46 / 49
第八章「密会の二人」1
しおりを挟む
三学期のまだ寒い日が続くある日、唯花がいつものようにリラックスするためにくつろぎの場として利用している図書準備室にやって来ると、羽月が先客として訪れていた。
思わぬ人物の先客に唯花は少し驚いた様子であった。それもそのはず、羽月がこうして図書準備室にやって来るのは久方ぶりだ。
「あら、久しぶりね、羽月さん」
コンタクトレンズを付けたいつもの制服姿の羽月に、唯花は動揺を見せることなく変わらないこれまでの挨拶を続けた。
「あぁ、唯花さんごめんなさい。勝手にお邪魔しちゃってたわ」
羽月は唯花の反応を見て、礼儀を立てるためにも瞬時に断りを入れた。
この一般生徒がほとんど入ることのない図書準備室を私的に利用するのは久々ということもあり、唯花の気持ちも考えるべきと羽月は改めて思ったのだった。
「いいのよ、私達の仲でしょ。遠慮しないで」
唯花にとっても自分の場所という意識はないので、生徒会長代理が訪れることは私的に近い形でここを利用している身としてはむしろ歓迎するところであった。
唯花の気の利いた言葉に羽月は安心して、警戒心を解いて再びリラックスした姿勢に戻した。
「ありがとう、ここは静かで落ち着くから、好きなのよね」
少し懐かしさを感じながらイスに座り、ストーブの暖かさを唯花と共有しながら羽月は優しい笑みを浮かべた。
「うん、私も。こうして会うのは、ちょっと久しぶりかしら?」
「病院で少し顔を合わせたけど、二人きりで会うのは久しぶりよね」
話し始めるといつものように会話も親しみの込められた柔らかなものになり、この図書準備室で、真面目で普段から通っている二人がこっそりとお茶をしていたのが遠い昔のように感じ、羽月は懐かしく感傷的な気持ちになった。
「私、用事も終わってゆっくりしようと思ってたところなの。せっかくだから、羽月さん久々にご一緒にお茶していく?」
唯花は羽月の表情を伺いながら、丁寧な口調のまま言った。
「えぇ、もちろん。唯花さんもいつもお疲れ様。ハーブティーを持ってきたから、女子トークでもしましょう」
「いいわね。羽月さんも生徒会の活動、一段落したようだから丁度いいわね」
二学期の頃の慌ただしさを知っていた唯花はその大変さを労う意味でも、このお茶会に意義があると感じていた。
羽月は椅子から立ち上がってカップの準備をし、手早くティーパックを載せてストーブの上に置かれたやかんでお湯を注ぎ、湯気の立つカップを唯花に手渡す。
ハーブティーを入れるティーカップは先代から愛用して使われている上品な柄をした高級ブランド品のティーカップで、二人も気に入って使用している。
「カモミールの甘い薫り、素敵ね」
「でしょ? こうしてこっそり飲むのも粋なのよね」
愛嬌のある唯花の言葉を聞きながら再び羽月は椅子に戻り、互いに向かい合ってハーブティーの芳醇な香りを楽しんだ。
「何だか、今でも驚かされるようなことばっかりだったわね……」
ハーブティーを口に含み、息をついて上品にその味を確かめ、身体の内側から染み渡るようなリラックス効果を感じながら自然な笑みを浮かべ、羽月は一言呟いた。
遠く向こうを見るような瞳に、羽月の懐かしむような気持ちが込められていた。
棘のないその言葉を聞いて、唯花は羽月が浩二との失恋から大分立ち直っている様子に感じた。
「それは私も一緒よ。全部が唐突で、始まりも終わりも。私は二人の姿を遠くから見ていることしかできなかったけど」
唯花も同じようにほろ苦い風味のハーブティーを口に含んで、感傷的に羽月へ返答した。
「本当ね、私が浩二と付き合うことになるなんて、学園祭の前まで考えもしなかったから。
私はね、浩二は唯花さんに一生ついていくものだと思ってた。
それが当然のことみたいに見てたの。
だから、私が浩二と付き合ってしまうことで、二人が長い時間を掛けて作り上げてきた大切な関係を壊してしまうんじゃないかなって、本当に略奪してしまったのかなって不安だったわ。
本当のところをいえば、浩二と一緒にいるときに唯花さんに会うのが怖かった。自分たちが勝手に始めたことなのに、身勝手もいいところよね。
付き合った後で気にしても仕方のないことだって頭では分かってはいたけど、それでも、引け目を感じずにいられなかった」
羽月は女子同士お互いに遠慮しないという言葉通りに、自分の本音をぶつけた。
唯花は羽月の言葉を、身に沁みながら聞き入っていた。
思わぬ人物の先客に唯花は少し驚いた様子であった。それもそのはず、羽月がこうして図書準備室にやって来るのは久方ぶりだ。
「あら、久しぶりね、羽月さん」
コンタクトレンズを付けたいつもの制服姿の羽月に、唯花は動揺を見せることなく変わらないこれまでの挨拶を続けた。
「あぁ、唯花さんごめんなさい。勝手にお邪魔しちゃってたわ」
羽月は唯花の反応を見て、礼儀を立てるためにも瞬時に断りを入れた。
この一般生徒がほとんど入ることのない図書準備室を私的に利用するのは久々ということもあり、唯花の気持ちも考えるべきと羽月は改めて思ったのだった。
「いいのよ、私達の仲でしょ。遠慮しないで」
唯花にとっても自分の場所という意識はないので、生徒会長代理が訪れることは私的に近い形でここを利用している身としてはむしろ歓迎するところであった。
唯花の気の利いた言葉に羽月は安心して、警戒心を解いて再びリラックスした姿勢に戻した。
「ありがとう、ここは静かで落ち着くから、好きなのよね」
少し懐かしさを感じながらイスに座り、ストーブの暖かさを唯花と共有しながら羽月は優しい笑みを浮かべた。
「うん、私も。こうして会うのは、ちょっと久しぶりかしら?」
「病院で少し顔を合わせたけど、二人きりで会うのは久しぶりよね」
話し始めるといつものように会話も親しみの込められた柔らかなものになり、この図書準備室で、真面目で普段から通っている二人がこっそりとお茶をしていたのが遠い昔のように感じ、羽月は懐かしく感傷的な気持ちになった。
「私、用事も終わってゆっくりしようと思ってたところなの。せっかくだから、羽月さん久々にご一緒にお茶していく?」
唯花は羽月の表情を伺いながら、丁寧な口調のまま言った。
「えぇ、もちろん。唯花さんもいつもお疲れ様。ハーブティーを持ってきたから、女子トークでもしましょう」
「いいわね。羽月さんも生徒会の活動、一段落したようだから丁度いいわね」
二学期の頃の慌ただしさを知っていた唯花はその大変さを労う意味でも、このお茶会に意義があると感じていた。
羽月は椅子から立ち上がってカップの準備をし、手早くティーパックを載せてストーブの上に置かれたやかんでお湯を注ぎ、湯気の立つカップを唯花に手渡す。
ハーブティーを入れるティーカップは先代から愛用して使われている上品な柄をした高級ブランド品のティーカップで、二人も気に入って使用している。
「カモミールの甘い薫り、素敵ね」
「でしょ? こうしてこっそり飲むのも粋なのよね」
愛嬌のある唯花の言葉を聞きながら再び羽月は椅子に戻り、互いに向かい合ってハーブティーの芳醇な香りを楽しんだ。
「何だか、今でも驚かされるようなことばっかりだったわね……」
ハーブティーを口に含み、息をついて上品にその味を確かめ、身体の内側から染み渡るようなリラックス効果を感じながら自然な笑みを浮かべ、羽月は一言呟いた。
遠く向こうを見るような瞳に、羽月の懐かしむような気持ちが込められていた。
棘のないその言葉を聞いて、唯花は羽月が浩二との失恋から大分立ち直っている様子に感じた。
「それは私も一緒よ。全部が唐突で、始まりも終わりも。私は二人の姿を遠くから見ていることしかできなかったけど」
唯花も同じようにほろ苦い風味のハーブティーを口に含んで、感傷的に羽月へ返答した。
「本当ね、私が浩二と付き合うことになるなんて、学園祭の前まで考えもしなかったから。
私はね、浩二は唯花さんに一生ついていくものだと思ってた。
それが当然のことみたいに見てたの。
だから、私が浩二と付き合ってしまうことで、二人が長い時間を掛けて作り上げてきた大切な関係を壊してしまうんじゃないかなって、本当に略奪してしまったのかなって不安だったわ。
本当のところをいえば、浩二と一緒にいるときに唯花さんに会うのが怖かった。自分たちが勝手に始めたことなのに、身勝手もいいところよね。
付き合った後で気にしても仕方のないことだって頭では分かってはいたけど、それでも、引け目を感じずにいられなかった」
羽月は女子同士お互いに遠慮しないという言葉通りに、自分の本音をぶつけた。
唯花は羽月の言葉を、身に沁みながら聞き入っていた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
伝える前に振られてしまった私の恋
メカ喜楽直人
恋愛
母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。
そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。
粗暴で優しい幼馴染彼氏はおっとり系彼女を好きすぎる
春音優月
恋愛
おっとりふわふわ大学生の一色のどかは、中学生の時から付き合っている幼馴染彼氏の黒瀬逸希と同棲中。態度や口は荒っぽい逸希だけど、のどかへの愛は大きすぎるほど。
幸せいっぱいなはずなのに、逸希から一度も「好き」と言われてないことに気がついてしまって……?
幼馴染大学生の糖度高めなショートストーリー。
2024.03.06
イラスト:雪緒さま
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
最後の恋って、なに?~Happy wedding?~
氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた―――
ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。
それは同棲の話が出ていた矢先だった。
凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。
ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。
実は彼、厄介な事に大の女嫌いで――
元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる