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第五章 ターニングポイントなう
101話 敵同士なう
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ギィィィィィィン! と俺の槍と覇王の腕がせめぎ合い――吹き飛ばされる。
(――なんて出力!)
魔昇華して、魔法でブーストをかけてなお力負けする。この世界に来て初めての経験に思わず身震いしてしまう。
「クハッ! その程度か?」
「そんなわけ……ッ!?」
ゴッ、と俺の横を拳が通り過ぎる、間一髪――というか殆ど直感で躱した。ボ〇ゴレ十代目になった気分だね。
「いい反応じゃねえか!」
覇王は喜んだような声を出すが――完全に躱せたのは偶然だ。
氷を当てられたかのように背中が冷たい。もはや全身の汗は冷や汗に変わっている。
「くっ……」
さらに二度、三度と打ち合う。そう、今度は一応打ち合うことが出来ている。たとえ力負けしていても、半分以上直感で動いているとはいえ――なんとか、相手の攻撃を捌けてはいる。
覇王は素手で俺の攻撃を受けているが――斬れることはない。これは覇王が頑丈なのか、それとも何らかの種があるのか――。
左下から斬り上げると、覇王は刃の部分を下から殴りつけてそれをそらす。そして肘を俺のボディに叩き込んでくるが――『縮地』を発動させて地面をスライドして覇王の背後をとる。
それに喜んだのもつかの間、覇王はこちらを一切見ずに後ろ廻し蹴りを出してきた。プロレスかよ――と思う間も無く、予想外の攻撃だったため腹にもらってしまう。
「ぐふっ」
ミシリ――と嫌な音が体に響いた。
(カカカッ! アバラをヤッタナァ!)
(あばら骨なんて何本もあるんだ。一本くらいくれてやるさ!)
腹に覇王の蹴りが突き刺さったまま、俺は槍を首元に突き出す。生憎それは躱されるが無理な体勢で躱した覇王の身体が一瞬止まった。
その好機を逃さず俺は突き出した槍をそのまま背中に叩きつけた。
「ふっ!」
「ぬっ……クハハッ! 己に一発いれるたぁやるじゃねえか!」
しかし大して効いちゃいないのか、覇王は地面に手をついて逆立ちする要領で俺の顎を蹴り上げてくる。サマーソルトキックってやつだね。
顎にもろにもらってしまい――なんとか顎が砕けなかったものの、脳が揺れて平衡感覚を失い足元がふらついてしまった。
それを逃す覇王ではない。追撃として一歩踏み込んでくるが間一髪俺は『天駆』を発動させて、その場から飛び上がる。空中ならいくら足に来てようが風でどうにか体勢を維持できる。それと同時に風の結界を周囲に張り巡らせた。覇王を逃がさないために。空中から爆撃するために。
覇王もさすがに空までは追ってこれまい――
「空中戦が好みか? なら付き合う……ぜっ!」
――そう思っていた時期が俺にもありました。
ドッ! と覇王が地面から瞬間移動して俺の眼前に現れる。まるで時間が飛んだようだけど……どうも、ただジャンプしただけのようだ。なんて速度だ。
覇王の拳を寸前で躱し、俺はバク宙をしつつ蹴りで覇王の顎を狙う。
しかしそれは簡単に躱され、両手を組んだ打ち下ろし――ダブルスレッジハンマーを食らわせられた。
ガツン! と岩をぶつけられたような衝撃が頭に走るが、なんとかその場(空中だが)に踏みとどまる。魔昇華してなかったら今のでやられてたね。
その場からさらに空中へ飛び上がり、覇王の様子を伺おうと下を見ると――いくら覇王でも重力には逆らえないのか、落ちていった。
「クハッ! 空を飛ぶってのはなかなか楽しそうだな!」
覇王が落下しながら楽しそうな声を上げる。上空ならこっちが有利か――なら!
俺は周囲に火球を尋常じゃない数展開し、一斉に掃射する!
「あん? 鬼化したからそうじゃねえかと思ってたが――テメェ、本職は魔法使いか?」
覇王が不思議そうな声を上げるが関係ない。今、この場で焼き尽くす――ッ!!!
「いくよ……喰らい尽くせ――『パンドラ・ディヴァー』!!!!」
不可視の『力』が俺の手の中で暴れ出す。それを必死に制御して制御して――台風の如き荒々しい力を一条の槍として顕現させる。
『カカカッ! キョースケェ!! 骨は拾ウゼ!?』
「縁起でもないことを言わないでよ、ヨハネス! ありったけの魔力をまわせ!」
『カカカッ! アイヨォ!』
火球を生み出しながらヨハネスにそう言うと、周囲の魔力が俺の中へと流れ込んでくる。『パンドラ・ディヴァー』の封印帯が周囲の魔力を封印し、俺の魔力へと変換しているのだ。
「おおおおおおおおおお!!!」
思わず声が出る。今、この距離をとった状態で仕留めないと俺に勝ち目はない。
覇王の全方位から雨あられのように火球を降り注ぎ続ける。火球が列をなし――まるで火炎の竜かのようだ。
ドドドドドドドドド! と爆音が周囲に鳴り響く。森の大半が焼けてしまうかもしれない――が、そんなこと気にせず『エクスプロード・ファイヤ』を撃ち込みまくる。
もはや爆風のせいで地面が見えやしない。しかし風の結界で退路を断っているからこの爆風のど真ん中にいることは間違いない。
さらに風を操り、十本ほどの竜巻を作り出し――そこに『エクスプロード・ファイヤ』をこれでもかと言うほどに叩き込む。
「絨毯爆撃に加えて破滅の嵐だ……ッ! くたば……れっ!」
最後に特大級の火球を叩きこみ――ピカッ! ゴゴォォォォォッ! 猛烈な閃光が辺りを包み込んだ。
「はぁっ……はぁっ……やったか!?」
覇王には魔力が無い。厄介なことに。
風の結界内から出た反応は無かった。ということは確実に攻撃範囲内にいるはず――
「クハハッ!」
――びりっ、と。
先ほどまで感じていた圧力ではない。圧力を越えた何か――そう、殺気。
唐突に、俺を殺すという意思がその場に充満した。
「クハハッ、クハハハハッ……クハハハハハハハハハハハッ!!!」
聞こえてくる。もうもうと立ち込める煙の中から、上空にいる俺の耳まで届くほどの大きな高笑いが。
(生きて……ッ!)
一瞬、この場を離脱するかという考えが頭をよぎる。しかし、それはダメだと理性でなく本能が警鐘を鳴らした。
背を向けた瞬間、殺られる、と――!
「いいな! いいな! さいっこうにいい! クハハッ! 久々だ、これを使うのは!」
その刹那――黄色い光線がいきなり俺へ飛んできた。咄嗟に『パンドラ・ディヴァー』で封印したが、それは魔力によるものでは無かった。どちらかというと、『職スキル』に近いエネルギーだった。
「ヨハネス、解析をッ!」
『カカカッ! コリャ生命エネルギーダナァ! ソレヲ物質化シテ発射シテルモンだ!』
さらに何条もの光線が煙幕を突っ切ってこちらへ飛んでくる。それらを全て吸収して防ぐが――それに切り払われた煙幕から出てきた覇王の姿に、俺は固まってしまう。
「まさか……ねぇ、嘘、でしょ?」
「クハハッ! 久々だ、本当に久々だ――『魂』を使うのはよ!」
そこには――金色のエネルギーを見に纏った、無傷の覇王がたたずんでいた。
俺の全身全霊を籠めた攻撃が。
覇王に、掠り傷すら与えることが出来ないなんて!
「さぁて……テメェが獣人だったらうちの軍に連れて帰るんだが……生憎、うちは人族を入れない方針でな。あと何年かすりゃ楽しめそうだが、ここでテメェはしまいだ」
ひゅん、と風を切る音がした。何が起きたかまったく分からない。
しかし何か防ぐ動作をしなくちゃならない。直感にも似たその考えに従い、俺は頭部を守るように腕を上げた。次の瞬間、俺は地面に叩きつけられていた。
「ガッ……!」
咄嗟に風を纏って防いだが――防げたのは即死だけだ。全身に衝撃が走る。
(……な、ん……今、の……ッ!)
自分に何が起きたのかが分からない。どっちが地面でどっちが空なのかすらわからない。
腕が動かない。おそらく左腕が折れてるね、これ。
「クハッ! 今ので死なねえのかよ。すげぇ、すげえなテメェ。己がこの姿になって二発以上殴るなんてホントに何年ぶりだ?」
上機嫌な覇王の声。だがそれがどっちから聞こえてきているのかすらわからない。
ガシッ、と頭を掴まれた。そして持ち上げられる。
――ああ、なるほど。俺は死ぬのか。
死ぬのは……嫌だな。
「おらっ!」
意識が朦朧としたまま、腹部に向けられた拳を風の魔法でガードする。しかしそれでも衝撃を殺しきれるわけもなく――バキバキバキバキ! と何本もの木をへし折りながら吹き飛ばされた。
音からして十五本分――それも俺の魔法を喰らった範囲内には木なんて無かったんだから相当遠くまで――吹き飛ばされた俺は、もはや立ち上がる元気すらなかった。
「ったく、そんな状況になってまでまだ魔法を使えるのか……? ホントに己の部下に欲しかったくらいだ。テメェの名は覚えておく。キヨタ・キョースケだったな」
何者かの気配。いや、このタイミングで何者かの気配っていうのは覇王のそれでしかありえないだろう。
……でも、後ろから……?
「じゃあな、キョースケ。できれば……敵として出会いたくなかった」
なにかが降り降ろされる……その時、ギンッ! と激しい金属音が鳴り響いた。
俺は何もしていない。だって、まだ意識がふわふわとしているのだから。
なのに覇王の腕が止まっている。
これは……死にかけの俺が見ている夢、だろうか。それとも幻覚?
「よくやった……よくやったな。キョースケ」
きらりと陽光を反射する特徴的な頭。
飾り気のない、しかし見る者が見ればわかる業物の剣。
庇われた人を安心させてくれる背中。
そして何より――聞き慣れた、頼もしいその声。
俺の、この世界で出来た友達の――
「大丈夫だ。もう少しの辛抱だ」
「あ……?」
覇王の訝し気な声。
ということは……俺の幻覚じゃないんだろうか。
「マル……キム……?」
俺がぼんやりとした頭でそう呼ぶと、頼もしいハゲはニヤリと笑ってこちらへ振り返った。
「ああ、よく頑張ったなキョースケ。後は任せろ」
――絶対に、絶対に間に合わないと思っていた。
なのに、なのに――来てくれた。
ああなんて嬉しいんだろう。
友が助けに来てくれるなんて――
「は、は……」
「さあ、ここから先はオレが相手だ!」
こんな窮地に、マルキムが来てくれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ボロボロになっているキョースケを見て、本当に間に合ってよかったと安堵する。
拳を受け止めている剣に力を籠めながら、ギロリと睨みつける。
「何年ぶりだ……? ツァオ!」
そう呼びかけると――ツァオは、先ほどまでよりもさらに強い殺気をぶつけてきた。戦場で敵と対峙した時よりもさらに強い殺気だ。
「己をその名で呼ぶな。今の己は覇王だ。レオ」
レオ、と――。
ツァオ、いや覇王はマルキムのことをそう呼んだ。
(随分と懐かしい名だ……)
その名でマルキムのことを呼ぶ人間は殆どいない。
マルキムも覇王に殺気をぶつけ返し、剣で拳を押し返す。
「ツァオ――いや、覇王。その名は捨てた。SランクAG『金色』のレオンハルトはもういない。今のオレはただのマルキム。BランクAGだ」
覇王はそれに少しだけ寂しいような、納得したような表情を浮かべると、
「ああ、そうかい」
と吐き捨てた。
「……お互いあれから何年も経ってるんだ」
「クハッ! そうだな。立場も何もかも変わったな。己も、テメェも」
キョースケを庇うように立つマルキムを見て、覇王はスッと構えをとった。
マルキムも、静かに剣を構え直す。
「レオ……じゃねえな、マルキム。その状態のまま今の己と戦う気か?」
バチバチと、金色のオーラを纏う覇王が問いかけてくる。マルキムはフッと口元に笑みを浮かべると、少しだけ目を閉じた。
「そうだな……すまん」
そうしてマルキムは全身に力を籠める。
息を吐くのと同時に、全身の力を心臓へ、心臓へと集約させていく。
そして十分に集まったそれを、心臓の鼓動と共に今度は増幅させていく。
ドクン、ドクンと心臓が鼓動する度に、戦闘準備が整っていく。
「待たせたな……覇王」
「ああ。来い、マルキム」
そして轟! と力を解放させて自らに纏う。
覇王と同じ――金色の力を。
『魂』という、エネルギーを。
「……衰えちゃいないようだな、マルキム」
「そう言うお前は少し強くなったか?」
「ああ。……これでも己は獣人を統べる王だ。身分違いだが不敬だなんざ言わねぇ。全力でかかってこい!」
「はっ! そうさせてもらう」
ミシ、ミシと……周囲が二人の出す殺気のみで震えだす。
ヒラリ……と二人の間に葉が舞った。
二人とも一切動かない。お互いの緊張が際限なく高まっていく。しかしその緊張は、まるで空気を入れ過ぎた風船のように何らかの衝撃を受けるだけで破裂してしまうだろう。
「…………」
「…………」
永劫にも思えるその時間。一体何秒経っただろうか。
一分? いや一時間? おそらく数秒も無かっただろう。
覇王の口もとには、笑みが浮かんでいた。自分ではわからないが、恐らくマルキムもだろう。覇王は、まるでこれから先に起きるであろう戦いの結末が既に見えているかのようだ。そしてそれを分かっていてなお――楽しみなのだろう。
覇王の気持ちはよく分かる。何せそれは自分もなのだから。
「…………」
「…………」
二人の間をヒラリ、ヒラリと舞う葉が、ついに地面についた瞬間――戦いの火蓋は切られた。
「ハッ!」
「クハッ!」
ドガッギィィィィィィィィィィン!!!! と、オーガ同士――いや、まるでドラゴン同士がぶつかったかのような爆音が周囲に鳴り響く。
