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第六話「策謀の銃声」2
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”バンッ!!”
日常を破壊するように二発の銃声が同時に部屋中に鳴り響いた。
ほぼ同時に放たれたその銃声は、あまりにタイミングが同じであったために一発の銃声に聞こえるほどだ。
互いに威嚇射撃であったため、その銃痕はそれぞれ肉体を貫くことはなく、背後の壁にめり込んで小さく湯気を上げている。
私も侵入者も互いに目に力が入り、警戒心を超えて敵意に包まれた。
相手がそこからどう動くか、予測できないので私はその場で膝を地面に着け、低い姿勢でもう一度相手へ銃を向け身構えた。
その行動を見て相手は反射的に一歩引いたかのように見えたがそのまま私の方に銃を向けたまま、次の一撃を放つ姿勢のまま静止した。
互いに銃を構えたまま、静止し、気が付いたようにもう一度時が流れ始めた。
「何者ですか? 無礼な、犯声明を名乗りなさい!」
私はここで怖気づいてしまうわけにはいかず、先に人一倍大きな声で警告代わりに言葉を放った。
しかし、相手は私の言葉に手を引く様子はなかった。
相手の拳銃、ベレッタM92はなおも私を正面に捉えて離さない。真っ黒なその形状は、拳銃というものの威圧感をそのまま表す凶器として、これほど正確なものはない。
私は左手にずり落ちないように真っ白なバスタオルを掴んだまま、右手に握るワルサーPPKで相手を捉え睨みつける。高級感のあるステンレス製のフォルムが見る者を刺激させる。
私は相手の出方を伺うためにも返事を待った。
「―――秘匿した研究データを開示してもらおうか」
マスク越しに籠った男の音声が私の耳に届いた、加工をしているわけではないが、その声はかなり聞き取りづらかった。
「誰の指示で動いているのです?」
私は相手の言葉に気負うことなく言い放った。
「答えるわけにはいかない。博士が研究データを秘匿し、大学を離れるようなことをしなければ、ここまでせずに済んだのだよ」
侵入者は暗殺者かスパイかただの追っかけか、人から恨まれるような要因は幾つもあって、現時点でその正確な判断など簡単につくものではないが、私にとってどれも受け入れられるようなものではない。
「勝手なことを……、武器を捨てて、このような真似は今すぐやめなさい!」
「見かけによらず気が強い。情報通りだが、そう言うのであれば日本に来た目的を聞かせてもらおうか? あるのだろう? 目的が」
「あなたのような人に話すことは何もありません」
「アリスの意思に従う魔女の後継が、人の世に干渉する気か」
「私は人間です。あなたのように古の神話に踊らされている人がいるから、平和と協調を見失って悲劇を起こすのです」
私の祖母が”魔女”と呼ばれていたこと、確かにそんなことはあったが、だからといって特別な力を振るったわけでもなく、人のため、世の中のために尽力してきたことを、私はよく分かっていた。
魔女などと呼ばれ悪意を向けられるような言われはない、私はそう否定し続けてきた。
「力を持つもの、より強い力を持つものが世界を支配する、それが歴史の示してきたことだろう。ならば、魔女などという存在が許されていいはずがない。
博士は自分が利用されているという自覚はないのか? その無自覚な行いこそが、悲劇を招くことになるのだ」
「私は自ら使命を持って行動しています、あなたのような人とは違います。
人に動かされているなどということは断じてあり得ません。
あなたこそ、このような襲撃に来るなど、大義があるとは思えませんね」
「道化が、アリスの力を継承しているものであればこそ、その言い様が信じられないというのだ」
「――――若者よ、ここで退く気がないというのですか? 今ならまだ見逃しましょう」
「戯言を、博士には秘匿した研究データを開示し引き渡してもらおう、そしてこの日本を離れ、アメリカに戻ってもらおうか、命が惜しいのであればな」
「話しになりませんね」
このような相手の要求など到底受け入れられはしない、私は男の要求を否定して見せた。
祖母のことを”魔女”と呼ぶことも、悪く言うことも、私には受け入れられることではない、相手が私のことをどれだけ知っているのか、興味もなかったが、大方予測は付く、関わったところでロクなことがないことも。
「では、死んでもらおうか」
男は怒りをあらわにし、今にも暴発させそうな銃口を強く私目掛けて構える。
「あなたに撃てるのですか?」
「撃てるとも、こちらにもそれ相応の信念がある、君のような存在を見過ごすことなどできようがない」
「……甘いです、隙だらけですよ、まぬけな暗殺者さん」
そう私が口にすると同時、男の視界から外れた半開きのタンスの奥から針が男目掛けて放たれる!
