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第一章 異世界生活なう
2話 口論なう
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改稿 3話 口論なう
俺――清田京助は周囲の皆が一切疑うことなくステータスプレートに念じる姿を見て、少しだけ恐怖を覚える。
(……万が一、言う通りにしたら奴隷にされるかもしれないとか考えてないのかな)
ステータスプレートを見ると、そこには『名前』、『攻撃』、『防御』、『敏捷』、『体力』、『魔力』と……漢字で書かれている。
なんで漢字なんだろうと少し不思議に思うが、きっと俺の読み取った文字を脳内で勝手に漢字変換するチートとかを付与されてるんだろう。
周囲を見た感じ、いきなり奴隷にされたりすることなく、数字が浮かび上がっているだけのようなので俺もやってみる。
ステープレートがボウッと光ったかと思うと、なにやらスゴい勢いで文字が刻まれている。おお、これが俺のステータスか。どれどれ?
-------------------
名 前:清田 京助
『職』:槍使い
職 業:異世界人
攻 撃:700
防 御:700
敏 捷:700
体 力:700
魔 力:700
職スキル:三連突き,飛槍撃
使用魔法:無し
-------------------
……これは、凄いね。なんというか、かなりの高ステータス。
字面的に『飛槍撃』っていうのは……某死神代行みたいに斬激を飛ばせるんだろうね。それと、異世界人って職業なの?
皆のステータスを聞いたりしてみると、どうやら異世界人のステータスの平均は500程らしい。それにならうと、俺のステータスは中間くらいか。
バランスはとれてるし、なかなかいいんじゃないかな? とは思う。
「俺、拳闘士だった!」
白鷺が騒いでる。拳闘士? ……あぁ、この『職』ってところか。どうやら、この『職』とやらは戦闘スタイルを表してるようだ(もしくは称号とかの可能性もあるけど)。
俺の場合は槍使いか。
周りの皆に訊いてみると、どうやら槍使いは俺だけらしい。オンリーワンか。
他の奴らは、治癒術士みたいな魔法使い系とか、俺みたいな戦闘系、温水先生は科学者という明らかな非戦闘職だ。他にも非戦闘系の奴らが割といる。
異世界人って戦闘一辺倒じゃないんだね。
「志村は?」
「拙者は……『錬成師』で御座るか。スキルを見る限り鍛冶職で御座ろうな」
「おお、現代兵器チートが出来るね。良かったじゃん」
異世界モノのお約束、現代兵器チート。特に志村はミリオタだから、その知識を遺憾なく発揮出来るでしょ。
「はは、コレは楽しみで御座る」
……と、皆がステータスのことについて賑わっていると、一人だけ黙っている奴がいた。
天川だ。
ステータスが悪かったのかな? でも、天川のステータスが悪いなんてことは無いと思うけど。あいつはリア充だから。
どう見ても、主人公タイプだから。
そう思って俺が天川のステータスプレートをのぞき込むと……
「……え!?」
そこには驚きの数値が並んでおり、つい声を上げてしまう。
「「「………………」」」
俺の驚いた声を聞きつけて集まってきた奴らが、そろいもそろって絶句している。
なんだ、このステータス。特に魔力。圧倒的過ぎる……。
さっきまで「俺は割とステータス高い方なんじゃないかな?」とか思っていた自分が少し恥ずかしい。
「おぉ……なんということだ。神よ……」
涙ぐんだ王様。
そして始まる長々とした演説。しかし話が飛躍して『この国の防衛のために』的なニュアンスだったのに、いきなり魔族や亜人族を滅ぼす感じのニュアンスに早変わりしている。
……言ってる内容が、凄く作り話臭くって話が入ってこない。ゲームで言うならチュートリアル臭いというか、現状を話しているにしては異質な感じ。違和感とかじゃなくて、異物感。
そんな感想を抱いているせいで冷めた目で王様を見る俺だが、他の皆は違うらしい。興奮した様子で、王様の演説に聞き入っている。
二分ほどの演説が終わり「答えを聞かせてくれ」的な目で王様が天川を見る。
そしてクラスメイト達の目も天川に集まっている。やっぱり、どことなく天川の事をリーダーと思っているんだろうか?
天川は数十秒黙考した後に、重々しく口を開いた。
「……やりましょう。人族のために!」
「おお!」
王様が嬉しそうに立ち上がり、クラスメイト達も口々に「やってやる!」だの「やるか!」だの叫んでいる。
学生運動がオーバーヒートするときってこんな感じなのかな。よく知らないけど。
そんな集団を冷めた目で見ていたからか――それとも他の要因があったのか普段は俺になんて滅多に話しかけてこない天川が、俺の方を向いてさも当然のように言い出した。
「清田! お前も参加するんだよな!」
「え? いや、断るけど」
俺の返答に、その場にいた全員が固まる。
「……なんでだ?」
絞り出すように天川が言った。うん? そんなに意外なことかな?
「なんでって……さっき王様が言ってたじゃん。参加したくないならしなくていいって。だったら参加しないよ」
無理矢理参加させられるなら反発して喧嘩別れになっていただろうけど、参加しなくていいって言われてるなら喜んで参加しない。誰が好き好んでそんな面倒なことをせねばならないのか。
俺の返答が気にくわなかったのか、天川はこちらにツカツカと詰め寄ってきた。
「本気で言ってるのか?」
「冗談を言ってるように見えるの?」
へらっと笑って天川に言い返すと、天川の顔が一瞬で真っ赤になった。恐いね。
「……何か理由があるんだろうな」
言外に、「理由も無くこんなこと言ってるのかこのゲス」みたいな雰囲気を滲ませて天川が俺を詰問する。面倒だね、こいつ。
「理由? いくつかあるけど……言わなきゃ駄目なの?」
「当たり前だ!」
ドンドンヒートアップする天川。
というか、なんで天川が怒ってるんだろう。王様が怒るならまだ分かるけど、なんか変だね。俺は一つため息をつくと、王様の方へ向き直る。
「おい!」
「ちょっと待ってよ。あー……王様? いや、国王陛下とでも呼んだ方がいいですか?」
「王様で構いませぬ」
「じゃあ王様。今からいくつか質問していいですか?」
「どうぞ」
王様からお許しが出た。さて、何から訊こうか。
「まずは……戦争ってことは、俺達は亜人族や魔族と戦って殺さなきゃいけないんですよね?」
殺す、という単語に少し反応するクラスメイト達。
「そうなりますな」
「じゃあ次。亜人族や魔族は同一規格の鎧や剣を使っていましたか? それも、人族が作るのとは別物の武器を」
「えぇ。おそらく奴らが作ったであろう武器を使っています。戦いに来た者は全員武装していましたな」
怪訝な顔をしつつも、ちゃんと答えてくれる王様。
「……魔族や亜人族は戦術的な行動をとりますか?」
「勿論。以前の小競り合いでは手を焼かされました」
「こちらの言葉は通じますか?」
「はい」
王様の簡潔な答えに、俺は「なるほど」と一つ頷く。
「……じゃあやっぱり、亜人族と魔族は人なんだね」
俺のつぶやきに、今度は王様やその周りの人がもの凄い顔をした。なんか、異教徒、邪教徒……もっと言うなら、異分子を見るような眼だ。
俺がそれに構わず、さらに質問を続けようとしたら天川に遮られた。
「待て。今のはどういう意味だ」
「ん? 何が?」
「亜人族と魔族は人なんだな、というのだ」
「え? あぁ、単純なことだよ。さっきの質問の答えから、魔族も亜人族も、独自の言葉を使って互いに意思を疎通させて、さらに伝承もしていっているって事が分かるでしょ?」
「なんでだ」
「えっ? だって、戦術的な行動をとれるってことは、統率者が敵の動きを読んで味方を動かしてたってことでしょ? こんなん、意思の疎通方法が無きゃ無理じゃん。それに、武器って作るのは大変なんだよ? まして、同一規格の武器を大量生産するなんて、言語による意思疎通が可能じゃ無きゃ無理だよ」
テレパシーのような魔法的な何かで、イメージをそのまま伝えたり出来るのかもしれないけど……そうだとしても、ある程度の文化がなくちゃ武器の大量生産なんて無理だと思う。
「……それで?」
「で、言語による意思疎通が可能なのは前の世界では基本的に人間だけだった。ということは、亜人族も魔族も俺からしたら人と見なせるわけだよ。今の俺の認識としては、魔族は白人、亜人族は黒人、人族は黄色人種ってくらいの違いしかないと思ってる」
俺のその言葉に、また王様が顔を顰める。
天川は俺が何を言いたいのか分かってないのか、かなりイライラしている。しょうがない、最後まで言うか。
「それでさ、最初に訊いたでしょ? 『俺達は亜人族や魔族を殺さなきゃいけませんか』って。答えはYESだった。つまり――俺たちは、人を殺さなきゃいけないわけだ」
人を殺す。それは尋常じゃなく俺にとっては重たい話だ。
「俺には無理だよ。何も関係ない人を愛国心も無い国の戦争のために殺すなんて。正直、俺なんて犬や猫すら殺せないチキンだからね。人なんて、もっと無理だ」
「「「「!」」」」
今度こそ皆に戦慄が走った。
……その反応を見る限り、このことに考えが至って無かったみたいだね。戦争なんだから、そうなるに決まってるのに。
俺が呆れて皆を見渡していたら、王様が重々しく口を開いた。
「……いくら救世主様の一人とはいえ聞き捨てなりませぬな。亜人族、魔族が人? そんなはずがないでしょう! 奴らは血に飢えた魔物です! 我ら人族を奴隷にし! 殺すことに愉悦を覚えている! 我らをエサかなにかとしか思っていないような種族なのですぞ!」
