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二章 不死の街を切り拓け
11話 振り切れぬ絶望-5
しおりを挟む(仮に穴に落ちていても、アイラなら大丈夫だ。エルリンも……アイラが見つけてくれていれば、大丈夫だ。そのはずだ)
「うう……あっ、え!? な、なんですかあれ!」
どうやら気絶していたらしいミルクが目を覚ますと、巨大な穴を見て狼狽える。
「落ち着け、ダーカーが来る。援護を頼んだぞ」
「え、援護って……」
「死を覚悟するな! 生きようとしないと、何もかも見逃すぞ!」
びくっと肩を震わせるミルク。つい怒鳴ってしまった。殆ど自分に言い聞かせてるみたいなもんなのに。
オレは深呼吸して、立ち上がる。ダーカーは――
『ここだ』
――上。
オレは注射器をダーカーに突き刺す。急所は外れた、肩だ。
舌打ちを一つ。せめて貫通させようと力を籠めるが……片手で止められてしまった。
『ガシャドクロを壊したのには、驚いた。最後のチャンスだ――デュラハンではなく、スケルトンロード。いや、デミリッチになる気は無いか?」
「何度も言わせるなよ。つーかテメェ、エルリンとアイラが怪我してたらどうすんだ」
『怪我で済んでると思っているのか?』
「おう」
ぶん殴る。今度も簡単に受け止めるダーカーだが……バチバチバチバチバチバチ! と電撃が流れた。
『むっ!』
「逃がすか!」
離れようとするダーカーを『絞首刑』で縛り上げる。ダーカーは力任せにそれを引きちぎろうとするが……もう遅い。オレは水筒の中の水をぶちまけた。
ジュウウウウウ! と肉の灼ける音とともに、ダーカーから煙が上がるが……
『み、水をかけられた程度、我には効かぬ!』
強がるように叫ぶダーカー。しかし彼の言う通り、効果は薄そうだ。
かけただけじゃダメなのか――それなら。
「おー、そうかい。なら、こいつはどうかな」
オレの注射器は刺さったままだ。ダーカーは特に気にしていないようだが――注射器の本領は、液体を流し込むことにあるんだよ!
『ぐおっ!?』
苦悶の声をあげるダーカー。オレは注射器に水筒の水を流し込み、ダーカーの体内に注入していたのだ。ダーカーはオレの注射器を力任せに引き抜くが、もう遅い。テメェの肉体から煙が出てんぜ!
「ミルク!」
「は、はい! 『ハイエスト・シャイニーエクソシズム』!」
ミルクの杖が光る。しかしダーカーも気合いが入っている――水を注入された肩から下を切り離し、ミルク出した光にぶつけた。バシュウ! とダーカーの腕が塵になって空へ溶けていく。
『ぐうう!!! 貴様ァ……たかがヒューマンの分際で!!!!!』
「たかが死体の分際で調子乗ってんじゃねえぞ!」
注射器でダーカーを突く。しかしダーカーも相当警戒しているのか、距離を取らんと跳躍した。そして紫色のエネルギー弾を生み出す。穴を作った時と同じくらいの大きさの――
「ていっ!」
かわいらしい掛け声。ミルクが水筒を投げたのだ。
ビクッと体を震わせるダーカー。一瞬、動きが止まる。水を怖がった――知性が仇になったな!
オレは『絞首刑』でダーカーの体を縛る。片腕になっているおかげで、さっきのようにあっさり力負けすることはない。しかし勝てるということも無い――拮抗してしまっている。どうする、どうする、どうする!
「重一ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! 穴に飛び込んでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「『薬殺』!」
――穴から聞こえるアイラの声。なんでとかどうしてとかは考えない。殆ど反射で、ミルクを連れてオレは穴に飛び込んだ。当然、『絞首刑』で縛ったダーカーも一緒に。
本来のダーカーの膂力なら、オレたちがどれだけ引っ張っても落とすなんて出来ないだろう。しかし今は片腕、しかも踏ん張る足元は、毒液まみれで踏ん張りがきかない。
『ヌッ!』
ダーカーも落ちてくる。真っ暗闇の穴の中に。紐無しバンジーだ、楽しんでくれ。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! お、落ちる落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」
「もっとオレにくっつけミルク!」
彼女の腰を抱き寄せ、ロープで固定する。最悪の最悪は、毒液を大量に出してそこに着水だ。それでも助かるかどうかは知らないが。
しかし、そんな心配は必要なかった。ピカッと光る翼の生えた女神――アイラが、オレとミルクを空中でキャッチしてくれた。
「うっ、重い!」
「なんでだ!」
減速にはなったものの、アイラは受け止めきれずオレたちは三人固まって落下する。どうする――と思考を働かせる前に、ドボンと着水した。
「ぶはぁっ! み、水!?」
しかも深い。百八十五もあるのに、足がつかない。二メートル以上はあるな。
「地下水です! 掘り当てました!」
そう言ってワイバーン斧を掲げるアイラ。まさかシャベルの方を使う機会があるとはな!
