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第九章 王都救援なう

203話 VSモルガフィーネなう

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「ふっ!」

 群がる魔物を一刀で切り伏せ、冬子は軽く跳躍した。
 ――体が軽い。昼間、シリウスの街で大乱闘したはずなのに。

「ピア、調子はどうだ?」

「上々です」

 魔物の脳天に一撃でナイフを突き刺しながら、ピアも笑う。淑女が浮かべるには些か獰猛過ぎる笑みだが。
 二人とも範囲攻撃は持っていないが――この程度の魔物群ならば一切問題なく蹴散らすことが出来る。

「周囲に生存者は」

「……残念ながら」

「そうか。――リューさん!」

「ヨホホ!」

 背後で魔力をためていたリューさんに合図すると同時に、ピアと冬子は彼女の背後まで下がる。
 三人の眼前には大量の魔物。D~Bまで強さは様々、中には以前倒した魔物もいる。

「ではいくデス! 『チェインブラストフレア』!」

 リューさんの杖から一発の――極小さな火球が放たれる。Dランク魔物を倒すのがやっとであろう、小さな小さな火球だ。
 しかしそれが先頭の魔物に着弾した瞬間、その魔物を爆発させ――同じ火球が周囲に飛び散った。
 そしてそれが別の魔物を爆散させ、さらにその連鎖が続いていく。

「ついでデス」

 そう呟いて今度は地面に炎を投げるリューさん。連鎖爆発に巻き込まれなかった魔物がそれに触れると、炎が巻き付いて徐々に末端から灼けて行く。

「エグイ」

「ヨホホ! 魔法は火力が高ければいいだけのものでは無いのデスよ」

 ……なるほど、京助が「シュリーにはまだ勝てる気がしない」と言っていたのはこういうことか。魔法の扱い方が段違いだ。京助もあの魔物の群れを薙ぎ払うことくらいできるだろうが、使う魔力量は桁違いとなることだろう。
 連鎖爆発が納まると、そこには一体の魔物も立っていなかった。爆発に巻き込まれたからか魔魂石は残っていないが、そこら中に討伐部位は落ちている。

「さぁ、次の区画へ。……今度こそ生存者を見つけましょう」

「了解デス」

「了解」

 ちなみにキアラさんは避難所を作る作業に入っている。
 ……そう、文字通り避難所を作る。まだ無事な建物を見つけ、周囲の魔物を軽く掃討し結界を張る。
 そんな化け物じみた行為を一人でやってのけているのだ、彼女は。

「負けられません。マスターに褒めてもらうためにも!」

「ヨホホ! ……でも正直、アレは真似できないデス」

「真似できたら私たちも神ですよ。……おっと」

 建物の上から蟲の魔物が襲いかかってきた。
 両腕が鎌になり、下半身が蜘蛛。顔は……トンボのようだ。

「おぞましい……っていうかキモイ!」

 初撃の鎌を躱し、腹部に蹴りを入れて吹っ飛ばす。
 そして敵が崩れた建物に突っ込み瓦礫で身動きが取れなくなった瞬間を狙い、首をスパっと刎ねた。

「お見事ですね」

「お粗末」

 ピアにそう返し、剣を空で振って血を払う。
 そしてアイテムボックスからチリ紙のようなものを取り出し、軽く拭ってから剣を鞘に仕舞った。ヘルミナさんが血糊がつかない加工をしてくれてはいるが……武器は大切に扱わなければ拗ねてしまう。