声を荒げる王様。やっぱり民族対立が根深いんだろうな……地球でもあったし、どこでも民族対立が無くなることはないんだろう。
もう少し冷静になって欲しいもんだね――そう思いながら俺も言葉を返す。
「そんなの知りませんよ。それは貴方達が思ってることであり……たぶん魔族や亜人族が持っている人族への評価も似たようなものだと思いますから。さっき奴隷がどうのって言っていましたが……この国には、亜人族とか魔族の奴隷はいないんですか?」
自分でも口調がキツくなったことが分かる。不敬罪と言われないか少し不安に思ったが、まあいいと思考を振り払う。
口ごもる王様に、俺はなおも続ける。
「そ、それは……」
「人族が悪いとは言いませんよ。亜人族や魔族が悪いとも言えませんが……敵対してるってそういうことですからね。どちらも正義、もしくはどちらも悪だから戦争ってのは起きるものですから」
とある漫画の台詞を引用しつつ、俺は肩をすくめる。何の漫画かは忘れたが。
そんな俺の態度に苛立ったのか、またも天川が突っかかってきた。
「じゃあお前は! 自業自得なんだから人族は滅びろとでも言うつもりか!? 戦争が起きてもやり返さず、ただ従っていろとでも言うつもりか!?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。というか、なんでそうなるの? 別に戦争自体が悪いなんて言ってないし、お前らが命をかけて人族のために戦うってんならそれも止めない。ただ、俺は御免ってだけだよ」
「何故!」
「この国に思い入れも無ければ守りたい人もいないからだよ。もしもこれが日本で、日本を守るために戦えと言われたのなら俺は喜んで戦場に行くよ」
相当の恐怖はあるだろうけどね。
「日本は守りたいからね。けど、この国はそうじゃない。俺はこの国を守りたいなんて思わない。だから、戦いのモチベーションを保てないよ」
日本は俺の故郷であり親がいる。思い出の場所だってあるし、ラノベもある。なにより日本っていう国が俺は好きだ。その日本を守るためならば俺は戦うだろう。
でも、この国はそうじゃない。知り合いもいなければ愛着もない。ないないづくし。これを守りたいなんて到底思えない。
「そもそも、俺らって誘拐されてるんだよ?」
「ゆ、誘拐!?」
「そう、誘拐。拉致でもいいけど。……俺らの同意を得ずにこの世界に無理やり連れられてきてるんだから。これを誘拐と言わずして何と言うの?」
俺の言葉に天川がウっと黙る。よく見る展開ではあるし、読んでる側の時は「それは言わない約束だろ」みたいに思ってたけど……実際に自分がその立場になったら「はいそうですか」と許容できるものでもないらしい。
まあ、ちょっと極端な言い方かもしれないけどさ。
「なのに誘拐犯のために戦えって? お前らがどうかは知らないけど……俺は嫌かな。仮に王様が『全員戦わないと奴隷にするぞ』とか言うんだったら従わざるを得ないけど」
俺は戯けたように肩をすくめる。
しかしその後すぐにまじめな表情を作って天川を睨み付けた。
「でも、王様は戦わなくていいと言った。それなら俺は戦わない。そんなモンのために命をかけられないし、敵の命を奪えると思えない。……そもそも、お前がなんでそんなにモチベーションが高いのか俺には理解出来ないよ」
「……ッ!」
天川は俺の問いに、一瞬黙り、俯く。
――最後の言葉は、途中から天川に抱いていた疑問だ。異世界に転移したということに浮かれていたのなら分かる。
けど、こいつのコレは何かに取り憑かれてるみたいだ。
中々何も言わない天川を睨みつけること数秒、天川はギラリと目つきを鋭くした。
「力を持つ者が弱者を助けるのは義務だろうが!」
「……何それ。本気で言ってる?」
「当然だ。力を持つ者には相応の義務が発生する! 当たり前のことだろ!」
まるで「地球は太陽の周りを回ってる」みたいな、この世の真理を語るような口調で言う天川。
パッと王様を見てみるが、何かをさせてる気配はない。
……魔法で洗脳でもされてるのかと思ったけど、今は取り敢えず違うと判断しよう。というか、魔法とかってやっぱりあるんだよね、分かんないけど。
こんな様子では正論を言っても通じまい。熱くなってる時って冷静な考え方が出来ないからね。それなら、俺は俺の考えをぶつけさせて貰おう。
「……それは違うよ天川。力を持つ者には相応の義務が発生するんじゃない。力を持つ者には、権利とそれに付随する責任が発生するだけだ。『力の無い人を助ける』なんてまさにそれだね。力を持つ人は弱者を『助けるかどうか』を選択出来るだけだ。そして、その人を助けようが助けまいがその行動に責任が付くだけだ。これは義務なんかじゃないよ」
