唐突に終わりを告げた。
いきなり悲痛な叫び声が聞こえてきたかと思うと、彼女の身体は宙を舞っていた。
初めは何が起きたか分からず、彼女はただ混乱するだけだった。
彼らの言葉を聞くまでは。
「女の子が轢かれたぞ!!」
その一言で彼女は瞬時に自分のことだと理解した。
不思議と頭の回転は早かった。
彼女の周りに大勢の人々が集まる。
群衆は、安否を心配して駆け寄ったり、あまりのショックで呆然としていたり、興味本位で観に来たりと様々だ。
不謹慎にもカメラを構えている者さえいた。
(あぁ、痛い…)
彼女は状況を知った途端、身体中に痛みが走ったが、不思議と落ち着いていた。
体が微動だにせず、遂には上手く声も出すことが出来なくなってしまった。
ーーーねぇねぇ聖花、このゲームお薦めだよ~。
新しい乙女ゲームで面白いよ!
ぼんやりと意識が離れていく中、彼女、郡聖花は、友達との会話を思い出していた。
丁度この日交わした会話だった。
その友達は、彼女にとって一番の大切な人で、笑顔がとっても似合う素敵な人だ。
聖花は少なくとも、そう記憶している。
ーーー貸してあげるから今度感想聞かせてよ、約束ね!!
そんな幻聴に「ごめん、返せないや」と心の中で謝りつつ、彼女は、自身の逃れられない最期を悟っていた。
痛みも自然と引いていき、考えることさえままならなくなってきた時、最後の力を振り絞りゆっくりと目を閉じた。
大騒ぎしている雑踏の叫び声など彼女の耳には全く入らない。
そうして、薄れ行く意識の中で、大切な唯一の親友のことを思い出しながら、彼女は静かに息を引き取った。
◇
ある屋敷の一室で、少女は心地良さそうに眠っていた。
清潔で高級感のある布団が首元まで掛けられている。
「んうぅ‥‥」
その少女は不意に唸り声を上げ、ゆっくりと目を開いた。
すぐ真上に天井が見える。
否、それは天井などではなくベットの頭の部分で、天蓋が取り付けられている。
そこで、今度は起き上がってみた。
少し日が差しているのか、眩しい光が少女をほんのりと照らす。
そのまま、辺りを呆然と見回した。
ランプやドレッサー、キャビネットなどの家具が彼女の目に映る。
まるで中世ヨーロッパのような装飾の数々は、彼女に衝撃を与えるのには十分だった。
更に、一つのことに気が付く。
(身体が、どこも痛くない‥‥‥)
唖然として、身体のあちこちを見回すも、どこにも傷が見当たらない。
有るとすれば、脳裏にこびりついたあの時の記憶くらいだ。
「……ここは何処??」
少女ーー聖花が呟いた。
天国にでも行ってしまったのだろうか、とさえ思っていた。
しばらく放心状態でいた聖花は、扉からのノックの音で我に返った。
誰だろうか、と扉を凝視していると、あろうことか見知らぬ女が部屋の中に入ってきた。
その女は、黒と白が基調の服を見に纏っており、20にも満たないような顔立ちをしている。
「お嬢様、失礼いたします。なかなかお返事が頂けないので入らせて頂きました。さて、起きておられますか?」
女がゆっくりと近付いてくる。
聖花の方へと向かって一歩一歩。
「あなたは、どちら様ですか、?」
聖花は女の足を止めようと、質問に質問を返す。
少し脅えて声が震えている。
「‥‥?‥お嬢様、寝惚けていらっしゃるのですか?私はお嬢様の専属侍女であるメイと申しますが、、、、」
不思議そうな顔でメイは答えだ。
主の様子を見て面白がっているのか、微笑を浮かべている。
害意は感じない。
メイは聖花の変化に気づいていないのか、用意していた白湯を笑顔で聖花に差し出した。
そんな表情を見て、聖花は何故だか受け取らない訳にはいかなくなった。
遠慮がちに受け取り、控え目にそれを口に含んだ。
丁度よい温度の白湯が彼女の喉を潤していく。
不思議と心も温まった、気がしていた。
ふと、友達が語っていた話を思い出す。
ーーーこの乙女ゲームはね、異世界に転生した子の話なんだ!
(異世界…転生……)
聖花は頭の中で、そう静かに呟いた。
そんなこと現実である筈ないと思いながらも、この状況を見て自然と腑に落ちる。
こんなこと、余程のことがない限りありえない。
誘拐にしても、高級感のある部屋に連れさらわれる意味も分からない。
加えて、彼女は一つのことに気がついた。
彼女自身のことについては少しは思い出せる。
けれども友達や家族など、他人についての記憶をこれといって呼び起こせないことだ。
記憶に靄が掛かったかのように、思い出そうとしても振り払うことができない。
しかも、元の少女の事さえ分からない。
ある種の記憶喪失といっても過言ではない状態だ。
「メイ、さん?ちょっと不思議に思うかもしれませんが、私について教えて欲しいです」
「お嬢様‥‥??本当にどうされましたか?失礼ですが、頭をお打ちになられたのではないでしょうか。医者の方を呼びましょうか、、?」
聖花が自分について遠慮がちに聞くと、メイは驚いたように目を丸くした。
本気で心配している様子だった。
聖花は医者を呼ばれたら困るので、全力で否定する。
「……お嬢様、‥‥いえ、マリアンナ・ヴェルディーレ様はルアンナ奥様とダンドール伯爵様との第三子のお方です」
何とか踏みとどまったものの、メイは怪訝な顔をして答えた。
聖花は何かが引っかかり、まだ半分も話しきれていないメイの話に、つい口を挟んだ。
「えっ?マリアンナって………どこかで‥‥」
「何処かも何も、他ならぬお嬢様のお名前ですよ?」
聖花が聞き覚えのある名前に困惑していると、声に漏れていたようだ。
メイが間髪入れずに突っ込んだ。
聖花の疑問を残したまま、その場では結局何も分からず仕舞いに終わってしまった。
しかし、彼女の記憶の片隅には確かにそれは残っていた。
ーーー『異国の国の聖女』の主人公はね、
マリアンナって言う名前なの。
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