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二章 不死の街を切り拓け

11話 振り切れぬ絶望-2

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「重一! 伏せて!」

 即座にしゃがむと、オレの真上で矢が撃ち落とされる。エルリン、飛んできた矢に自分の矢を当てたのか!?

「その場を動かないで、ジューイチ!」

 エルリンの声。オレはその場に伏せて、ミルクにも伏せるように指示する。
 するとオレとミルクの真上で、何本も矢が飛んで来ては撃ち落とされる。無茶苦茶だ――

「こっちは生まれた時から矢ぁ握って三十年よ! デュラハンごときに腕前で負けるもんですか!」

 勇ましいエルリン。いや、だからと言って矢で矢を撃ち落とす人間なんて聞いたことねぇよ。

「ってかさっき! あたしだけミルクから一般人扱いっぽい雰囲気されたの、ちょっと根に持ってるからね!」

 そっちかい。

「えっ……ふぇぇぇ……ごめんなさい……」

 地面にペタッと伏せながら、涙目になるミルク。でもごめん、ぶっちゃけオレもお前の腕前、過小評価してたわ。

「いいよ! 伏せといて! ジューイチ、ミルクを確保したらこっち戻ってきて!」

 オレは地面を這ってミルクの傍まで移動し、彼女を抱き寄せる。これでミルクは確保だ。

「あ、あの……どこを触ってるんですか……?」

「いやどこって……普通に腰を抱いてるんだが……!?」

 伏せた状態で小柄なミルクの腰を抱き寄せ、腕で彼女の頭を庇っている状態だ。確かに未婚の女性に近づきすぎている気はするが、戦っている最中だし性的な部分に触れていないんだから、文句を言われる筋合いは――

「お、男が女の腰を抱くって……求婚なんですよそれは!」

「エルフといいホビットといいめんどくせぇえええええええ!!!!」

 そのうち目を合わせただけでも結婚とか言われるかもしれん。こっちから女性に対してアクションは行わない方がいいな。

「いいよ、この際嫁が二人も三人も一緒だ!」

「い、いえ……あの、流石にちょっと結婚は……ま、まだ早いっていうか……もっとお互いのことを知ってからっていうか……」

「しかもフラれるのかよ! ああもうめんどくせぇ、『絞首刑』!」

 エルリンたちの近くに立っている街灯(灯りはついてない)にロープをかけて、自分たちを引っ張る。これでどうにか、身を隠せるな。

「お疲れ様です、重一」

「おう、お疲れ」

「あの、わたし……求婚されたんですけど……」

「はぁ!? アンタ、またそんなことやってんの!?」

 またってなんだまたって!

「いや違うわ! 求婚したんじゃねえよ、こう……」

「あ、あんなに激しくわたしを抱いておいてそんなこと言うんですか……?」

「重一?」

「なんでアイラまでキレてんだよ! 一部始終見てただろ、つーかそんなくだらねえこと言ってる場合じゃねえだろ!」

 がんっ!
 アイラが矢を盾で防ぐ。音もなく飛んでくる矢をよく防げるな。エルリンは矢の飛んできた方向に素早く矢を放つが……

「チッ! 効かない……! ただでさえスケルトンホースが素早すぎるのに! 当ててもあんま効かないんじゃやってらんないわ!」

 なるほど、向こうさんはスケルトンホースに乗りながら撃ってるのか。それでこの精度、生前はそうとう腕の良い弓兵だったんだろう。

「流鏑馬の経験者だったりしてな。……どうする? ジリ貧だぞ」

 現状、敵のデュラハンを捉えられるのはエルリンだけだ。しかし、彼女の『職スキル』じゃ決定打にならない。

「あんまやりたく無かったんだけど……ジューイチ、今からやること見ても幻滅しない?」

「お前が白目剝いてひっくり返って叫んだとしても幻滅しねえよ」

「そんな特殊なことはやんないわよ!」

 エルリンは普段使っている着火剤を地面に置き、その上で火打石を打つ。彼女は火起こしが上手いので、ものの数秒で火がついた。そして彼女が『職スキル』で出した矢にオークの油を塗って……火を、つけた。

「それの何が幻滅なんだ?」

「大火事になったら皆で謝ろうね!」

「ああそういう……。っていやオレまたそれ囚人になるパターンだろ……!」

「あはは、かもねッ!」

 エルリンは真剣な目になると、大通りに一気に飛び出した。そして耳をピクッと動かすと、オレたちの方に振り向いて矢を放った。
 オレたちのスレスレを通って背後に飛んでいく火矢。そのコンマ数秒後に、今度はエルリンに矢が飛んでいく。
 それを『絞首刑』で捕まえて逸らす。危ない、あのままだったらエルリンに刺さってたぞ。

「い、言えよそんな無茶するなら!」

「いいからあたしの矢の方を向いて!」

 彼女の放った矢の方を向くと――巨大な火の玉がこっちに向かって信じられないスピードで突っ込んできていた。
 いや、あれは火の玉じゃない……エルリンの火矢が当たったデュラハンだ。

「もう隠れられないわよ!」

「なーる。っしゃ、後は任せろ!」

 オレは『絞首刑』でその辺の民家にロープをひっかけて跳躍。火の玉と化したデュラハンが、スケルトンホースに乗ったまま弓を構える。でも、どこから飛んでくるか分かっていれば、まっすぐ飛んでくるだけの矢なんか怖くもなんともない!

「ヒトは泣きわめけ!」

「泣きわめくかボケ!」

 放たれる矢。オレはスケルトンホースの足を『絞首刑』で掴み、引っ張る。空中でバランスを崩したデュラハンの矢なんてオレに当たるはずもない。髪の毛を掠めて虚空へ消えていった矢を無視し、巨大化させた『電気椅子』をぶちかます。スケルトンホースの上から吹っ飛ばされ、デュラハンは地面にたたきつけられた。
 既に発火している以上、今更電撃に意味はないだろう。だからオレは地面にたたきつけたデュラハンに注射器をさして地面に縫い付けた。

「ヒトはアッァァッァァ!」

「後は……スケルトンホースか」

 オレが顔を上げて気配を探ると……ズンッ! と地面が揺れる音がした。振り向くと、地面に巨大なクレーター。その中心には骨の粉末が。
 カタカタカタ……と骨の粉末が集まっていくが、そこにミルクの『職スキル』が放たれる。

「重一、終わりましたよ」

「アイラか。……お前、あのスケルトンホースを一発でやったの?」

「パワー系女神なので」

 むんっ、と力こぶを見せるアイラ。でも別に筋骨隆々ではないので、女の子がちょっとふざけてポーズ決めているようにしか見えない。いや実際そうなんだけど。

「自分で言ってちゃ世話ねえな。……ワイバーン斧のおかげか?」

「ええ。素晴らしい武器ですねこれは」

 うっとりとした表情になるアイラ。彼女のワイバーン斧は普通のヒューマンじゃ持てないほどの重さだ。並大抵の敵なら一発でのしてしまう。

「スリーウェイで使えるのも、お気に入りポイントですね」

「斧、シャベル、ピッケルが合体した珍妙な武器をスリーウェイで使えるなんて表現する奴初めて見たわ」

「早く、残りの二つも使ってみたいですね」

 ……旅の途中、薪集めをする必要があって彼女の斧を使ったことはあった。これからも、木を切り倒す機会は無いわけじゃないだろう。
 でも残り二つって使うことあるかなぁ……?

「ありますとも」

「無い方がいいんだが」

 って、そんなことはどうでもいい。

「オレらの前に抵抗して殺された奴がいなければ、デュラハンは今ので終わりか」

「最初にベアッグデュラハンを倒せたのが大きかったですね」

「だな。それじゃ、やっぱり朝になるまで身を隠して、そこから大ボスを探して――」

『その必要は無い』

「「「「――っ!?」」」

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