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第十五話「フォーシスターズ」2
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陽が徐々に落ちて、とぼとぼとウズメとリズは歩く。
リズが足を引っ張る立場になるのは今日に限らないだけにウズメもリズのことを心配に思い、どう励ましの声を掛けてよいか思案しているところだった。
影が伸びる夕焼け空の帰り道を歩きながら二人きりになったリズとウズメはさっきの会話のことが頭から離れず、我慢しきれなくなり本音を話し始めた。
「最近、ストレスで太ってきたかも」
リズは気になるお腹をさすりながらぽつりと呟いた。
アイドルのような扱いをクラスメイトから受ける四人は日頃から容姿には気を使わなければならなかった。
そうした中でのストレスを一番に感じているのもまた、奥手で大人しいリズだった。
そんな様子を見たウズメも気になっていたのか返事をすることにした。
「やっぱり? そんな気がしてたけど……。人の言うこと気にして思い悩むのは程ほどにしないと。リズはエリザから言われてること、気にすぎじゃない? どうせ後数日も我慢すれば本番で、結果も出るんだから、気にしたって仕方ないって」
あと少しの期間我慢すれば、この緊迫した空気も抜けて、いつものように戻る。多くの視線を受けるのもあと少しの辛抱だとウズメは言いたかった。
しかし、そうしたフォローするための言葉をもらっても、今のリズの心は晴れなかった。
「やだなぁ……、私だけ下手だと目立つだろうし、衣装もキツキツで辛いし、私、出たくないよ」
落ち込むリズは元々細身であり、油断をして食べれば食べるほど気になる部分が膨らんでしまうタイプだった。
「えっ? そんなに、衣装ヤバいの?」
他のメンバーには話していないことであるだけに、ウズメは心配になった。
「うん、言いづらくて言えなかったけど、最初からかなりギリギリのサイズだったみたい……、ウズメのもそうじゃなかった?」
「あぁ、そうだったかも。そういうの、あいつらの趣味だよね。私もスタイル出やすい衣装好きじゃないのよね」
本音が自然と湧き出てくる二人。
寸法測定をしたのは女子とはいえ、出来るだけぴちぴちのサイズで発注しようとしていたのは発注の管理をしていた男子達だった。
年頃の男子の淫らな欲望を影ながら感じてしまう二人は憤りを覚えた。
日常会話の中では彼女達が協力的に奮闘してくれている男子たちの意見を否定するのは難しい。
あまり否定した意見をポロっと言えば信頼関係にも亀裂が入ることを知っていることから、クラスメイトの前では愛想よく振舞わなければならない、それはファンの前と同様のことだった。
無神経なことを言って彼らに表裏があると知られれば、彼らの応援する感情を一気に損ないかねない。
そうなれば、協力してくれる人数も減り、クラスのチームワークは目に見えて失われてしまう。
そのため、我慢しなければならないことや諦めなければならないことがあることも、彼女達は受け入れなければならない状況にあった。
「はぁ……、気が重いなぁ、エリザが余計なこと言わなければ、もっと気楽でいいのに」
気を使いすぎると心身疲弊してしまうのは当たり前のことで、リズが食べ過ぎてしまうのは、エリザの口の悪さによるストレスが大きい。リズの憂鬱さはもはや深刻な領域にあった。
「後、しばらくの辛抱なんだから、甘い物我慢したら?」
ウズメは内心、リズの相手をし続けるのは面倒だと思いながらも、問題が大きくならないために、メンバーが分裂しないためにも仕方なく優しい言葉を掛けた。
「そうしたいのは山々なんだけど、疲れてるのに眠りが浅いのもあって、夜中に食べちゃうんだよね……。結局このままいけば、自分だけ浮いてるのが映像に残って、影で叩かれるんだろうなぁ」
リズのネガティブな思考は元々だったが、今回はより深刻なものだった。
「叩く人なんていないって、クラスの奴らだっていつも呑気に褒めてくれてるじゃん」
「そんなの、私たちのいないところで何言ってるかわからないよ」
リズのように不安に思う感情はもちろんウズメの中にもあり、クラスメイトが四人の中で誰推しか話している姿を目撃していることもあるだけに、四人が平等に好かれていると考えることは難しかった。
自分だけが足を引っ張っている。もし、そんな状況になれば、今まで積み上げてきたものも崩れ出しかねないと思い、不安は大きくなるばかりだった。
「怖いな……本当、いつ手のひら返されて、相手にされなくなるかなんて、分からないよ……」
リズは今まで同じような活動をしている人が口にする言葉を他人事のように見ていたが、いざ自分で口にしてみると、それはあまりにリアリティーがあり、心を抉るように不安に陥ってしまうものだった。
「相手にされないだけだったら、まだいいけどね」
思わずウズメも便乗して、本音が漏れ出た。
身体も大きくて、気楽な立場にある男子が手のひら返しをすれば、一体どんな嫌がらせを受けるのか、想像もしたくないのが本音だった。
