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第十二章 混迷なう
297話 類は友をなう
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夕方――。
この時間でも、あまり涼しくない。全体的に気温の上がる年というのは本当らしいね。
「あ、お帰りー。じゃあほら、キスしてー」
部屋に戻るなり、抱き着いてくる美沙。俺はタコ口になっている彼女を押し退けつつ、座椅子に腰掛ける。
美沙は俺に前から抱き着くように座り、シュリーがお茶を淹れてくれた。
「お疲れ様デス。さっきからずっとキョースケさん成分が足りないと喚いているので、キスしてあげてくださいデス」
「京助君ニウムが足りない!」
「せめてア○トニウムかムス○ニウムくらい語感良くしてから言ってくれない?」
俺はお茶を飲んでから、活力煙を咥える。火を点けようとしたところで、マリルから活力煙を奪われる、
ついでに唇も奪われた。
「……キョウ君? 吸いたいなら、ちゃんと喫煙所に行ってくださいー。口寂しいなら、キスしてあげますからー」
「じゃあ京助君、私もー」
そう言って美沙から今度は唇を甘噛みされる。カプカプと数秒味わったかと思うと、今度は舌を入れてきた。じっくり、三十秒ほど俺と唾液の交換をした美沙は、満足気に俺から離れた。
「ぷはぁ」
可愛い。
「ごちそうさまー。キョーニウムの補充完了!」
多少語感が良くなった。いや良くなったか?
美沙は満足したのか俺の上から降りてくれたので、俺は座椅子のせもたれに思いっきり体重をかけて天井を眺める。
「それにしてもダーリン、遅かったですね。トーコはどうしたんですか?」
そんな俺に上からキスしてくるリャン。なんだろう、全員とキスするまで終わらない流れなのかな?
「あ、いいね。今度から家に帰ってきたら全員にお帰りなさいのキスをしよう」
なんでそんなバカップルみたいなことをせねばならないのか。
「まだウルティマと修行してるよ。どうも彼女に気に入られたらしい」
「らしいって……一緒にいたんじゃないんですかー?」
「ティーゾっていう人もついでに来てね。俺はそっちと修行してた」
彼は本当にこっちに来たのはついでだったらしく、明日すぐ発つんだそうだ。なんでも、とある獣人族を追っているそうで。
(獣人族がキナ臭いってタローも言ってたし……何か関係あるのかな)
冬子が戻って来ていたらこの件についても連携したかったのだけど、仕方ない。すぐにリャンと行かないといけないし。
「ぷはっ、おー、綺麗にキスマークついた」
いつの間にか俺の首筋に吸い付いていた美沙がそんなことを言う。鏡が手元にないので見れないけど……まぁ、別にいいか。
「っていうか、ミサちゃん。キョウ君はまだ人と会うんですから、キスマークをつけたらダメですよー。つけるなら、バレないところにですよ」
「はーい」
出来ればつけないで欲しいのだが。
タローが紹介してくれる予定の人……ハシン? が着いたら、呼びに来てくれるらしい。それまで少し暇だ。
「あ、じゃあ暇なら京助君。私と新技の特訓に付き合ってよ」
「新技?」
「そそ。ほら、この前戦ってみて分かったんだよね。うちのチームって敵の攻撃を引き受ける人いないなーって」
美沙の台詞に、俺は苦笑しながら頷く。
盾役がいない――前からうちのパーティーの問題点として、俺も考えていた部分だ。
ソードスコルパイダーと戦った時は俺と冬子で交互に入れ替わりながら攻撃を受けていたけど――
「ぶっちゃけ、冬子ちゃんも京助君も、盾役って感じの能力してないよね」
「パリィを駆使した盾役というのは、出来なくはないですが……正直、トーコとダーリンの攻撃力をそこに回すと非効率的であることは否めませんね」
「そこで、私の出番! 要するにベルゲルミルを盾にして、敵の攻撃を引き付けるってだけなんだけどさ」
ベルゲルミル……確か、彼女が不得手な近接戦闘を補助するために出す氷の人形。というかぶっちゃけスタ○ド。
「いや、あれじゃ無理でしょ」
「ヨホホ、ところがどっこいデス。この前の戦いでは、しっかりスカルティラノの攻撃を受け止めてくれてたデスよ」
「……マジで?」
「はいデス。なんか三十メートルくらい巨大化してたデス」
ええ……。
「そんなこと出来たんだ」
「うん。便利でしょ?」
いわゆるゴーレム的なものを出すことで敵の攻撃を止めるチームは、無いわけじゃない。
盾が非生物であることの有用性も効率も、説明するまでも無いだろう。
「……ちなみに、皆の感想は?」
「見事でしたよ」
「ヨホホ、ミサちゃんのアレが無ければ危なかったデス」
二人がそう言うなら、そうなんだろう。
美沙はちょっとだけ目を虚ろにして、俺の手を握る。
「ねぇ、京助君。強い私の方が……好き?」
「美沙が美沙であれば、強かろうが弱かろうが俺は愛し続けるよ。ただ、強い方が嬉しいっちゃ嬉しいかな」
「……えへへ」
スリスリと俺の手に頬ずりする美沙。いまだに、彼女の感情の起伏が良く分からない。
「俺もどうせ、三種の強化エンチャントは改良するつもりだったんだ。キアラに聞きながら、話をつめていこう。ってわけで、キアラ?」
「なんぢゃ!」
スパァン! と押し入れの引き戸を勢いよくあけて登場するキアラ。聞くところによると、昨夜もここに入っていたとか。
……いや確かに物騒なド○えもんって立ち位置だけど、寝るところまで一緒にしなくても。
「それで、お主はエンチャントの強化。ミサは……話の流れで言うなら、ベルゲルミルの強化かのぅ」
「そうそう。あと、京助君を骨抜きにするエッチのテクも教えてください!」
「良かろう。ではまず――」
「いや先に魔法の方をやろう!?」
カパッと口を開いて何かを掴む動作をするキアラ。そういうのは夜にやって欲しい。いや夜でも俺の前ではやらないで欲しいけども。
「あ、というか魔法ならワタシも色々と訊きたいことがあるデス」
「じゃあその間に、私はちょっとお買い物行って来ますねー。ピアちゃん、ついてきてもらえますかー?」
「ええ。何を買われるので?」
「この宿って朝と晩しかご飯出ないのでー、明日のお昼ですねー」
「ああ、了解です」
というわけで、魔法師組で魔法についてもろもろ考察しているところで……俺のケータイが鳴った。
パッと手に取ると……相手は志村だ。
「もしもし、志村?」
『もしもし、京助。……出来たぞ』
「やっと? ……待ちくたびれちゃったよ」
志村の第一声に、俺はニヤッとほくそ笑んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
というわけで、あれから少し時間が経ってタローの部屋。俺とリャンは、苦い顔をしているタローの前に座っていた。
「……すまないな。どうも、ハシンがこっちでナンパした女性が人妻だったらしくてな……刃傷沙汰になって、もう少しかかるんだそうだ……」
「……類は友を呼ぶ?」
「私は美人に声をかけることはあれど、他人の女性に手を出すような真似はしない! あいつと一緒にしないでくれ!」
初対面で俺のチームメイトを全力で口説いていたのを俺は忘れない。
「あの時はまだ、君らは付き合っても無かっただろう。……付き合うと言えば、どうだねミスピア。ミスター京助と恋人となってみて」
「そうですね。正直、今すぐにでも抱き着いてキスをしたいです」
「ふっ、愛されているな」
いつも通りニヒルな笑みを浮かべるタロー。昼間、ウルティマ相手にタジタジになっていた男と同一人物とは思えない。
タローは少し座りなおして、一つ息を吐く。
「私の家もこんなワフウ? にしてみてもいいかもしれんな。家を買ってから、インテリアのイメージが固まらなかったんだ。せっかくだし、ちょうどいいかもしれない」
「あれ、タローって家持ってたんだ」
何億円とか稼ぐSランカー様なんだから持っていても微塵も不思議じゃないけど……なんとなく、タローって渡り鳥のイメージがあったから。
「家くらいあるに決まっているだろう。ただ、君の言う通り……あまり寄り付かないからな。家財道具は最低限しか置いていないんだ」
「へぇ……意外。そういうの拘りそうなのに」
「そして連れ込んだ女性にいちいち説明しそうですよね」
リャンがそう言って冷笑すると、タローは苦笑して肩をすくめる。
「私を何だと思っているんだ。そういうのは別荘でやっているよ。自宅にはごく親しい人物しか入れたことは無いからね」
別荘でやってるならイメージ通りじゃん。
「別荘にも女の子住まわせておいて、現地妻として扱ってそう」
「管理を任せている女性はいるな。とはいえ、ちゃんと正当な報酬は出している」
「……でも手は出すんでしょ?」
「当たり前だろう?」
当たり前じゃないと思う。
目の前のプレイボーイにため息をついて、俺はテーブルに肘をつく。
「タローもそろそろ身を固めたら?」
「……たった一晩でまさか既婚マウントを取ってくるようになるとはな」
別に既婚マウントでは無いのだけど。
横にいるリャンがちょっと嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせている。
「前も言ったが、私は博愛主義なんだ。誰か一人に決めてしまえば、多くの女性が悲しむだろう?」
「全員と結婚したら?」
「ダメだねー、タローの恋人(笑)って三桁単位でいるじゃん? さすがのタローもそんなん無理だよ~」
ガラッ、とタローの部屋の戸が開いて……黒髪の男が入ってきた。銀色のピアスとネックレスをしており……ネックレスの宝石部分は、禍々しい色の勾玉が下がっている。
糸目なせいで分かりづらいが……目の色はやや青みがかった黒。にやけた笑みを浮かべている口元は、笑っているのに表情が読めない。
……なんだ、こいつ。
「おっ、マジで可愛いじゃーん! ねぇねぇ、どこ住み? 今日暇? ってかさ、今夜ぼくの部屋こない?」
バッ! とリャンの手を取るその男。俺は間髪入れずぶん殴り、壁に減り込ませる。
ズズン! と宿が揺れるような衝撃。糸目男は、壁に埋まったまま頬をさすった。
「痛いなぁ……。ぼくじゃなきゃ死んでたよ、今の」
赤くなった頬を押さえたまま、その男は壁から抜け出る。手応えが浅い――自分で後ろに飛んで威力を殺したか。いや、それにしても手応えが無さ過ぎるね。
彼は俺の方へ距離を詰めると、ニヤーっとヘラヘラした笑みを浮かべた。
「ああ、君が京助ちゃんだよね。うーん、キスマークをつけてるとか、アピール凄いなぁ。ま、でも女の子側からしたら死活問題だよねぇ。だってぼくらみたいに、手あたり次第女の子に手を出しちゃうかもしれないしね」
今度は、リャンが高速で動いてその男をぶん殴った。しかしその瞬間、ボン! と彼の身体が煙を出して霧散。いつの間にか、リャンの背後に彼が立っている。
「……マスターを、あなた方と一緒にしないでください」
「冗談、冗談。ってか、君も容赦ないねぇ……殺気が籠ってたせいで、ついつい使っちゃった」
使った? 職スキルか?
