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章間なう⑫

同窓会と酒の勢いと剣

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天川編 0話


「「「「「かんぱーい」」」」」

 天川、清田、難波、井川、志村の五人の声が重なる。グラスをぶつけ、その勢いでぐいっと中身を喉に流す。

「ぷはぁっ!」

「天川、いい飲みっぷりだねぇ」

「いや……普段、あまり飲まないからな。たまに飲むと美味しいものだ」

 ニヤニヤする清田に、天川も笑顔を返す。久方ぶりの男のみの同窓会で、少々テンションが上がっているのかもしれない。
 同窓会の会場は、王都のとある焼き肉屋。清田に渡すはずだった王都動乱の報酬、その支払いの一部を兼ねているのだ。

「それにしても、白鷺と加藤はどうしたんだ?」

「あいつらか? 修行と被ったんだ。次の機会があったらって血涙を流しながら言っていたよ」

 井川が肩をすくめながらビールを飲む。全員未成年なのに、酒の飲みっぷりが堂に入ってるのはちょっとどうかと思う。シャレじゃなくて。
 そういう天川も飲んでいるので人のことは言えないが。
 清田は灰皿を取り出すと、机に置いてタバコを咥えた。

「あ、吸っていい?」

「別にいいが、灰皿を出す前に聞かないか?」

「あ、俺も吸うわ」

「拙者も」

「お前ら早死にするぞ」

 吸わない天川と井川がドン引きするが、喫煙者どもはむしろやれやれみたいな雰囲気でこちらを見てくる。

「俺のこれは活力煙。疲労回復効果のある、甘くて美味しい薬だよ」

「拙者のこれは、最近温水先生と一緒に作った悪酔い防止の薬で御座る」

「えっ……とっ……お、俺のはあれだ! こう……食欲増進の効果のある……」

「なんでもないなら張り合うんじゃない、難波」

 何でそんな体たらくで、二人と同じような表情が出来たのか。
 あと、薬は薬でマズくないだろうか?

「俺なんてこれを卸してる商会と、原料を作ってる農家、生産してる商会、全部と契約交わしてるからね。SランクAGとして」

「SランクAGとしての立場をフルに利用して趣味に全力を注ぐんじゃない」

「というか、特に荒事とかがあるわけでもないのに、SランクAGと契約を交わしてそれらの商会はなんのメリットがあるんで御座るか?」

 志村の問い、そこは天川も確かに気になっていた。

「宣伝、広報が主だよ。ということで皆も、一本どう?」

 そう言って清田が懐からタバコの箱を取り出す。その中からしゅぽっと一本ずつ取り出して、全員の手の上に置いた。

「ちなみに依存性は?」

「俺は毎日吸っているけど、依存性は無いよ」

 バリバリに依存しているじゃないか。
 喫煙者の二人はさっそく吸っているが、取り合えず井川と天川は保留にしておく。

「お待たせしましたー。特選カルビとタン塩、ロースとハラミ、ホルモン、アブラキ牛の香草漬け、野菜の盛り合わせでございますー」

 店員さんが届けてくれた肉や野菜を見て、皆の目の色が変わる。天川も、うきうきしながらトングを持った。
 肉を焼き、お酒を飲み……それから一時間ほど経った頃だろうか。新しく注文しようとメニューを開いた難波が、ふっと清田の方を見て首を傾げた。

「あ、そういえば清田」

「何?」

「お前なんで最近アンタレスにいねぇの?」 

「え? ベガに旅行中。今日は天川が誘ってくれたから、わざわざこっちに戻ったんだよ」

 そう言いながら、四杯目のビールを飲み干す清田。相変わらず酒の量が凄い。

「旅行とかうらやましいなー……って、ベガ? 俺らが最初に攻略した塔があるところだよな」

 難波がふっとそんなことを言う。確かに天川が『ロック・バスター』を手に入れたのはベガにあった塔だ。
 あそこは塔を攻略するためだけに立ち寄ったが……観光地でもあったのか。

「いいところだよ、温泉とかあって」

「おっ、いいで御座るな、温泉で御座るか。羨ましいで御座るなぁ……拙者も行きたいで御座る」

「マール姫と、あの亜人族の少女と行くのか?」

 そう聞くと、ニコッと笑って頷く志村。そこに清田が、少しだけ面白そうに笑みを浮かべる。

「混浴あるよ」

「お、いいじゃねえか志村。ロリ二人と温泉」

「……まぁ、捕まったらちゃんと『いつかやると思っていました』とオレは証言するから」

「拙者のことを何だと思ってるんで御座るか!?」

 ガンッ、とグラスを勢いよく置いてツッコミを入れる志村。そんな彼に対して、待ってましたとばかりに皆が次々に口を開く。

「まぁまぁ、落ち着きなよロリコン」

「そうだぜ、ロリコン」

「そうだぞ、ロリコン」

「……えっと、まぁ志村。俺は信じてるから」

「天川殿が乗らないのが逆につらいで御座る!」

「そ、そうか。すまん、ロリコン」

「だからって言われたいわけじゃないで御座る!」

 なかなか難しい。

「混浴って言っても家族風呂だけどね。温泉に浸かりながら皆でお酒を飲むのは、良かったよ」

 言っていることが完全に飲兵衛な清田。果たして煙で肺をやられるのが先か、酒で肝臓をやられるのが先か。
 なんだかんだ、のらりくらりとやっていきそうでもあるが。

「……って、待て。家族風呂で混浴……皆? 妙だな」

「井川、何が妙なんだ?」

「いや……『皆』で、『混浴』って。清田、お前まさか……とうとう」

 井川がそこまで言った瞬間、難波、志村の目の色が変わる。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい清田さん!?」

「へいへいへいへいへいへいへいへいへいへいへいへい京助殿ぉ!?」

「えっ……あっ、えっと……ねえねぇねぇねぇねぇねぇねぇ清田?」

「無理に乗らなくていいから、天川」

 清田はそう言ってニヤッと笑うと、店員さんが持ってきた肉を網の上に置いた。じゅうじゅうと肉の焼けるいい匂いがテーブルに上る。
 そしてタバコを思いっきり吸いこむと……天井に向かってぷはーっと煙を吐き出した。 

「バレちゃったなら仕方がないね。……そう、俺は全世界の男子の夢! 異世界に来てチートハーレムを達成したのだ!」

「「「「な、なんだってー!」」」」

 ババーン、と書き文字が表れそうなほどどや顔を決める清田。彼はそのままグラスのビールを呷ると、笑い出す。

「異世界に来てはや一年……俺はとうとうやり遂げたのさ。しかも超絶美人で可愛くって優しい女の子だけ! どう? 羨ましいでしょ」

 お酒がだいぶ回っているのか、普段の彼らしくない言動になる清田。彼女というか、仲間の女性たちのことをべた褒めするのはいつものことだが。 
 羨ましいだろ、と言う清田だが――