暗いタンスの奥、そこに隠れていた人物が持つ吹き矢により、放たれた針が男の身体に回避する隙を与えることもなく突き刺さる。
「ぬぁあああっ」
男はうめき声を上げてその場で膝をつく。その姿を見て私は笑みを浮かべた。
そう、最初から私の勝利は決まっていた。私は時間稼ぎさえすればよかった、男が標的としてそこにじっと静止していてくれさえすればよかったのだ。
「さぁ、拳銃から手を離しなさい!」
私は再度警告する、これで諦めてくれれば余計な殺生をしなくて済む、私はそう思った。
「くっ、ここは一旦退かせてもらう!」
私は”何を”と言いかけたところで、男はスーツの内ポケットに隠していた物を取り出し、地面に向けて投げた。
次の瞬間には煙が立ち上り、スモッグとなって男の姿が視界から隠れ、見えなくなった。
「しまったっ!」
私はそう思って思わず声がこぼれたが、男は見えない視界の中で逃げ去り、男を捕まえることは出来なかった。
やがて、少しずつ開いたベランダの窓から煙が抜けていき、徐々に視界が開けた。もうそこに侵入者の姿はなく、まんまと逃げられてしまった。
「もう……、一体何なのよ……」
危機が去った直後、私は思わず呟いた。恨まれるようないわれはないというのに、どうしてこんなところまで追って来られなければならないのか……。
せっかくホテルに着いてゆっくり休めるかと思ったのに、とんだ災難となった。
日常を破壊するように二発の銃声が同時に部屋中に鳴り響いた。
ほぼ同時に放たれたその銃声は、あまりにタイミングが同じであったために一発の銃声に聞こえるほどだ。
互いに威嚇射撃であったため、その銃痕はそれぞれ肉体を貫くことはなく、背後の壁にめり込んで小さく湯気を上げている。
私も侵入者も互いに目に力が入り、警戒心を超えて敵意に包まれた。
相手がそこからどう動くか、予測できないので私はその場で膝を地面に着け、低い姿勢でもう一度相手へ銃を向け身構えた。
その行動を見て相手は反射的に一歩引いたかのように見えたがそのまま私の方に銃を向けたまま、次の一撃を放つ姿勢のまま静止した。
互いに銃を構えたまま、静止し、気が付いたようにもう一度時が流れ始めた。
「何者ですか? 無礼な、犯声明を名乗りなさい!」
私はここで怖気づいてしまうわけにはいかず、先に人一倍大きな声で警告代わりに言葉を放った。
しかし、相手は私の言葉に手を引く様子はなかった。
相手の拳銃、ベレッタM92はなおも私を正面に捉えて離さない。真っ黒なその形状は、拳銃というものの威圧感をそのまま表す凶器として、これほど正確なものはない。
私は左手にずり落ちないように真っ白なバスタオルを掴んだまま、右手に握るワルサーPPKで相手を捉え睨みつける。高級感のあるステンレス製のフォルムが見る者を刺激させる。
私は相手の出方を伺うためにも返事を待った。
「―――秘匿した研究データを開示してもらおうか」
マスク越しに籠った男の音声が私の耳に届いた、加工をしているわけではないが、その声はかなり聞き取りづらかった。
「誰の指示で動いているのです?」
私は相手の言葉に気負うことなく言い放った。
「答えるわけにはいかない。博士が研究データを秘匿し、大学を離れるようなことをしなければ、ここまでせずに済んだのだよ」
侵入者は暗殺者かスパイかただの追っかけか、人から恨まれるような要因は幾つもあって、現時点でその正確な判断など簡単につくものではないが、私にとってどれも受け入れられるようなものではない。
「勝手なことを……、武器を捨てて、このような真似は今すぐやめなさい!」
「見かけによらず気が強い。情報通りだが、そう言うのであれば日本に来た目的を聞かせてもらおうか? あるのだろう? 目的が」
