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二章 不死の街を切り拓け

10話 漆黒の騎士-5

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「二人とも、顔知ってるのか。……周囲に敵影は無し、ちょっと待ってろ」

 オレは近くにあった家の鍵を調べる。開けられなさそうなら壊そうと思ったが、牢屋の鍵より少し複雑なくらいだ。
 三本の注射器を出して、カチャカチャといじくる。ピンと小気味のいい音が鳴って、鍵が開いた。

「よし、中に入れる。さっさと入れ」

「はーい」

 ついでにデュラハンの頭も掴んで、中に入る。スケルトン軍団が来たら踏み潰されてしまうだろうが、体を休めるくらいならこの家で大丈夫だろう。

「さて」

 小さい家だ。リビングにはテーブルと椅子が三脚、台所も一体になっている。三部屋ほどあるらしいが、やっぱりヒトの気配はない。なるべく荒らさないように、オレたちはリビングの机に座る。

「それで……二人はこの面に見覚えがあると?」

 テーブルの上にデュラハンの首を置く。塵が抜けるまでは骸骨みたいな顔をしていたのに、今は確かにヒューマンのそれになっている。金髪で、少し渋めのおっさんという風体だ。

「あたしの記憶に間違いが無ければ、ベアッグと同じ顔をしているわ。って言っても、あたしが最後に見たのは四年前だから確定とは言い切れないけど」

「わ、わたしは……その、去年チラッと見ただけですけど……はい、たぶん、ベアッグさんです」

 なるほど――オレは椅子の背もたれに体重を預け、舌打ちをする。

「絶対そうだとは言い切れないが――オレたちが生け捕りで牢屋にぶち込まれたのは、デュラハンにするためだったのかもな」

「もしかすると、デュラハンじゃなくって別のモンスターかもよ。だって、この人たちは抵抗して殺されちゃったんでしょ?」

「ああ。こいつらはデュラハンしか選択肢が無かったってことか」

「デュラハンに限らず、我々のように『職』を持つ者を素材にアンデッドを作り、強力な兵にする予定だった……と考えるとしっくりきますね」

 そう考えると、さっきのこいつの剣がいきなり大きくなったのも理解できる。オレの『職スキル』と似たようなことをしたということだろう。
 ……それってつまり。

「なぁ、確かこの街には『三人』も『職』を持ってる奴がいたんだよな?」

「……ミルクを連れてきたセイカクさんってヒトと……」

「も、もう一人はダシオンさんという弓兵さんだとか……」

 オレとアイラ、エルリンの顔が曇る。最悪、後二体は『職スキル』が使えるデュラハンを相手にしないといけないのか。
 それだけじゃない、さらにその後ろにはデュラハンを作った化け物がいる。

「厄介オブ厄介だな」

「弓兵がいるとなると、逃げるという選択肢はありませんね」

「そうね。いい的になっちゃうわ」

 弓兵のエルリンが言うと説得力がある。唯一の救いは、おそらくは最強のデュラハンだったであろうベアッグデュラハンを初手で倒せたことだ。
 しかしそれだって、楽勝だったわけじゃない。ワイバーン囚人服が無ければ、大怪我では済まなかったはずだ。
 部屋の中に沈黙が下りる。ワイバーンの時と違って、次々と強敵が出てくるかもしれないという恐怖。どうするか……。

「そういえば……アイラ、『天賦の玉』の位置は分かるか?」

 敵のボスが『天賦の玉』を持っていることは確定だろう。逆に考えれば、『天賦の玉』を追えば敵のボスにたどり着くということだ。

「出来れば、デュラハンは無視してそっちを叩きたい。消耗を押さえたいからな」

「すみません。方角は分かりますが、正確な位置までは」

「……そうか」

 目をつぶって首を振るアイラ。ボスを叩きたかったが、仕方がない。

「しかも、強敵はデュラハンだけじゃないんだよな。確か、そのセイカクってやつは……」

「は、はい。巨大な骸骨にやられました」

 巨大な骸骨。オレの中のイメージでは、スケルトンを巨大化させたようなものと思っているが……。

「デカさはパワーだ。それが再生するとなったら、下手するとワイバーンよりも強いかもしれないな。……ちなみに、どれくらい大きかった?」

 ミルクに問うと、彼女は少しだけ首をかしげてから……バッと両手を広げた。

「物凄い大きさでした」

 ミルクが小さいせいでイマイチ迫力が無い。

「デュラハンの何倍くらい?」

「か、軽く十倍はあったかと」

 デュラハンはアイラよりも一回り大きかった。それの十倍となると……二十メートルくらいか。

「それがボスならいいけど……」

「そいつすらボスが作ったモンスターって可能性もあるからな。仮にそうなら、厄介なんて次元じゃねえ」

「どうしたものですかね」

「なんでちょっと他人事なんだお前は」

「まぁまぁ。……外はまだ静かよ。次の敵が来るまで、少し休憩しましょ?」

 エルリンがそう言って、食料を広げる。と言ってもいつもの干しモンスタージャーキーだが。不味くはないが、そろそろ飽きてきている。
 水差しの水を飲みつつ、オレはジャーキーを齧る。

「くそっ、白米が恋しいぜ」

「重一、この世界に白米は……多分無いです。そもそも、作れません」

「………………農業が出来ないって、改めて詰みかけてるなこの世界」

 安定した食料の供給があるから、人類は発展出来たわけで。それが無いなら、世紀末まっしぐらだな。

「いえ、さすがに作物はありますよ」

「あら、そうなの」

「はい。ただ、あんな病気や災害に弱い作物を育てる酔狂な人はいないということです」

 そういう意味か。
 まぁ、仮に水田なんか作ってもワイバーンが来れば一発でお釈迦だしな。台風の方がなんぼかマシかもしれない。

「何にせよ炭水化物が食いたいぜ」

「…………あの」

 オレたちが無駄話をしつつ体を休めていると、ミルクが少し遠慮がちに話しかけてきた。

「なんで……あの、そんなに強いんですか?」

 凄いざっくりとした質問だ。
 単にこの世界のシステムにうまくハマった――としか言いようがないが、それだと夢が無い。かと言って、本当のことをどこまで話していいものか。
 少しだけ考えた結果、オレはぼやかして伝えることにした。

「これでも、地元じゃそれなりに名の知れた男だったんだよ」

「……名の知れた囚人?」

 言葉にしないでくれ、グサッと来る。

「ま、まあ……色々あってな」

 墓穴を掘りそうだったのでそうごまかすと、ミルクは次に……オレたちを見て、せつなそうな顔になる。

「……強いってことは、ヒトに知られてるってことです。……嫌じゃ、無いんですか? そんな力を使うことが」

 そりゃ嫌だ。もっとオレもかっこいい能力が良かった。
 しかし、オレが使えるのはこれだけなんだ。

「配られたカードで勝負するしかねえだろ」

「ニヒルに決めているところ申し訳ないんですが、重一。こっちの世界にトランプはありません」

「は!? じゃあ、どうやって修学旅行の時に遊ぶんだよ!」

「そもそも修学旅行はありません」

「マジかよ……苦労してんだなこっちの世界の奴ら」

 修学旅行で買った木刀は、二本とも部屋に飾ってあった。あれを喧嘩で使うと、やり過ぎちゃうから一回か二回しか使わなかったんだよな。

「…………じゃあ、なんで……わたしの、能力が変だって言わないんですか……?」

 唐突なセリフに、オレはきょとんと首をかしげる。

「変なのか?」

「あたしは聖職者の知り合いが多くないから比較は出来ないけど……デュラハンって強かったでしょジューイチ」

「おう」

 オレが頷くと、エルリンが苦笑を浮かべる。

「そういうことよ。いくら弱っていても、デュラハンは単独で祓えるほど柔なモンスターじゃないわ。あたしは水で弱らせてから、複数人の聖職者で浄化するって聞いたことあるわね」

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