お互いがその衝撃を完全に受け止め、ニッと笑う。
「いくぞ覇王!」
「来やがれマルキム!」
弾かれるようにお互い飛びずさり、そこからもう一度打ち合う。二度、三度と打ち合っては離れ、打ち合っては離れという行為を繰り返し――先に動いたのは覇王だった。
地面すれすれまで体を下げると、伸びあがるようにして体ごと拳を叩きつけてきた。
尋常じゃない速度でされるそれだが、そんな大ぶりの攻撃が本命なわけがない。
マルキムはそれを剣で止めつつ――やはり攻撃が軽い。囮か――覇王の裏拳を屈むことで躱した。
さらに左廻し蹴りが来るが、それは後ろへ下がって避けつつ地面の砂を蹴り上げる。
「むっ」
覇王はそれを意に介さず突っ込んでくるが――ほんの少しだけ視界が遮られただけで十分だ。
マルキムはその瞬間に三つの斬撃を繰り出す。初歩的な『職スキル』である『三連斬り』――ただし、『魂』による強化を施したうえで放つとどうなるか。
右、左、上という三つの斬撃がほぼ同時に放たれる。右を止めれば左と上を防げず、左を止めれば右と上を防げない。当然、上だけ防いだところで無意味。
そんな無双の斬撃を、覇王はなんと全て躱した。それも紙一重で――数瞬でもズレれば斬られていたようなタイミングで。
「はっ!」
今度は覇王が目にもとまらぬ三連撃を繰り出してくる。ジャブ――なのだが、一撃一撃が必殺の威力を持つ拳を、果たしてジャブと呼んでいいのだろうか。
それらを剣で防ぎ、三発目を受け止めたところで目から『魂』を発射する。
覇王はそれをバックステップして躱し、その距離と同じだけまた踏み込み、腹への蹴りを叩きこんできた。
「クハッ――」
それを右手で掴み、覇王を片腕で持ち上げて――振り回す。
「ハハハッ!」
ブンブンと廻し、音が遅れて聞こえてくるくらいになったところで――
「てめ――マルキムヘェッ!」
――ガン! と地面に叩きつけるが、覇王はそれくらいじゃ一切ダメージを受けておらずすぐさま逆立ちで立ち上がり、マルキムへドロップキックを叩きこんでくる。
それを剣で受け止めると――轟! とその衝撃だけで周囲の木々が吹き飛んでしまった。
「本当にテメェはバカ力だな! マルキム!」
「そういうテメェはタフ過ぎるだろ! 覇王!」
マルキムの剣と覇王の拳が再びぶつかり合う。一撃、二撃と打ち合う度にその衝撃で周りの木は消し飛んでいく。
振り下ろした剣は横にスライドして躱され、覇王の蹴りがマルキムの腹部に命中する。
「がぁ……」
「クハッ! おいおい、こんなもんか!?」
「まだに……決まってるだろうが!」
その足を気合と『魂』で吹き飛ばし、首を狙って剣を振るう。
一閃――しかし、それは覇王の反射神経によってあっさりと避けられてしまった。
「クハッ! 己にそんな大ぶりな攻撃が当たるとでも?」
「ケッ、言ってやがれ」
さらに回転数を上げて剣を振るう。
「ふはっ」
「クハッ!」
二人の笑い声と剣戟の音だけが周囲に響き渡る。
マルキムの剣は躱され、覇王の拳は防がれる。まさに一進一退の攻防。
しかし――。
(ふっ……)
マルキムは、気づいていた。
いや、始める前から知っていたというべきか。
(キョースケ……、お前だけは逃がしてやる。もう少し待てば、回復魔法を使える魔法師が来るはずだ)
マルキムは剣から『魂』のエネルギー衝撃波を繰り出すが、覇王も同じものを拳から撃ちだして相殺する。
マルキムが下から斬り上げると、覇王はそれを防ぎ少し宙に浮かぶ。ニヤリと笑った覇王のアッパーを防いだマルキムが今度は地面から浮かんだ。
お互いが下から下から攻撃を繰り出し――どんどん地面が遠ざかっていく。
「クハッ!」
「いくぜ!」
ツァオは覇王となり、マルキム・レオンハルトはただのマルキムとなった。
それでも譲れないものはある。
「マルキム」
空中で斬り合いながら、覇王はぼそりと語り掛けてきた。
「テメェはもう……己のライバルじゃねえ」
「……そうだな」
強烈な一撃を――上から来るそれをなんとか防ぐが、しかし地面へと落下してく。そこに覇王からの追撃。
「チッ――」
マルキムは『魂』を地面に掃射し、一瞬だけブースターとして覇王へ斬りかかる。
「己と」
「オレは」
覇王のダブルスレッジハンマーにマルキムの剣がぶつかり合う。
ギィィィィィィン! と炸裂音が鳴り響きながら、空中で迫り合いになった。
お互いがお互いに向けて――『喰らって殺る』という獰猛な笑みを浮かべながら。
「「敵同士だ!」」
――熱く、熱く、燃え滾る。
命を、最後の一滴まで絞り尽くすような戦いは――
(――なんて出力!)