「京助にはいつまでたってもこの感覚が無いからな」

「確かにマスターは武器の手入れが雑ですね。……それでもあの輝きを保つんですから神器とは凄いものです」

 血の付いた紙はリューさんが燃やしてくれた。灰をそのままにするのはやや抵抗があるが、そこら中灰だらけだから気にするだけ無駄だろう。

「昔では考えられないな」

 ふと、今切り捨てた魔物を思い返しながらそう呟く。

「何がですか?」

「――こんな量の魔物に微塵も怯まない自分が、だ」

 下半身が蜘蛛で、上半身が蟷螂……とくれば、京助ならば恐らく『アラクネマンティス』とでも名付けるだろう。

「まあトーコさんもくぐってきた修羅場はそれなりデスからね」

「というか、その年齢でSランク魔物と交戦して生きている――これだけでも十分以上に異常ですからね。マスターのせいで忘れがちになりますが」

 そう言うと、二人は軽く首を振った。

「……いえ人にばかりそんなことを言ってはいけませんね。私たちも世間の基準から見れば十分規格外です」

「ヨホホ……どうしてこうなったんデスかね」

 全員、Sランカークラスの実力者に稽古をつけてもらったのだ。強くならない方がおかしい。

「私も京助も……きっと、皆と出会えたから人として生活出来ているんでしょうね」

 自分の実力が異常である。
 そのことを自覚した上で、その異常な実力ごと認められるというのはそうそうあることじゃない。
 仮に異世界モノの主人公のように無自覚なまま異常な能力を気ままに振るえば、待っているのは破滅だろう。好意的に見られることが無いとは言わないが、基本的には嫉妬や恐怖などの感情を向けられることが大半だ。それほど人間は「常識外」を恐れ、敬遠する。

「いい仲間に恵まれた」

「トーコさん。マスターが言っていましたがそういうのを『デス・ノボリ』と言うそうですよ」

「普通に死亡フラグと言ってくれ……って誰が死亡フラグだ!」

「ヨホホ、でも確かに油断出来るような状況じゃないデスよ」

 リューさんがのんびりとした口調のまま高速で魔力を練り上げ、魔法を放った。
 ドッ! と大きな音を立ててそれが着弾するが動じた様子はない。それはつまり――Aランククラスの魔物であるということ。

「ありゃ……ヨホホ。じゃあそろそろ本気で行きましょうかデス」

 帽子の鍔を人差し指と親指で挟み、くいっと上げるリューさん。

「そうですね」

 バチバチ! と全身に魂を纏い、マントをはためかせるピア。

「京助みたいに活力煙でも吸えば格好がつくかな」

 ズン! 地面に穴が開く程強く踏み込み、冬子も魂を纏う。
 金色に輝く戦士二人と黒ローブ。まるで勇者パーティーさながら……は言い過ぎだろうか。

「美人暗殺者と他二人、といったところじゃありませんか?」

「この三人の並びなら主役は私だろう」

「ヨホホ、あえて魔法師が主役なのもいいのではないデスか?」

 軽口をたたき合いながら、魔物を睨みつける。
 いつも通り。適度に緊張しつつ、軽口をたたく余裕は残す。

「さぁ、死にたいやつからかかってこい!」

 冬子が吼えると同時に、魔物たちも吠える。
 三対多数。
 数の分が悪いのはいつものこと。

「京助が帰ってくる前に王都全域の魔物を排除してしまいましょう」

「同感です」

「ヨホホ、そうですね」

 三人とも、京助と同じフィールドで戦えないことに対して少しだけ腹を立てていた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 敵の撃ち出す炎のナイフを盾で受け、『飛斬撃』を返す。モルガフィーネは決してラノールに近づくこと無く、一定の距離を保っていた。
 それはつまり――近接戦闘に自信が無いということ。

(当然と言えば当然か)

 ラノールも魔族と戦ったことは何度もある。流石に『魔昇華』を使う魔族と戦ったことはそうそう無いが。
 奴らの魔法は無詠唱、且つ炎や風などをまるで手足のように扱うという点で人族のそれと大きく異なってくる。それは「魔法」の戦術には幅を持たせるが、『職スキル』によるブーストや補助を得られないため、結果的に「ごり押し戦術」になりやすい。
 そのため相手のペース、距離で戦ってしまうと辛いが、こちらのペースに巻き込んでしまえばそんなに怖くはない。

「とはいえ……」

 敵の炎の刃を躱すと、地面に炎の結界が張られた。魔族がよくやる、フィールドを自分の有利なものに切り替えるためのものだろう。
 舌打ちを一つ。流石に敵地のど真ん中に来るだけのことはある――先ほどから上手くペースを掴めない。