噛んで含めるようにゆっくりと言う。相手が早くまくし立ててくるからと言って、こっちまでヒートアップしたら泥沼だ。こちらからペースダウンさせねばならない。
「何を言ってるんだ! それは違う!」
「違わない。……もう、この話は互いに相容れないからこれ以上話しても無駄だよ」
俺は突き放すように言う。もう議論は打ち切りだと伝えるために。
「今、俺とお前がぶつけ合ってるのは感情だからね。相手を説得するためのものじゃない。だから、お前の駄々に俺を巻き込まないでよ」
我ながらえらく冷たい声が出た。やはり俺も少し苛立ってるんだろう。
「…………」
天川は納得していない目をしている。もしかすると、まだ何か言おうと考えているのかもしれない。
それなら、俺が先に言わせて貰おう。
「強い奴は弱い奴を守るって言ってたでしょ? なら、お前は俺より強いじゃん。俺の代わりに戦ってよ」
「に、逃げる気か! 卑怯者!」
「逃げる? あぁ、そうかもね。逃げることが卑怯だとも、悪いことだとも思わないけど」
「なんだとっ!?」
「逃げることは悪いことじゃないでしょ? たとえ逃げなかったとしたら、逃げなかった結果が出て、それに対処しなきゃいけない。逆に言うなら、逃げた結果起きることを自分で対処すればいいだけの話なんだからね」
そこで俺は言葉を切って、フフン、と鼻を鳴らして笑う。
「逃げることは悪でも卑怯でも無い。ただの選択の結果だ。だから俺は逃げさせてもらうよ。何より俺は弱くて無能なんでね。そういうことは、有能な奴に任せるよ」
それだけ言い放つと、もう一度王様に向き直る。
「で、だ。王様。後二つ質問してもいいですか?」
……一応敬語使っているとはいえこの口調でいいんだろうか。誰も何も言ってないから判断がつかないけど。
「……構いませぬ。何ですかな?」
王様の声が苦々しい。うーん、嫌われたかな?
「一つ。支援って言われてましたけど、具体的には何をしていただけるんですか?」
「路銀と剣や槍、鎧などの最低限の武装、そして我が国の一般常識や地図などが書かれた冊子……所謂ガイドブックですな。そちらをお渡しします。後は、いろいろなところに口利きをしておきますので、そちらを頼っていただくという形で。無論、我らの口添えが欲しい時はその都度言っていただければ、対応いたします」
「至れり尽くせりですね。後は……面会謝絶にしないでくれると助かりますね。もしかしたら俺が城下で有益な情報を拾えるかもしれないから」
「……当然です。いつでも、いくらでも連絡をとっていただいて結構」
ふぅ、今のところ思いつくのはこんなもんかな。
……あ、違う。もう一つあった。
「すいません、もう一つ質問。……俺らは元の世界に帰れるんですよね?」
スッと目を細めて王様を睨み付ける。
王様は、一瞬目に狼狽の色を見せるが、すぐに落ち着き払った声音に戻して俺達に向かって手を広げた。
「もちろんです。魔王、そして覇王を倒した暁には元の世界に帰れると主神様が仰っていましたからな」
「それなら安心しました。こんなに質問してすみませんでした」
「いえ、よいのです。……もしも他の方も質問があれば、いつでもお答えしますよ」
王様は最後にニコリと微笑み「とりあえず今日の所は皆様お休みください。詳しいお話は明日にしましょう。部屋は用意してありますので、どうぞおくつろぎください」と言って、さっさと部屋を出て行ってしまった。
唐突だなとは思うけど、俺の言葉が何か気に障ったのかもしれない。
亜人族と魔族を人って言った時に明らかに荒ぶってたしね、王様。
そんなことに妙に納得していると後ろの扉から執事服を着た老人が出てきて「皆様の寝室にご案内いたします」と無表情で言った。
俺はなんとなく、王様が出て行った方を見ながら苦笑するのであった。
俺――清田京助は周囲の皆が一切疑うことなくステータスプレートに念じる姿を見て、少しだけ恐怖を覚える。
(……万が一、言う通りにしたら奴隷にされるかもしれないとか考えてないのかな)
ステータスプレートを見ると、そこには『名前』、『攻撃』、『防御』、『敏捷』、『体力』、『魔力』と……漢字で書かれている。
なんで漢字なんだろうと少し不思議に思うが、きっと俺の読み取った文字を脳内で勝手に漢字変換するチートとかを付与されてるんだろう。
周囲を見た感じ、いきなり奴隷にされたりすることなく、数字が浮かび上がっているだけのようなので俺もやってみる。
ステープレートがボウッと光ったかと思うと、なにやらスゴい勢いで文字が刻まれている。おお、これが俺のステータスか。どれどれ?