「あなたのような人に話すことは何もありません」
「アリスの意思に従う魔女の後継が、人の世に干渉する気か」
「私は人間です。あなたのように古の神話に踊らされている人がいるから、平和と協調を見失って悲劇を起こすのです」
私の祖母が”魔女”と呼ばれていたこと、確かにそんなことはあったが、だからといって特別な力を振るったわけでもなく、人のため、世の中のために尽力してきたことを、私はよく分かっていた。
魔女などと呼ばれ悪意を向けられるような言われはない、私はそう否定し続けてきた。
「力を持つもの、より強い力を持つものが世界を支配する、それが歴史の示してきたことだろう。ならば、魔女などという存在が許されていいはずがない。
博士は自分が利用されているという自覚はないのか? その無自覚な行いこそが、悲劇を招くことになるのだ」
「私は自ら使命を持って行動しています、あなたのような人とは違います。
人に動かされているなどということは断じてあり得ません。
あなたこそ、このような襲撃に来るなど、大義があるとは思えませんね」
「道化が、アリスの力を継承しているものであればこそ、その言い様が信じられないというのだ」
「――――若者よ、ここで退く気がないというのですか? 今ならまだ見逃しましょう」
「戯言を、博士には秘匿した研究データを開示し引き渡してもらおう、そしてこの日本を離れ、アメリカに戻ってもらおうか、命が惜しいのであればな」
「話しになりませんね」
このような相手の要求など到底受け入れられはしない、私は男の要求を否定して見せた。
祖母のことを”魔女”と呼ぶことも、悪く言うことも、私には受け入れられることではない、相手が私のことをどれだけ知っているのか、興味もなかったが、大方予測は付く、関わったところでロクなことがないことも。
「では、死んでもらおうか」
男は怒りをあらわにし、今にも暴発させそうな銃口を強く私目掛けて構える。
「あなたに撃てるのですか?」
「撃てるとも、こちらにもそれ相応の信念がある、君のような存在を見過ごすことなどできようがない」
「……甘いです、隙だらけですよ、まぬけな暗殺者さん」
そう私が口にすると同時、男の視界から外れた半開きのタンスの奥から針が男目掛けて放たれる!
暗いタンスの奥、そこに隠れていた人物が持つ吹き矢により、放たれた針が男の身体に回避する隙を与えることもなく突き刺さる。
「ぬぁあああっ」
男はうめき声を上げてその場で膝をつく。その姿を見て私は笑みを浮かべた。
そう、最初から私の勝利は決まっていた。私は時間稼ぎさえすればよかった、男が標的としてそこにじっと静止していてくれさえすればよかったのだ。
「さぁ、拳銃から手を離しなさい!」
私は再度警告する、これで諦めてくれれば余計な殺生をしなくて済む、私はそう思った。
「くっ、ここは一旦退かせてもらう!」
私は”何を”と言いかけたところで、男はスーツの内ポケットに隠していた物を取り出し、地面に向けて投げた。
次の瞬間には煙が立ち上り、スモッグとなって男の姿が視界から隠れ、見えなくなった。
「しまったっ!」
私はそう思って思わず声がこぼれたが、男は見えない視界の中で逃げ去り、男を捕まえることは出来なかった。
やがて、少しずつ開いたベランダの窓から煙が抜けていき、徐々に視界が開けた。もうそこに侵入者の姿はなく、まんまと逃げられてしまった。
「もう……、一体何なのよ……」
危機が去った直後、私は思わず呟いた。恨まれるようないわれはないというのに、どうしてこんなところまで追って来られなければならないのか……。
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