「羨ましいかって言われても、俺と井川はもう奥さんいるしなぁ……」

「おめでとう、今度からお前のあだ名は種馬だ」

「どうせ京助殿のことで御座るから、ハーレムになっても奥さんたちに手を出すのは数年後になりそうで御座るし」

「分かるわー」

「清田のヘタレっぷりは有名だからな」

 そう言って笑いあう志村達三人。
 だが――清田は焼けた肉を全部自分の皿に盛ると、不敵な笑みを浮かべた。待て、肉を全部持っていくんじゃない。

「いくら俺がヘタレでも……十八歳男子が我慢出来るとでも?」

「普通の十八歳男子ならそうで御座ろうが」

「お前は男性機能が不能なんだろ?」

「井川は俺のことを何だと思ってるんだ!」

「イ〇ポ」

 バキッ! と清田の右ストレートが井川の顎に決まる。ストレートな物言いは井川の長所だが、清田にこの手の冗談をかますとこうなるのは分かっていただろうに。

「でも清田、そうやって言うってことはキスくらい済ませたのかよ?」

「ファーストキス達成で御座るか。おめでとうで御座る、これで残るは天川殿と拙者だけで御座るな」

「待て、志村。俺がキスの一つもしたことが本当に無いと思っているのか?」

「真奈美が『天川の彼女たち、キスの一つもしてくれないって嘆いてる』って言ってたぞ」

 ぐうの音も出ない。見栄くらい張らせて欲しかった。

「というか、キスくらいで終わってると思われたら心外だね」

「手でもつないだか?」

「中学生じゃあるまいし」

「恋愛クソ雑魚男子がなんか言ってるで御座るな」

「黙れロリスキー」

「ロリコンより酷いで御座らんか!?」

 えらく自信満々な清田。

「じゃあ何したんだよー。あ、カルビ頼んでいい?」

「いいが、難波。お前はちゃんと野菜も食え」

「かてぇこと言うなよ、天川。ユラシルに耳に蛸が出来るほど言われてるんだから」

「蛸じゃなくて|胼胝(たこ)だ」

「なんで俺が誤字ったって分かるんだよ!」

「お前は分かりやすいからだ」 

 仕方が無いので、天川が網の上に野菜を乗せる。この茄子に似た野菜なんかは、たれをつけて食べると美味しいのだ。

「聞いて驚け! 俺は普通に童貞を卒業したんだよ!」

「へー、おめでと」

「良かったな。それならもうバ〇アグラは必要無いな」

「あ、そっちのタン塩焼けてるで御座るよ」

「おお、ありがとう」

「皆もっと驚くべきじゃない!?」

 バンッ! とテーブルを叩く清田。

「いやおめでとうって言ったじゃん、俺」

「普通の人間なら半年前にはその程度のことは通過してそうなものだが」

「井川殿、無関係な天川殿が傷ついているで御座る」

「いや、俺は気にしてないんだが……」

「そうだよ! 俺だけじゃなくて天川にも謝れ! 俺と同じで美人に囲まれてるのに、いまだに童貞を守り続けてるナイトだよ!?」

「そ、そうだな……すまん、天川」

「そうだった……悪かった、天川。お前は紳士だもんな」

「気にしてないって言ってるだろう!? というか、謝られると余計に辛いんだが!?」

 唐突なとばっちりに天川が驚くと、難波がポンと肩に手を置いた。

「いや……俺、知ってるぜ? お前が一人になれないって嘆いてたの」

「ま、まぁ確かに……その、呼心や桔梗、ティアー王女が必ず部屋にいるが」

「ヌけなくてキツいって意味だろ?」

「違う違うそうじゃ、そうじゃない!」

 何故か視界の端で右手を左肩に、左手をお腹の辺りに当てるポーズをする志村と清田。志村に至っては何故かサングラスまでかけている。どこから出した?

「安心しろって! アンタレスにめっちゃ口の堅い娼婦しかいねぇ娼館があるらしいんだよ! 今度清田の金で行こうぜ?」

「いや何で俺の金?」

「え? なんかハーレム作って調子にのってたから!」

 ドストレートなことを言う難波。志村とか清田みたいだな、その発言。

「調子にくらい乗らせてよ。後、アンタレスのその娼館……貴族がお忍びで使ったりするからアホみたいに高いよ?」

「……どれくらいなんだ?」

「井川も興味あるんだ」

「いやオレには真奈美がいるから興味は無いが、参考のために」

「なんの参考にするのさ。だいたい大金貨三十枚から六十枚が相場。しかも紹介が無いと入れないよ」

 大金貨は一枚が日本円で一万円くらい。ということはつまり、完全紹介制で三十万円から六十万円ほどの風俗ということか。
 というか、何でそんなに詳しいのか。

「AGって職業柄ね、そういう所の話題ってよく出るんだ。ギルドにいると自然と情報が集まってくる」

 自然体でそう言いながらビールを呷る清田。AGは荒くれが多いと聞くし、そういうお店の話題で持ち切りなんだろうか。

「な、なぁ清田……! ど、どんなサービスが受けられる……んだ!?」

 既婚者とは思えないほどの前のめりっぷりな難波。そんな彼を見て、若干清田も引いている。

「詳しくは知らないけど……高いのはセキュリティとかが理由だと思うから、サービスは普通なんじゃない?」

「六十万円の風俗……清田くらい金持ちじゃないと行けないな」

「いや行かないから。冬子たちより綺麗な女の人なんてこの世に存在しないし」

 相変わらずの嫁自慢。天川達も慣れたもので、その点に関してはスルーする。
 スルーするが……。

「すみません、ビールをもう一杯」

 天川は店員さんにそう注文をしてから、自分の持っていたグラスを空にする。ほどなくして持ってこられたビールを一気に飲み干し、ダン! とテーブルに置いた。

「あれ、天川殿。酔ってるで御座る?」

「……清田ぁ! ……見損なったぞっ、ハーレムを作るなんて!」 

「え? 今更? このタイミングで?」  

「皆が盛り上がり過ぎて口を挟めなかっただけだ! ハーレムなんて……ハーレムなんてダメだろ!」

 あまり大きな音を出さないように、テーブルをそっと叩く。そしてビールのお代わりを頼んでから、清田を睨みつけた。

「なんでダメなのさ! 俺が皆を大好きって言って何が悪い!」

「別に好きって言うのはいい! だが……だからって! ハーレムなんて男本位過ぎるだろう!」

「ビール、お待たせいたしましたー。あと、追加のタン塩とカルビ、リブロースです」

「ありがとうございますー……そもそも! お前の独りよがりで決めたんじゃないのか!」

「空いてるお皿さげますねー」

「あ、どうもー……俺の独りよがり? 馬鹿言わないでよ。冬子たちと俺はちゃんと話し合って決めたんだ!」

 店員さんがさっとお皿を片付けて、テーブルを軽く拭いて去っていく。天川はそれを見届けてから、清田に指を突き付けた。

「お前が言うならそうなのかもしれないが……しかし! ほんの少し前まで『恋とか分からない』とか言っていただろ! 本当に相手の全部を知って愛せてるのか!」

「冬子たちの愛しいところなんか、二時間でも三時間でも言えるさ! そっちこそ、自分が好かれてるかもーなんて言っておいて、皆のこと分かってて褒められるの!?」

「あ、当たり前だろう!」

 天川と清田は、そっと立ち上がる。

「呼心は常に俺のことを引っ張ってくれる!」

「冬子は常に俺に張り合ってぶつかってくれる!」

「ティアー王女は掴みどころは無いが、後方から冷静に俺たちのことを支えてくれる!」

「リャンは生真面目で、人前で必ず俺を立ててくれる!」

「桔梗は俺のことを優しく包んでくれる!」

「シュリーはいつも笑顔で、俺が理解できるように諭してくれる!」

 二人ともぐびぐびとビールを飲み干し、ダンと机に置く。

「……おっと、二人ともだいぶ酔ってるで御座るな?」

「なぁ、これ喧嘩? 止めた方がいい?」

「ほっとけ。二人とも、自分の好きな子を自慢出来て楽しそうだろ?」

「えっ? ……あー、ほんとだ。二人とも若干目は据わってるけど、楽しそうだな」

「にしても天川殿、結構酔うんで御座るなぁ。京助殿はペースが速かったから、こうなるのも仕方ないで御座るが」

「天川は弱いわけじゃないんだが……一定の量を越えると、一気に酔うんだよな」

 ひそひそと話している三人だが、今は取り合えずスルー。清田の目を見る。

「ラノールさんは誰より頼りになる!」

「マリルは細かいところまで常に気にしてくれる!」

「ヘリアラスさんは、言いにくいことでもちゃんと俺に伝えてくれる!」

「美沙は凄く真っすぐで、一生懸命!」

 そして清田はそこまで言うと――ニヤッと笑った。

「俺は好きだから、全員を幸せにするって決めたんだよ。……天川もそんなに好きなら、全員幸せにすればいいじゃ――」

「お待たせしましたー。ビールとカッシオーランジですー」

「――あ、ビールは俺です」

「カッシオーランジはこっちで御座る」

 お酒を受け取って、その場で飲み干す清田。

「って、待て! そのビールは俺のじゃないか!?」

「別にいじゃん、新しいの頼むからさ! お代わり!」

 そう言った清田は空いたグラスを店員さんに渡して、新しいビールを注文する。

「かしこまりました。……あの、店内であまり大きな声は出さないでいただけると……。その、『流星』のキョースケさんと『勇者』のアキラさんは有名人なので……」

「「あ、すみません」」

 申し訳なさそうに言う店員さんに、天川と清田は軽く頭を下げる。

「ではごゆっくり」

 清田はテーブルに座り直すと、ちょっと声のトーンを落として薄い笑みを浮かべた。

「シンプルだよ、考え方は。俺は皆が大好き。だから、全員幸せにする。――お前は違うの?」

 確かに、清田の言葉は非常にシンプルだ。しかしシンプルが故に――ずしんと来る重みがある。
 口調は軽い。なのに、重みを感じる。それはきっと、彼の背負う責任や覚悟からくるものだろう。
 その姿に、天川は一瞬言葉に詰まった。

「清田にしては、結構強い口調だったな」

「彼女が出来てテンションが上がってるんで御座ろうか」

「届いた肉焼くぞ」

 新しく注文した肉を金網に置いていく井川。彼は焼肉のたれを天川の小皿に注ぎ、一つため息をついた。

「天川。オレもハーレムはどうかと思う、って結論に関しては同意するんだが……」

「だが?」

「真奈美から聞いたんだが……お前、『全員笑顔にする』って啖呵切ったらしいな」

「い、言ったが……それがどうかしたか?」

「いや、自分の好きな相手すら幸せに出来ない奴が……どうやって『全員』幸せにするのかと思ってな」

「な――」

「つか天川。お前あれじゃん? 現状、清田に負けてんじゃね?」

 金網から焦げた肉を避けながら、難波がそんなことを言い出す。

「ま、負け? 俺が今、いったいいつ負けたって言うんだ」

「だってそうじゃん。負けって言うとアレだけどよ。清田は出来たんだろ? なら、お前に出来ないってことなさそうじゃん。皆幸せにすること」

「な――そ、それとこれとは話が別だろう!? 第一、笑顔にするために、相手の気持ちを裏切って良いわけが無い! 後で笑顔にするからって、今悲しませていいわけが無い!」

「真奈美から聞いたんだが、お前追花に『天川君が皆のために戦ったら、私は笑顔じゃいられない』って言われた時に『それでも戦わなくちゃならない。今お前が泣く分、それ以上の笑顔を必ず君に届けて見せる』とか言って戦いに行ったんだろ?」

「あれ? それじゃ、今の発言と矛盾してね?」

「そうで御座るな。追花殿の気持ちを無視してでも、皆のために戦った。それが、追花殿を『今』笑顔にすることよりも必要だと思ったからで御座ろう?」

「そして後からそれ以上の笑顔にすることで帳消し、と。……さ、天川。今俺に言った啖呵をもう一回言ってみて?」

 にっこりと笑う清田――

「置き論破なんて、天川は随分とレスバの経験が豊富なようで」

「――で、出来るさ! ああいいだろう、やってやるよ!」

「じゃあやってもらおうかで御座るか。京助殿と同じ人数のハーレムを」

「えっ、同じ人数でハーレムを!?」

 わけのわからないことを言い出す志村。
 バンッ! とテーブルを叩いて立ち上がる。ここまでコケにされて黙っていられない。
 しかし清田は余裕の笑みのままだ。

「いやいや、天川。無理しないで良いって。そうだよね、天川じゃ自分のことを好きな女の子を『全員』幸せにする自信なんて無いんでしょ?」

「出来るって言ってるんだ! 俺がこの手で、全員を幸せに!」

「はー。さっきあんな『不誠実』とか言ってた天川さんがそんな外道なことを言うなんて。いやいや、いいんすよ天川さん。別に……ねぇ?」

「いーや! やってやる! 俺が、この手で! 俺に惚れた女の子、全員を幸せにしてやる! 今まで俺のことを好きになってくれた子も! これから俺のことを好きになってくれる子も! 全員、全員だ!」

「無理だね、天川には」

「やってやるって言ってるだろ!」

 清田は立ち上がり、天川の首に指をあててきた。頸動脈の位置だ。

「俺は冬子を、リャンを、シュリーを、マリルを、美沙を幸せにする。五人だ――でも、その覚悟はできている」

 バシッ! と清田の手を払う。

「俺だってそうだ! 呼心を、桔梗を、ティアー王女を、ラノールさんを、ついでにヘリアラスさんも! なんとしてでも――俺が、幸せにしてみせる!」

「吐いた唾呑まないでよ?」

「ふん、吠え面をかかせてやる!」

 このニヤケ面を一度は崩してやらないと我慢ならない。
 天川は、堂々と清田に宣言するのであった。



「あのー……お客様……で、出来ればもう少し静かにしていただけると……」

「「あ、はい。すみません……」」

 そっと二人で席に座り、注文していた肉が全部食われていたので難波たちをぶっ飛ばすのであった。
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