「向こうだけが飛んでいるのも厄介だな」

「キヒャァ! なんだなんだなんだァ!? 全然追い付いてこないじゃねェのォ!? キヒャヒャキヒャァ! 地べた這いずるしかねェ人族はホント狩るの楽しいなァ!」

 降り注ぐ炎の雨を回避すれば地面が焼かれ、ラノールの足場が無くなってしまう。このまま長引けば不利だ。
 モルガフィーネは炎の翼を四枚出し、短剣を逆手持ちしてこちらに炎の刃を撃ってきている。撃ち出した炎は結界となり地面を侵食するものと、モルガフィーネに吸収されて翼を更に大きくするものに別れている。

「ハッ!」

 モルガフィーネが着地した瞬間を狙い『飛斬撃』を飛ばすが、身体をすり抜けるだけで効果はない。物理攻撃は効きづらいのか……それとも核のような部分があってそこ以外は無効なのか。
 ニヤニヤと笑いながらモルガフィーネは地面の結界から炎を吸収して再び飛び立つ。
 飛行するためには背中の炎を消費する必要があるらしく、短剣から炎を生み出して翼に食わせるか着地して結界の炎を吸収しているらしい。飛ぶのは燃費が悪いようだ。

(厄介なのはあの短剣だな。無限に炎を生み出し、撃ち出すことが出来るようだ)

 ラノールが一旦距離を取ると、喜々として巨大な炎を撃ち出してくるモルガフィーネ。逆に近づこうとすれば細かい炎を撃ち出して距離を取る。
 ――が、それは余裕を見せているからだろう。つまり相手もこちらの出方を窺っているということだ。
 存外冷静だな、と口内で呟きその場に足を止める。

「なんだなんだなんだァ!? 諦めたか、ラノール・エッジウッドォ!」

「いつまでもピョンピョコ飛び回っている羽虫を追いかけるのも飽きただけだ」

 ラノールはそう言って地面に膝をつく。剣を一度鞘にしまい、構えた盾の後ろで心臓に手を当てる。
 モルガフィーネはそのラノールを警戒したか、さらに高く飛び上がり巨大な碇型の炎を生み出す。溜めも何もなく即座に一軒家程の大きさを持つ炎を作り出せるとは。

「……『生命よ、精霊よ、創生の息吹をもってこの世全てを破壊する混沌を生み出せ! さぁ刮目せよ、あらゆる魂を過去にする破壊者の姿を! ドラゴン・アドベント』!」

 炎の碇が直撃する寸前、ラノールの詠唱が完了する。
 魔法陣が足元に広がり、神々しい光がラノールを包み――

「キヒャァッ! ……何をしたかったか知らないが、これで詰みィ! あの火力を受けられる生命体なんてこの世に存在する、わ……け?」

 ――ガブ。
 ガブ。
 ガブ。
 ゴックン。
 ガブ。
 ガブ。
 ムシャ……ゴックン。

「――なるほど、良い炎だ。

『グシャリ。グ、オオオオオオオ!』

 ラノールを翼で覆うようにして飛竜が現れる。

焔喰ほむらぐい、美味いか?」

 炎と化しているモルガフィーネの表情は読めないが、驚いていることは雰囲気で分かる。それは当然だろう、何せ彼女が生み出した炎は全て焔喰いが腹の中におさめてしまったのだから。

『グルゥ』

 満足そうに頷く焔喰い。額にあるものと合わせて三つの瞳はモルガフィーネを捕らえて離さない。
 真っ赤で一枚一枚が光沢を持つ鱗で全身が覆われており、四足で大地を踏みしめているため一見は飛竜というよりトカゲに見える。
 しかし――その大きさと炎に包まれた翼を見れば、誰が見ても飛竜であると納得するだろう。
 さらに顔の四分の三はあろうかという大顎には鋭い牙がずらりと並んでおり、爪は一本一本が女性の腕程あろうかという太さだ。
 ラノールが信頼を置く飛竜の一体、焔喰いは牙を剥きだしにしてモルガフィーネを睨みつけると咆哮した。

『グォォォォォ!』

「そう、その通り。アレは食ってもいいぞ、焔喰い」

 そんな焔喰いに対し、モルガフィーネは目をカッと開いて歯を剥き出して嗤う。

「キヒャァ……キヒャァ、キヒャヒャヒャヒャァ! やっとか、やっと本気かラノール・エッジウッド! 『飛竜騎士』のラノール!」

「よく知っているな。……そして知っているなら分かるだろう? 貴様が私に勝てないということを」

 そう、ラノールの『職』は『飛竜騎士』。鍛錬によって成る『上位職』の更に上、死に瀕した時にその才ある者のみが到達できる『職』の二段階進化を遂げた姿。
 飛竜を『召喚』し、共に戦う『召喚師』と『騎士』の特徴を併せ持つ『唯一職』だ。

