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章間なう⑨

シュリーと里帰りなう⑥

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シュリーと里帰りなう⑥


 レーンとシュリーの家族を殺したのは獣人族だ。しかも「サンプルが二体出来るかと思っていたが、一体しか出来上がらなかった。だから残りは殺せ」という理不尽な理由で。
 ただこの理屈、レーンは「俺が魔法を使えれば皆殺されなかった」と捉えてしまっているのかもしれない。自分が魔法を使えれば――もしかすると、両親はまだ生きていたんじゃないか、と。
 どうせ検体以外は殺す気だっただろうから、そんなことは無いんだけどね。ただ、両親が殺された挙句自分のせいのように相手が攻めてくればそう考えても仕方ない。
 そのせいで自信と言うか自尊心を失っている状態になっているわけか……。

「……義兄ちゃん、俺……ステータス、あるのかな。っていうか、『職』が……あるのかな」

 不安そうな顔になるレーン。彼らの過去を考えればそんな表情をするのは分かるが……

「姉ちゃんには……『職』がある。だから俺にも『職』はあるのかもしれない。でも……でも、俺には魔法が使えなかった……」

 父ちゃんは難なく使ってたのに、と悔し気な声を出すレーン。そうか、魔法も『職』もお父さん由来なのか。
 シュリーは比較的身体能力が高い。魔法師としてもそうだし、Dランク……最近じゃCランクの前衛職くらいの体捌きが出来るようになってきている。その辺は獣人族の血が混ざっているから……と言っていたから、お母さん譲りなのだろう。
 俺は少し気になって、槍で地面をドンと突く。その勢いで腰辺りまで跳ね上げた石をいくつか掴むと、レーンの方に向けて振りかぶった。

「レーン、避けて」

「へ?」

 三個同時に投げる。レーンはちょっと虚を突かれたようだったが、難なく躱して見せた。俺と彼の距離はちょうど槍一本分も無いくらい。かなりの近さなのによく避けたな。
 今度は六個の石を跳ね上げ、槍で弾き飛ばす。投げた時とは比べ物にならない速度、軌道、威力だけどレーンは二個回避し、一個は肉の櫛で弾き飛ばして別の石にぶつけて回避。
 最後の二個は蹴りで叩き落とした。

「いきなり何するんだよ義兄ちゃん!」

「凄い動きだよ。正直、ビックリした。純粋な獣人族でも、同い年だったらそこまで動ける子はいないんじゃない?」

 というか今でもE~Dランクくらいの魔物ならあっさり倒せそうだ。特に櫛と蹴りで叩き落とすのは、シュリーには出来ないだろう。回避は出来るけどね。
 レーンは俺に褒められたが……それでも腑に落ちないように口をとがらせる。

「でも、これじゃダメだよ……だって、だって……父ちゃんみたいには……戦えない。強く、なれない……」

 俯くレーン。取り合えず顔を上げてもらうために、俺は懐から活力煙を取り出した。

「レーン、はいこれ」

「……ありがとう」

 レーンが咥えたのを見て、火をつけてあげる。さっきよりは上手に火を灯し、煙を吐き出した。

「ふぅ~……」

 俺も同じように……では芸が無いので、輪っかにしてぽわぽわ吐き出す。

「すげぇ」

「すぐ出来るよ。……まあ、レーンはそもそもまだ吸わない方がいいけどね」

 苦笑いと共にもう一度煙を吐き出し、彼の頭に手を置く。

「上手、上手」

「上手も下手もあるの?」

「うん。俺、活力煙を買ったお店で暫く練習したから」

 あれは気まずかった。マルキムがジトッとした目でこちらを見ていたのを覚えてる。

「……レーンとシュリーに何があったかは、概ね把握してる。マルキムからも……レーンにはレオって言った方がいいかな」

「レオさんと!? っていうか、レオさん知ってるのか義兄ちゃん!」

 ああ、やっぱりマルキムのことは知ってるのか。

「うん、俺の……そうだな、お兄さんというかお父さんというか……まあ、AGの先輩だよ」

 流石にお父さんは言い過ぎだ。でも、相応に尊敬している。

「だから、何でそんな風に思ってしまうのか、少しは分かってるつもりだ」

 完全に分かってるなんて口が裂けても言えないけれど、それでも他の人よりは察せているだろう。

「だから、『職』が無いかもと不安になる理由は何となく察せないことも無い。でも、その様子からして……知らない、んだよね? 自分にあるかないかも。何で確かめてないの?」

 最後の問いかけが少々厳しい口調になったのは自覚している。案の定、レーンはまた口をつぐんでしまった。
俺は活力煙の煙がゆっくりと空気に溶けていくのを見ながら……レーンが言葉を発してくれるのを待つ。
 それから十秒、いや二十秒ほど経って……レーンは活力煙を指で挟み、顔をあげた。

「……ステータスプレートってさ、人族のもんだろ? アレがなかなか手に入らねえじゃねえか」

「はい」

 ステータスプレートを手渡す。レーンはギョッとした表情でそれを見つめる。ずいっと彼に押し付けるが……握ろうとしない。

「持つだけで、大丈夫だよ。特別な何かは必要無いし、仮に魔力が無くても使える。そういう道具だ」

「あ、う……で、でもその……ほ、ほら! 村長が結構、人族嫌ってるから……ステータスなんて分かっちゃったら……」

「言わなければ良い。ステータスプレートをずっと持っておくのが不安なら、シュリーに預ければいい」

 ステータスプレートは一昔前までは身分証として機能したし、今でもAGの登録や就職には必要になるから肌身離さず持っておき、人には軽々に見せないのが基本だ。
 でも幼い子どもや、また特別な事情があるなら親族に持ってもらっている人もいないことは無い。

「でも、ほら……あの、その……えっと、そのステータスプレートって高価なんじゃないのか!?」

「別に? AGやってるなら必ず必要だし、ランクによってはギルドから支給される」

 Aともなるともう支給は無いが、Dくらいまでならギルドから無料で支給される。それ以降も割引されるし。
 盗賊を捕まえた時とか、死者の身元確認に必ず使うからねステータスプレート。

「あ、う……」

「さあ」

 もう一度差し出す。握ろうとしないレーン。
 さらに数秒、その状況が続いただろうか。レーンは観念したように……諦念を含んだ声で、ぽつりぽつりと言葉を紡ぎ出した。

「義兄ちゃん……もし、もし……俺に『職』が無かったら……もう、強くなれないだろ?」

 レーンの言葉からはひしひしと悲壮感が漂っている。さっきは諦念かと思っていたが、違う。諦め、というよりは恐怖。もう自分に伸びしろが無いんじゃないかという恐怖か。

「強くなりたいんでしょ?」

 俺の問いに、頷くレーン。だが同時に、泣きそうな顔のまま強い語気で俺に反論してきた。

「だけど、俺……もし、『職』が無かったら、もう強くなれないんだぜ!? 姉ちゃんは、『職』があって……魔法があって……だから、凄い強くなれたんだよな。今日、Aランク魔物倒したくらい!」

「そうだね」

「でもさ、俺は魔法が使えなくって……それで俺に『職』が無かったら、強く、なれない、じゃねえか……」

 悔しそうにそう呟くレーン。

「そうとも限らないよ」

 やや空々しいかと思いながらそう言うと、案の定レーンは怒りの表情を向ける。

「義兄ちゃんは強い『職』でも持ってるんだろ!? じゃなきゃ三属性も魔法を使えないし、槍一本でアックスオークを倒したりなんかできねえ!」

 お父さんが人族だったからか、割と『職』に対する信用があるようだ。

「それに、それに、それに……!」

 レーンはぶわっと涙を流す。突然のことに俺が驚く間もなく、レーンが膝をついて活力煙を取り落とした。
 そしてその状態のまま絞り出すように声を吐き出す。

「それに……! 『職』も無かったら! ……『職』も無かったら、俺が父ちゃんから受け継いだものが……何にも無いってことに、なっちゃうじゃねえか……!」

 ……なるほど。彼がステータスを調べたくない、調べていない最大の理由はこれか。
 レーンがかなり幼い頃に両親が殺されたということだ。思い出も少ないのだろう。
獣人族としての身体能力という形で、自分に母親がいたことを感じられるかもしれない。でも、父親の場合は……。
人族に近い見た目だけでは、彼にとっては不安なのかもしれない。いや見た目は完全に獣人族のシュリーとの違いで、自分が本当に彼らの子なのかという自信が持てないのかもしれない。

「『職』が無かったら、これ以上強くなれない……! それに、父ちゃんから、俺は、何も貰ってねえことになる……! そんなの、そんなの……」

「ん、怖くて確かめられないね」

 同じ立場なら、俺も無理だろう。
 でも……。

「でも、強くなりたいんでしょ? ……正直に言って、『職』だけが強くなる手段じゃない。例えば……俺の『職』について、そういえばシュリーに言ってなかったっけ。じゃあ先にレーンに教えてあげるよ」

