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第九章 王都救援なう
198話 キメ台詞なう
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「キアラ、それマジで言ってる? っていうか、そんな魔法……存在しうるの?」
普通の魔法師が言っているならまだしも、キアラがそう断言するなんて。
割と絶望的じゃないかな、それは。
「……ミスキアラ。冗談だとしたら流石に笑えないぞ」
さしものタローも顔を引きつらせている……というか、かなり険しい顔になっている。この中で唯一キアラがどういう魔法師か知らないラノールだけがあまり絶望していない。
キアラは一つ頷いてから結界を指さした。
「冗談ではない。原理的に、この結界を外部からの攻撃のみで破ることは不可能ぢゃ。本来であれば、の」
本来であれば。
わざわざそんな言い方をするってことは……
「うむ、結論から言うのであれば破壊することは可能ぢゃ。時間も無いし、簡潔に説明するぞ」
そう言ったキアラは俺に筋斗雲の高度を下げるように命じた。
活力煙の煙をゆらゆらと揺らしながら、俺は筋斗雲を下げていく。
「この結界は内部で楔を打ち込むことで維持しておる。楔によって、内部の魔物の魔力で結界を維持できるようにしているわけぢゃな。ぢゃが、既にその楔は破壊されているようぢゃ」
「それなら力ずくで壊せるってこと?」
「うむ。本来であれば楔が破壊されていなければ内部の魔物が無限にリポップするという最悪の結界なのぢゃが、今であれば大丈夫ぢゃ。とはいえのぅ……」
キアラが軽く魔力弾を結界に向かって放つ。
それは当たると同時に四散――せず、吸収されて跳ね返ってきた。
しかも威力が上がった状態で。
「っと」
俺が風の結界で防ぐと、キアラは煙管の煙を空に溶かす。
「この結界は『原理的に壊せるようになった』というだけで、強度や能力に変わりはないわけぢゃ。半端な攻撃では今のように簡単に跳ね返されてしまう」
ふむ、条件はクリアしていても普通に壊せるものではない、と。
「では今からやるべきことを説明しよう」
そうキアラは前置きすると、結界の一部に向けて指を鳴らした。
するとそこがぼんやりと円形に光り出す。
「この位置にお主らの最高火力を叩き込め」
「位置は関係あるの?」
「うむ。この位置に撃ち込むと面白いことが起きるんぢゃ」
面白いこととはなんだろうか。
しかし撃ち込むだけでいいのなら楽だ。俺は魔力を練る。
「とはいっても、本気の全力全開を出す必要は無いぞ。というか、恐らくお主らの本気でもこの結界を破壊するには足りん」
「じゃあどうするのさ、キアラ」
「取りあえず再び高度を上げよ。そして妾に簡単な魔法を撃て」
言われた通り、風を集めてキアラに撃ち出す。
すると彼女の前に赤紫の盾が浮かび上がり、俺の風弾を吸収、跳ね返してきた。今の挙動は……この結界のそれと同じだ。
「この結界も撃ってから跳ね返すまで少し時間がかかる。それを利用して……跳ね返された魔法を妾の結界で覆ってしまおうというわけぢゃ」
「それで無限反射させて威力を上げてぶち抜くってこと?」
「うむ、簡単ぢゃろう」
いや簡単かもしれないけど……。随分と力業だなぁ。
「俺たちらしいけどね。皆もそれでいい?」
俺はチラリと後ろを振り返る。
「私は何も問題ないぞ。放出系の技はあまり無いが」
「マスターの決定でしたら従います」
「ヨホホ! 問題は無いと思いますデスよ」
タローも特に何も言わず頷いた。
じゃあ――と思ったところで、ラノールが剣を振り上げる。
「その様子からして君らはよく共闘しているのだろう。であれば……私が合わせるよりも合わせて貰った方がいいはずだ。それでいいな?」
言うが速いか、ラノールは振り上げた剣に青色のエネルギーを集める。『職スキル』だ。
恐らく『飛斬撃』か『飛槍撃』系のスキルなんだろうが――さしもの俺たちも唐突過ぎて、慌てて大技の準備に入る。
「キョースケ、お主は必ず魔法にするのぢゃ」
「ん、了解」
シュリーは恐らく火炎を、リャンは魂、冬子は『飛斬撃』だろうし……風弾でいいか。
「ハァッ!」
空気が撓むほどの衝撃波をもって、ラノールの剣から青白いエネルギー弾が撃ち出される。Aランク魔物が数体は一撃で消し飛びそうな威力のそれからは怒りと焦りが感じられる。
……そんだけ王都が心配ってことだね。
「皆も続いて!」
「「「了解(デス)!」」」
タローが撃ち出した矢を核として、皆の攻撃を風でまとめる。
――ラノールの手の内がもっと見れるかと思ったんだけどね。
全力ではないとはいえ、小さい村なら消し飛ぶであろう攻撃が結界の一部に着弾する。それと殆ど同時にドームのようにしてキアラが包み込んだ。
「上手くいった? キアラ」
「うむ、成功ぢゃ。これで後は結界が壊れるのを待つだけぢゃな」
ドームの中で異様な魔力が膨れ上がっているのを感じる。……これ、先にドームの方が壊れそうなんだけど。
「心配はいらぬ。あちらの結界は内部の魔物の魔力を維持に使っていたのに対し、妾の作ったドームは内部の魔力を使っておる。同質の結界を寄生させているようなものぢゃな。元の結界より硬度は上ぢゃから、先に壊れるのは王都を覆う結界ぢゃ」
なるほど。
俺はニッと笑い、内部のエネルギーが膨れ上がっていくのを観察する。
「そろそろ?」
「そうぢゃな。結界が壊れると同時に直下へ行け。そこに魔族がおる。壊れる前に……入ってからの動きを少しお主に言っておこう」
「ん」
キアラからの指示を受けながら、俺たちはその瞬間を待つ。
待つ。
待つ。
待つ――
「今ぢゃ、全軍突撃!」
キアラが合図した瞬間――
「うおっ!」
――天まで届く光の塔がその場に顕現した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
突如現れた光の槍。
「なっ……!?」
天川が唖然とする暇もなく状況が動く。
天より降ってきたそれのあまりの光量に瞼を焼かれ、視界は奪われたものの……まず、圧倒的だった気配が消えたことを感じた。
何が起きた――なんて考える間もない。一縷の望みをかけて温水先生印のポーションを飲むと、みるみるうちに視界が回復する。
空を見ると王都を覆っていたあの結界が消えており、周囲の魔物たちは今のエネルギーで軒並み消え去っているようだ。
あまりの衝撃波だったからか辺りはもうもうと土煙が立ち込めており、ロケットの発射現場のようになっている。
何より驚くべきことは――
「オ、オレ様の、オレ様の……オレ様のデモンアシュラが……ッ!?」
『……ははっ、こいつは傑作だな。金剛杵が降ってきたか』
――なんと、脳天から貫かれ真っ二つになっていた。
ぐらりと倒れ――ることなく溶けていくデモンアシュラ。魔力は霧散し、魔魂石すら残らない。
「最強の魔物……あっけなかったな」
そう呟きながら、上空から七つの気配が降ってきていることを察知する。
そのうちの一つは――とてもとてもよく知っているもので。
そのうちの一つは――思い出す度に悔しくなる気配で。
『やれやれ、美味しいところだけ持っていくやつだ』
ズダンッ!!!!!!!
天川と志村ロボットの前に、七つの気配が着地する。
「『頂点超克のリベレイターズ』、現着」
「「「現着!」」」
「『黒』のアトラ、現着」
「第一騎士団団長、ラノール・エッジウッド推参! 魔族ども……覚悟しろ!」
ぶわっ! 彼らが着地した衝撃でもうもうと立ち込めていた土煙が晴れる。
「……本当に、ギリギリだった……けど、ありがとう。来てくれて」
それと同時に……ホッ、と体が軽くなった。
なるほど、自分は予想以上にプレッシャーを感じていたらしい。
「ラノールさん、お帰りなさい」
「ただいま、アキラ」
そうやって見せてくれた笑顔は。
どこまでも、どこまでも頼もしかった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「さて……魔族ってあの四人、みたいだね」
着地して上空を見上げながらそう呟く。
空中に浮かぶ魔族は四人。そのうち二人が男で二人が女。誰もかれも実力者であることはすぐにわかる。
(……下手に動けば先にこっちがやられる。一人でも落とされて調子に乗らせるのはマズいね。向こうも同じことは思ってるだろうけどさ)
活力煙を燃やし尽くし、新しいものを咥えて……煙を吐き出した。
「ふぅ~……見知った顔が一つと初めましてが三つか。割とすぐ会えたね、ブリーダ」
物凄い形相で睨みつけてくる男。
魔物使いギギギこと、ブリーダだ。
「ギッギッギ……キョースケェ……キョースケェ、キョォォォォォォォォォスケェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!! テメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!」
物凄い殺気。
ビリビリと叩きつけられるそれを柳のごとく受け流すが――かといって、魔族たちは誰も隙を見せていない。本当に、面倒な。
ブリーダはまるで血の涙を流しているかのごとく空に向かって哭く。
「テメェを狙った時ならいい! だが、だがッッッッ! 今回は違う、違うんだよォォォ! テメェじゃねェんだ! 殺してェのはテメェじゃねェ! なのになんで……オレ様の、アシュラデーモンをォォォォォォ!!!! いつもいつもいつも! オレ様の邪魔しやがってェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
意味の分からないことを。
俺はそっとキアラの前に立ち――彼女の挙動を魔族から隠す。
「キアラ。お願い」
「うむ」
パチン。
フィンガースナップの音。それはキアラが魔法を使った合図。
目にもとまらぬ速さで俺たちはキアラの結界に包まれる。大きさは……東京ドームくらいかな。
「「「!?」」」
ブリーダ以外の三人の魔族が驚いた表情で固まる。俺の情報は仮にあったとしてもキアラの情報は無いでしょ。
『なるほど、これで確実に狩るってわけか……』
ぷしゅぅーっ。
後ろでそんな音がして……巨大ロボットから。巨大ロボットからそんな声が。
……巨大ロボットから!
「何それ志村!!!」
「なんだそれは志村!」
『いいだろう。オレのとっておきだ』
「「うおおおおおおおおおお!」」
俺と冬子の声が重なる。テンションが爆上がりする。
巨大ロボットだって――っ!?
「後で乗せてよ、絶対!」
「わ、私も!」
『もちろん。その前に……』
ハッチが開き、いつもの格好の志村が出てきた。プ〇グスーツ的なものは着ないらしい。
「魔族。うちの姫様の命令でな」
地面に着地した彼は、フッと銀縁眼鏡を中指で押し上げる。
「お前らを殺す。一人残らずな」
ドン! というSEがつきそうなほどドヤ顔をかます志村。
俺は少し笑ってから、彼の隣に立つ。
「そういうわけだ。逃げれると思わない方がいいね」
「魔族、年貢の納め時だ。覚悟しろ!」
天川も俺の横に並んだ。
……SランクAG二人に勇者、第一騎士団団長が並んでいるこの状況だというのに、ブリーダたちは特に絶望的な表情は見せていない。ブリーダ以外は怒ってすらいない。それが不気味だ。
(嫌な予感がするね)
何か、ある。
どのみち出し惜しみしていて勝てる相手じゃないか。俺は初っ端から飛ばそうと魔昇華をしようとして――志村が手で俺を制した。
そして一歩前に出ると……懐から何かを取り出す。
「平成一期は……変身前の特徴的なセリフが無いで御座るからなぁ」
ぽつりと呟く志村。
ニッと笑い、懐から取り出した物を顔の前に掲げる。
黒と銀を基調としており、ボタンとレバーがついた……なんだろう、近未来的でスタイリッシュなペンケース?
「戦うことが罪なら……オレが背負ってやる!」
そう叫んだ志村は、ペンケースのようなものを腰につける。それと同時に出てきたベルトが腰に巻き付いた。。
「イプシロン、起動!」
バックル部分のボタンを押すと、カシャンとベルトからレバーのようなものがL字になるように上がった。
『イプシロン起動。システムオールグリーン、エネルギー充填、オールセット』
キュイィィィィィィン……という機械音と同時にベルトからそんな音声が。
志村は両手を大きく広げると、円を描くように頭の上から一周させ……Jの字になるように右手を曲げて顔の前に、左手をベルトのバックル部分に添える。
「変身!」
左手でレバーを倒した瞬間、ベルトから緑色のチューブのようなものが彼の身体を伝うように伸び、ピカッ! と眩い光に包まれる。
その光がやむと、彼の身体はくすんだ黒に深緑のラインが入った鎧で武装していた。メタリックな光沢と渋い色の組み合わせのせいで迷彩柄のような色合いに見える。
顔の部分から二本の角が生えており、Yの字のようになっている。その横に少し尖ったクリアパーツが使われており、恐らくあそこから前を見ているのだろう。
腰の左右に二丁の拳銃が吊り下げられており、色合いとシャープなデザインと相まって軍服のようにも見える。
そして全体的な色合いとデザインは……クワガタムシのようだ。
だがそんなことはどうでもいい。いや、そんなことだからこそ食いつくべきところはたくさんあると言うべきか。
「「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
俺と冬子の声が重なる。
そりゃだって……目の前で!
変身したら!
誰だってこうなる!
「何それ志村!!」
「カッコいい……カッコいいぞ志村!」
『いいですわー、ミリオーっ!』
『か、カッコいいですナイトさん!』
「これは『マスクドパワードスーツ』ver.イプシロン。通称、イプシロンだ!」
腕を払うように手首をスナップさせ、そのまま一回転してビシッと指をさす。
その光景にロボットからは再び黄色い声が聞こえ、俺と冬子のテンションが天元突破する。
「俺も……変身!」
俺は自分の周囲を炎の竜巻で囲い、その中で魔昇華を完了させる。
片角が生え、せっかくなので肩と踵、あとは胸部から炎を出した状態で竜巻を解くと……槍を三度回転させてから上空を――否、天を指さす。
「おばあちゃんが言っていた。まずい飯屋と悪の栄えた試しは無い、ってな」
そしてドーン! と背後を爆発させてみた。リャンがビックリして耳をピン! と立てているけど気にしない。
「……やっぱいいで御座るな、自前でエフェクトが出せる人は……」
「京助! 私も!」
「いいよ」
俺が冬子の要望に応えて彼女の身体を轟風で隠す。
そして数秒経ったところで……彼女は跳躍して直接出てきた。
肉体を魂で多い、上半身にマントが増えている。よく見るとブーツも今までのものではなく、黒の編み上げブーツ。
そして何より……腰に提げられた剣が、刀になっている。
着地した冬子は顔の前で一度左手首をくるりと回し、そのまま魔族に向かって突き付ける。
「さぁ……お前の罪を数えろ!」
せっかくなので彼女の背後から風を轟! と吹かせる。風で煽られたからかリャンが自分の服の裾を押さえてるけど気にしない。
「「「…………」」」
俺たち三人の視線がとある一人に注がれる。
それに気づいた彼は、真剣な表情を崩して自分を指さす。
「えっ?」
「次は天川の番でしょ?」
「えっ、えっ?」
天川の方を三人でジッと見てると、彼はほんの少しだけ気まずそうな顔になり……小声で「変身」と呟いた。
バチバチ! と稲妻のようなものが奔って、身体が金色のオーラに包まれる。
そして俺と志村、冬子の顔を一度ずつ見てから……絞り出すように魔族にむかって指を突き付けた。
「つ、月に代わってお仕置きだ!」
………………。
…………。
……。
「いやそれは無い」
「あり得ない」
「チョイスがおかしい」
「仕方が無いだろう!? もう覚えてないぞ俺は! 二代目は大好きだったが、それ以降は見てないし……!」
あ、元ネタはぼんやり分かってるんだ。二代目のキメ台詞って何かなぁ……。
天川は羞恥からか顔を真っ赤にし、「とにかく!」と魔族に向かって剣を向ける。
「結界も張った、ブリーダ、ホップリィ、モルガフィーネ、タルタンク! 四人とも、逃げられると思うなよ!」
ブリーダたちはこちらを睨みながらも動いていない。
その様子はまるで何かを待っているようで……
(お互い、時間は稼ぎたかったってことなのかな)
チラリとキアラを見ると、いつも通り自信満々の顔で頷いた。
こっちの準備は出来たってことか。
「……言っておくが、私の矢から逃げられる生物はこの世にいない」
背後から、矢を番えたタローが出てくる。鋭い眼で魔族を睨みつけ――殺気をぶつける。
「君たちの勝利条件は私たちを倒すことだ」
「それ、勝利条件は無いって言ってるのと同じだよね」
「そうとも言うな」
ニヒルにほほ笑むタロー。しかし目は微塵も笑っていない。
ラノールも天川の隣に立つと……ミシリ! と地面に足をめり込ませた。
「……私は、王都で生まれた。人族を守るため、剣を磨いた。戦闘漬けの毎日の中、やっと愛する人と出会えた」
そしてラノールは……まるで火山のように殺気を噴出する。
激怒。激しく、怒る。
彼女と親しくない俺でも分かる。ラノールは心から激情に駆られている。
「その王都をここまでにしておいて……ただで死ねると思うな! 魔族ッッ!!!」
轟!
『力』が吹き荒れ、物理的な『圧』となって周囲に伝う。
最強の騎士様は……いやはや、凄まじいね。
「というわけだ。ブリーダ、覚悟の準備は出来た?」
「ギッギッギ……こっちのセリフだぜェ、キョースケ」
さて。
最初っからクライマックス――最終ラウンドの開始だ。
普通の魔法師が言っているならまだしも、キアラがそう断言するなんて。
割と絶望的じゃないかな、それは。
「……ミスキアラ。冗談だとしたら流石に笑えないぞ」
さしものタローも顔を引きつらせている……というか、かなり険しい顔になっている。この中で唯一キアラがどういう魔法師か知らないラノールだけがあまり絶望していない。
キアラは一つ頷いてから結界を指さした。
「冗談ではない。原理的に、この結界を外部からの攻撃のみで破ることは不可能ぢゃ。本来であれば、の」
本来であれば。
わざわざそんな言い方をするってことは……
「うむ、結論から言うのであれば破壊することは可能ぢゃ。時間も無いし、簡潔に説明するぞ」
そう言ったキアラは俺に筋斗雲の高度を下げるように命じた。
活力煙の煙をゆらゆらと揺らしながら、俺は筋斗雲を下げていく。
「この結界は内部で楔を打ち込むことで維持しておる。楔によって、内部の魔物の魔力で結界を維持できるようにしているわけぢゃな。ぢゃが、既にその楔は破壊されているようぢゃ」
「それなら力ずくで壊せるってこと?」
「うむ。本来であれば楔が破壊されていなければ内部の魔物が無限にリポップするという最悪の結界なのぢゃが、今であれば大丈夫ぢゃ。とはいえのぅ……」
キアラが軽く魔力弾を結界に向かって放つ。
それは当たると同時に四散――せず、吸収されて跳ね返ってきた。
しかも威力が上がった状態で。
「っと」
俺が風の結界で防ぐと、キアラは煙管の煙を空に溶かす。
「この結界は『原理的に壊せるようになった』というだけで、強度や能力に変わりはないわけぢゃ。半端な攻撃では今のように簡単に跳ね返されてしまう」
ふむ、条件はクリアしていても普通に壊せるものではない、と。
「では今からやるべきことを説明しよう」
そうキアラは前置きすると、結界の一部に向けて指を鳴らした。
するとそこがぼんやりと円形に光り出す。
「この位置にお主らの最高火力を叩き込め」
「位置は関係あるの?」
「うむ。この位置に撃ち込むと面白いことが起きるんぢゃ」
面白いこととはなんだろうか。
しかし撃ち込むだけでいいのなら楽だ。俺は魔力を練る。
「とはいっても、本気の全力全開を出す必要は無いぞ。というか、恐らくお主らの本気でもこの結界を破壊するには足りん」
「じゃあどうするのさ、キアラ」
「取りあえず再び高度を上げよ。そして妾に簡単な魔法を撃て」
言われた通り、風を集めてキアラに撃ち出す。
すると彼女の前に赤紫の盾が浮かび上がり、俺の風弾を吸収、跳ね返してきた。今の挙動は……この結界のそれと同じだ。
「この結界も撃ってから跳ね返すまで少し時間がかかる。それを利用して……跳ね返された魔法を妾の結界で覆ってしまおうというわけぢゃ」
「それで無限反射させて威力を上げてぶち抜くってこと?」
「うむ、簡単ぢゃろう」
いや簡単かもしれないけど……。随分と力業だなぁ。
「俺たちらしいけどね。皆もそれでいい?」
俺はチラリと後ろを振り返る。
「私は何も問題ないぞ。放出系の技はあまり無いが」
「マスターの決定でしたら従います」
「ヨホホ! 問題は無いと思いますデスよ」
タローも特に何も言わず頷いた。
じゃあ――と思ったところで、ラノールが剣を振り上げる。
「その様子からして君らはよく共闘しているのだろう。であれば……私が合わせるよりも合わせて貰った方がいいはずだ。それでいいな?」
言うが速いか、ラノールは振り上げた剣に青色のエネルギーを集める。『職スキル』だ。
恐らく『飛斬撃』か『飛槍撃』系のスキルなんだろうが――さしもの俺たちも唐突過ぎて、慌てて大技の準備に入る。
「キョースケ、お主は必ず魔法にするのぢゃ」
「ん、了解」
シュリーは恐らく火炎を、リャンは魂、冬子は『飛斬撃』だろうし……風弾でいいか。
「ハァッ!」
空気が撓むほどの衝撃波をもって、ラノールの剣から青白いエネルギー弾が撃ち出される。Aランク魔物が数体は一撃で消し飛びそうな威力のそれからは怒りと焦りが感じられる。
……そんだけ王都が心配ってことだね。
「皆も続いて!」
「「「了解(デス)!」」」
タローが撃ち出した矢を核として、皆の攻撃を風でまとめる。
――ラノールの手の内がもっと見れるかと思ったんだけどね。
全力ではないとはいえ、小さい村なら消し飛ぶであろう攻撃が結界の一部に着弾する。それと殆ど同時にドームのようにしてキアラが包み込んだ。
「上手くいった? キアラ」
「うむ、成功ぢゃ。これで後は結界が壊れるのを待つだけぢゃな」
ドームの中で異様な魔力が膨れ上がっているのを感じる。……これ、先にドームの方が壊れそうなんだけど。
「心配はいらぬ。あちらの結界は内部の魔物の魔力を維持に使っていたのに対し、妾の作ったドームは内部の魔力を使っておる。同質の結界を寄生させているようなものぢゃな。元の結界より硬度は上ぢゃから、先に壊れるのは王都を覆う結界ぢゃ」
なるほど。
俺はニッと笑い、内部のエネルギーが膨れ上がっていくのを観察する。
「そろそろ?」
「そうぢゃな。結界が壊れると同時に直下へ行け。そこに魔族がおる。壊れる前に……入ってからの動きを少しお主に言っておこう」
「ん」
キアラからの指示を受けながら、俺たちはその瞬間を待つ。
待つ。
待つ。
待つ――
「今ぢゃ、全軍突撃!」
キアラが合図した瞬間――
「うおっ!」
――天まで届く光の塔がその場に顕現した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
突如現れた光の槍。
「なっ……!?」
天川が唖然とする暇もなく状況が動く。
天より降ってきたそれのあまりの光量に瞼を焼かれ、視界は奪われたものの……まず、圧倒的だった気配が消えたことを感じた。
何が起きた――なんて考える間もない。一縷の望みをかけて温水先生印のポーションを飲むと、みるみるうちに視界が回復する。
空を見ると王都を覆っていたあの結界が消えており、周囲の魔物たちは今のエネルギーで軒並み消え去っているようだ。
あまりの衝撃波だったからか辺りはもうもうと土煙が立ち込めており、ロケットの発射現場のようになっている。
何より驚くべきことは――
「オ、オレ様の、オレ様の……オレ様のデモンアシュラが……ッ!?」
『……ははっ、こいつは傑作だな。金剛杵が降ってきたか』
――なんと、脳天から貫かれ真っ二つになっていた。
ぐらりと倒れ――ることなく溶けていくデモンアシュラ。魔力は霧散し、魔魂石すら残らない。
「最強の魔物……あっけなかったな」
そう呟きながら、上空から七つの気配が降ってきていることを察知する。
そのうちの一つは――とてもとてもよく知っているもので。
そのうちの一つは――思い出す度に悔しくなる気配で。
『やれやれ、美味しいところだけ持っていくやつだ』
ズダンッ!!!!!!!
天川と志村ロボットの前に、七つの気配が着地する。
「『頂点超克のリベレイターズ』、現着」
「「「現着!」」」
「『黒』のアトラ、現着」
「第一騎士団団長、ラノール・エッジウッド推参! 魔族ども……覚悟しろ!」
ぶわっ! 彼らが着地した衝撃でもうもうと立ち込めていた土煙が晴れる。
「……本当に、ギリギリだった……けど、ありがとう。来てくれて」
それと同時に……ホッ、と体が軽くなった。
なるほど、自分は予想以上にプレッシャーを感じていたらしい。
「ラノールさん、お帰りなさい」
「ただいま、アキラ」
そうやって見せてくれた笑顔は。
どこまでも、どこまでも頼もしかった。
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「さて……魔族ってあの四人、みたいだね」
着地して上空を見上げながらそう呟く。
空中に浮かぶ魔族は四人。そのうち二人が男で二人が女。誰もかれも実力者であることはすぐにわかる。
(……下手に動けば先にこっちがやられる。一人でも落とされて調子に乗らせるのはマズいね。向こうも同じことは思ってるだろうけどさ)
活力煙を燃やし尽くし、新しいものを咥えて……煙を吐き出した。
「ふぅ~……見知った顔が一つと初めましてが三つか。割とすぐ会えたね、ブリーダ」
物凄い形相で睨みつけてくる男。
魔物使いギギギこと、ブリーダだ。
「ギッギッギ……キョースケェ……キョースケェ、キョォォォォォォォォォスケェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!!!!!!!! テメェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!」
物凄い殺気。
ビリビリと叩きつけられるそれを柳のごとく受け流すが――かといって、魔族たちは誰も隙を見せていない。本当に、面倒な。
ブリーダはまるで血の涙を流しているかのごとく空に向かって哭く。
「テメェを狙った時ならいい! だが、だがッッッッ! 今回は違う、違うんだよォォォ! テメェじゃねェんだ! 殺してェのはテメェじゃねェ! なのになんで……オレ様の、アシュラデーモンをォォォォォォ!!!! いつもいつもいつも! オレ様の邪魔しやがってェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!!!!!」
意味の分からないことを。
俺はそっとキアラの前に立ち――彼女の挙動を魔族から隠す。
「キアラ。お願い」
「うむ」
パチン。
フィンガースナップの音。それはキアラが魔法を使った合図。
目にもとまらぬ速さで俺たちはキアラの結界に包まれる。大きさは……東京ドームくらいかな。
「「「!?」」」
ブリーダ以外の三人の魔族が驚いた表情で固まる。俺の情報は仮にあったとしてもキアラの情報は無いでしょ。
『なるほど、これで確実に狩るってわけか……』
ぷしゅぅーっ。
後ろでそんな音がして……巨大ロボットから。巨大ロボットからそんな声が。
……巨大ロボットから!
「何それ志村!!!」
「なんだそれは志村!」
『いいだろう。オレのとっておきだ』
「「うおおおおおおおおおお!」」
俺と冬子の声が重なる。テンションが爆上がりする。
巨大ロボットだって――っ!?
「後で乗せてよ、絶対!」
「わ、私も!」
『もちろん。その前に……』
ハッチが開き、いつもの格好の志村が出てきた。プ〇グスーツ的なものは着ないらしい。
「魔族。うちの姫様の命令でな」
地面に着地した彼は、フッと銀縁眼鏡を中指で押し上げる。
「お前らを殺す。一人残らずな」
ドン! というSEがつきそうなほどドヤ顔をかます志村。
俺は少し笑ってから、彼の隣に立つ。
「そういうわけだ。逃げれると思わない方がいいね」
「魔族、年貢の納め時だ。覚悟しろ!」
天川も俺の横に並んだ。
……SランクAG二人に勇者、第一騎士団団長が並んでいるこの状況だというのに、ブリーダたちは特に絶望的な表情は見せていない。ブリーダ以外は怒ってすらいない。それが不気味だ。
(嫌な予感がするね)
何か、ある。
どのみち出し惜しみしていて勝てる相手じゃないか。俺は初っ端から飛ばそうと魔昇華をしようとして――志村が手で俺を制した。
そして一歩前に出ると……懐から何かを取り出す。
「平成一期は……変身前の特徴的なセリフが無いで御座るからなぁ」
ぽつりと呟く志村。
ニッと笑い、懐から取り出した物を顔の前に掲げる。
黒と銀を基調としており、ボタンとレバーがついた……なんだろう、近未来的でスタイリッシュなペンケース?
「戦うことが罪なら……オレが背負ってやる!」
そう叫んだ志村は、ペンケースのようなものを腰につける。それと同時に出てきたベルトが腰に巻き付いた。。
「イプシロン、起動!」
バックル部分のボタンを押すと、カシャンとベルトからレバーのようなものがL字になるように上がった。
『イプシロン起動。システムオールグリーン、エネルギー充填、オールセット』
キュイィィィィィィン……という機械音と同時にベルトからそんな音声が。
志村は両手を大きく広げると、円を描くように頭の上から一周させ……Jの字になるように右手を曲げて顔の前に、左手をベルトのバックル部分に添える。
「変身!」
左手でレバーを倒した瞬間、ベルトから緑色のチューブのようなものが彼の身体を伝うように伸び、ピカッ! と眩い光に包まれる。
その光がやむと、彼の身体はくすんだ黒に深緑のラインが入った鎧で武装していた。メタリックな光沢と渋い色の組み合わせのせいで迷彩柄のような色合いに見える。
顔の部分から二本の角が生えており、Yの字のようになっている。その横に少し尖ったクリアパーツが使われており、恐らくあそこから前を見ているのだろう。
腰の左右に二丁の拳銃が吊り下げられており、色合いとシャープなデザインと相まって軍服のようにも見える。
そして全体的な色合いとデザインは……クワガタムシのようだ。
だがそんなことはどうでもいい。いや、そんなことだからこそ食いつくべきところはたくさんあると言うべきか。
「「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
俺と冬子の声が重なる。
そりゃだって……目の前で!
変身したら!
誰だってこうなる!
「何それ志村!!」
「カッコいい……カッコいいぞ志村!」
『いいですわー、ミリオーっ!』
『か、カッコいいですナイトさん!』
「これは『マスクドパワードスーツ』ver.イプシロン。通称、イプシロンだ!」
腕を払うように手首をスナップさせ、そのまま一回転してビシッと指をさす。
その光景にロボットからは再び黄色い声が聞こえ、俺と冬子のテンションが天元突破する。
「俺も……変身!」
俺は自分の周囲を炎の竜巻で囲い、その中で魔昇華を完了させる。
片角が生え、せっかくなので肩と踵、あとは胸部から炎を出した状態で竜巻を解くと……槍を三度回転させてから上空を――否、天を指さす。
「おばあちゃんが言っていた。まずい飯屋と悪の栄えた試しは無い、ってな」
そしてドーン! と背後を爆発させてみた。リャンがビックリして耳をピン! と立てているけど気にしない。
「……やっぱいいで御座るな、自前でエフェクトが出せる人は……」
「京助! 私も!」
「いいよ」
俺が冬子の要望に応えて彼女の身体を轟風で隠す。
そして数秒経ったところで……彼女は跳躍して直接出てきた。
肉体を魂で多い、上半身にマントが増えている。よく見るとブーツも今までのものではなく、黒の編み上げブーツ。
そして何より……腰に提げられた剣が、刀になっている。
着地した冬子は顔の前で一度左手首をくるりと回し、そのまま魔族に向かって突き付ける。
「さぁ……お前の罪を数えろ!」
せっかくなので彼女の背後から風を轟! と吹かせる。風で煽られたからかリャンが自分の服の裾を押さえてるけど気にしない。
「「「…………」」」
俺たち三人の視線がとある一人に注がれる。
それに気づいた彼は、真剣な表情を崩して自分を指さす。
「えっ?」
「次は天川の番でしょ?」
「えっ、えっ?」
天川の方を三人でジッと見てると、彼はほんの少しだけ気まずそうな顔になり……小声で「変身」と呟いた。
バチバチ! と稲妻のようなものが奔って、身体が金色のオーラに包まれる。
そして俺と志村、冬子の顔を一度ずつ見てから……絞り出すように魔族にむかって指を突き付けた。
「つ、月に代わってお仕置きだ!」
………………。
…………。
……。
「いやそれは無い」
「あり得ない」
「チョイスがおかしい」
「仕方が無いだろう!? もう覚えてないぞ俺は! 二代目は大好きだったが、それ以降は見てないし……!」
あ、元ネタはぼんやり分かってるんだ。二代目のキメ台詞って何かなぁ……。
天川は羞恥からか顔を真っ赤にし、「とにかく!」と魔族に向かって剣を向ける。
「結界も張った、ブリーダ、ホップリィ、モルガフィーネ、タルタンク! 四人とも、逃げられると思うなよ!」
ブリーダたちはこちらを睨みながらも動いていない。
その様子はまるで何かを待っているようで……
(お互い、時間は稼ぎたかったってことなのかな)
チラリとキアラを見ると、いつも通り自信満々の顔で頷いた。
こっちの準備は出来たってことか。
「……言っておくが、私の矢から逃げられる生物はこの世にいない」
背後から、矢を番えたタローが出てくる。鋭い眼で魔族を睨みつけ――殺気をぶつける。
「君たちの勝利条件は私たちを倒すことだ」
「それ、勝利条件は無いって言ってるのと同じだよね」
「そうとも言うな」
ニヒルにほほ笑むタロー。しかし目は微塵も笑っていない。
ラノールも天川の隣に立つと……ミシリ! と地面に足をめり込ませた。
「……私は、王都で生まれた。人族を守るため、剣を磨いた。戦闘漬けの毎日の中、やっと愛する人と出会えた」
そしてラノールは……まるで火山のように殺気を噴出する。
激怒。激しく、怒る。
彼女と親しくない俺でも分かる。ラノールは心から激情に駆られている。
「その王都をここまでにしておいて……ただで死ねると思うな! 魔族ッッ!!!」
轟!
『力』が吹き荒れ、物理的な『圧』となって周囲に伝う。
最強の騎士様は……いやはや、凄まじいね。
「というわけだ。ブリーダ、覚悟の準備は出来た?」
「ギッギッギ……こっちのセリフだぜェ、キョースケ」
さて。
最初っからクライマックス――最終ラウンドの開始だ。
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