魔法の気配を感じなかったので俺がそう思っていると――タローがその男の頭を後ろからペシンと叩いた。
「ハシン、ミスター京助に冗談は通じない。いつも通り手あたり次第声をかけていたら、痛い目じゃすまないぞ」
「いや、これもうぼく痛い目にあってるよね。ちょっと女の子にちょっかいかけただけなのにさー」
「足らんだろう?」
「十分でしょ!? ぼくじゃなかったら死んでるよ!?」
「君がそのくらいで死ぬか。まったく……人様の女性にばかり手を出すからこうなるんだ」
「いひゃいいひゃい、別にいいじゃん、可愛いんだし。それに、ぼくはタローと違って本気にさせるようなヘマはしないし?」
「本気でも何でもないのに誰にでも手を出すのが問題だと言っているんだ! まったく、私はすべての女性に誠実に対応している!」
俺が言えたことじゃないけれど、タローは誠実って言葉の意味をはき違えていると思う。
「マスター、もう帰りたいです」
「俺も。……ねぇ、タロー。その人がハシン……リャンに新しく技術を教えてくれる人ってことで良いの?」
「む? おっと、そうだった。……ハシン、はやく名乗りたまえ」
タローは言い争いを止めて、ハシンにクイッと顎で指図する。
「はいはい、ぼくはハシン・サイゾウ・ミストハイド。この髪色で分かるかもしれないけど、タローと同じ――異世界人の子孫だよ」
「――――っ!?」
もうここ二日間で驚くことが多すぎて、驚き疲れてきた。
「ま、ぼくの場合は父親じゃなくて祖父が異世界人だったんだけどね」
「じゃあ……異世界人の孫、ってこと?」
「そういうことだねぇ。ちなみに、ぼくは何の仕事をしていると思う?」
何のって……。
事務方の人間や、商会勤めには見えない。それにしてはあまりに格好がチャラけている。
であれば、戦闘職か……と言うと、これが『分からない』。目の前にいるこのハシンという男……強さが分からない。
そう、強いとか弱いとかが見えてこないのだ。
事務方の人間……マリルみたいな人は、そもそも強さの『圧』を感じない。一方で、Dランカーだろうと暴力の世界に身を置く人間であれば、相応の『圧』を感じるのだ。
しかし……この目の前にいる男。その『圧』が分からない。
感じるようで、感じない。感じないようで、感じる。
気配を消しているような感じも無い。とにかく、分からないのだ。
「……騎士、とか?」
あてずっぽうで、一番あり得なそうなことを言ってみる。するとハシンは目をパッと開いて、楽しそうに笑みを作った。
今度は、ちゃんと笑っている。
「凄い! 正解! もしかして、タローに聞いてた?」
「いや、私は言ってない。驚いたな、ミスター京助。まさか彼を知っていたのか?」
「いや、知らないけど……。え、騎士? マジで?」
どこからどう見ても騎士要素とか無いと思うんだけど……。
俺がリャンの方を見ると、彼女も驚いたのか尻尾をピンと立てていた。彼女もやっぱり想像外だったようだ。
「今、王都の騎士団上層部はゴタゴタしててねぇ。ぼくはそういうの嫌いだったから逃げてきたんだ」
上層部のゴタゴタに巻き込まれる立場なのか……。
「それはそうだろう。何せ|三人しかいない騎士団長の一人(・・・・・・・・・・・・・・)なんだからな」
「「え」」
タローの言葉に、俺とリャンは同時に驚く。
三人しかいない、騎士団長の一人……ってことは。
「第三騎士団の団長!?」
「そうだよー。あ、でも慣例に従って……ぼくのことは団長じゃなくて頭領って呼んでね? そっちの方が、団長よりカッコいいしさ」
第一騎士団の騎士団長は、団長。第二騎士団は長官、そして第三騎士団は……頭領なのか。
確か、第三騎士団は『武装新聞屋』なんて揶揄される情報収集機関。その実態は、『|執行官(リブラ)』なんていう物騒な諜報機関を作った組織の一つ。
そんなところのトップか……
「倫理観ぶっ飛んでそう」
「ねぇタロー、この子超失礼」
「君ほどじゃ無いだろう」
「それもそっか」
納得するのか。
ラノールは当然、Sランク並みの実力者だったし、シロークもAランク以上の実力はあると聞く。それが団長だ、目の前にいる彼も相応の実力者なのだろう。
「じゃ、本題に入ろうか。タローから『爆刺』を教わったのは……ピアちゃんでいいんだよね?」
初めて聞く名前だが、何となく想像がつく。彼女が使う一刺しで敵を弾けさせる技のことだろう。
リャンがうなずくと、ハシンはタローの方を振り返った。
「どれくらいで出来た?」
「一月で形にはなっていた。マスターしたと言えるのは、三か月ほどかな」
「はやっ。それならすぐに出来るようになるかもね、忍術」
………………。
今、忍術って言った?
「えーっと……え? ハシン、忍術って言った?」
じゃあさっき俺が殴った時に躱したアレは――
「もしかして……分身の術とか、変わり身の術なの?」
「え、凄い凄い! よく知ってるね。そうだよ、アレは『変わり身の術』。ぼくがおじいさんから受け継いだ技術。『職』を使えず、『魔力』も持たない人間でも、強くなれる凄い技さ」
そう言いながら、二人に増えるハシン。
……いやいきなり増えるな。
「ちなみにこっちが『分身の術』ね」
「見たら分かる。いやそうじゃなくて」
情報量が多すぎて、一度俺の脳がフリーズする。
まず目の前にいるこの男は、異世界人の孫。そして、第三騎士団の棟梁。
彼の用いる技術は『忍術』で、その『忍術』は祖父から受け継いだもの。その技術は『職』も『魔力』も用いずに……俺を欺く変わり身を使える技術。
何それ。
「………………どういう、こと?」
中途半端に現実世界の忍術を知っているせいか、目の前で起きる意味不明な現象が理解出来ない。
……実際に増える忍術って何!? 確かに魔力は感じない。どっちかって言うと、『職エネルギー』に近い物を感じる。でも今、『職』は使えないって言ったよね。
なんなんだ……。
「その前に、ピアちゃんって魔力ある?」
「いえ」
俺が大混乱している横で、ハシンがリャンに説明を開始した。
「じゃあ『職』はある?」
「いえ」
「了解了解。じゃあ最後に……これ、分かる?」
そう言って、ハシンは黄色いエネルギーを身にまとう。それは俺も知っている、リャンも使える技術。
『魂』だ。
「……ええ」
頷くリャンに対し、ニコッとほほ笑むハシン。
「分かるんなら話が速いね。じゃあ京助ちゃん、彼女借りて良い? 後継者不足で困ってたんだ」
後継者不足って……。
「普通にお子さん作って教えればいいんじゃない?」
「忍術を使えるのって、『職』と魔力が無い人だけなんだよね。人族はぼくの血筋以外だと基本的に『職』が発現しちゃうし……。さすがに亜人族に忍術教えるわけにはいかないしねぇ」
彼女の耳としっぽが見えないのだろうか。
俺は彼女の耳をモフモフして、ちょっとアピールしてみる。
「いやアピールしなくても彼女が亜人族なのは分かってるよ。……タローから、旦那さんのことが大好きで絶対に裏切らないって聞いてるんだけど……違う?」
「私はマスターの妻であり従者です。この身も心も全て捧げています。そんな私がマスターを裏切るなんて、天地がひっくり返ってもありえません」
背筋を伸ばし、しっかりとハシンの目を見て答えるリャン。目を見ると言うか、思いっきり睨みつけているけど……ハシンは、頼もしそうに笑っている。
「で、京助ちゃんは人族を裏切る気、ある?」
「そっちが俺にとって不利益なことをしなければ、特に敵対する意思は無いかな」
「ならOK。どのみち、忍術を絶やさないためにも弟子ってのはたくさん必要だからね。判断基準はただ一つ、人族に弓を引かないかどうかだ」
リャンはハシンの目を見て、すっと胸に手を当てた。
「誓いましょう。マスターが人族についている限りは、私はこの技術を他の獣人族に、みだりに広めたりはしません。なので、お願いします。是非私に、ニンジュツを教えてください」
「うーん……いい奥さん貰ったねぇ、京助ちゃん。ねぇねぇ、今夜一晩貸してくれない? 手取り足取り教えちゃうから――」
ズガン! とハシンの横――壁にリャンのナイフがぶっ刺さる。
「ただ、セクハラには毅然とした態度を取らせていただきますので。マスターに泣きつくことも辞しません」
「…………やっぱこの子怖いよ、タロー」
ちょっと涙目になるハシン。
……大丈夫かな、この人で。
この時間でも、あまり涼しくない。全体的に気温の上がる年というのは本当らしいね。
「あ、お帰りー。じゃあほら、キスしてー」
部屋に戻るなり、抱き着いてくる美沙。俺はタコ口になっている彼女を押し退けつつ、座椅子に腰掛ける。
美沙は俺に前から抱き着くように座り、シュリーがお茶を淹れてくれた。
「お疲れ様デス。さっきからずっとキョースケさん成分が足りないと喚いているので、キスしてあげてくださいデス」
「京助君ニウムが足りない!」
「せめてア○トニウムかムス○ニウムくらい語感良くしてから言ってくれない?」
俺はお茶を飲んでから、活力煙を咥える。火を点けようとしたところで、マリルから活力煙を奪われる、
ついでに唇も奪われた。
「……キョウ君? 吸いたいなら、ちゃんと喫煙所に行ってくださいー。口寂しいなら、キスしてあげますからー」
「じゃあ京助君、私もー」
そう言って美沙から今度は唇を甘噛みされる。カプカプと数秒味わったかと思うと、今度は舌を入れてきた。じっくり、三十秒ほど俺と唾液の交換をした美沙は、満足気に俺から離れた。
「ぷはぁ」
可愛い。
「ごちそうさまー。キョーニウムの補充完了!」
多少語感が良くなった。いや良くなったか?