魔昇華して、魔法でブーストをかけてなお力負けする。この世界に来て初めての経験に思わず身震いしてしまう。
「クハッ! その程度か?」
「そんなわけ……ッ!?」
ゴッ、と俺の横を拳が通り過ぎる、間一髪――というか殆ど直感で躱した。ボ〇ゴレ十代目になった気分だね。
「いい反応じゃねえか!」
覇王は喜んだような声を出すが――完全に躱せたのは偶然だ。
氷を当てられたかのように背中が冷たい。もはや全身の汗は冷や汗に変わっている。
「くっ……」
さらに二度、三度と打ち合う。そう、今度は一応打ち合うことが出来ている。たとえ力負けしていても、半分以上直感で動いているとはいえ――なんとか、相手の攻撃を捌けてはいる。
覇王は素手で俺の攻撃を受けているが――斬れることはない。これは覇王が頑丈なのか、それとも何らかの種があるのか――。
左下から斬り上げると、覇王は刃の部分を下から殴りつけてそれをそらす。そして肘を俺のボディに叩き込んでくるが――『縮地』を発動させて地面をスライドして覇王の背後をとる。
それに喜んだのもつかの間、覇王はこちらを一切見ずに後ろ廻し蹴りを出してきた。プロレスかよ――と思う間も無く、予想外の攻撃だったため腹にもらってしまう。
「ぐふっ」
ミシリ――と嫌な音が体に響いた。
(カカカッ! アバラをヤッタナァ!)
(あばら骨なんて何本もあるんだ。一本くらいくれてやるさ!)
腹に覇王の蹴りが突き刺さったまま、俺は槍を首元に突き出す。生憎それは躱されるが無理な体勢で躱した覇王の身体が一瞬止まった。
その好機を逃さず俺は突き出した槍をそのまま背中に叩きつけた。
「ふっ!」
「ぬっ……クハハッ! 己に一発いれるたぁやるじゃねえか!」
しかし大して効いちゃいないのか、覇王は地面に手をついて逆立ちする要領で俺の顎を蹴り上げてくる。サマーソルトキックってやつだね。
顎にもろにもらってしまい――なんとか顎が砕けなかったものの、脳が揺れて平衡感覚を失い足元がふらついてしまった。
それを逃す覇王ではない。追撃として一歩踏み込んでくるが間一髪俺は『天駆』を発動させて、その場から飛び上がる。空中ならいくら足に来てようが風でどうにか体勢を維持できる。それと同時に風の結界を周囲に張り巡らせた。覇王を逃がさないために。空中から爆撃するために。
覇王もさすがに空までは追ってこれまい――
「空中戦が好みか? なら付き合う……ぜっ!」
――そう思っていた時期が俺にもありました。
ドッ! と覇王が地面から瞬間移動して俺の眼前に現れる。まるで時間が飛んだようだけど……どうも、ただジャンプしただけのようだ。なんて速度だ。
覇王の拳を寸前で躱し、俺はバク宙をしつつ蹴りで覇王の顎を狙う。
しかしそれは簡単に躱され、両手を組んだ打ち下ろし――ダブルスレッジハンマーを食らわせられた。
ガツン! と岩をぶつけられたような衝撃が頭に走るが、なんとかその場(空中だが)に踏みとどまる。魔昇華してなかったら今のでやられてたね。
その場からさらに空中へ飛び上がり、覇王の様子を伺おうと下を見ると――いくら覇王でも重力には逆らえないのか、落ちていった。
「クハッ! 空を飛ぶってのはなかなか楽しそうだな!」
覇王が落下しながら楽しそうな声を上げる。上空ならこっちが有利か――なら!
俺は周囲に火球を尋常じゃない数展開し、一斉に掃射する!
「あん? 鬼化したからそうじゃねえかと思ってたが――テメェ、本職は魔法使いか?」
覇王が不思議そうな声を上げるが関係ない。今、この場で焼き尽くす――ッ!!!
