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第五話「西暦2059年」1
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「来たよ来たよ来たよ~~!!
おばあちゃん、待たせてごめんね、やっと約束を果たせる刻が来たよ!」
気持ちは晴れやかに、風に吹かれる黒いローブを抑えながら、跳ねるように日本に降り立った私こと稗田知枝は、舞原市の景観に万感の想いを迸らせた。
ガラガラと旅行用カバンを押しながら、映像でしか見たことのなかった舞原市の街並みを歩いていく。
「ここがおばあちゃんが復興した街、すべての答えがこの街に眠っているはず。
封じられた歴史の探訪、ここから始める、今までの日々が無駄ではなかったと証明するために」
西暦2059年、舞原市で発生した世界中を揺るがす厄災から30年、舞原市は奇跡的な復興を遂げ、日本有数の学園都市を作り上げるまでに生まれ変わった。
そして、私は四年前に亡くなった祖母が再建した凛翔学園へと編入するため、初めてこの舞原市を訪れることとなった。
祖母と約束した学園での日々、厄災の記録の探求、そして生き別れになった兄妹との再会。私は目的を果たす確かな信念と共に、遠いアメリカの大地から遥々ここまでやって来たのだ。
本来ならば……、もっと早く。
そう、もっと早くこの地を訪れるつもりでいた。
だが、私の研究を続ける日々はそれを許さず、時だけが過ぎていく結果となった。
だからこそ、今、万感の思いでもって、この地に私は降り立っている。
祖母は記録によれば厄災を生き延びた数少ない人物で、崩壊した街の再建、復興に力を尽くした功労者と言われている。
30年前に起きたこの舞原市での厄災、この出来事を人は歴史的に類を見ない不可思議な異変と言い伝える人もいるが、一般常識の範疇においては多くの犠牲者を生んだ厄災と伝えられている。
なぜ厄災かと疑問に思うところだと思うが、これには事情がある。
この厄災は舞原市の住民の多く(公式見解によれば舞原市の住民のおよそ7割)が犠牲となったが、その原因や現象に関して科学的見地、政治的な発表においても正確なデータの回答が出ておらず、未だ多くの謎を残し、その根本的な原因は未だ不明のままとされている。
ある日、街全体を覆うように包み込み、街の外とのあらゆる行き来や干渉を遮断した深い霧、それは電気やガス、インターネットや衛星通信までも遮断して完全に一つの街を孤立させ、大きな混乱をもたらした。
災厄の象徴となった街を覆った霧が晴れるまでは、およそ14日間かかり、その間、街の中では目を背けたくなるほどに悲惨な状況となり、いつ終わるともしれない中、度重なる信じがたい悲劇が繰り返されたという。
その映像や音声の記録はほとんど非公開とされており、本当にそんな記録が存在するのかも定かではない。
ただ、現在のところ分かっていることは、原因不明の霧によって14日間、舞原市は外界との干渉が一切断絶され、電気やガスのライフラインも止まり、例えるなら陸の孤島となったということ。それによりあまりに多くの犠牲が発生したこと。
14日間の時を経て霧が晴れた後に残された街の惨状は言葉にしようがないほど悲惨なものだったという。まさにそれは14日間の惨劇ともいうべき悲劇だった。
それから、10年ほど舞原市の封鎖が続き、ようやく街は再び活気を取り戻すため、復興への道を歩んでいくこととなった。
崩壊した舞原市の再建に尽力した人物の一人が私の祖母であった。
生存者の一人として選挙に出馬し、県知事から市長にもなった祖母。
厄災の数少ない生き残りであった祖母のもう一度、賑やかだった頃の舞原市を取り戻したいという熱意は国民を揺り動かし、今まで暮らしていた街に戻りたいという被害者の声も後押しして、舞原市は結果として奇跡的な復興を遂げることが出来た。
一体あの厄災はなんだったのか、未だに一部の研究者や歴史家で調査は続けているが、目立った成果は出ていない。