「キヒャァ! 確かにその竜はこえーよ。こええこええ、アンタのお気に入りだったか? その炎を食べる竜は! キヒャヒャ、アタシの身体も食われちまうもんなァ!」

「ああ、その通り。……だが、炎を食べるだけじゃない、ぞ!」

 ヒラリと焔喰いに飛び乗り、同時にモルガフィーネに向けて攻撃する。焔喰いは火炎のブレス、ラノールは『飛斬撃』の強化技である『飛竜斬撃』。
 商店街一つは吹き飛ばせそうなそれらの攻撃を、モルガフィーネはニマニマと嗤いながら受け止める。

「キヒャァ! ……アタシに炎が効くかっつーの」

 ぼひゅん! と間の抜けた音と共に炎が彼女の手の中に吸い込まれていく。吸い込んだ炎に呼応するがごとく、背中の翼がさらに一対増え六枚となる。
 天使や悪魔……よりも蝶の方が近い姿となったモルガフィーネは、地面スレスレまで降下すると超高速でこちらへ突っ込んできた。

「キヒャヒャヒャヒャァ! アンタの攻撃はアタシに効かない! アタシの攻撃もアンタの竜には効かない! このままじゃァ千日手だ!」

「くっ……焔喰い!」

『ガルゥ!』

 ラノールは焔喰いと共に飛び立ち、モルガフィーネの撃ち出す炎を躱しながら背後に向かって『飛竜斬撃』を放った。
 しかしモルガフィーネは躱すことなく、ただただぐんぐんと速度を上げてこちらへ迫ってくる。

「必死だなァ……それもそうだよなァ! アタシの攻撃は竜に効かなくても――アンタには効くもんなァ! そこがアタシとアンタの違い! さァさァさァ勝負だ勝負だ勝負だ! アンタが喰うか、アタシが灼くか! どっちが先だろうなァ!」

 本来の力を隠していたのは向こうも同様か。モルガフィーネの最高速度は焔喰いのそれより速い。僅差だが、いずれ追い付かれるだろう。
 しかも後ろをとられている状況も悪い。上を取ろうにも反転した瞬間狙い撃ちされる。
 焔喰いを信じて攻勢に転じてもいいが――ここは安全策、しっかり後ろを取ってから一撃で決めよう。

「焔喰い!」

『グルゥ!』

 バサァ、と翼を広げ焔喰いが周囲に炎をまき散らす。目くらましにすらならないが、それに織り交ぜた『飛竜斬撃』で彼女の持つ短剣を狙う。

「チッ!」

 それを嫌ったモルガフィーネは一度大きく旋回する。

(……やっと数瞬、隙が出来たな)

 再び詠唱を始める。魔力が剣に集まり、今度は空中に魔法陣が現れた。

「『ドラゴン・チェンジ』! 来い、音超おとこえ!」

 焔喰いの前方に描かれた魔法陣を通ると同時に別の竜が現れる。音超え――風を受け、際限なく加速していく飛竜だ。

『ピキュリィィィィィ!』

 甲高い鳴き声をあげながら暴風を纏って現れた音超えは、ほんの少し笑みを浮かべるといきなり倍近い速度まで加速した。
 全身の色は快晴の空を思わせる透き通った蒼。前足は短く人の腕程しかないがその分翼が発達しており、二対の風を纏う翼がしっかりと空を掴む。眼は焔喰いと違い二つだけだが、額に角が生えている。ユニコーンを思わせるそれは風を感知し視力が役に立たない超高速でも周囲を把握することが出来る。
 涼やかな口もとにもしっかりと鋭い牙が生えそろっているが、焔喰いと違って獰猛な印象ではなく美麗であると言いたくなる。