美沙は満足したのか俺の上から降りてくれたので、俺は座椅子のせもたれに思いっきり体重をかけて天井を眺める。
「それにしてもダーリン、遅かったですね。トーコはどうしたんですか?」
そんな俺に上からキスしてくるリャン。なんだろう、全員とキスするまで終わらない流れなのかな?
「あ、いいね。今度から家に帰ってきたら全員にお帰りなさいのキスをしよう」
なんでそんなバカップルみたいなことをせねばならないのか。
「まだウルティマと修行してるよ。どうも彼女に気に入られたらしい」
「らしいって……一緒にいたんじゃないんですかー?」
「ティーゾっていう人もついでに来てね。俺はそっちと修行してた」
彼は本当にこっちに来たのはついでだったらしく、明日すぐ発つんだそうだ。なんでも、とある獣人族を追っているそうで。
(獣人族がキナ臭いってタローも言ってたし……何か関係あるのかな)
冬子が戻って来ていたらこの件についても連携したかったのだけど、仕方ない。すぐにリャンと行かないといけないし。
「ぷはっ、おー、綺麗にキスマークついた」
いつの間にか俺の首筋に吸い付いていた美沙がそんなことを言う。鏡が手元にないので見れないけど……まぁ、別にいいか。
「っていうか、ミサちゃん。キョウ君はまだ人と会うんですから、キスマークをつけたらダメですよー。つけるなら、バレないところにですよ」
「はーい」
出来ればつけないで欲しいのだが。
タローが紹介してくれる予定の人……ハシン? が着いたら、呼びに来てくれるらしい。それまで少し暇だ。
「あ、じゃあ暇なら京助君。私と新技の特訓に付き合ってよ」
「新技?」
「そそ。ほら、この前戦ってみて分かったんだよね。うちのチームって敵の攻撃を引き受ける人いないなーって」
美沙の台詞に、俺は苦笑しながら頷く。
盾役がいない――前からうちのパーティーの問題点として、俺も考えていた部分だ。
ソードスコルパイダーと戦った時は俺と冬子で交互に入れ替わりながら攻撃を受けていたけど――
「ぶっちゃけ、冬子ちゃんも京助君も、盾役って感じの能力してないよね」
「パリィを駆使した盾役というのは、出来なくはないですが……正直、トーコとダーリンの攻撃力をそこに回すと非効率的であることは否めませんね」
「そこで、私の出番! 要するにベルゲルミルを盾にして、敵の攻撃を引き付けるってだけなんだけどさ」
ベルゲルミル……確か、彼女が不得手な近接戦闘を補助するために出す氷の人形。というかぶっちゃけスタ○ド。
「いや、あれじゃ無理でしょ」
「ヨホホ、ところがどっこいデス。この前の戦いでは、しっかりスカルティラノの攻撃を受け止めてくれてたデスよ」
「……マジで?」
「はいデス。なんか三十メートルくらい巨大化してたデス」
ええ……。
「そんなこと出来たんだ」
「うん。便利でしょ?」
いわゆるゴーレム的なものを出すことで敵の攻撃を止めるチームは、無いわけじゃない。
盾が非生物であることの有用性も効率も、説明するまでも無いだろう。
「……ちなみに、皆の感想は?」
「見事でしたよ」
「ヨホホ、ミサちゃんのアレが無ければ危なかったデス」
二人がそう言うなら、そうなんだろう。
美沙はちょっとだけ目を虚ろにして、俺の手を握る。
「ねぇ、京助君。強い私の方が……好き?」
「美沙が美沙であれば、強かろうが弱かろうが俺は愛し続けるよ。ただ、強い方が嬉しいっちゃ嬉しいかな」
「……えへへ」
スリスリと俺の手に頬ずりする美沙。いまだに、彼女の感情の起伏が良く分からない。
「俺もどうせ、三種の強化エンチャントは改良するつもりだったんだ。キアラに聞きながら、話をつめていこう。ってわけで、キアラ?」
「なんぢゃ!」
スパァン! と押し入れの引き戸を勢いよくあけて登場するキアラ。聞くところによると、昨夜もここに入っていたとか。
……いや確かに物騒なド○えもんって立ち位置だけど、寝るところまで一緒にしなくても。
「それで、お主はエンチャントの強化。ミサは……話の流れで言うなら、ベルゲルミルの強化かのぅ」
「そうそう。あと、京助君を骨抜きにするエッチのテクも教えてください!」
「良かろう。ではまず――」
「いや先に魔法の方をやろう!?」
カパッと口を開いて何かを掴む動作をするキアラ。そういうのは夜にやって欲しい。いや夜でも俺の前ではやらないで欲しいけども。
「あ、というか魔法ならワタシも色々と訊きたいことがあるデス」
「じゃあその間に、私はちょっとお買い物行って来ますねー。ピアちゃん、ついてきてもらえますかー?」
「ええ。何を買われるので?」
「この宿って朝と晩しかご飯出ないのでー、明日のお昼ですねー」
「ああ、了解です」
というわけで、魔法師組で魔法についてもろもろ考察しているところで……俺のケータイが鳴った。