街を封鎖した政府やその関係者がその真相を何らかの理由で隠しているという陰謀説も残っている。
だが、話によれば発生した霧に入った者はだれ一人として帰ってこなかったという。
厄災と呼ばれているのは、それが気象変化による災害とは断定できない事、被害の大きさから陰謀論を唱える人もいるが人為的に行われたという証拠は見つかっておらず、テロや戦争とも言えないところからきている。
ここまでの説明から推論して、天変地異や天災と呼ぶよりは厄災と呼んだ方が現実的であることは理解できるだろう。
今の街並みはそんな厄災があったことなどまるで感じさせない豊かなもので、人々はそんな地に今日も何事もなかったかのように暮らしている。
原因が分からない以上、再び同じことが繰り返される可能性は残っている。
しかし、その可能性を考えていつまでも怯えていたのでは人の活動は停滞し、暗く沈んでいくことだろう。
人は歴史上、過酷な現実が過去にあったとしても、それを乗り越え、元の生活を取り戻していかなければならない。
その人が本来持つ強さを祖母は人々を導いていく中で取り戻させてくれた。
だから、今、こうして平和に人々が暮らすことが出来るのだと、私は思っている。
*
単身、舞原市に降り立った私は最初に生き別れになっていた弟と再会にするため、約束していた場所へと向かっていた。
弟といっても実際には私たち姉弟は三つ子であるからその言い方は間違っているのだが、相手が私の事を姉呼ばわりすることから姉として振舞っている。
私にとって弟である光との再会、正確には産まれてこの方初めて会うのだから、ある意味“出会い”なのかもしれないが、そのために私は待ち合わせをしている駅までやってきた。
(もうすぐ会える、もうすぐ会えるんだ……)
―――ずっと待ち望んできた、この日を、再会の時を。
私たち姉弟は会うことの叶わないまま、ずっと長い年月を重ね続けてきた。
会えない日々を過ごす中、どこかでいつか会えるはずだという希望的な期待に対して、私は距離を置いてきたのかもしれない。それは三人の中で自分だけが稗田家に選ばれたことへの罪悪感なのかもしれない。
でも、今更そんなことはどうでもよくなくて、再会を目前として、想像していた以上に気持ちが高ぶっている自分がいた。
駅の姿が視界に入り、徐々にその姿は近づくにつれて、駅の景観は鮮明なものへと変わっていく。
何故かドキドキしすぎて無意識に迷子になって商店街まで行って旅行用カバンと追い掛けっこしていたのは内緒だ。
今、駅の方には人通りが少ないようで、光が待っていてくれているなら、きっとすぐ気付くことが出来るだろう。
”もう待ってるよ”、と送られてきたそのメッセージを携帯端末で確認すると同時、視界の中に光の姿が映った。
肉眼で初めて見る光の姿、確かに風景の中に自然と溶け込むその姿は、親愛なる姉弟の姿そのものであった。
「――――ひかりっっ!!!!!」
私はたまらず光の下に駆け寄っていく。胸の鼓動は高鳴り、立ち止まってはいられなかった。
私の姿を確認し、光も笑顔を浮かべて両手を広げる、私は真っ直ぐにその胸に飛び込んだ。
「光……、光………っ!!」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん……っ!!」
お互い、万感の思いで感情が爆発して涙声となり、それ以上の言葉が出なくて、出会いでもあり、再会でもあるこの時を祝して強く抱きしめあう。
「ごめんね、もっと早く、もっと早く会えればよかったのに……っ!」
込み上げて来る感情の大きさから自然と涙がこぼれていた、それは光も同様で、まるで小さい子どもに戻ったように、離れることが出来ず、光の胸の中で泣きじゃくった。
「ううん、ありがとう、ずっと僕らのことを忘れず想ってくれて、心配してくれて」
光の生の声をそばで聞いて思った。どうして今まで会えなかったんだろう、こんなにも望んできたはずなのに…。私はその事を今更に後悔したけれど、光はそんな私に優しかった。
「こうして会えただけで、十分幸せだよ」
その光の言葉に救われた、こんなにも心が洗われることがあるだろうか。
今、まさに私は光の魂に触れられていると、強く感じた。
おばあちゃん、待たせてごめんね、やっと約束を果たせる刻が来たよ!」
気持ちは晴れやかに、風に吹かれる黒いローブを抑えながら、跳ねるように日本に降り立った私こと稗田知枝は、舞原市の景観に万感の想いを迸らせた。
ガラガラと旅行用カバンを押しながら、映像でしか見たことのなかった舞原市の街並みを歩いていく。
「ここがおばあちゃんが復興した街、すべての答えがこの街に眠っているはず。
封じられた歴史の探訪、ここから始める、今までの日々が無駄ではなかったと証明するために」
西暦2059年、舞原市で発生した世界中を揺るがす厄災から30年、舞原市は奇跡的な復興を遂げ、日本有数の学園都市を作り上げるまでに生まれ変わった。
そして、私は四年前に亡くなった祖母が再建した凛翔学園へと編入するため、初めてこの舞原市を訪れることとなった。
祖母と約束した学園での日々、厄災の記録の探求、そして生き別れになった兄妹との再会。私は目的を果たす確かな信念と共に、遠いアメリカの大地から遥々ここまでやって来たのだ。
本来ならば……、もっと早く。
そう、もっと早くこの地を訪れるつもりでいた。
だが、私の研究を続ける日々はそれを許さず、時だけが過ぎていく結果となった。
だからこそ、今、万感の思いでもって、この地に私は降り立っている。
祖母は記録によれば厄災を生き延びた数少ない人物で、崩壊した街の再建、復興に力を尽くした功労者と言われている。
30年前に起きたこの舞原市での厄災、この出来事を人は歴史的に類を見ない不可思議な異変と言い伝える人もいるが、一般常識の範疇においては多くの犠牲者を生んだ厄災と伝えられている。
なぜ厄災かと疑問に思うところだと思うが、これには事情がある。
この厄災は舞原市の住民の多く(公式見解によれば舞原市の住民のおよそ7割)が犠牲となったが、その原因や現象に関して科学的見地、政治的な発表においても正確なデータの回答が出ておらず、未だ多くの謎を残し、その根本的な原因は未だ不明のままとされている。
ある日、街全体を覆うように包み込み、街の外とのあらゆる行き来や干渉を遮断した深い霧、それは電気やガス、インターネットや衛星通信までも遮断して完全に一つの街を孤立させ、大きな混乱をもたらした。
災厄の象徴となった街を覆った霧が晴れるまでは、およそ14日間かかり、その間、街の中では目を背けたくなるほどに悲惨な状況となり、いつ終わるともしれない中、度重なる信じがたい悲劇が繰り返されたという。
その映像や音声の記録はほとんど非公開とされており、本当にそんな記録が存在するのかも定かではない。
ただ、現在のところ分かっていることは、原因不明の霧によって14日間、舞原市は外界との干渉が一切断絶され、電気やガスのライフラインも止まり、例えるなら陸の孤島となったということ。それによりあまりに多くの犠牲が発生したこと。
14日間の時を経て霧が晴れた後に残された街の惨状は言葉にしようがないほど悲惨なものだったという。まさにそれは14日間の惨劇ともいうべき悲劇だった。
それから、10年ほど舞原市の封鎖が続き、ようやく街は再び活気を取り戻すため、復興への道を歩んでいくこととなった。
崩壊した舞原市の再建に尽力した人物の一人が私の祖母であった。
生存者の一人として選挙に出馬し、県知事から市長にもなった祖母。
厄災の数少ない生き残りであった祖母のもう一度、賑やかだった頃の舞原市を取り戻したいという熱意は国民を揺り動かし、今まで暮らしていた街に戻りたいという被害者の声も後押しして、舞原市は結果として奇跡的な復興を遂げることが出来た。
一体あの厄災はなんだったのか、未だに一部の研究者や歴史家で調査は続けているが、目立った成果は出ていない。
街を封鎖した政府やその関係者がその真相を何らかの理由で隠しているという陰謀説も残っている。
だが、話によれば発生した霧に入った者はだれ一人として帰ってこなかったという。
厄災と呼ばれているのは、それが気象変化による災害とは断定できない事、被害の大きさから陰謀論を唱える人もいるが人為的に行われたという証拠は見つかっておらず、テロや戦争とも言えないところからきている。
ここまでの説明から推論して、天変地異や天災と呼ぶよりは厄災と呼んだ方が現実的であることは理解できるだろう。
今の街並みはそんな厄災があったことなどまるで感じさせない豊かなもので、人々はそんな地に今日も何事もなかったかのように暮らしている。
原因が分からない以上、再び同じことが繰り返される可能性は残っている。
しかし、その可能性を考えていつまでも怯えていたのでは人の活動は停滞し、暗く沈んでいくことだろう。
人は歴史上、過酷な現実が過去にあったとしても、それを乗り越え、元の生活を取り戻していかなければならない。
その人が本来持つ強さを祖母は人々を導いていく中で取り戻させてくれた。
だから、今、こうして平和に人々が暮らすことが出来るのだと、私は思っている。
*
単身、舞原市に降り立った私は最初に生き別れになっていた弟と再会にするため、約束していた場所へと向かっていた。
弟といっても実際には私たち姉弟は三つ子であるからその言い方は間違っているのだが、相手が私の事を姉呼ばわりすることから姉として振舞っている。
私にとって弟である光との再会、正確には産まれてこの方初めて会うのだから、ある意味“出会い”なのかもしれないが、そのために私は待ち合わせをしている駅までやってきた。
(もうすぐ会える、もうすぐ会えるんだ……)
―――ずっと待ち望んできた、この日を、再会の時を。
私たち姉弟は会うことの叶わないまま、ずっと長い年月を重ね続けてきた。
会えない日々を過ごす中、どこかでいつか会えるはずだという希望的な期待に対して、私は距離を置いてきたのかもしれない。それは三人の中で自分だけが稗田家に選ばれたことへの罪悪感なのかもしれない。
でも、今更そんなことはどうでもよくなくて、再会を目前として、想像していた以上に気持ちが高ぶっている自分がいた。
駅の姿が視界に入り、徐々にその姿は近づくにつれて、駅の景観は鮮明なものへと変わっていく。
何故かドキドキしすぎて無意識に迷子になって商店街まで行って旅行用カバンと追い掛けっこしていたのは内緒だ。
今、駅の方には人通りが少ないようで、光が待っていてくれているなら、きっとすぐ気付くことが出来るだろう。
”もう待ってるよ”、と送られてきたそのメッセージを携帯端末で確認すると同時、視界の中に光の姿が映った。
肉眼で初めて見る光の姿、確かに風景の中に自然と溶け込むその姿は、親愛なる姉弟の姿そのものであった。
「――――ひかりっっ!!!!!」
私はたまらず光の下に駆け寄っていく。胸の鼓動は高鳴り、立ち止まってはいられなかった。
私の姿を確認し、光も笑顔を浮かべて両手を広げる、私は真っ直ぐにその胸に飛び込んだ。
「光……、光………っ!!」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん……っ!!」
お互い、万感の思いで感情が爆発して涙声となり、それ以上の言葉が出なくて、出会いでもあり、再会でもあるこの時を祝して強く抱きしめあう。
「ごめんね、もっと早く、もっと早く会えればよかったのに……っ!」
込み上げて来る感情の大きさから自然と涙がこぼれていた、それは光も同様で、まるで小さい子どもに戻ったように、離れることが出来ず、光の胸の中で泣きじゃくった。
「ううん、ありがとう、ずっと僕らのことを忘れず想ってくれて、心配してくれて」
光の生の声をそばで聞いて思った。どうして今まで会えなかったんだろう、こんなにも望んできたはずなのに…。私はその事を今更に後悔したけれど、光はそんな私に優しかった。
「こうして会えただけで、十分幸せだよ」
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