「いくよ……喰らい尽くせ――『パンドラ・ディヴァー』!!!!」
不可視の『力』が俺の手の中で暴れ出す。それを必死に制御して制御して――台風の如き荒々しい力を一条の槍として顕現させる。
『カカカッ! キョースケェ!! 骨は拾ウゼ!?』
「縁起でもないことを言わないでよ、ヨハネス! ありったけの魔力をまわせ!」
『カカカッ! アイヨォ!』
火球を生み出しながらヨハネスにそう言うと、周囲の魔力が俺の中へと流れ込んでくる。『パンドラ・ディヴァー』の封印帯が周囲の魔力を封印し、俺の魔力へと変換しているのだ。
「おおおおおおおおおお!!!」
思わず声が出る。今、この距離をとった状態で仕留めないと俺に勝ち目はない。
覇王の全方位から雨あられのように火球を降り注ぎ続ける。火球が列をなし――まるで火炎の竜かのようだ。
ドドドドドドドドド! と爆音が周囲に鳴り響く。森の大半が焼けてしまうかもしれない――が、そんなこと気にせず『エクスプロード・ファイヤ』を撃ち込みまくる。
もはや爆風のせいで地面が見えやしない。しかし風の結界で退路を断っているからこの爆風のど真ん中にいることは間違いない。
さらに風を操り、十本ほどの竜巻を作り出し――そこに『エクスプロード・ファイヤ』をこれでもかと言うほどに叩き込む。
「絨毯爆撃に加えて破滅の嵐だ……ッ! くたば……れっ!」
最後に特大級の火球を叩きこみ――ピカッ! ゴゴォォォォォッ! 猛烈な閃光が辺りを包み込んだ。
「はぁっ……はぁっ……やったか!?」
覇王には魔力が無い。厄介なことに。
風の結界内から出た反応は無かった。ということは確実に攻撃範囲内にいるはず――
「クハハッ!」
――びりっ、と。
先ほどまで感じていた圧力ではない。圧力を越えた何か――そう、殺気。
唐突に、俺を殺すという意思がその場に充満した。
「クハハッ、クハハハハッ……クハハハハハハハハハハハッ!!!」
聞こえてくる。もうもうと立ち込める煙の中から、上空にいる俺の耳まで届くほどの大きな高笑いが。
(生きて……ッ!)
一瞬、この場を離脱するかという考えが頭をよぎる。しかし、それはダメだと理性でなく本能が警鐘を鳴らした。
背を向けた瞬間、殺られる、と――!
「いいな! いいな! さいっこうにいい! クハハッ! 久々だ、これを使うのは!」
その刹那――黄色い光線がいきなり俺へ飛んできた。咄嗟に『パンドラ・ディヴァー』で封印したが、それは魔力によるものでは無かった。どちらかというと、『職スキル』に近いエネルギーだった。
「ヨハネス、解析をッ!」
『カカカッ! コリャ生命エネルギーダナァ! ソレヲ物質化シテ発射シテルモンだ!』
さらに何条もの光線が煙幕を突っ切ってこちらへ飛んでくる。それらを全て吸収して防ぐが――それに切り払われた煙幕から出てきた覇王の姿に、俺は固まってしまう。
「まさか……ねぇ、嘘、でしょ?」
「クハハッ! 久々だ、本当に久々だ――『魂』を使うのはよ!」
そこには――金色のエネルギーを見に纏った、無傷の覇王がたたずんでいた。
俺の全身全霊を籠めた攻撃が。
覇王に、掠り傷すら与えることが出来ないなんて!
「さぁて……テメェが獣人だったらうちの軍に連れて帰るんだが……生憎、うちは人族を入れない方針でな。あと何年かすりゃ楽しめそうだが、ここでテメェはしまいだ」
ひゅん、と風を切る音がした。何が起きたかまったく分からない。
しかし何か防ぐ動作をしなくちゃならない。直感にも似たその考えに従い、俺は頭部を守るように腕を上げた。次の瞬間、俺は地面に叩きつけられていた。
「ガッ……!」
咄嗟に風を纏って防いだが――防げたのは即死だけだ。全身に衝撃が走る。
(……な、ん……今、の……ッ!)
自分に何が起きたのかが分からない。どっちが地面でどっちが空なのかすらわからない。
腕が動かない。おそらく左腕が折れてるね、これ。
「クハッ! 今ので死なねえのかよ。すげぇ、すげえなテメェ。己がこの姿になって二発以上殴るなんてホントに何年ぶりだ?」
上機嫌な覇王の声。だがそれがどっちから聞こえてきているのかすらわからない。
ガシッ、と頭を掴まれた。そして持ち上げられる。
――ああ、なるほど。俺は死ぬのか。
死ぬのは……嫌だな。
「おらっ!」
意識が朦朧としたまま、腹部に向けられた拳を風の魔法でガードする。しかしそれでも衝撃を殺しきれるわけもなく――バキバキバキバキ! と何本もの木をへし折りながら吹き飛ばされた。
音からして十五本分――それも俺の魔法を喰らった範囲内には木なんて無かったんだから相当遠くまで――吹き飛ばされた俺は、もはや立ち上がる元気すらなかった。
「ったく、そんな状況になってまでまだ魔法を使えるのか……? ホントに己の部下に欲しかったくらいだ。テメェの名は覚えておく。キヨタ・キョースケだったな」
何者かの気配。いや、このタイミングで何者かの気配っていうのは覇王のそれでしかありえないだろう。
……でも、後ろから……?
「じゃあな、キョースケ。できれば……敵として出会いたくなかった」
なにかが降り降ろされる……その時、ギンッ! と激しい金属音が鳴り響いた。
俺は何もしていない。だって、まだ意識がふわふわとしているのだから。
なのに覇王の腕が止まっている。
これは……死にかけの俺が見ている夢、だろうか。それとも幻覚?