 俺は槍を取り出し、ひゅんひゅんと回す。型を用いた演武ってやつだが、シュンリンさんに鍛えられたからそれなりに形になっているはずだ。
 レーンはそれを見て少しほうと息を吐く。

「俺の『職』は槍術師。それ以上でもそれ以下でも無いんだ」

「え……?」

「この魔法はシュリーに習って、自力で学んで身に着けたんだ。俺の『職』とは何の関係も無い。……そもそも、さっき見せた演武も『職』によるものじゃない。修行して、やっと形になってきたものだ」

 俺が神様から与えられたチートは多いし、大きい。異世界人特有の高い身体能力や、ステータスなど。三属性を操る才能に、神器。
 でも、『職』という一点において言うならその辺のCランクAGと俺の間に大差は無い。

「俺はちょっと強くなる必要があってさ。だから色んな強さを学んだ、そして磨いた。巨大な原石なんかより、ピカピカに磨いた泥団子の方が圧倒的に美しいんだ。……レーン、君が仮に泥団子だったとして、磨かない理屈にはならない」

「……『職』が無くても強くなれるのか? だって俺……獣人族としてだったら……身体能力……低いんだぜ……?」

 アレで低いのか。獣人族は凄いね。
 でも俺は首を振ってから次の活力煙を咥えて火をつける。

「『職』は料理人だけど自力で食材を手に入れに行きたい、とかいう理由でDランク魔物すら倒せるようになった人は知ってるよ」

 あの人は今、串焼き肉の屋台をやっているはずだ。今度もまた一狩り行くって言ってたね。

「とにかく何でもいいから情報を集めて、技術を学ぶ。『職』や魔法だけが強くなれる手段じゃないんだ。俺は負ける度、壁にぶつかる度、他の技術を学んで習得してきた」

 まあ俺の場合はそれで手札を増やし過ぎて、必勝パターンが無いせいで突破力が逆に低くなってしまっていたのだけど。
 マルキムに言われるまで気づけなかったのはちょっと恥ずかしい。

「『職』も、魔法もあくまで強くなるための手段でしかない。あれば有利になるが、無いなら無いで別の方法を探すだけ」

 才能の有無が絶対じゃない、それはどんな世界も一緒だ。
 そして何より――

「強くなる、っていうのも手段でしか無いんだ。何が目的なのか、忘れちゃいけないよ。強さにも種類はあるしね。君はなんで強くなりたいって思うの?」

 さっき、俺はレーンが彼女を守るために強さが必要だろうと思って聞いた。でも別に強くなりたい理由は誰かを守るためだけじゃなくていい。
 誰かを倒したい、誰かに復讐したい、自分の限界に挑戦したい。強くなりたい理由は、目的はいくらでもある。

「そりゃ……だって、セーヌは守らないといけないし」

「もうバレてるから愛称で呼んであげなよ」

「……ナリアは守らないといけないし。姉ちゃんは……なんか義兄ちゃんが恋とか愛とかに疎そうだからやっぱ守ってあげないといけないし」

 なんで俺が恋とか愛とかに疎いと彼女を守らないといけなくなるのか。

「それに……その、うーん……まあ、義兄ちゃんには言ってもいいか。ほら、この村って俺たちみたいな獣人族と人族のハーフだけじゃなくて、人族の国に連れてこられた獣人族もたくさんいるだろ? そういう人を獣人族の国に戻してあげたいんだ」

 なかなか面白い計画だ。

「シュリーが計画したの?」

「いや、計画したのは別の人だぜ。俺は耳とか尻尾が無いから、情報収集役として村からいずれ出るつもりなんだ」

 理にかなってる。

「確かにその三つの目的のために手っ取り早いのは強くなることだね。そしてそのためには、やっぱり使い物にならないかもしれない手段はとっとと潰しておくべきではある」

 そう言いながら、再びステータスプレートを彼に渡す。
 やはりレーンは受け取ろうとしないが……俺は、彼の手に無理矢理乗せる。

「大丈夫、念じないとステータスは浮かび上がらないから」

「……お、おう」

「これを使うか使わないかは君に任せるよ。でも、そうだね……もしも『職』が無かったら」

 俺はアイテムボックスから予備の槍……ではなく、少し短い投擲用の槍を取り出す。買ったはいいが、一度も使ったことが無い槍だ。

「これをあげる。俺が教えてあげられるのは槍だけだけど……獣人族の身体能力があるなら、十二分な使い手になれるはずだ」

「それでもだめだったら」

「なんでもいいから学ばないと。別に暴力だけが力ってわけじゃないし」

 例えばティアール。彼を弱者と侮るバカはいないだろう。状況によっては俺の持つ暴力なんて吹いて消し飛ぶほどの力を持つ。
 さらにオルランド、彼は権力という俺では絶対に手に入れられない力を持っている。