パッと手に取ると……相手は志村だ。
「もしもし、志村?」
『もしもし、京助。……出来たぞ』
「やっと? ……待ちくたびれちゃったよ」
志村の第一声に、俺はニヤッとほくそ笑んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
というわけで、あれから少し時間が経ってタローの部屋。俺とリャンは、苦い顔をしているタローの前に座っていた。
「……すまないな。どうも、ハシンがこっちでナンパした女性が人妻だったらしくてな……刃傷沙汰になって、もう少しかかるんだそうだ……」
「……類は友を呼ぶ?」
「私は美人に声をかけることはあれど、他人の女性に手を出すような真似はしない! あいつと一緒にしないでくれ!」
初対面で俺のチームメイトを全力で口説いていたのを俺は忘れない。
「あの時はまだ、君らは付き合っても無かっただろう。……付き合うと言えば、どうだねミスピア。ミスター京助と恋人となってみて」
「そうですね。正直、今すぐにでも抱き着いてキスをしたいです」
「ふっ、愛されているな」
いつも通りニヒルな笑みを浮かべるタロー。昼間、ウルティマ相手にタジタジになっていた男と同一人物とは思えない。
タローは少し座りなおして、一つ息を吐く。
「私の家もこんなワフウ? にしてみてもいいかもしれんな。家を買ってから、インテリアのイメージが固まらなかったんだ。せっかくだし、ちょうどいいかもしれない」
「あれ、タローって家持ってたんだ」
何億円とか稼ぐSランカー様なんだから持っていても微塵も不思議じゃないけど……なんとなく、タローって渡り鳥のイメージがあったから。
「家くらいあるに決まっているだろう。ただ、君の言う通り……あまり寄り付かないからな。家財道具は最低限しか置いていないんだ」
「へぇ……意外。そういうの拘りそうなのに」
「そして連れ込んだ女性にいちいち説明しそうですよね」
リャンがそう言って冷笑すると、タローは苦笑して肩をすくめる。
「私を何だと思っているんだ。そういうのは別荘でやっているよ。自宅にはごく親しい人物しか入れたことは無いからね」
別荘でやってるならイメージ通りじゃん。
「別荘にも女の子住まわせておいて、現地妻として扱ってそう」
「管理を任せている女性はいるな。とはいえ、ちゃんと正当な報酬は出している」
「……でも手は出すんでしょ?」
「当たり前だろう?」
当たり前じゃないと思う。
目の前のプレイボーイにため息をついて、俺はテーブルに肘をつく。
「タローもそろそろ身を固めたら?」
「……たった一晩でまさか既婚マウントを取ってくるようになるとはな」
別に既婚マウントでは無いのだけど。
横にいるリャンがちょっと嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせている。
「前も言ったが、私は博愛主義なんだ。誰か一人に決めてしまえば、多くの女性が悲しむだろう?」
「全員と結婚したら?」
「ダメだねー、タローの恋人(笑)って三桁単位でいるじゃん? さすがのタローもそんなん無理だよ~」
ガラッ、とタローの部屋の戸が開いて……黒髪の男が入ってきた。銀色のピアスとネックレスをしており……ネックレスの宝石部分は、禍々しい色の勾玉が下がっている。
糸目なせいで分かりづらいが……目の色はやや青みがかった黒。にやけた笑みを浮かべている口元は、笑っているのに表情が読めない。
……なんだ、こいつ。
「おっ、マジで可愛いじゃーん! ねぇねぇ、どこ住み? 今日暇? ってかさ、今夜ぼくの部屋こない?」
バッ! とリャンの手を取るその男。俺は間髪入れずぶん殴り、壁に減り込ませる。
ズズン! と宿が揺れるような衝撃。糸目男は、壁に埋まったまま頬をさすった。
「痛いなぁ……。ぼくじゃなきゃ死んでたよ、今の」
赤くなった頬を押さえたまま、その男は壁から抜け出る。手応えが浅い――自分で後ろに飛んで威力を殺したか。いや、それにしても手応えが無さ過ぎるね。
彼は俺の方へ距離を詰めると、ニヤーっとヘラヘラした笑みを浮かべた。
「ああ、君が京助ちゃんだよね。うーん、キスマークをつけてるとか、アピール凄いなぁ。ま、でも女の子側からしたら死活問題だよねぇ。だってぼくらみたいに、手あたり次第女の子に手を出しちゃうかもしれないしね」
今度は、リャンが高速で動いてその男をぶん殴った。しかしその瞬間、ボン! と彼の身体が煙を出して霧散。いつの間にか、リャンの背後に彼が立っている。
「……マスターを、あなた方と一緒にしないでください」
「冗談、冗談。ってか、君も容赦ないねぇ……殺気が籠ってたせいで、ついつい使っちゃった」
使った? 職スキルか?
