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第十二章 混迷なう

296話 エンチャントなう

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 降り注ぐ溶岩。
 俺は咄嗟に水で障壁を張り、その攻撃を受け止める。

 じゅうううううううううううううう!!!!!

 視界がすべて水蒸気で埋まる。俺は風の結界で周囲を探りつつ、噴出した水蒸気を操ってティーゾに叩きつけた。

「フェフェフェ、流石は三属性使いズラ。良い感じズラ!」

「チッ!」

 振り上げられる斧。俺は肉体に風を纏って高速化し、ティーゾに斬りかかる。

「喧嘩って……いきなり何の用?」

「ジャックに言われたんズラ。『見どころのある若者がいるから、稽古をつけてやって欲しい』なんて言われたら、そりゃ来るしかないズラ」

 ガギイン! と無茶苦茶な腕力で吹っ飛ばされる。ジャックがわざわざ俺に――SランクAGの俺に『稽古を』と言うのだから、この爺さんはそうとうやるんだろう。
 空中で回転して着地、一つ息を吐いてからティーゾを睨む。

「んで、ケンの息子が目をかけてるって訊いたら……そりゃ興味津々になるのもしょうがないズラ。用もあったしついでズラ」

「ケンの……ああ、タローのお父さん」

 鋭い踏み込み、一瞬で俺の眼前まで来たティーゾの斧が振り下ろされる。それを左にステップして回避しようとしたら――俺の肉体が、溶岩で吹き飛ばされた。

「がはっ!」

 咄嗟に風でガードしたからダメージは少なかったが――熱い。風を貫通して熱が来るのか。
 しかも普通の炎と違って質量がある。溶岩って、なかなか厄介だね。

「今のを防ぐズラか」

「そりゃね」

 さらに追撃。右から振り上げられる斧と、真下、真上から襲い来る溶岩。槍で斧をいなし、水で溶岩を迎撃すると――今度は、真正面から岩弾が飛んでくる。
 槍で撃ち返し、そのままさらに踏み込んだ。槍でも斧でもない、拳の距離。俺は炎を纏ったパンチでティーゾをぶん殴る。
 ずざぁぁあああ……と十メートルほど吹っ飛ぶティーゾ。ペッと血を吐いてから、楽しそうに笑った。

「フェフェフェ、まぁおんしなら本気でいかんとマズいズラねぇ」

 ティーゾは地面に斧を振り下ろし――ドッ! と、全身から魔力が吹きあげる。するとその肉体に溶岩がまとわりついて行った。
 しかしその広がり方がまるで俺の使う三種のエンチャントのようで――

「『ラヴァ・エンチャント』」

 ぶわぁっっ!
 周囲の空気が膨張し、吹き荒れる。一気に温度が何十度も上がった――暑いというより熱い。

「――――――ッ!?」

 あまりの熱風に、思わず俺は腕で顔を庇う。そんな俺を見て、ティーゾは楽しそうに|愉(わら)った。獰猛に、牙を剥いて。

「改めて名乗るズラ。|吾(わし)は『紅蓮狼』のティーゾ・フィーン。もう辞めちまったが、AGをやっていた頃は、SランクAGをやっとったズラ」

(アルリーフやマルキムと同じ、元Sランク……ッ! いや、それよりも!)

 こいつの使った魔法……『ラヴァ・エンチャント』だって?
 ただ武器に魔法属性を付与する、一般的なエンチャントじゃない。全身に、まるで鎧のように溶岩を纏っている。
 間違いない。ティーゾのエンチャントは――俺と一緒だ!

「はは……まさか、俺以外にもこれを使う人がいるなんてね」

 ビリビリと空気が揺れる、大地が揺れる。迫力、とかじゃない。これは多分、物理的にどちらも揺れている。
 あいつのエンチャントは、溶岩。それはつまり、炎と岩の性質を持つもので――

(混合属性……みたいな感じかな?)

 ――思い浮かぶのは、俺が唯一教導した若きAGのイーピン。彼は水と炎(まではいかず熱だったけど)を用いて水蒸気を操っていた。あれの超強化版ってところだね。

「それにしても、エンチャントに混合属性……。舐めてたのは俺の方か」

 自嘲気味に呟く。これは、しっかりと稽古をつけてもらった方がよさそうだ。

「フェフェ、稽古を受ける準備はいいズラか?」

「もちろん。……仲間に後れを取りたくないからね」

 コホンと咳払いし、俺はグッと気を引き締める。

「改めて、名乗らせてもらうよ。俺はSランクAG、『流星』のキョースケ。――神器開放。食らい尽くせ、『パンドラ・ディヴァー』」

 神器開放と同時に、俺を中心として暴風が巻き起こる。
 周囲の風が一気に凝縮され、俺の肉体を包み込んだ。

「行くよ、『ストーム・エンチャント』!」

 轟!
 周辺の木々が吹き飛び、空へ舞う。全てを飲み込む嵐が地上に顕現する。
 ニッと口の葉を曲げ、俺は勢いよく頭を下げた。

「それじゃあ、よろしくお願いします!」

 ドッ!
 地面を蹴って突っ込んでくるティーゾ。振り下ろされる斧を回避すると、そこには溶岩が地面から噴き出ている。
 咄嗟に全身に纏った風を爆発させて、その場から退避。続けて降ってくる岩と、煮えたぎる地面。なんだこの連続攻撃は。

「クソッ」

 咄嗟に飛びあがると、フッと陽光が遮られる。咄嗟に槍を横にして振り上げると、ガギィィィン! とロードローラーでも落下してきたかのような衝撃に襲われた。ティーゾの斧だ。
 なんとか空中で踏ん張るが、それとほぼ同時に三方向から溶岩の弾丸が飛んでくる。攻撃のテンポが速いだけじゃない、とにかく|同時に飛んでくる(・・・・・・・・)攻撃の数が多い!

(これで『元』なんだから困るね)

 横薙ぎに振るわれる斧を防ごうと槍を出したところで、さらに三方向から溶岩の槍が飛んでくる。『ハイドロエンチャント』に切り替え、その全ての攻撃を防ぐ。
 同時に、足元に激流を噴射。その勢いで自分自身を空へ撃ち出した。

「フェフェフェ……ジャックの話通り、切り替えが速いズラ」

 感心したように笑ったティーゾは、ふわりと浮かぶ。そして炎を噴射して、ロケットのように俺の方へ。

「炎……ね。俺とシュリー以外だと初めて見たかも」

 とはいえ、風のように空中で自在とはいくまい。俺は、再び『ストームエンチャント』に切り替え、ティーゾを迎撃する。

「ほいほい……さっ!」

 グルグル! とリ○クばりの回転切りを繰り出してくるティーゾ。それで強引に空中で動くのか。

(手数で負けてる……か。俺が一手攻撃する間に、三手は動かれてる。武器の攻撃だけじゃない、魔法の攻撃のタイミングが良すぎるね)

 まるで俺の避ける方向が分かっているかのような配置。取りあえずこっちも攻撃のスピードを上げて抵抗しよう。
 纏った風で槍にブーストをかけて、回転率を上げる。取りあえず魔法も斧も、槍で捌こう。

「……力業にもほどがあるズラ」

「今はこれしか出来ないからね」

 ガギギギキキキキキキン!
 火花が散り、溶岩のせいで空にいるのにとにかく熱い。槍の石突きでティーゾの足を狙い、それを回避されても間髪入れず脳天に槍を振り下ろす。
 ズガッ! とティーゾが斧で受ける。そのまま空中じゃ踏ん張りがきかなかったからか、地面にデカいクレーターを作った。

「いたた……年寄は労わるもんズラ」

「ノーダメージかぁ……」

 見たところ、傷一つない。結構な高さから落下したはずだけど――

『カカカッ、アイツが地面を操ってクッションにシテタゼェ。オマエの仮説で確定ダナ』

 炎と岩……ないし土の二属性。それを混ぜて溶岩に。それに加えてあの斧捌きと怪力か。本当にAGを引退したのか疑わしいね。
 ティーゾはグッと足に力を籠め、再び跳躍してくる。振り上げられる斧と、同時に繰り出される溶岩。その攻撃を風と槍で受け、押し返す。

「力押しで、突破出来るほど甘くないズラ」

「チッ」

 想定の三倍の手数。とにかく、同時にやってくる。一つ動くたびに、対処せねばならない攻撃が累乗して増えていく。
 スピード特化の『ストームエンチャント』でも、対処できない攻撃が増えてくる。チクチクとダメージが蓄積され、徐々に体力を削られる。

(見た目は派手だけど、やり口は老獪だね。……でも)

 槍で顎を狙う、スウェーで回避するティーゾだが――そこに俺は風の弾丸を置いておく。
 ゴッ! と派手な音が鳴ってバランスを崩すティーゾ。俺はその喉元に槍を突き立て――

「ミスター京助、ストップだ」

 ぴたっ、とお互いの武器を止める。ティーゾの溶岩は俺の足、腹の寸前で止まっており、このままだと相打ちになっていた可能性が高い。
 ……まんまとしてやられたかな。

「フェフェ。若いの。……ちょ、ちょっと休憩してもいいズラか?」

「あ、うん」

 ティーゾはぜぇぜぇと息を切らすティーゾ。その場にへたり込み、「あー」と天を仰いだ。
 なんというか、戦闘系の『職』なのにこの世界で息切れする人って久しぶりに見た気がする。

「いや、|吾(わし)の|年齢(とし)を考えるズラ。無尽蔵に体力のある時期じゃないズラ」

 それもそうか。

「ジョエルとか、息切れするイメージ無いけど」

「あいつは『職』が『職』ズラ。いまだに全盛期のバケモンズラ。たぶん二百まで生きるズラ」

 どんなジジイだよ。

「ま、最後の攻撃からして……分かってると思うが、おんしの課題は主に二つズラ。一つはその『エンチャント』の効率の悪さズラ」

 指を立てるティーゾ。

「効率……魔力効率ってこと?」

「そうズラ。水鉄砲は、穴が小さいほどよく飛ぶズラ」

 言われて、ハッと思い出す。俺が『魔昇華』を使う時のことを。あれは魔力の効率化を図り、突き詰めた姿。
 しかし、三種の強化エンチャントは――そういう『効率』を考慮しない。荒れ狂う暴風、激流、業火を力任せにねじ伏せて、自分の武器にするもの。
 だがそれは、神器によって得た巨大な力を振り回しているだけ。

(これのコンセプトは……魔力効率を無視して、無茶をするってことだったんだけど……)

 それが甘えだったね。目先のメリットを言い訳にして、魔法の完成度を高めなかった。あまりに俺らしくない。
 というかそもそも、ジャックに魔力効率が悪いって言われた時にもう少し考えるべきだった。エンチャントも魔法なのに、それ以外の射出系のそれのことだと勘違いしてた。
 根本的に指摘されないと気づけないなんてね。 

「…………完全なる、コントロールか」

 魔昇華と同じように、荒れ狂う全てをもっと肉体に集める。なるほど、出来るんならもっと素晴らしい能力になりそうだ。
 俺は頷いて、心の中のヨハネスに話しかける。

(出来ると思う?)

(理論上は、ナ。ダガ難しいゼェ? オレ様ならマダシモナ)

(出来るんなら、やろう)

(カカカッ、出来るヨウニナレバ、おそらく『その上』もモット強くナルゼェ)

 腕が鳴る。今夜はキアラと相談して、詳しく詰めていこう。

「そして、二つ目ズラ。ジャックから教えてやって欲しいと言われたところズラ。槍の攻撃と魔法の攻撃が、別々になってるズラ。そこをもっとリンクさせるズラ」

 ティーゾはそう言うと、タローに構えるように指示する。

「おんしも、修行に付き合うズラよ」

「もちろん。だがティーゾ老、後で私との組手にも付き合ってもらうぞ」

「フェフェフェ、分かったズラ。久々にもんでやるズラ」

 タローのお父さんと組んでたってことは、そりゃタローの小さい頃を知ってるか。俺が苦笑すると、タローがため息をつく。

「ウルティマとハシンだけでなく、ティーゾ老まで来るとは思わなかった」

「ハシン?」

「今夜来る予定の男だ。まぁ、後にしよう」

 タローが話を切ったので、俺はティーゾの方を見る。

「そもそも|吾(わし)の持つ斧は、振った後に隙が大きいズラ。だからこそ、この戦い方を磨いたズラ」

 そう言って、タローに向けて斧を振り下ろすティーゾ。タローは難なくそれを防ぎ、左にスライドしてすれ違いざまにボディに拳を当てた。

「タローよ、それ以外ならどう動くズラ?」

「バックステップして、振り下ろした所に蹴り。跳躍して顎に攻撃。……まだ言った方が良いか?」

「いいや、それくらいでいいズラ。タロー、今度は魔法を使うズラ。避けるズラよ」

「ああ」

 まったく同じように斧を振るうティーゾ。しかしその左右から溶岩の槍、そして真上から溶岩の礫が落ちてくる。
 タローは危なげなくバックステップして回避――したところで、地面が窪む。

「むっ」

 足を取られるタロー。そこにティーゾは踏み込んで、斧を――

「と、まぁこんな感じズラ。斧は最初から隙が大きいが、どんな攻撃をした時にどこに隙が出来るかは分かりやすいズラ。であれば――斧の攻撃に合わせて、どんな魔法を出すか最初に決めておくといいズラ」

 そう言って、斧を見せてくれるティーゾ。さすがに元Sランカーの使う武器だ、見るだけで業物だということが分かる。
 だがそれより気になるのは――

「これ……杖?」

「よくわかったズラね」

 俺は滅多に使わないから良く知らないが、杖というのは魔法を使う時の補助が行われる魔道具。魔魂石がはまってることが多いので、見る人が見れば一発で分かる。
 でも、そうか。

「斧であり、杖であるのが|吾(わし)の持つこの武器の特徴ズラ。これのおかげで、『詠唱の代わりに、決まった動きを魔法発動のトリガーに出来る』ズラ」

「――っ」

 それは、キアラのフィンガースナップと一緒。何千、何万回と同じように動作を重ね合わせることで、『詠唱』が必要な魔法を、反射で使えるようになる技術。
 それを……この男もやっていたなんて。

「フェフェフェ、もちろん――簡単な魔法しか使えないズラ。でも、『振り下ろし攻撃』の時の隙はそう変わらないズラ。それなら、振り下ろし攻撃に対応した魔法が出せるようにする訓練をすればいいだけズラ。後は、臨機応変に魔法を組み合わせて『同じ動き』からは『同じ魔法』しか出ないことを相手に悟らせないようにするだけズラ」

 …………なるほど。
 老獪。これは普通の戦士も、魔法師も思いつかない戦い方だろう。というか、キアラと同じ技術を使える人がいるなんて――

(カカカッ、アレはモット高度な技術ダガナァ。ドンナ魔法ダッテ、フィンガースナップ一発で使える。特定の動きデシカ使え無いティーゾと一緒にスンジャネエ)

(――はいはい、分かってるって)

 何故か相変わらず、キアラのことになると口数が多くなる奴だ。
 俺は顎に手を当てて、ふむと考える。

「……俺も似たようなこと、出来るかな」

「|吾(わし)と同じことは、一朝一夕じゃ無理ズラ。だが、さっきのおんしの最後の攻撃のように、普段の攻撃にももっと魔法を織り込むだけで大分違うズラ」

「ん、分かった。それじゃあ……そのタイミングとかをもう少し教えてもらえる?」

「もちろんズラ。タローも手伝うズラよ」

「ああ。それじゃあミスター京助、やろうか」

「おっけー。……じゃ、お願いね」

 そう言って、ニヤッと笑う。
 冬子も頑張ってるだろうし、俺も頑張らないとね。

「さてそれじゃあ……俺の経験値になってもらうよ?」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「昼風呂、きっもちいい~」

「よく肩がこるのでー、こうしてのんびりできるのはいいですねー」

「その台詞、トーコがいたら殴られていましたね」

「ヨホホ、日が出ているうちに露天風呂というのは、初めての経験デスが……良い物デスねぇ」

「私は実は朝、ダーリンと入ったんですがね」

「羨ましいデス……」

 というわけで、お昼。
 美沙たちは露天風呂に全員で浸かっていた。昨晩、物凄い汗をかいたというのにそのまま寝てしまっていたからだ。

「いやー……初めてを終えた朝なのに、その旦那さんが既にいないってどうかと思う」

「いや朝じゃないですからねー、もう昼ですからねー」

「寝すぎたデス」

 太陽はちょうど中天。でも美沙はさっき起きたので、今が朝だ。

「でも気持ちよかったなぁ……また今夜もしたいな」

「まさかあそこまで丁寧にしてくれるとは思いませんでしたねー。あんなに理性ぶっ飛んでるようにしか見えなかったのに『私たちのためだから』って言えば何でもしてくれるんですものー」

 最初は――最初は、文字通り童貞のそれでしかなかったのだ。
 目も完全にどっかいっていたし、まるでケダモノだった。むしろ美沙はそれが嬉しかったが。彼に本能から求められているような気がして。
 しかし、マリルの順番になってから一転。キス、おっぱい、即! みたいな京助が、じっくり丁寧に……。
 それはそれでよかった。あんな気持ちよくしてもらえるとは思っていなかったから。

「しかも本当に魔法であんなこと出来るんですねー、キョウ君」

「ヨホホ……でも今夜は普通に抱いて欲しいデスね」

「まあその辺はする前に京助君にリクエストすればいいんじゃないかなぁ。私はまた思いっきり大暴走して抱いてもらおうっと」

 そして無茶苦茶にしてもらうのだ。

「はぁ……いい旦那さんを持ったねぇ私たち。昨夜のことで、もっと京助君のこと大好きになっちゃった」

「ブレないですねー。別に異論があるわけじゃないですがー」

「そうですね。……しかしダーリンとトーコさんは、よくあれだけ動く元気がありますね」

 そう言いながら、ピアは山の方に視線を向ける。どうも、京助と冬子はあっちの方で稽古をつけてもらっているらしい。

「私は今夜、タローさんが誰か連れてくるようですが……皆さんはどうされるんですか?」

「どうって?」

「パワーアップと言いますか……あの日、トーコが覚醒せねば我々はここにいませんからね」

 そう言って、ピアはお風呂から立ち上がる。

「バカンスは楽しいですが、これ以上引き離されるわけにもいきません。そろそろ私は上がりますね」

「ヨホホ、そうデスねぇ。なんかキョースケさんが『シュリーの分は考えてる』って言ってますデスから、期待してはいるデスけど……やれることはやらないとデス」

 そう言ってリューも立ち上がる。美沙はお風呂のふちを枕にして、おっぱいを浮き輪代わりにしてぷかっと浮かんだ。
 そんな美沙に、三人が視線を向ける。

「……え、ミサちゃん。この流れで何もしないんですかー?」

「え? うーん……」

 美沙は、戦いたいわけでは無い。むしろ戦いは嫌いな方だ。
 ただ、京助に認められたくて、選ばれたくって強くなりたかっただけだから。
 しかし、選ばれてしまった。認められてしまった。
 そうすると、どうにもモチベーションが湧かない。

「これが燃え尽き症候群……」

「でも、ダーリンは覇王を倒すと息まいていますからね。彼がこれからも前へ進む以上、妻である我々も前に進まねばならないでしょう」

 ――ピアにその名前を出されて、ピタッと思考が止まる。
 ……そういえば、そんなのがいたな、と。

「…………そうだったね、そうだった」

「あ、あれ? 温泉の温度がちょっと下がってるような……み、ミサちゃん?」

「そういえば――京助君を痛めつけた挙句、京助君から目標にされてるとかいう無茶苦茶羨ましい人がいたねぇ……」

「……ミサ?」

 ざばぁっ! と立ち上がる。
 思い出してしまった――自分たちのライバルを。

「京助君の心にいていいのは、京助君の奥さんである私たちだけ! そうだったね、思い出させてくれてありがとう。……京助君に執着されるなんて許せない。私が覇王を倒す!」

「「「わけわからないことを言いだした(デス)!?」」」

「さ、修行しよ修行。もっと強くなって、京助君が見るのは私たちだけになってもらおう」

 とはいえ、伸び悩んでいるのも確か。
 ……どうやって強くなった物か。
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