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第二話「流れゆく季節の中で」4
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そして、漆原先生が教室を出ていくと、残されたクラスメイトは自然と散り散りになっていく。
「あれ? 浩二ってばどうしたの、平気?」
帰り支度をすでに済ませた唯花が立ち上がり、何事もなかったかのように後ろの席から浩二に話しかけた。
「平気なもんかよ……、先生の横暴に度肝抜かされたわ」
「そ……、そうだよね、偶然にしては出来すぎというか……」
唯花も事情を知っているためにか、同情とも言える声を上げた。
「まぁ、いいじゃないか、去年も副委員長をやってたんだから」
「そういうことじゃねぇんだよ……、そういうことじゃ」
達也の言葉に浩二は反論して見せた。確かに副委員長を昨年もしていたとはいえ、副委員長になることで羽月との接触が発生することは浩二にとって由々しき事態なのだ。
「まぁまぁ、浩二、落ち着いて、今更どうこうできる話でもないんだから」
いや、今しか反論してどうにかこの状況を打開するすべはないのでは? と浩二は思ったが、教師に対して私情を持ち出して反対するのは、それはとても面倒の事であることも重々承知していることだった。
「はぁ、さすがに心の整理が追い付いていかないぜ」
当の不安の原因である八重塚羽月はといえば、何を言うでもなく、態度を変えるでもなく、何事もなかったかのように帰り支度を済ませ、教室を出ていく。何を今思っているのか、心情が読めない分、どう接するのがいいのか浩二にはまるで見えなかった
「浩二にもナイーブなところがあるのだな」
「人を何だと思ってる……」
達也の言葉に浩二は不平を漏らしたが、こうなってはネガティブになっても仕方のないところ。視線が合うことも会話を交わすわけでもないまま、羽月は行ってしまった。浩二にとっては先が思いやられる結果となった。
「それで、今日はこの後どうするの?」
浩二のことがいたたまれずこの話を終わらせようと、唯花はこの後の予定を聞いた。
「一応、真奈を迎えに行くつもりだけど……、その後は暇だし、せっかくだから真奈と昼飯にファミリアでも寄ろうかな」
唯花の言葉に深く考えず答える浩二。すると、思わぬ人物が乱入することになった。
「“本当ですか?! 浩二先輩!”」
先輩呼びをして、すぐさま反応したのは唯花でも達也でもなく、どこからともなく教室に入って来た、光と同じ性を持つ水原舞だった。
「うおっ!? ビックリした」
「あら、舞、そういえばこのクラスにいなかったわね」
すでに耳元までハイテンションでやってきた舞に驚く浩二と、クラスメイトではないことに気付いた唯花が言葉を投げた。
「これは唯花先輩もお久しぶりのおはようございます。光からのメールで思わず飛んできました。皆様ちわっす!」
光よりも小柄な体格をした舞。その姿は子犬のような愛嬌がありながら声は大きく、終始空気を読んでいるのかいささか疑うほどにテンションが高い。
相変わらずの軽いノリと素早い口調で畳みかけてくる舞の姿を見て、浩二は「ああ、こういうやつだった」と改めて思い出した。
「だからその先輩と呼ぶのはいい加減やめろと……、唯花はともかく俺は関係ないだろう……」
舞は浩二と同い年であるが浩二のことを”先輩”と呼ぶ、それは唯花がアルバイト先の先輩であるからその延長線でそう呼んでいるわけだが、浩二としてはまるで理由にならず、納得のいくことではない。
「でも、舞は同じクラスじゃないんだね、去年は同じクラスだったのに」
唯花が素朴な疑問を投げかける。ほとんどのクラスメイトは再び同じクラスなのに舞が同じクラスでないということは疑問の余地があるところだった。
「それにはですね……、言いづらいのですが深い事情がありまして……」
舞は唯花が自然な流れの中で放った言葉に神妙な表情を浮かべて言葉を濁した。
「あっ、舞、もう来てたんだ」
そのまま話しを続けようとする舞に割って言葉を掛けたのは兄妹である光だった。
「もちのロンよ、去年のクラスメイトに挨拶に来るのは当然でしょーよ」
「ははっ……、それはいいけど、まだ言ってなかったんだっけ、舞は」
「いいのよ、光、あたしが自分で言うから」
「そう……、それじゃあ、話しを続けてもらって」
浩二や唯花にとっては謎の会話のやり取りが光と舞の間で繰り広げられたが、どうやら話したいことがあるらしいと分かった。それもかなり重要な。
「あのですね……、驚かないで聞いてくださいよ……」
「なんだよ……、急に声を震わせてビビらせやがって」
舞の前フリに一体何を言いだすのかと浩二は反応した。