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名 前:清田 京助
『職』:槍使い
職 業:異世界人
攻 撃:700
防 御:700
敏 捷:700
体 力:700
魔 力:700
職スキル:三連突き,飛槍撃
使用魔法:無し
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……これは、凄いね。なんというか、かなりの高ステータス。
字面的に『飛槍撃』っていうのは……某死神代行みたいに斬激を飛ばせるんだろうね。それと、異世界人って職業なの?
皆のステータスを聞いたりしてみると、どうやら異世界人のステータスの平均は500程らしい。それにならうと、俺のステータスは中間くらいか。
バランスはとれてるし、なかなかいいんじゃないかな? とは思う。
「俺、拳闘士だった!」
白鷺が騒いでる。拳闘士? ……あぁ、この『職』ってところか。どうやら、この『職』とやらは戦闘スタイルを表してるようだ(もしくは称号とかの可能性もあるけど)。
俺の場合は槍使いか。
周りの皆に訊いてみると、どうやら槍使いは俺だけらしい。オンリーワンか。
他の奴らは、治癒術士みたいな魔法使い系とか、俺みたいな戦闘系、温水先生は科学者という明らかな非戦闘職だ。他にも非戦闘系の奴らが割といる。
異世界人って戦闘一辺倒じゃないんだね。
「志村は?」
「拙者は……『錬成師』で御座るか。スキルを見る限り鍛冶職で御座ろうな」
「おお、現代兵器チートが出来るね。良かったじゃん」
異世界モノのお約束、現代兵器チート。特に志村はミリオタだから、その知識を遺憾なく発揮出来るでしょ。
「はは、コレは楽しみで御座る」
……と、皆がステータスのことについて賑わっていると、一人だけ黙っている奴がいた。
天川だ。
ステータスが悪かったのかな? でも、天川のステータスが悪いなんてことは無いと思うけど。あいつはリア充だから。
どう見ても、主人公タイプだから。
そう思って俺が天川のステータスプレートをのぞき込むと……
「……え!?」
そこには驚きの数値が並んでおり、つい声を上げてしまう。
「「「………………」」」
俺の驚いた声を聞きつけて集まってきた奴らが、そろいもそろって絶句している。
なんだ、このステータス。特に魔力。圧倒的過ぎる……。
さっきまで「俺は割とステータス高い方なんじゃないかな?」とか思っていた自分が少し恥ずかしい。
「おぉ……なんということだ。神よ……」
涙ぐんだ王様。
そして始まる長々とした演説。しかし話が飛躍して『この国の防衛のために』的なニュアンスだったのに、いきなり魔族や亜人族を滅ぼす感じのニュアンスに早変わりしている。
……言ってる内容が、凄く作り話臭くって話が入ってこない。ゲームで言うならチュートリアル臭いというか、現状を話しているにしては異質な感じ。違和感とかじゃなくて、異物感。
そんな感想を抱いているせいで冷めた目で王様を見る俺だが、他の皆は違うらしい。興奮した様子で、王様の演説に聞き入っている。
二分ほどの演説が終わり「答えを聞かせてくれ」的な目で王様が天川を見る。
そしてクラスメイト達の目も天川に集まっている。やっぱり、どことなく天川の事をリーダーと思っているんだろうか?
天川は数十秒黙考した後に、重々しく口を開いた。
「……やりましょう。人族のために!」
「おお!」
王様が嬉しそうに立ち上がり、クラスメイト達も口々に「やってやる!」だの「やるか!」だの叫んでいる。
学生運動がオーバーヒートするときってこんな感じなのかな。よく知らないけど。
そんな集団を冷めた目で見ていたからか――それとも他の要因があったのか普段は俺になんて滅多に話しかけてこない天川が、俺の方を向いてさも当然のように言い出した。
「清田! お前も参加するんだよな!」
「え? いや、断るけど」
俺の返答に、その場にいた全員が固まる。
「……なんでだ?」
絞り出すように天川が言った。うん? そんなに意外なことかな?