魔法の気配を感じなかったので俺がそう思っていると――タローがその男の頭を後ろからペシンと叩いた。
「ハシン、ミスター京助に冗談は通じない。いつも通り手あたり次第声をかけていたら、痛い目じゃすまないぞ」
「いや、これもうぼく痛い目にあってるよね。ちょっと女の子にちょっかいかけただけなのにさー」
「足らんだろう?」
「十分でしょ!? ぼくじゃなかったら死んでるよ!?」
「君がそのくらいで死ぬか。まったく……人様の女性にばかり手を出すからこうなるんだ」
「いひゃいいひゃい、別にいいじゃん、可愛いんだし。それに、ぼくはタローと違って本気にさせるようなヘマはしないし?」
「本気でも何でもないのに誰にでも手を出すのが問題だと言っているんだ! まったく、私はすべての女性に誠実に対応している!」
俺が言えたことじゃないけれど、タローは誠実って言葉の意味をはき違えていると思う。
「マスター、もう帰りたいです」
「俺も。……ねぇ、タロー。その人がハシン……リャンに新しく技術を教えてくれる人ってことで良いの?」
「む? おっと、そうだった。……ハシン、はやく名乗りたまえ」
タローは言い争いを止めて、ハシンにクイッと顎で指図する。
「はいはい、ぼくはハシン・サイゾウ・ミストハイド。この髪色で分かるかもしれないけど、タローと同じ――異世界人の子孫だよ」
「――――っ!?」
もうここ二日間で驚くことが多すぎて、驚き疲れてきた。
「ま、ぼくの場合は父親じゃなくて祖父が異世界人だったんだけどね」
「じゃあ……異世界人の孫、ってこと?」
「そういうことだねぇ。ちなみに、ぼくは何の仕事をしていると思う?」
何のって……。
事務方の人間や、商会勤めには見えない。それにしてはあまりに格好がチャラけている。
であれば、戦闘職か……と言うと、これが『分からない』。目の前にいるこのハシンという男……強さが分からない。
そう、強いとか弱いとかが見えてこないのだ。
事務方の人間……マリルみたいな人は、そもそも強さの『圧』を感じない。一方で、Dランカーだろうと暴力の世界に身を置く人間であれば、相応の『圧』を感じるのだ。
しかし……この目の前にいる男。その『圧』が分からない。
感じるようで、感じない。感じないようで、感じる。
気配を消しているような感じも無い。とにかく、分からないのだ。
「……騎士、とか?」
あてずっぽうで、一番あり得なそうなことを言ってみる。するとハシンは目をパッと開いて、楽しそうに笑みを作った。
今度は、ちゃんと笑っている。
「凄い! 正解! もしかして、タローに聞いてた?」
「いや、私は言ってない。驚いたな、ミスター京助。まさか彼を知っていたのか?」
「いや、知らないけど……。え、騎士? マジで?」
どこからどう見ても騎士要素とか無いと思うんだけど……。
俺がリャンの方を見ると、彼女も驚いたのか尻尾をピンと立てていた。彼女もやっぱり想像外だったようだ。
「今、王都の騎士団上層部はゴタゴタしててねぇ。ぼくはそういうの嫌いだったから逃げてきたんだ」
上層部のゴタゴタに巻き込まれる立場なのか……。
「それはそうだろう。何せ|三人しかいない騎士団長の一人(・・・・・・・・・・・・・・)なんだからな」
「「え」」
タローの言葉に、俺とリャンは同時に驚く。
三人しかいない、騎士団長の一人……ってことは。
「第三騎士団の団長!?」
「そうだよー。あ、でも慣例に従って……ぼくのことは団長じゃなくて頭領って呼んでね? そっちの方が、団長よりカッコいいしさ」
第一騎士団の騎士団長は、団長。第二騎士団は長官、そして第三騎士団は……頭領なのか。
確か、第三騎士団は『武装新聞屋』なんて揶揄される情報収集機関。その実態は、『|執行官(リブラ)』なんていう物騒な諜報機関を作った組織の一つ。
そんなところのトップか……
「倫理観ぶっ飛んでそう」
「ねぇタロー、この子超失礼」
「君ほどじゃ無いだろう」
「それもそっか」
納得するのか。
ラノールは当然、Sランク並みの実力者だったし、シロークもAランク以上の実力はあると聞く。それが団長だ、目の前にいる彼も相応の実力者なのだろう。
「じゃ、本題に入ろうか。タローから『爆刺』を教わったのは……ピアちゃんでいいんだよね?」
初めて聞く名前だが、何となく想像がつく。彼女が使う一刺しで敵を弾けさせる技のことだろう。
リャンがうなずくと、ハシンはタローの方を振り返った。
「どれくらいで出来た?」
「一月で形にはなっていた。マスターしたと言えるのは、三か月ほどかな」
「はやっ。それならすぐに出来るようになるかもね、忍術」
………………。
今、忍術って言った?
「えーっと……え? ハシン、忍術って言った?」
じゃあさっき俺が殴った時に躱したアレは――
「もしかして……分身の術とか、変わり身の術なの?」
「え、凄い凄い! よく知ってるね。そうだよ、アレは『変わり身の術』。ぼくがおじいさんから受け継いだ技術。『職』を使えず、『魔力』も持たない人間でも、強くなれる凄い技さ」
そう言いながら、二人に増えるハシン。
……いやいきなり増えるな。
「ちなみにこっちが『分身の術』ね」
「見たら分かる。いやそうじゃなくて」
情報量が多すぎて、一度俺の脳がフリーズする。
まず目の前にいるこの男は、異世界人の孫。そして、第三騎士団の棟梁。
彼の用いる技術は『忍術』で、その『忍術』は祖父から受け継いだもの。その技術は『職』も『魔力』も用いずに……俺を欺く変わり身を使える技術。
何それ。
「………………どういう、こと?」
中途半端に現実世界の忍術を知っているせいか、目の前で起きる意味不明な現象が理解出来ない。
……実際に増える忍術って何!? 確かに魔力は感じない。どっちかって言うと、『職エネルギー』に近い物を感じる。でも今、『職』は使えないって言ったよね。
なんなんだ……。
「その前に、ピアちゃんって魔力ある?」
「いえ」
俺が大混乱している横で、ハシンがリャンに説明を開始した。
「じゃあ『職』はある?」
「いえ」
「了解了解。じゃあ最後に……これ、分かる?」
そう言って、ハシンは黄色いエネルギーを身にまとう。それは俺も知っている、リャンも使える技術。
『魂』だ。
「……ええ」
頷くリャンに対し、ニコッとほほ笑むハシン。
「分かるんなら話が速いね。じゃあ京助ちゃん、彼女借りて良い? 後継者不足で困ってたんだ」
後継者不足って……。
「普通にお子さん作って教えればいいんじゃない?」
「忍術を使えるのって、『職』と魔力が無い人だけなんだよね。人族はぼくの血筋以外だと基本的に『職』が発現しちゃうし……。さすがに亜人族に忍術教えるわけにはいかないしねぇ」
彼女の耳としっぽが見えないのだろうか。
俺は彼女の耳をモフモフして、ちょっとアピールしてみる。
「いやアピールしなくても彼女が亜人族なのは分かってるよ。……タローから、旦那さんのことが大好きで絶対に裏切らないって聞いてるんだけど……違う?」
「私はマスターの妻であり従者です。この身も心も全て捧げています。そんな私がマスターを裏切るなんて、天地がひっくり返ってもありえません」
背筋を伸ばし、しっかりとハシンの目を見て答えるリャン。目を見ると言うか、思いっきり睨みつけているけど……ハシンは、頼もしそうに笑っている。
「で、京助ちゃんは人族を裏切る気、ある?」
「そっちが俺にとって不利益なことをしなければ、特に敵対する意思は無いかな」
「ならOK。どのみち、忍術を絶やさないためにも弟子ってのはたくさん必要だからね。判断基準はただ一つ、人族に弓を引かないかどうかだ」
リャンはハシンの目を見て、すっと胸に手を当てた。
「誓いましょう。マスターが人族についている限りは、私はこの技術を他の獣人族に、みだりに広めたりはしません。なので、お願いします。是非私に、ニンジュツを教えてください」
「うーん……いい奥さん貰ったねぇ、京助ちゃん。ねぇねぇ、今夜一晩貸してくれない? 手取り足取り教えちゃうから――」
ズガン! とハシンの横――壁にリャンのナイフがぶっ刺さる。
「ただ、セクハラには毅然とした態度を取らせていただきますので。マスターに泣きつくことも辞しません」
「…………やっぱこの子怖いよ、タロー」
ちょっと涙目になるハシン。
……大丈夫かな、この人で。
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