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第二十三話「聖者たちの攻防」2
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「―――舞っ!!!!」
知枝の事を思えば一刻の猶予もない状況であると判断した浩二は、会場を抜け出し、舞の姿を見つけるとすぐに大声で名前を呼んだ。
「先輩!! ありがとうございます。タクシーを呼んでおきましたので、行きますよ」
早まる気持ちで心臓の高鳴りを感じながら、舞は浩二と共にタクシーの後部座席に乗り込んだ。
「舞がここまで本気になるとはな……、相手は誘拐犯だ、危険だってこと分かってるんだろ?」
思い立ったら迷わず行動をする舞、だからこそ無茶な判断もしがちなので、浩二は舞の気持ちを知りたかった。
「それはそうですけど、先輩の思ってる通り、あたしの性格ですから衝動的に行動しているところはあるかもしれませんが、あたしは今がやる時だと思ったからこうしています。何もしないで後悔するのは、絶対嫌ですから。
それに、知枝に何かがあったら、光が悲しみますから。
光に悲しい思いをさせたくなりません。光が望んだ日々を失くさないように、今度はあたしが頑張って守らないといけないと思ったんです」
三つ子の関係が確かな絆へと変化していることに浩二は胸が熱くなった。
舞がこれだけ積極的に知枝を助けようという行動しているのには、それなりの理由があると浩二は察した。
「危険があると分かっているならそれでいい」
「それは、先輩も同じですから」
先輩が一緒ならなんとかなる、根拠はなくても舞はそんな気がしていた。
「それで、どうやって稗田さんを捜し出す気だ? 何か方法があるのか? 相手は乗用車で連れ去っていったんだろ?
ナンバーが分かってたって、こっちは向こうの現在地は分からない以上、追い掛けようがないだろう。
稗田さんのケータイやタブレットも控え室にあって、GPSも使えない。闇雲に捜したところで、時間がかかりすぎて到底助けられないぞ」
浩二は舞の言葉を信じ。誘われるがままにここまで来た。
しかし、浩二には知枝を探し出す方法が思いつかなかった。
控え室に知枝のケータイやタブレットが置かれたままで、身一つで誘拐されたことは羽月からの情報で分かっていたため、知枝の居場所を捜し出すのは困難であると思っていた。
「それはですね、先端技術に頼ります。
あたしは頭がいい方ではないので」
「それはその通りだな」
「酷いですね、ちょっとそこはあたしの心情を配慮してフォローしてくれてもいいのでは?」
「だったら留年せずに進級してくれ」
「冷たいですね……、こんな時まで先輩は……」
浩二の正論パンチが炸裂し、いつものように打ち合わせが脱線する浩二と舞。
普段のノリが混じり出すと緊張感は激減するが、真面目なことばかり話していても空気が張り詰めて上手く意思疎通できなくなってしまうのも、二人の関係ならではの事で有り得ることだった。
無理にピリピリせずに自然と無頓着な会話のリレーが展開されていくこと、それも非常時の今は大事なことに思えた。
「あまり期待しない方が、精神的ダメージは小さくて済むだろ」
「いやぁ、そんな頓珍漢なことを言うつもりはないので、至極まともな提案をさせてもらいますよ」
「まぁ、こんな時に素っ頓狂なことを言われても、時間の無駄だからな」
「はいはい、それでは説明します。
生体ネットワークを使えば、簡単にターゲットが近くにいれば位置情報は分かりますので、それを活用します。
あたしは知枝とは家族ですから、共有している情報は他の人と違って十分に活用できるレベルですので、ご安心を」
身体と一体化した生体ネットワークなら通信機器を知枝が所持してなくともある程度GPSと同様の位置情報を知ることが出来る。
家族や同居人であれば世帯毎に位置情報を共有していることが一般的で、舞と知枝は例に漏れず位置情報の共有をすでにしていた。
「闇雲に捜索するよりは、それが確実か……」
「そういうことです。先輩一人で捜索するより、ずっと現実的でしょ?」
「本当そうだな」
期待感の感じられる舞の提案に浩二は唸った。
生体ネットワークはシステム上、警察でも特例の場合を除けばリンクを繋いでいない相手の位置情報を把握することは出来ない。
初期設定であるリンクを結ぶこと自体が近距離でなければできず、それは生体ネットワークの肝となる要素だ。
SNS時代のネットワークを介した個人情報のやり取り、相手が見えない中での端末同士のやり取りは、多様な価値観の形成や社会構造、人とのコミュニケーションを変容させ、便利である一方、多くの事件や人間関係の拗れなど、さまざまな点で問題視され、現在では新しいテクノロジーに移行していく流れの中で廃れたものになりつつある。
時代の変化と共に間接的コミュニケーションより直接的コミュニケーションが重要視されている社会へと変わったこの時代。より身近な生活範囲内での人間関係における、円滑な交流を主目的として運用されている生体ネットワーク。
法整備が万全でないために活用の仕方はまだまだ個人の判断に委ねられている現状だが、海外の事例に追従する形で国内でも定着しつつあるのが生体ネットワークの利用状況であった。
「今からならきっと見つかります。だから、ここは信じて行きましょう?」
「そうだな、他に有効な手段もない。ここは舞の提案を信じてみるか」
方針がひとまず決まり、知枝の無事を願いながらタクシーは勢いよく発進した。
少しだけ肩の力を抜くことのできる自動操縦で走行する車内、二人で協力し合える状況であるからこそ、今だけはゆっくり気を落ち着かせられる時間だった。
「まだ遠くには行っていないはずですから、急げば間に合います」
位置情報の特定を進めながら走行する車内、舞は確かな自信を滲ませた。
知枝の無事が未だ確認できず危機迫る中、今は舞の作戦を浩二は信じるほかなかった。
知枝の事を思えば一刻の猶予もない状況であると判断した浩二は、会場を抜け出し、舞の姿を見つけるとすぐに大声で名前を呼んだ。
「先輩!! ありがとうございます。タクシーを呼んでおきましたので、行きますよ」
早まる気持ちで心臓の高鳴りを感じながら、舞は浩二と共にタクシーの後部座席に乗り込んだ。
「舞がここまで本気になるとはな……、相手は誘拐犯だ、危険だってこと分かってるんだろ?」
思い立ったら迷わず行動をする舞、だからこそ無茶な判断もしがちなので、浩二は舞の気持ちを知りたかった。
「それはそうですけど、先輩の思ってる通り、あたしの性格ですから衝動的に行動しているところはあるかもしれませんが、あたしは今がやる時だと思ったからこうしています。何もしないで後悔するのは、絶対嫌ですから。
それに、知枝に何かがあったら、光が悲しみますから。
光に悲しい思いをさせたくなりません。光が望んだ日々を失くさないように、今度はあたしが頑張って守らないといけないと思ったんです」
三つ子の関係が確かな絆へと変化していることに浩二は胸が熱くなった。
舞がこれだけ積極的に知枝を助けようという行動しているのには、それなりの理由があると浩二は察した。
「危険があると分かっているならそれでいい」
「それは、先輩も同じですから」
先輩が一緒ならなんとかなる、根拠はなくても舞はそんな気がしていた。
「それで、どうやって稗田さんを捜し出す気だ? 何か方法があるのか? 相手は乗用車で連れ去っていったんだろ?
ナンバーが分かってたって、こっちは向こうの現在地は分からない以上、追い掛けようがないだろう。
稗田さんのケータイやタブレットも控え室にあって、GPSも使えない。闇雲に捜したところで、時間がかかりすぎて到底助けられないぞ」
浩二は舞の言葉を信じ。誘われるがままにここまで来た。
しかし、浩二には知枝を探し出す方法が思いつかなかった。
控え室に知枝のケータイやタブレットが置かれたままで、身一つで誘拐されたことは羽月からの情報で分かっていたため、知枝の居場所を捜し出すのは困難であると思っていた。
「それはですね、先端技術に頼ります。
あたしは頭がいい方ではないので」
「それはその通りだな」
「酷いですね、ちょっとそこはあたしの心情を配慮してフォローしてくれてもいいのでは?」
「だったら留年せずに進級してくれ」
「冷たいですね……、こんな時まで先輩は……」
浩二の正論パンチが炸裂し、いつものように打ち合わせが脱線する浩二と舞。
普段のノリが混じり出すと緊張感は激減するが、真面目なことばかり話していても空気が張り詰めて上手く意思疎通できなくなってしまうのも、二人の関係ならではの事で有り得ることだった。
無理にピリピリせずに自然と無頓着な会話のリレーが展開されていくこと、それも非常時の今は大事なことに思えた。
「あまり期待しない方が、精神的ダメージは小さくて済むだろ」
「いやぁ、そんな頓珍漢なことを言うつもりはないので、至極まともな提案をさせてもらいますよ」
「まぁ、こんな時に素っ頓狂なことを言われても、時間の無駄だからな」
「はいはい、それでは説明します。
生体ネットワークを使えば、簡単にターゲットが近くにいれば位置情報は分かりますので、それを活用します。
あたしは知枝とは家族ですから、共有している情報は他の人と違って十分に活用できるレベルですので、ご安心を」
身体と一体化した生体ネットワークなら通信機器を知枝が所持してなくともある程度GPSと同様の位置情報を知ることが出来る。
家族や同居人であれば世帯毎に位置情報を共有していることが一般的で、舞と知枝は例に漏れず位置情報の共有をすでにしていた。
「闇雲に捜索するよりは、それが確実か……」
「そういうことです。先輩一人で捜索するより、ずっと現実的でしょ?」
「本当そうだな」
期待感の感じられる舞の提案に浩二は唸った。
生体ネットワークはシステム上、警察でも特例の場合を除けばリンクを繋いでいない相手の位置情報を把握することは出来ない。
初期設定であるリンクを結ぶこと自体が近距離でなければできず、それは生体ネットワークの肝となる要素だ。
SNS時代のネットワークを介した個人情報のやり取り、相手が見えない中での端末同士のやり取りは、多様な価値観の形成や社会構造、人とのコミュニケーションを変容させ、便利である一方、多くの事件や人間関係の拗れなど、さまざまな点で問題視され、現在では新しいテクノロジーに移行していく流れの中で廃れたものになりつつある。
時代の変化と共に間接的コミュニケーションより直接的コミュニケーションが重要視されている社会へと変わったこの時代。より身近な生活範囲内での人間関係における、円滑な交流を主目的として運用されている生体ネットワーク。
法整備が万全でないために活用の仕方はまだまだ個人の判断に委ねられている現状だが、海外の事例に追従する形で国内でも定着しつつあるのが生体ネットワークの利用状況であった。
「今からならきっと見つかります。だから、ここは信じて行きましょう?」
「そうだな、他に有効な手段もない。ここは舞の提案を信じてみるか」
方針がひとまず決まり、知枝の無事を願いながらタクシーは勢いよく発進した。
少しだけ肩の力を抜くことのできる自動操縦で走行する車内、二人で協力し合える状況であるからこそ、今だけはゆっくり気を落ち着かせられる時間だった。
「まだ遠くには行っていないはずですから、急げば間に合います」
位置情報の特定を進めながら走行する車内、舞は確かな自信を滲ませた。
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