「なんでって……さっき王様が言ってたじゃん。参加したくないならしなくていいって。だったら参加しないよ」
無理矢理参加させられるなら反発して喧嘩別れになっていただろうけど、参加しなくていいって言われてるなら喜んで参加しない。誰が好き好んでそんな面倒なことをせねばならないのか。
俺の返答が気にくわなかったのか、天川はこちらにツカツカと詰め寄ってきた。
「本気で言ってるのか?」
「冗談を言ってるように見えるの?」
へらっと笑って天川に言い返すと、天川の顔が一瞬で真っ赤になった。恐いね。
「……何か理由があるんだろうな」
言外に、「理由も無くこんなこと言ってるのかこのゲス」みたいな雰囲気を滲ませて天川が俺を詰問する。面倒だね、こいつ。
「理由? いくつかあるけど……言わなきゃ駄目なの?」
「当たり前だ!」
ドンドンヒートアップする天川。
というか、なんで天川が怒ってるんだろう。王様が怒るならまだ分かるけど、なんか変だね。俺は一つため息をつくと、王様の方へ向き直る。
「おい!」
「ちょっと待ってよ。あー……王様? いや、国王陛下とでも呼んだ方がいいですか?」
「王様で構いませぬ」
「じゃあ王様。今からいくつか質問していいですか?」
「どうぞ」
王様からお許しが出た。さて、何から訊こうか。
「まずは……戦争ってことは、俺達は亜人族や魔族と戦って殺さなきゃいけないんですよね?」
殺す、という単語に少し反応するクラスメイト達。
「そうなりますな」
「じゃあ次。亜人族や魔族は同一規格の鎧や剣を使っていましたか? それも、人族が作るのとは別物の武器を」
「えぇ。おそらく奴らが作ったであろう武器を使っています。戦いに来た者は全員武装していましたな」
怪訝な顔をしつつも、ちゃんと答えてくれる王様。
「……魔族や亜人族は戦術的な行動をとりますか?」
「勿論。以前の小競り合いでは手を焼かされました」
「こちらの言葉は通じますか?」
「はい」
王様の簡潔な答えに、俺は「なるほど」と一つ頷く。
「……じゃあやっぱり、亜人族と魔族は人なんだね」
俺のつぶやきに、今度は王様やその周りの人がもの凄い顔をした。なんか、異教徒、邪教徒……もっと言うなら、異分子を見るような眼だ。
俺がそれに構わず、さらに質問を続けようとしたら天川に遮られた。
「待て。今のはどういう意味だ」
「ん? 何が?」
「亜人族と魔族は人なんだな、というのだ」
「え? あぁ、単純なことだよ。さっきの質問の答えから、魔族も亜人族も、独自の言葉を使って互いに意思を疎通させて、さらに伝承もしていっているって事が分かるでしょ?」
「なんでだ」
「えっ? だって、戦術的な行動をとれるってことは、統率者が敵の動きを読んで味方を動かしてたってことでしょ? こんなん、意思の疎通方法が無きゃ無理じゃん。それに、武器って作るのは大変なんだよ? まして、同一規格の武器を大量生産するなんて、言語による意思疎通が可能じゃ無きゃ無理だよ」
テレパシーのような魔法的な何かで、イメージをそのまま伝えたり出来るのかもしれないけど……そうだとしても、ある程度の文化がなくちゃ武器の大量生産なんて無理だと思う。
「……それで?」
「で、言語による意思疎通が可能なのは前の世界では基本的に人間だけだった。ということは、亜人族も魔族も俺からしたら人と見なせるわけだよ。今の俺の認識としては、魔族は白人、亜人族は黒人、人族は黄色人種ってくらいの違いしかないと思ってる」
俺のその言葉に、また王様が顔を顰める。
天川は俺が何を言いたいのか分かってないのか、かなりイライラしている。しょうがない、最後まで言うか。
「それでさ、最初に訊いたでしょ? 『俺達は亜人族や魔族を殺さなきゃいけませんか』って。答えはYESだった。つまり――俺たちは、人を殺さなきゃいけないわけだ」
人を殺す。それは尋常じゃなく俺にとっては重たい話だ。
「俺には無理だよ。何も関係ない人を愛国心も無い国の戦争のために殺すなんて。正直、俺なんて犬や猫すら殺せないチキンだからね。人なんて、もっと無理だ」
「「「「!」」」」
今度こそ皆に戦慄が走った。
……その反応を見る限り、このことに考えが至って無かったみたいだね。戦争なんだから、そうなるに決まってるのに。
俺が呆れて皆を見渡していたら、王様が重々しく口を開いた。