「よくやった……よくやったな。キョースケ」
きらりと陽光を反射する特徴的な頭。
飾り気のない、しかし見る者が見ればわかる業物の剣。
庇われた人を安心させてくれる背中。
そして何より――聞き慣れた、頼もしいその声。
俺の、この世界で出来た友達の――
「大丈夫だ。もう少しの辛抱だ」
「あ……?」
覇王の訝し気な声。
ということは……俺の幻覚じゃないんだろうか。
「マル……キム……?」
俺がぼんやりとした頭でそう呼ぶと、頼もしいハゲはニヤリと笑ってこちらへ振り返った。
「ああ、よく頑張ったなキョースケ。後は任せろ」
――絶対に、絶対に間に合わないと思っていた。
なのに、なのに――来てくれた。
ああなんて嬉しいんだろう。
友が助けに来てくれるなんて――
「は、は……」
「さあ、ここから先はオレが相手だ!」
こんな窮地に、マルキムが来てくれた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ボロボロになっているキョースケを見て、本当に間に合ってよかったと安堵する。
拳を受け止めている剣に力を籠めながら、ギロリと睨みつける。
「何年ぶりだ……? ツァオ!」
そう呼びかけると――ツァオは、先ほどまでよりもさらに強い殺気をぶつけてきた。戦場で敵と対峙した時よりもさらに強い殺気だ。
「己をその名で呼ぶな。今の己は覇王だ。レオ」
レオ、と――。
ツァオ、いや覇王はマルキムのことをそう呼んだ。
(随分と懐かしい名だ……)
その名でマルキムのことを呼ぶ人間は殆どいない。
マルキムも覇王に殺気をぶつけ返し、剣で拳を押し返す。
「ツァオ――いや、覇王。その名は捨てた。SランクAG『金色』のレオンハルトはもういない。今のオレはただのマルキム。BランクAGだ」
覇王はそれに少しだけ寂しいような、納得したような表情を浮かべると、
「ああ、そうかい」
と吐き捨てた。
「……お互いあれから何年も経ってるんだ」
「クハッ! そうだな。立場も何もかも変わったな。己も、テメェも」
キョースケを庇うように立つマルキムを見て、覇王はスッと構えをとった。
マルキムも、静かに剣を構え直す。
「レオ……じゃねえな、マルキム。その状態のまま今の己と戦う気か?」
バチバチと、金色のオーラを纏う覇王が問いかけてくる。マルキムはフッと口元に笑みを浮かべると、少しだけ目を閉じた。
「そうだな……すまん」
そうしてマルキムは全身に力を籠める。
息を吐くのと同時に、全身の力を心臓へ、心臓へと集約させていく。
そして十分に集まったそれを、心臓の鼓動と共に今度は増幅させていく。
ドクン、ドクンと心臓が鼓動する度に、戦闘準備が整っていく。
「待たせたな……覇王」
「ああ。来い、マルキム」
そして轟! と力を解放させて自らに纏う。
覇王と同じ――金色の力を。
『魂』という、エネルギーを。
「……衰えちゃいないようだな、マルキム」
「そう言うお前は少し強くなったか?」
「ああ。……これでも己は獣人を統べる王だ。身分違いだが不敬だなんざ言わねぇ。全力でかかってこい!」
「はっ! そうさせてもらう」
ミシ、ミシと……周囲が二人の出す殺気のみで震えだす。
ヒラリ……と二人の間に葉が舞った。
二人とも一切動かない。お互いの緊張が際限なく高まっていく。しかしその緊張は、まるで空気を入れ過ぎた風船のように何らかの衝撃を受けるだけで破裂してしまうだろう。
「…………」
「…………」
永劫にも思えるその時間。一体何秒経っただろうか。
一分? いや一時間? おそらく数秒も無かっただろう。
覇王の口もとには、笑みが浮かんでいた。自分ではわからないが、恐らくマルキムもだろう。覇王は、まるでこれから先に起きるであろう戦いの結末が既に見えているかのようだ。そしてそれを分かっていてなお――楽しみなのだろう。
覇王の気持ちはよく分かる。何せそれは自分もなのだから。
「…………」
「…………」
二人の間をヒラリ、ヒラリと舞う葉が、ついに地面についた瞬間――戦いの火蓋は切られた。
「ハッ!」
「クハッ!」
ドガッギィィィィィィィィィィン!!!! と、オーガ同士――いや、まるでドラゴン同士がぶつかったかのような爆音が周囲に鳴り響く。
お互いがその衝撃を完全に受け止め、ニッと笑う。
「いくぞ覇王!」
「来やがれマルキム!」
弾かれるようにお互い飛びずさり、そこからもう一度打ち合う。二度、三度と打ち合っては離れ、打ち合っては離れという行為を繰り返し――先に動いたのは覇王だった。
地面すれすれまで体を下げると、伸びあがるようにして体ごと拳を叩きつけてきた。
尋常じゃない速度でされるそれだが、そんな大ぶりの攻撃が本命なわけがない。
マルキムはそれを剣で止めつつ――やはり攻撃が軽い。囮か――覇王の裏拳を屈むことで躱した。
さらに左廻し蹴りが来るが、それは後ろへ下がって避けつつ地面の砂を蹴り上げる。
「むっ」
覇王はそれを意に介さず突っ込んでくるが――ほんの少しだけ視界が遮られただけで十分だ。
マルキムはその瞬間に三つの斬撃を繰り出す。初歩的な『職スキル』である『三連斬り』――ただし、『魂』による強化を施したうえで放つとどうなるか。
右、左、上という三つの斬撃がほぼ同時に放たれる。右を止めれば左と上を防げず、左を止めれば右と上を防げない。当然、上だけ防いだところで無意味。
そんな無双の斬撃を、覇王はなんと全て躱した。それも紙一重で――数瞬でもズレれば斬られていたようなタイミングで。
「はっ!」
今度は覇王が目にもとまらぬ三連撃を繰り出してくる。ジャブ――なのだが、一撃一撃が必殺の威力を持つ拳を、果たしてジャブと呼んでいいのだろうか。
それらを剣で防ぎ、三発目を受け止めたところで目から『魂』を発射する。
覇王はそれをバックステップして躱し、その距離と同じだけまた踏み込み、腹への蹴りを叩きこんできた。
「クハッ――」
それを右手で掴み、覇王を片腕で持ち上げて――振り回す。
「ハハハッ!」
ブンブンと廻し、音が遅れて聞こえてくるくらいになったところで――
「てめ――マルキムヘェッ!」
――ガン! と地面に叩きつけるが、覇王はそれくらいじゃ一切ダメージを受けておらずすぐさま逆立ちで立ち上がり、マルキムへドロップキックを叩きこんでくる。
それを剣で受け止めると――轟! とその衝撃だけで周囲の木々が吹き飛んでしまった。
「本当にテメェはバカ力だな! マルキム!」
「そういうテメェはタフ過ぎるだろ! 覇王!」
マルキムの剣と覇王の拳が再びぶつかり合う。一撃、二撃と打ち合う度にその衝撃で周りの木は消し飛んでいく。
振り下ろした剣は横にスライドして躱され、覇王の蹴りがマルキムの腹部に命中する。
「がぁ……」
「クハッ! おいおい、こんなもんか!?」
「まだに……決まってるだろうが!」
その足を気合と『魂』で吹き飛ばし、首を狙って剣を振るう。
一閃――しかし、それは覇王の反射神経によってあっさりと避けられてしまった。
「クハッ! 己にそんな大ぶりな攻撃が当たるとでも?」
「ケッ、言ってやがれ」
さらに回転数を上げて剣を振るう。
「ふはっ」
「クハッ!」
二人の笑い声と剣戟の音だけが周囲に響き渡る。
マルキムの剣は躱され、覇王の拳は防がれる。まさに一進一退の攻防。
しかし――。
(ふっ……)
マルキムは、気づいていた。
いや、始める前から知っていたというべきか。
(キョースケ……、お前だけは逃がしてやる。もう少し待てば、回復魔法を使える魔法師が来るはずだ)
マルキムは剣から『魂』のエネルギー衝撃波を繰り出すが、覇王も同じものを拳から撃ちだして相殺する。
マルキムが下から斬り上げると、覇王はそれを防ぎ少し宙に浮かぶ。ニヤリと笑った覇王のアッパーを防いだマルキムが今度は地面から浮かんだ。
お互いが下から下から攻撃を繰り出し――どんどん地面が遠ざかっていく。
「クハッ!」
「いくぜ!」
ツァオは覇王となり、マルキム・レオンハルトはただのマルキムとなった。
それでも譲れないものはある。
「マルキム」
空中で斬り合いながら、覇王はぼそりと語り掛けてきた。
「テメェはもう……己のライバルじゃねえ」
「……そうだな」
強烈な一撃を――上から来るそれをなんとか防ぐが、しかし地面へと落下してく。そこに覇王からの追撃。
「チッ――」
マルキムは『魂』を地面に掃射し、一瞬だけブースターとして覇王へ斬りかかる。
「己と」
「オレは」
覇王のダブルスレッジハンマーにマルキムの剣がぶつかり合う。
ギィィィィィィン! と炸裂音が鳴り響きながら、空中で迫り合いになった。
お互いがお互いに向けて――『喰らって殺る』という獰猛な笑みを浮かべながら。
「「敵同士だ!」」
――熱く、熱く、燃え滾る。
命を、最後の一滴まで絞り尽くすような戦いは――
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