「無茶苦茶やるな! エルリンは!?」
「ここ!」
灯りを持って壁から顔を出すエルリン。アイラが横穴でも掘ったようだ、ピッケルで。
「ぷはっ! ふぇぇぇぇぇぇぇ! お、泳げないですぅ!」
「大丈夫ですよ」
アイラがバサッと翼を広げてミルクを抱えて飛ぶ。オレは大き目の『電気椅子』を生み出して足場にする。
遅れること一秒か二秒。ドボン! と大きな水柱を上げて落下してくるダーカー。
『言っているだろう! わ、我に……! 我が水をかぶったくらいで効くわけがないと! やむを得ん……! これだけは使いたく無かったが!』
ばっ、と懐から禍々しい杖を取り出すダーカー。しかし次の瞬間、弾き飛ばされてどこかへ飛んで行ってしまった。
「隙だらけよ」
「ナイスだ、エルリン。……お前、だいぶ弱ってんぜ?」
『何……!?』
「ブーヴァー・レーヴァー・リント・フェムシンム!」
即座に杖を取り出して、呪文を唱えるアイラ。ダーカーは虹色に輝きそ――その光を吸収していくアイラの持つステッキ。
そしてくるっとオレを振り向くと――
「ていっ!」
「痛っ!」
ごん! と頭をこずかれる。しかし同時に、その虹色の光がオレに流れ込んできた。
よし――『天賦の玉』、回収完了!
『なっ……ば、馬鹿な! 我の、我の力が抜けていく……!?』
ジュウジュウと煙が発生しだした。見ると、ダーカーが水に使っている部分が徐々に灼けているようだ。しかしダーカーは諦めていないのか、地面からなんと巨大なスケルトンホースを召喚した!
『これで足場を――』
「無駄だ」
体内に溢れてくるエネルギー。肉体の全てが活性化しているような気すらする。オレの腕力や体力も、数舜前の比じゃないはずだ。試しに腕を振るだけで、地下水の湖が真っ二つに割れる。
「きゃっ」
「うきゃっ!」
「な、何するのよジューイチ!」
可愛い悲鳴をあげるミルクと、変な声を出すアイラ。エルリンは相変わらず、ツッコミを入れている。
「悪い悪い。んじゃ……トドメ、刺してくるぜ」
注射器を構える。ダーカーも紫色のエネルギー弾を生み出して、迎撃態勢だ。
だが、何も怖くない。もうすでに怖くない。
「お願いします、重一」
「頑張ってジューイチ!」
「ジューイチさん、仕上げは任せてください!」
「おう。さぁて……死刑執行の時間だ!」
『やってみろ、小童ァァァァア!』
特大のエネルギー弾。オレはそれを伸ばした注射器一発でかき消す。驚きか、身をすくめるダーカー。しかし即座に肉体に紫色のエネルギーを纏い、片腕で殴りかかってきた。
オレは『電気椅子』で弾き飛ばす。もうこいつの膂力も怖くない。壁にたたきつけられたダーカーは巨大なスケルトンホースにオレを攻撃させようとするが、こちらも特大『電気椅子』で対抗。一撃で粉砕する。
『ぬぐぅ! 死ねェェェェェェェ!!!!!』
壁に埋まったまま、エネルギー弾を乱射するダーカー。その悉くを注射器で叩き落とし――オレは、ダーカーの胸にぶっ刺した。
巨大な注射器に入れる水は、地面の地下水。もう一本注射器を生み出し、巨大注射器の中に水を注いでいく。
『待て、マテ、待ってくれ!』
「今更命乞いか?」
『そうだ。我が世界を支配した暁には、その半分を貴様にやろう! なに、悪い取引じゃないはずだ! 我の力ならそれが出来る。いや、むしろリッチに変えてやろう! 無限の命だ、無限の生命だ! 我には分からぬ感覚だが、お主らヒューマンは死にたくないのだろう? メスと番いたいのだろう? 無限にそれを楽しめるぞ! どうだ、今までとは比較にならん力も手に入るぞ!』
「へぇ、死にくないって感覚わかんないのか。んじゃ、一回味わってみるといいぜ?」
大量に水が詰め込まれた注射器。
「それに、オレは今度こそ青空の下で死ぬって決めてんだ。死ぬって決めてんだよ。不死なんか興味ねぇ。オレはヒトとして生きて、ヒトとして死ぬんだ。今度こそ、お天道様の下でな!」
『待て、待つんだ、待つんだ! 待ってくれェェェェェェェェ!』
「テメェは死刑だ。『薬殺』の刑に処す!」
注入。水がどんどんダーカーの体内に消えていく。
『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』
不快な『音』。しかしこれももう、聞き納めだ。
全身から煙を噴き出すダーカー。オレはぐるっと肩を回すと……ミルクの方に合図を出した。
「頼むぜ」
「はいっ! 『ハイエスト・シャイニーエクソシズム』!」
ミルクの杖から、光が飛び出る。ジュウジュウと肉体が灼けていたダーカーの体が、塵となる。
『ああ……消える……消えていく……我が消えていく……!』
「先に地獄に行って見といてくれよ。案外いいところらしいぜ? なんせ行ったやつが、誰も帰ってこない」
『クソガァァァァァァァァァ!!!!!!』
ボシュウウウウウ!
凄まじいエネルギーを放出しながら、ダーカーの肉体が爆散する。全ては塵となり――消えていった。
「全ては塵に……ってな」
オレがそうつぶやくと……キラキラと、水面に光が反射しだした。パッと顔を上げると……穴の入り口から光が差し込んできている。
朝日だ。
「……あの野郎、お天道様の下で死にやがった」
腹が立つな。でもまぁ、しゃあない。
オレは今回こそだ、そのために頑張らないと。
「重一! 大丈夫ですか?」
エルリンとミルクを連れて、アイラがこちらに飛んでくる。彼女らの顔と声を聴いて、少し気が抜けてしまった。
「おう、無事だぜ」
その場にへたり込む――と、足場が電気椅子で作った不安定なものだったことを忘れていたオレは……
「あっ、やべっ」
「重一(ジューイチ)!?」
ドボン。
そのまま、水の中に頭っから落っこちるのだった。
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