放課後になって急に教室に現れた舞に視線が集まる妙な緊張が漂う中、浩二はとりあえず聞く覚悟だけは決めた。
「そのですね、あたし、水原舞は、留年して二年生をやり直すことになりましたーーー!!」
舞が思い切って高いテンションのままそう言うと、皆思考が追い付かず言葉を失った。
「あれ? どうしました? もしかして滑ってませんよね? そんなに驚かなくていいですよ、慰めの言葉を考えて頂かなくても大丈夫です。これはあたしが自分で招いた自業自得ですので、あまり気にしないでくださいませ」
「まぁ、そういう反応になるよね……」
舞と兄妹仲である光は、この事をもちろん知っていたので、この場の反応は予想できたものだった。
「そういうわけで、本当にあたしは正真正銘、先輩後輩の関係になったわけなのですよ、おわかりですかー?」
「いや、全然分かりたくねぇよ……」
現実の重さに対して、あまりに釣り合わない舞の軽い言い草に浩二は溜めに溜めて声を振り絞るように呟いた。
「まぁまぁ、あまり気にしなくていいですから、それではあたしはこれからファミリアの方にシフトを入れてありますので、失礼します! 皆様さようならー!」
そう言って舞は一時の台風のように金色のショートヘアーを揺らしながら教室を飛び出していった。
「何か、登校初日早々に騒がしい一日だな」
浩二は過ぎ去った舞のことも思いながらしみじみと疲れ気味に呟いた。
「本当に、私がファミリアに行っていない間にこんなことになっていたとは」
唯花も舞の留年のことは初耳だったのでどう反応していいのか分からなかった。
「僕から早く伝えておこうと思ったんだけど、舞が直接伝えるって言って聞かなかったから、報告が遅くなってごめん。本当、驚かせちゃったと思う」
双子である光にはよく舞の事情のことは分かっているので、今更説教をする気も起きなかった。
その留年することになった事情に関してはまだ聞かされてはいないが、いずれ直接舞から聞かされることになるだろうと、浩二はそう思った。
「それで、浩二はこの後真奈ちゃんを迎えに行ってファミリアに来るんだっけ?」
「ああ、その予定だ」
「私、今日久しぶりにシフト入れてあるから、また会えると思うし、舞とも話せると思う」
「そっか」
唯花の言葉に浩二は少し安心した。これっきりということにはならずに済んだ。
「それじゃあ、事情聞けそうなら頼むわ」
「うん、私が聞くまでもない気がするけど」
ファミリアで再会の約束を交わす浩二と唯花。達也はこの状況を静観していたが、最後に何かあれば手伝うといって、この場は解散となった。
「あれ? 浩二ってばどうしたの、平気?」
帰り支度をすでに済ませた唯花が立ち上がり、何事もなかったかのように後ろの席から浩二に話しかけた。
「平気なもんかよ……、先生の横暴に度肝抜かされたわ」
「そ……、そうだよね、偶然にしては出来すぎというか……」
唯花も事情を知っているためにか、同情とも言える声を上げた。
「まぁ、いいじゃないか、去年も副委員長をやってたんだから」
「そういうことじゃねぇんだよ……、そういうことじゃ」
達也の言葉に浩二は反論して見せた。確かに副委員長を昨年もしていたとはいえ、副委員長になることで羽月との接触が発生することは浩二にとって由々しき事態なのだ。
「まぁまぁ、浩二、落ち着いて、今更どうこうできる話でもないんだから」
いや、今しか反論してどうにかこの状況を打開するすべはないのでは? と浩二は思ったが、教師に対して私情を持ち出して反対するのは、それはとても面倒の事であることも重々承知していることだった。
「はぁ、さすがに心の整理が追い付いていかないぜ」
当の不安の原因である八重塚羽月はといえば、何を言うでもなく、態度を変えるでもなく、何事もなかったかのように帰り支度を済ませ、教室を出ていく。何を今思っているのか、心情が読めない分、どう接するのがいいのか浩二にはまるで見えなかった
「浩二にもナイーブなところがあるのだな」
「人を何だと思ってる……」
達也の言葉に浩二は不平を漏らしたが、こうなってはネガティブになっても仕方のないところ。視線が合うことも会話を交わすわけでもないまま、羽月は行ってしまった。浩二にとっては先が思いやられる結果となった。
「それで、今日はこの後どうするの?」
浩二のことがいたたまれずこの話を終わらせようと、唯花はこの後の予定を聞いた。
「一応、真奈を迎えに行くつもりだけど……、その後は暇だし、せっかくだから真奈と昼飯にファミリアでも寄ろうかな」
唯花の言葉に深く考えず答える浩二。すると、思わぬ人物が乱入することになった。
「“本当ですか?! 浩二先輩!”」
先輩呼びをして、すぐさま反応したのは唯花でも達也でもなく、どこからともなく教室に入って来た、光と同じ性を持つ水原舞だった。
「うおっ!? ビックリした」
「あら、舞、そういえばこのクラスにいなかったわね」
すでに耳元までハイテンションでやってきた舞に驚く浩二と、クラスメイトではないことに気付いた唯花が言葉を投げた。
「これは唯花先輩もお久しぶりのおはようございます。光からのメールで思わず飛んできました。皆様ちわっす!」
光よりも小柄な体格をした舞。その姿は子犬のような愛嬌がありながら声は大きく、終始空気を読んでいるのかいささか疑うほどにテンションが高い。
相変わらずの軽いノリと素早い口調で畳みかけてくる舞の姿を見て、浩二は「ああ、こういうやつだった」と改めて思い出した。
「だからその先輩と呼ぶのはいい加減やめろと……、唯花はともかく俺は関係ないだろう……」
舞は浩二と同い年であるが浩二のことを”先輩”と呼ぶ、それは唯花がアルバイト先の先輩であるからその延長線でそう呼んでいるわけだが、浩二としてはまるで理由にならず、納得のいくことではない。
「でも、舞は同じクラスじゃないんだね、去年は同じクラスだったのに」
唯花が素朴な疑問を投げかける。ほとんどのクラスメイトは再び同じクラスなのに舞が同じクラスでないということは疑問の余地があるところだった。
「それにはですね……、言いづらいのですが深い事情がありまして……」
舞は唯花が自然な流れの中で放った言葉に神妙な表情を浮かべて言葉を濁した。
「あっ、舞、もう来てたんだ」
そのまま話しを続けようとする舞に割って言葉を掛けたのは兄妹である光だった。
「もちのロンよ、去年のクラスメイトに挨拶に来るのは当然でしょーよ」
「ははっ……、それはいいけど、まだ言ってなかったんだっけ、舞は」
「いいのよ、光、あたしが自分で言うから」
「そう……、それじゃあ、話しを続けてもらって」
浩二や唯花にとっては謎の会話のやり取りが光と舞の間で繰り広げられたが、どうやら話したいことがあるらしいと分かった。それもかなり重要な。
「あのですね……、驚かないで聞いてくださいよ……」
「なんだよ……、急に声を震わせてビビらせやがって」
舞の前フリに一体何を言いだすのかと浩二は反応した。
放課後になって急に教室に現れた舞に視線が集まる妙な緊張が漂う中、浩二はとりあえず聞く覚悟だけは決めた。
「そのですね、あたし、水原舞は、留年して二年生をやり直すことになりましたーーー!!」
舞が思い切って高いテンションのままそう言うと、皆思考が追い付かず言葉を失った。
「あれ? どうしました? もしかして滑ってませんよね? そんなに驚かなくていいですよ、慰めの言葉を考えて頂かなくても大丈夫です。これはあたしが自分で招いた自業自得ですので、あまり気にしないでくださいませ」
「まぁ、そういう反応になるよね……」
舞と兄妹仲である光は、この事をもちろん知っていたので、この場の反応は予想できたものだった。
「そういうわけで、本当にあたしは正真正銘、先輩後輩の関係になったわけなのですよ、おわかりですかー?」
「いや、全然分かりたくねぇよ……」
現実の重さに対して、あまりに釣り合わない舞の軽い言い草に浩二は溜めに溜めて声を振り絞るように呟いた。
「まぁまぁ、あまり気にしなくていいですから、それではあたしはこれからファミリアの方にシフトを入れてありますので、失礼します! 皆様さようならー!」
そう言って舞は一時の台風のように金色のショートヘアーを揺らしながら教室を飛び出していった。
「何か、登校初日早々に騒がしい一日だな」
浩二は過ぎ去った舞のことも思いながらしみじみと疲れ気味に呟いた。
「本当に、私がファミリアに行っていない間にこんなことになっていたとは」
唯花も舞の留年のことは初耳だったのでどう反応していいのか分からなかった。
「僕から早く伝えておこうと思ったんだけど、舞が直接伝えるって言って聞かなかったから、報告が遅くなってごめん。本当、驚かせちゃったと思う」
双子である光にはよく舞の事情のことは分かっているので、今更説教をする気も起きなかった。
その留年することになった事情に関してはまだ聞かされてはいないが、いずれ直接舞から聞かされることになるだろうと、浩二はそう思った。
「それで、浩二はこの後真奈ちゃんを迎えに行ってファミリアに来るんだっけ?」
「ああ、その予定だ」
「私、今日久しぶりにシフト入れてあるから、また会えると思うし、舞とも話せると思う」
「そっか」
唯花の言葉に浩二は少し安心した。これっきりということにはならずに済んだ。
「それじゃあ、事情聞けそうなら頼むわ」
「うん、私が聞くまでもない気がするけど」
ファミリアで再会の約束を交わす浩二と唯花。達也はこの状況を静観していたが、最後に何かあれば手伝うといって、この場は解散となった。
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