「……いくら救世主様の一人とはいえ聞き捨てなりませぬな。亜人族、魔族が人? そんなはずがないでしょう! 奴らは血に飢えた魔物です! 我ら人族を奴隷にし! 殺すことに愉悦を覚えている! 我らをエサかなにかとしか思っていないような種族なのですぞ!」
声を荒げる王様。やっぱり民族対立が根深いんだろうな……地球でもあったし、どこでも民族対立が無くなることはないんだろう。
もう少し冷静になって欲しいもんだね――そう思いながら俺も言葉を返す。
「そんなの知りませんよ。それは貴方達が思ってることであり……たぶん魔族や亜人族が持っている人族への評価も似たようなものだと思いますから。さっき奴隷がどうのって言っていましたが……この国には、亜人族とか魔族の奴隷はいないんですか?」
自分でも口調がキツくなったことが分かる。不敬罪と言われないか少し不安に思ったが、まあいいと思考を振り払う。
口ごもる王様に、俺はなおも続ける。
「そ、それは……」
「人族が悪いとは言いませんよ。亜人族や魔族が悪いとも言えませんが……敵対してるってそういうことですからね。どちらも正義、もしくはどちらも悪だから戦争ってのは起きるものですから」
とある漫画の台詞を引用しつつ、俺は肩をすくめる。何の漫画かは忘れたが。
そんな俺の態度に苛立ったのか、またも天川が突っかかってきた。
「じゃあお前は! 自業自得なんだから人族は滅びろとでも言うつもりか!? 戦争が起きてもやり返さず、ただ従っていろとでも言うつもりか!?」
「誰もそんなこと言ってないでしょ。というか、なんでそうなるの? 別に戦争自体が悪いなんて言ってないし、お前らが命をかけて人族のために戦うってんならそれも止めない。ただ、俺は御免ってだけだよ」
「何故!」
「この国に思い入れも無ければ守りたい人もいないからだよ。もしもこれが日本で、日本を守るために戦えと言われたのなら俺は喜んで戦場に行くよ」
相当の恐怖はあるだろうけどね。
「日本は守りたいからね。けど、この国はそうじゃない。俺はこの国を守りたいなんて思わない。だから、戦いのモチベーションを保てないよ」
日本は俺の故郷であり親がいる。思い出の場所だってあるし、ラノベもある。なにより日本っていう国が俺は好きだ。その日本を守るためならば俺は戦うだろう。
でも、この国はそうじゃない。知り合いもいなければ愛着もない。ないないづくし。これを守りたいなんて到底思えない。
「そもそも、俺らって誘拐されてるんだよ?」
「ゆ、誘拐!?」
「そう、誘拐。拉致でもいいけど。……俺らの同意を得ずにこの世界に無理やり連れられてきてるんだから。これを誘拐と言わずして何と言うの?」
俺の言葉に天川がウっと黙る。よく見る展開ではあるし、読んでる側の時は「それは言わない約束だろ」みたいに思ってたけど……実際に自分がその立場になったら「はいそうですか」と許容できるものでもないらしい。
まあ、ちょっと極端な言い方かもしれないけどさ。
「なのに誘拐犯のために戦えって? お前らがどうかは知らないけど……俺は嫌かな。仮に王様が『全員戦わないと奴隷にするぞ』とか言うんだったら従わざるを得ないけど」
俺は戯けたように肩をすくめる。
しかしその後すぐにまじめな表情を作って天川を睨み付けた。
「でも、王様は戦わなくていいと言った。それなら俺は戦わない。そんなモンのために命をかけられないし、敵の命を奪えると思えない。……そもそも、お前がなんでそんなにモチベーションが高いのか俺には理解出来ないよ」
「……ッ!」
天川は俺の問いに、一瞬黙り、俯く。
――最後の言葉は、途中から天川に抱いていた疑問だ。異世界に転移したということに浮かれていたのなら分かる。
けど、こいつのコレは何かに取り憑かれてるみたいだ。
中々何も言わない天川を睨みつけること数秒、天川はギラリと目つきを鋭くした。
「力を持つ者が弱者を助けるのは義務だろうが!」
「……何それ。本気で言ってる?」
「当然だ。力を持つ者には相応の義務が発生する! 当たり前のことだろ!」
まるで「地球は太陽の周りを回ってる」みたいな、この世の真理を語るような口調で言う天川。
パッと王様を見てみるが、何かをさせてる気配はない。
……魔法で洗脳でもされてるのかと思ったけど、今は取り敢えず違うと判断しよう。というか、魔法とかってやっぱりあるんだよね、分かんないけど。
こんな様子では正論を言っても通じまい。熱くなってる時って冷静な考え方が出来ないからね。それなら、俺は俺の考えをぶつけさせて貰おう。
「……それは違うよ天川。力を持つ者には相応の義務が発生するんじゃない。力を持つ者には、権利とそれに付随する責任が発生するだけだ。『力の無い人を助ける』なんてまさにそれだね。力を持つ人は弱者を『助けるかどうか』を選択出来るだけだ。そして、その人を助けようが助けまいがその行動に責任が付くだけだ。これは義務なんかじゃないよ」
噛んで含めるようにゆっくりと言う。相手が早くまくし立ててくるからと言って、こっちまでヒートアップしたら泥沼だ。こちらからペースダウンさせねばならない。
「何を言ってるんだ! それは違う!」
「違わない。……もう、この話は互いに相容れないからこれ以上話しても無駄だよ」
俺は突き放すように言う。もう議論は打ち切りだと伝えるために。
「今、俺とお前がぶつけ合ってるのは感情だからね。相手を説得するためのものじゃない。だから、お前の駄々に俺を巻き込まないでよ」
我ながらえらく冷たい声が出た。やはり俺も少し苛立ってるんだろう。
「…………」
天川は納得していない目をしている。もしかすると、まだ何か言おうと考えているのかもしれない。
それなら、俺が先に言わせて貰おう。
「強い奴は弱い奴を守るって言ってたでしょ? なら、お前は俺より強いじゃん。俺の代わりに戦ってよ」
「に、逃げる気か! 卑怯者!」
「逃げる? あぁ、そうかもね。逃げることが卑怯だとも、悪いことだとも思わないけど」
「なんだとっ!?」
「逃げることは悪いことじゃないでしょ? たとえ逃げなかったとしたら、逃げなかった結果が出て、それに対処しなきゃいけない。逆に言うなら、逃げた結果起きることを自分で対処すればいいだけの話なんだからね」
そこで俺は言葉を切って、フフン、と鼻を鳴らして笑う。
「逃げることは悪でも卑怯でも無い。ただの選択の結果だ。だから俺は逃げさせてもらうよ。何より俺は弱くて無能なんでね。そういうことは、有能な奴に任せるよ」
それだけ言い放つと、もう一度王様に向き直る。
「で、だ。王様。後二つ質問してもいいですか?」
……一応敬語使っているとはいえこの口調でいいんだろうか。誰も何も言ってないから判断がつかないけど。
「……構いませぬ。何ですかな?」
王様の声が苦々しい。うーん、嫌われたかな?
「一つ。支援って言われてましたけど、具体的には何をしていただけるんですか?」
「路銀と剣や槍、鎧などの最低限の武装、そして我が国の一般常識や地図などが書かれた冊子……所謂ガイドブックですな。そちらをお渡しします。後は、いろいろなところに口利きをしておきますので、そちらを頼っていただくという形で。無論、我らの口添えが欲しい時はその都度言っていただければ、対応いたします」
「至れり尽くせりですね。後は……面会謝絶にしないでくれると助かりますね。もしかしたら俺が城下で有益な情報を拾えるかもしれないから」
「……当然です。いつでも、いくらでも連絡をとっていただいて結構」
ふぅ、今のところ思いつくのはこんなもんかな。
……あ、違う。もう一つあった。
「すいません、もう一つ質問。……俺らは元の世界に帰れるんですよね?」
スッと目を細めて王様を睨み付ける。
王様は、一瞬目に狼狽の色を見せるが、すぐに落ち着き払った声音に戻して俺達に向かって手を広げた。
「もちろんです。魔王、そして覇王を倒した暁には元の世界に帰れると主神様が仰っていましたからな」
「それなら安心しました。こんなに質問してすみませんでした」
「いえ、よいのです。……もしも他の方も質問があれば、いつでもお答えしますよ」
王様は最後にニコリと微笑み「とりあえず今日の所は皆様お休みください。詳しいお話は明日にしましょう。部屋は用意してありますので、どうぞおくつろぎください」と言って、さっさと部屋を出て行ってしまった。
唐突だなとは思うけど、俺の言葉が何か気に障ったのかもしれない。
亜人族と魔族を人って言った時に明らかに荒ぶってたしね、王様。
そんなことに妙に納得していると後ろの扉から執事服を着た老人が出てきて「皆様の寝室にご案内いたします」と無表情で言った。
俺はなんとなく、王様が出て行った方を見ながら苦笑するのであった。
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