「目的を通すための力が『強さ』だよ。そしてそれを手に入れるためには、自分に合わないものは切り捨てる勇気も必要だ。そのためにも……自分が手に入れられるかどうかわからない力に縋る時間は無いはずだよ」

 そして、と俺は手に『魂』を集める。いきなり手が光り輝きだしたからか、レーンが目を丸くした。

「えっ、えっ!?」

「これは魂。君のお父さんからマルキムに伝授されて、そのマルキムから俺に伝授された。いわば、君のお父さんがつなげた技術だ」

「父ちゃん、が……」

 俺は魂を纏った腕で、近くの木を貫く。ズッ……と重々しい音とともに木に穴が開く。

「す、げぇ……」

「今はまだ無理でも、君がいずれ強くなったらこれを伝授してあげる。……いい? これは君がシュリーの弟で……そして君のお父さんの息子だから、俺は教えてあげるって言えるんだ」

 それは紛れも無く、彼が彼の父の息子だった証と言えるだろう。少なくとも、俺はそう思う。

「俺は強くなるためには出会うこと……って、色んな人に言ってるしそう思ってるんだ。でももう、守りたい人がいるのなら……後は、一直線に。守りたい人を守る力をつける方法を学ぶだけ」

「守りたい人を、守る力……」

「そう、それは『職』でも魔法でも魂でもいい。槍の技術だけでSランクすらやっつける爺さんもいるし、君は可能性を諦めるにはまだ子ども過ぎるよ」

 自分の年齢を棚に上げてそう言う。レーンはステータスプレートをギュッと握りしめると……スッと俺に手を出した。

「義兄ちゃん、もう一本!」

「……いいけど」

 活力煙を渡し、火をつける。レーンは大きく煙を吸い込むと……ふわっ、と不格好ながら輪っかを作った。

「出来た!」

「おお、よく一発で成功させたね」

 俺はそう言って彼の頭をなでる。レーンはくすぐったそうな表情をすると……ステータスプレートをポケットに入れた。

「義兄ちゃん」

「ん?」

「俺……ちょっと、もっと考えてみる」

「そっか。いいよ、存分に考えな」

 最初に比べるとだいぶいい表情になった。正直言って、別に『職』が使えないことを確認する必要がそこまであるかと言われたら……たぶん、無い。
 でも、それ以外に強くなる方法が無い……と視野狭窄に陥っていたから、解消したまでのことだ。

「じゃ、そろそろ戻ってあげな。シュリーもレーンと話したいことがあるだろうし」

「義兄ちゃんは戻らないのか?」

「俺はここで、月見でも楽しむよ」

 アイテムボックスから……キアラから貰った酒瓶を取り出す。

「こいつと、朝までね」

「義兄ちゃん、おっとな!」

 揶揄うように言ってレーンは宴の方に戻っていく。

(カカカッ、キョースケェ。大人ダッテヨォ!)

「うるさいよ、ヨハネス」

(カカカッ!)

 空に浮かぶ月が笑っているような気がした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 翌朝。当然俺は徹夜、リャンもそれに付き合ってくれた。一日、二日徹夜しても別にきつくは無いけど……

「村長さんが提供してくれた小屋、ちょうど村の結界の外なんだよね」

「しかも見張りの視界内……いえ、これは逆にちゃんと見張りの視界内に入れたとみるべきでしょうか」

 村長さんの提案、もとい命令で俺たちはちょうど村の結界から外れた小屋に案内された。結界の中でも外でもどうせ寝ないって分かってるからか、シュリーもリャンも何も言わなかった。
 そもそも、向こうからすれば本来俺たちは敵だ。俺が彼らを逃がしたという実績が無ければ入るなり殺されていただろう。

「一晩、無事に過ぎたことを喜ぼうか」

「マスターがそう言うなら我慢します。……さて、朝ご飯にしますか、マスター」

「そうだね。シュリーとは外で待ち合わせだし」

 シュリーは皆に挨拶をすると言っていたので先にご飯を済ませて外で待っていると……思いの外あっさりとシュリーは出て来た。

「ちょっとバタバタしちゃったね。良かったの? シュリー」

もう少しシュリーもレーンと一緒にいたかったんじゃなかろうか。

「ヨホホ、別にドライというわけじゃないデスが……あまり長居すると戻る時にレーンを連れて行きたくなってしまいますデスから」

「別に良いのではありませんか? レーンさんは私やリューさんと違い、見目は完全に人族ですから。幸い、我が家もまだ空きがあります。もちろん、マスターが良ければ……ですが」

「俺は反対しないよ」

 しかしシュリーは首を振ると、俺の腕にしがみついてきた。

「レーンとよく話し合って決めたことデスからね。ワタシは外で資金貯めと、情報収集。レーンは戦えるようになるまではあの村の皆と仲良くなる」

 ……まあ、保守派はいつでもいるものだから……村を出て獣人族の国に戻る時に悶着が無いように根回しってことか。

「何かあったら手伝うよ、それまでは何も言わない。……危険そうなら口出しするけどね。あの時みたいに」

「ヨホホ、そうデスね。また助けてもらうことになる時は……よろしくお願いしますデス」

 保守的な村だ、成り立ちからしてどちらの国でも良い扱いを受けない人も多いだろう。それでもなお、帰りたいという人がいる。だから二人は出来ることを今、やる。
 出来れば助けになってあげたいね。

「じゃ、そろそろキアラを呼ぼうか」

 村から十分に離れたタイミングでそう言ったところで、ぱきっ、と背後から木を踏む音が聞こえた。
 三人で後ろを振り向くと、そこには……

「レーン、どうしたんデスか。危ないデスよ、ここまで一人で来ては」

「大丈夫だよ、武器も持ってるし」

 そう言って彼が掲げたのは……俺が昨日渡した槍。そのままシュリーでは無く俺の方に来ると……バッ、と槍を構えた。

「義兄ちゃん」

「ん?」

 いきなり、彼の槍が青白く光る。俺が驚くよりも早く、衝撃波が打ち出される。『飛槍撃』だ。

「へぇ」

 至近距離ながら、俺も『飛槍撃』を撃ち出すことでそれを相殺――否、そのまま勢いよく吹き飛ばした。

「れ、レーン?」

 シュリーが驚いた顔になるが……俺は一つ頷き、一歩踏み込む。レーンの槍を俺の槍の石突きで絡め、手から飛ばした。
 ぱぁーん……と跳ね上がったそれを見て、苦笑するレーン。

「義兄ちゃん、槍使いってどれくらい強くなれる?」

「本人次第かな。ただ、対人戦であればどの『職』よりも優れてると思ってるよ、俺は」

「そっか……」

 レーンは嬉しそうな声を出すと、ステータスプレートをギュッと握る。彼の葛藤は推して知るべし、ってところだけど……それでも強さを選んだっていうのは良いことだと思う。
 強くなくちゃ、守れない物は多い。

「あの、キョースケさん……」

「ん、まあバレなければ大丈夫でしょ」

「いえそうではなくて……ありがとうございますデス」

 ぺこりとお辞儀するシュリー。余計なことをするな……と、言わないのは分かってたけど、それでも少し安心したよ。

「レーン。いつでも遊びにおいで」

「おう!」

 ニカッ、と爽やかな笑みを浮かべるレーン。太陽のようだ……とは言い過ぎかな。
 そんなレーンがててて……とシュリーに近づくと、彼女の耳元で何かをささやく。

「……でも次会うのは義兄ちゃんと姉ちゃんの結――」

「ヨホッ!?」

 真っ赤になってレーンに抱き着くシュリー。やっぱり別れが辛くなったんだろうね、姉弟愛ってやつかな。
 もがもがしているレーンを放し、シュリーは真っ赤な顔のままビシッと指を突き付けた。

「レーン! その、そういうのはレーンにはまだ早いデス!」

「いや姉ちゃん、俺もう十三だぜ?」

 こういうやり取りも姉弟ならでは、かな。
 なんて彼らを見ていると……ふと、リャンが遠い目をして彼らを眺めていた。
 彼女は黙ったまま、そっと俺の手を取る。優しく、しかししっかりと。

「マスター……」

 視線だけはそのままに、リャンは悲し気な目のままほほ笑む。

「少しだけ、手を繋いでいても良いですか?」

 いつもの雰囲気と違うリャンに、俺は何も言わず手に力を籠めた。決して彼女の手を放さないように。

「……ちゃんと見つけるよ」

「ええ、頼りにしていますマスター」

 姉妹、姉弟。親よりも長く生きる、自分と血を分けた家族。離れ離れのままでいいはずが無い。
 新たな決意を胸に秘め、俺は彼女らを眺めているのだった。
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