26 / 47
第九話「止まない雨」2
しおりを挟む
「稗田さん、大丈夫?」
手に持った傘をもうこれ以上濡れないように知枝に掛けて、唯花は知枝に話しかける。知枝にはすでに生気はなく、返事もできないほどだった。
知枝に傘を掛ける唯花を見て、浩二は近づいて、代わりに雨に濡れている唯花を自分の傘に入れた。二人で一つの傘に入ると狭くはあるが、この際そんなことも言っていられない。それに、これくらいのことは二人にとっては慣れていて、珍しいことでもなかった。
「あ、あなた方は……」
心配そうに二人に見つめられている事に知枝が気付き、俯いていた顔を上げて力のない声色で呟く。何があったのかはわからなかったが、その光景は二人にとって痛々しいものであった。
「樋坂浩二、今朝会っただろう? どうしたんだ?」
「永弥音唯花、稗田さん、大丈夫? こんな所にいちゃ、風邪引いちゃうよ」
改めて自己紹介をして知枝を心配を続ける。小さな身体が余計に可哀想な気持ちを募らせた。
「大丈夫です、心配なさらなくても。少し、一人になりたかっただけですから」
そう口にする知枝はとても弱々しく、重い悩みを抱えているように見え、二人にはとても大丈夫そうには映らなかった。
「駄目だよ、こんなところにいたら、風邪引いちゃうよ」
「いいんです、これは罰なんです、罪の深さを教えてくれているんです。だから、放っておいてくれていいんですよ」
「――――そんなこと、できないよっ!!!!!!」
一際大きな声で、唯花は言い放った。
驚いたように知枝が唯花のことを見る、唯花は今にも泣きだしそうな表情で、真っ直ぐに知枝のことを見つめていた。
「稗田さん、すごく苦しそう、きっといっぱい我慢してるんだよね? 何かに耐えようと必死に、そんなの放っておけるわけないよ!!!
だから、行こう? こんなところにずっといたら、本当に風邪引いちゃう、私たちでよければ、話し、聞くから」
唯花が世話焼きでお節介なところがあるのは昔からだった。
困っている人を見かけたら放っておけない、それを躊躇うことなく自然にすることができるのが唯花だった。
知枝は唯花の泣き出しそうな表情を見るのに耐えられなくなったのか、浩二の方を見た。視線が合わさって、それに気づいた浩二も口を開いた。
「遠慮するなよ、これから一年間、クラスメイトとして一緒に通うんだろ?」
浩二は慣れない相手だったが出来るだけ優しく声を掛けた。唯花の性格の影響もあって浩二も本質的には困っている人を見つけたら見捨てられないところがあった。
さらに強さを増し、降りしきる雨の中、ようやく知枝は立ち上がったが、すでに衰弱しているのかよろけそうになった。
「おい、大丈夫か」
よろけて倒れそうになる知枝のことを浩二は腕を掴んでなんとか両手を使って胸に抱き寄せた。
「あっ、ごめんなさい……」
知枝は遠慮がちに小さく呟く。知枝はもう、浩二の傘の中に入っていた。
「すみません、もう、自分で立てますので、このままじゃ樋坂くんが濡れてしまいます」
「あっ、ごめん、無理するなよ」
浩二は距離の近さに動揺しながら手を離す、唯花はその様子をジト目で見ていた。
「エッチ」
「ふ、不可抗力だよっ!」
動揺する浩二を見て怪しむ唯花に、浩二はなんとか言い訳をした。
二人より身長が低く、幼く見えるが、女性として年相応の成長をしている知枝の身体に色気がないわけではなかった。
唯花は知枝を自分の傘に入れて、浩二と家路へと向かった。
力なく歩く知枝のことを心配しながら、無理に話しかけることも出来ないまま、とりあえず、浩二の暮らす樋坂家まで向かうことにした。
「うちには妹の真奈しかいないから、安心していいぞ」
「私も隣近所だから、心配しないで、着替えとか用意するから」
家に着く前にそう話したが、知枝は返事をできなかった。
(私、また迷惑かけてる、どうして……。少しは大人になったつもりだったのに……。
私の覚悟なんて、全然大したことない。こんなことで落ち込んで、また迷惑かけて、強がってばっかりで、本当に弱いままだ……。ごめんなさい、おばあちゃん)
知枝はいくら反省してもし足りないほどの自責に苛まれた。身体は濡れて服は重くなり、傘を差されながらも気持ちは沈んでいた。
手に持った傘をもうこれ以上濡れないように知枝に掛けて、唯花は知枝に話しかける。知枝にはすでに生気はなく、返事もできないほどだった。
知枝に傘を掛ける唯花を見て、浩二は近づいて、代わりに雨に濡れている唯花を自分の傘に入れた。二人で一つの傘に入ると狭くはあるが、この際そんなことも言っていられない。それに、これくらいのことは二人にとっては慣れていて、珍しいことでもなかった。
「あ、あなた方は……」
心配そうに二人に見つめられている事に知枝が気付き、俯いていた顔を上げて力のない声色で呟く。何があったのかはわからなかったが、その光景は二人にとって痛々しいものであった。
「樋坂浩二、今朝会っただろう? どうしたんだ?」
「永弥音唯花、稗田さん、大丈夫? こんな所にいちゃ、風邪引いちゃうよ」
改めて自己紹介をして知枝を心配を続ける。小さな身体が余計に可哀想な気持ちを募らせた。
「大丈夫です、心配なさらなくても。少し、一人になりたかっただけですから」
そう口にする知枝はとても弱々しく、重い悩みを抱えているように見え、二人にはとても大丈夫そうには映らなかった。
「駄目だよ、こんなところにいたら、風邪引いちゃうよ」
「いいんです、これは罰なんです、罪の深さを教えてくれているんです。だから、放っておいてくれていいんですよ」
「――――そんなこと、できないよっ!!!!!!」
一際大きな声で、唯花は言い放った。
驚いたように知枝が唯花のことを見る、唯花は今にも泣きだしそうな表情で、真っ直ぐに知枝のことを見つめていた。
「稗田さん、すごく苦しそう、きっといっぱい我慢してるんだよね? 何かに耐えようと必死に、そんなの放っておけるわけないよ!!!
だから、行こう? こんなところにずっといたら、本当に風邪引いちゃう、私たちでよければ、話し、聞くから」
唯花が世話焼きでお節介なところがあるのは昔からだった。
困っている人を見かけたら放っておけない、それを躊躇うことなく自然にすることができるのが唯花だった。
知枝は唯花の泣き出しそうな表情を見るのに耐えられなくなったのか、浩二の方を見た。視線が合わさって、それに気づいた浩二も口を開いた。
「遠慮するなよ、これから一年間、クラスメイトとして一緒に通うんだろ?」
浩二は慣れない相手だったが出来るだけ優しく声を掛けた。唯花の性格の影響もあって浩二も本質的には困っている人を見つけたら見捨てられないところがあった。
さらに強さを増し、降りしきる雨の中、ようやく知枝は立ち上がったが、すでに衰弱しているのかよろけそうになった。
「おい、大丈夫か」
よろけて倒れそうになる知枝のことを浩二は腕を掴んでなんとか両手を使って胸に抱き寄せた。
「あっ、ごめんなさい……」
知枝は遠慮がちに小さく呟く。知枝はもう、浩二の傘の中に入っていた。
「すみません、もう、自分で立てますので、このままじゃ樋坂くんが濡れてしまいます」
「あっ、ごめん、無理するなよ」
浩二は距離の近さに動揺しながら手を離す、唯花はその様子をジト目で見ていた。
「エッチ」
「ふ、不可抗力だよっ!」
動揺する浩二を見て怪しむ唯花に、浩二はなんとか言い訳をした。
二人より身長が低く、幼く見えるが、女性として年相応の成長をしている知枝の身体に色気がないわけではなかった。
唯花は知枝を自分の傘に入れて、浩二と家路へと向かった。
力なく歩く知枝のことを心配しながら、無理に話しかけることも出来ないまま、とりあえず、浩二の暮らす樋坂家まで向かうことにした。
「うちには妹の真奈しかいないから、安心していいぞ」
「私も隣近所だから、心配しないで、着替えとか用意するから」
家に着く前にそう話したが、知枝は返事をできなかった。
(私、また迷惑かけてる、どうして……。少しは大人になったつもりだったのに……。
私の覚悟なんて、全然大したことない。こんなことで落ち込んで、また迷惑かけて、強がってばっかりで、本当に弱いままだ……。ごめんなさい、おばあちゃん)
知枝はいくら反省してもし足りないほどの自責に苛まれた。身体は濡れて服は重くなり、傘を差されながらも気持ちは沈んでいた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
海神の唄-[R]emember me-
青葉かなん
ライト文芸
壊れてしまったのは世界か、それとも僕か。
夢か現か、世界にノイズが走り現実と記憶がブレて見えてしまう孝雄は自分の中で何かが変わってしまった事に気づいた。
仲間達の声が二重に聞こえる、愛しい人の表情が違って重なる、世界の姿がブレて見えてしまう。
まるで夢の中の出来事が、現実世界へと浸食していく感覚に囚われる。
現実と幻想の区別が付かなくなる日常、狂気が内側から浸食していくのは――きっと世界がそう語り掛けてくるから。
第二次世界恐慌、第三次世界大戦の始まりだった。
君の未来に私はいらない
南 コウ
ライト文芸
【もう一度、あの夏をやり直せるなら、君と結ばれない未来に変えたい】
二十五歳の古谷圭一郎は、妻の日和を交通事故で亡くした。圭一郎の腕の中には、生後五か月の一人娘、朝陽が残されていた。
圭一郎は、日和が亡くなったのは自分のせいだと悔やんでいた。罪悪感を抱きつつ、生後五か月の娘との生活に限界を感じ始めた頃、神社の境内で蛍のような光に包まれて意識を失った。
目を覚ますと、セーラー服を着た十七歳の日和に見下ろされていた。その傍には見知らぬ少女が倒れている。目を覚ました少女に名前を尋ねると「古谷朝陽」と名乗った。
十七歳になった娘と共に、圭一郎は八年前にタイムリープした。
家族三人で過ごす奇跡のような夏が、いま始まる――。
※本作はカクヨムでも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
悲鳴じゃない。これは歌だ。
羽黒 楓
ライト文芸
十五歳の〝私〟は死に場所を求めて家出した。
都会の駅前、世界のすべてを呪う〝私〟はしかし、このとき一人の女性と出会う。
彼女は言った。
「あんた、死んだ私の知り合いに似てる――」
そこから始まる、一人の天才ロックシンガーの誕生譚。
金色の庭を越えて。
碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。
人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。
親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。
軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが…
親が与える子への影響、思春期の歪み。
汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる