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第二十一話「思い出は思い出のままで」3

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「もう、待ってたよ、稗田さん!!」

 カーテンも備え付けられた女性更衣室もある、女性用の控え室にはすでに「稗田さん」と私を呼んだ唯花さんが待ち構えていた。

「あっ、唯花さん、お待たせしました……」
 
 私が到着した途端、何かいつもと気配が違う雰囲気で、なぜか唯花さんは手をにぎにぎとさせていて、私は思わず総毛立つかのようにゾワっとした恐怖を感じた。

「あれっ……、何か、嫌な予感がするんですが……」

「心配しなくていいよ! さぁ、私に身を任せて!!」

 唯花さんてこんな人だっけ……、唯花さんは私に両手に持った衣装を見せながら瞳を輝かせ、異様なくらいハイテンションな様子だった。

「任せていいのかな……、私、着せ替え人形みたくされちゃいます?」

 私はそういうと、周りの女子生徒も「うんうん」と頷いていた。

「稗田さん!! 素敵な衣装が揃ってるから、さぁ、遠慮せずお着替えしましょうね!」

 子どもを相手にするような口調で衣装担当の唯花さんは言い放って、満面の笑みで迫ってくる。

 私はこれから始まる衣装合わせに反射的に身震いするほどに恐怖した。

「やだやだやだ! 私は着せ替え人形じゃないですよーーーっ!!!」

 私は涙目になりながら悲鳴を上げるが、時間がないからと即座に待機していたクラスメイトたちに更衣室に入れられ、その場で唯花さんの手によって身ぐるみを剥がされた。そして続けざまに唯花さんの手によって強引に生着替えをさせられたのだった。

「うんうん、似合ってる似合ってる」

 唯花さんは舞台衣装に着替えた私を見てご満悦な様子だった。
 
 今回の演劇では私の衣装が四パターンもあるらしい。一時間もない演劇でどうしてそんな事態になっているのか……。劇中に舞台袖で何回も生着替えさせられることを思うと本当に着せ替え人形にされているようで憂鬱でしかなかった。

「唯花さんいつもより気合入ってたから……」

 横にいる神楽さんが解説してくれる。
 男装している神楽さんが平然と女子控え室にいる姿を見ると、その順応力の高さに驚かされる。クラスメイトも不思議に思っていない様子を見るとさらに慣れというものは恐ろしいと感じた。

 そもそも神楽さんは光の彼女。着替えを見られたくらいで恥ずかしがって動揺していては、この先やっていけないと私は思い至った。

 何故着替えくらいゆっくり自分で更衣室でさせてくれないのかという疑問はあったが、肌を晒して見せるのを気にするだけ馬鹿らしいと思うほどだったので、私はこの状況を受け入れて開き直るしかなかった。
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