「それ、もっと速くだ音超え!」

 グンと速度を上げたラノールを見て、嫌悪感を露わに舌打ちするモルガフィーネ。

「っ! 逃げる気か!?」

 そんなわけがない。
 そんな程度のために――音超えを出したわけじゃない。

「キヒャァ! でも残念、この結界内に逃げ場なんて存在しねェよ! そらそら、逃げ過ぎだ――もう少しだぜ!」

 背後から射出される数々の炎の刃だが、風を利用した超音速飛行の中でも尋常ならざる高機動飛行によって全てを躱す音超え。部下によればほぼ直角に曲がっているように見える程らしい。

「チッ……すばしっこいなァ! 速いのが取り柄ってだけはありやがるなァ! キヒャァ!」

 ラノールもこの速度についていくために目を保護し動体視力が上がる『空眼くうがん』を発動させる。
 クリアになった景色を楽しむ余裕は残念だが無い。回避は音超えに任せラノールも『職スキル』で応戦する。
 物理攻撃が効かないモルガフィーネだが――その体に慣れているわけではないらしい。攻撃を躱そうとして踏みとどまるような様子が見える。
 そこが好機、ラノールは笑みを深めて音超えに命令する。

「私の合図で捻りこみだ。頼むぞ音超え」

『ピキュリィッ!』

 前方に歪みが見えてきた。結界の終着点だろう。

「GOだ、音超え」

「ピキュリッ!」

 ラノールの合図で音超えがほんの少しだけ速度を下げる。モルガフィーネには気づかれないようにほんの少しだけ。
 そのまま歪みの直前で後方に『飛竜斬撃』を飛ばしながら左斜め宙返りを行う。ぐんぐんと高度を上げていくラノールにモルガフィーネも加速して距離を詰めようと追いすがる。
 しかし――

(かかったな? 音超えの真骨頂は速度じゃない……その機動性であるということを思い知らせてやる!)

 ――宙返りの頂点に差し掛かったところで急ブレーキを、そのまま螺旋を描くように右方向へ。動線がズレた結果、モルガフィーネがラノールたちを追い越して前に出ることになる。

「なっ!?」

 モルガフィーネが驚いたように振り向くが遅い。音超えが再びトップスピードに戻ると同時にラノールは跳躍する。

「音超え!」

『ピキュリィ!』

 音超えの放つ風のブレスで更に加速。驚きに目を見開いているモルガフィーネにその速度のまま『職スキル』、『シールドバッシュ』を食らわせる。

「キヒャァ! アタシに物理攻撃は効かな――」

 得意げに言いかけたモルガフィーネだが、ラノールはそれを聞かず剣を一閃する。

「『竜斬』」

 斬!
 モルガフィーネは、シュボッ! と自身の炎で燃え尽きてしまった。
 瞬間、世界にヒビが入る。嫌な予感がしたラノールは急いで音超えを呼び寄せその上に乗った。
 パシャリーン……陶器が割れるように空間が砕け散る。その光景に一瞬目を奪われかけるが、敵の魔法に感動してどうすると気持ちを切り替える。
 着地し、音超えを労ってから戻す。周囲を見ると自分が一番乗りらしい。

「まあ当然ではあるか。……あまりにも相性が良すぎる」

 炎の身体など『竜斬』がある自分にとっては普通の肉体と大差ないのだから。
 ラノールの持つ『職スキル』の中で強力且つ万能な『竜斬』。その能力は『飛竜に乗っている間のみ、自分が召喚していない飛竜一体の特性を剣に乗せて攻撃することが出来る』というもの。
 それを用いて『焔喰い』の力を借りれば一瞬だ。何の苦労もない。
 恐らくモルガフィーネが使っていたあの短剣が無ければもっと早期に決着していたことだろう。

「……ん?」

 噂をすれば何とやら。何かが地面に落ちたので拾い上げると、あの短剣だ。
 何気なくそれを一振りしてみると、あのモルガフィーネが放っていたそれと全く同じ炎の刃が飛んだ。
 驚き、つい取り落としてしまう。

「普通の魔道具……魔武具ではない、のか?」

 魔法や魔武具は自分の管轄外だ。その筋の人間に解析してもらうことにしよう。
 腰のベルトに短剣を提げながらラノールは宙に浮く黒い結界を眺める。

(……アキラ、負けるな)

 そう心の中で呟いた瞬間――一つ、黒い結界が弾けた。
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