「本当にさ、気にしたって疲れるだけだよ、そういうの。
あたし達に出来るのは、努力してこの劇をなんとかすることしかないんだから」
慰めに掛けた言葉だったが、ウズメの言葉でリズの心が晴れることはなかった。
「それじゃあ、また明日ね」
分かれ道まで来て、ウズメは言った。
「うん」
リズはウズメの方を見ることなく力ない返事だけをして、そのまま自分の家へと道を歩いていく。
「このままじゃ、リズ、“孤立するわよ”」
ウズメはリズの姿が見えなくなった後で呟いた。
「私はこれ以上擁護できないから。
でも、リズがこのままだったら……、どうなるのかしらね」
毒づいたウズメの言葉は誰にも届かないが、この先にある未来はウズメが想像する中では、決して明るいものではなかった。
リズが足を引っ張る立場になるのは今日に限らないだけにウズメもリズのことを心配に思い、どう励ましの声を掛けてよいか思案しているところだった。
影が伸びる夕焼け空の帰り道を歩きながら二人きりになったリズとウズメはさっきの会話のことが頭から離れず、我慢しきれなくなり本音を話し始めた。
「最近、ストレスで太ってきたかも」
リズは気になるお腹をさすりながらぽつりと呟いた。
アイドルのような扱いをクラスメイトから受ける四人は日頃から容姿には気を使わなければならなかった。
そうした中でのストレスを一番に感じているのもまた、奥手で大人しいリズだった。
そんな様子を見たウズメも気になっていたのか返事をすることにした。
「やっぱり? そんな気がしてたけど……。人の言うこと気にして思い悩むのは程ほどにしないと。リズはエリザから言われてること、気にすぎじゃない? どうせ後数日も我慢すれば本番で、結果も出るんだから、気にしたって仕方ないって」
あと少しの期間我慢すれば、この緊迫した空気も抜けて、いつものように戻る。多くの視線を受けるのもあと少しの辛抱だとウズメは言いたかった。
しかし、そうしたフォローするための言葉をもらっても、今のリズの心は晴れなかった。
「やだなぁ……、私だけ下手だと目立つだろうし、衣装もキツキツで辛いし、私、出たくないよ」
落ち込むリズは元々細身であり、油断をして食べれば食べるほど気になる部分が膨らんでしまうタイプだった。
「えっ? そんなに、衣装ヤバいの?」
他のメンバーには話していないことであるだけに、ウズメは心配になった。
「うん、言いづらくて言えなかったけど、最初からかなりギリギリのサイズだったみたい……、ウズメのもそうじゃなかった?」
「あぁ、そうだったかも。そういうの、あいつらの趣味だよね。私もスタイル出やすい衣装好きじゃないのよね」
本音が自然と湧き出てくる二人。
寸法測定をしたのは女子とはいえ、出来るだけぴちぴちのサイズで発注しようとしていたのは発注の管理をしていた男子達だった。
年頃の男子の淫らな欲望を影ながら感じてしまう二人は憤りを覚えた。
日常会話の中では彼女達が協力的に奮闘してくれている男子たちの意見を否定するのは難しい。
あまり否定した意見をポロっと言えば信頼関係にも亀裂が入ることを知っていることから、クラスメイトの前では愛想よく振舞わなければならない、それはファンの前と同様のことだった。
無神経なことを言って彼らに表裏があると知られれば、彼らの応援する感情を一気に損ないかねない。
そうなれば、協力してくれる人数も減り、クラスのチームワークは目に見えて失われてしまう。
そのため、我慢しなければならないことや諦めなければならないことがあることも、彼女達は受け入れなければならない状況にあった。
「はぁ……、気が重いなぁ、エリザが余計なこと言わなければ、もっと気楽でいいのに」
気を使いすぎると心身疲弊してしまうのは当たり前のことで、リズが食べ過ぎてしまうのは、エリザの口の悪さによるストレスが大きい。リズの憂鬱さはもはや深刻な領域にあった。
「後、しばらくの辛抱なんだから、甘い物我慢したら?」
ウズメは内心、リズの相手をし続けるのは面倒だと思いながらも、問題が大きくならないために、メンバーが分裂しないためにも仕方なく優しい言葉を掛けた。
「そうしたいのは山々なんだけど、疲れてるのに眠りが浅いのもあって、夜中に食べちゃうんだよね……。結局このままいけば、自分だけ浮いてるのが映像に残って、影で叩かれるんだろうなぁ」
リズのネガティブな思考は元々だったが、今回はより深刻なものだった。
「叩く人なんていないって、クラスの奴らだっていつも呑気に褒めてくれてるじゃん」
「そんなの、私たちのいないところで何言ってるかわからないよ」
リズのように不安に思う感情はもちろんウズメの中にもあり、クラスメイトが四人の中で誰推しか話している姿を目撃していることもあるだけに、四人が平等に好かれていると考えることは難しかった。
自分だけが足を引っ張っている。もし、そんな状況になれば、今まで積み上げてきたものも崩れ出しかねないと思い、不安は大きくなるばかりだった。
「怖いな……本当、いつ手のひら返されて、相手にされなくなるかなんて、分からないよ……」
リズは今まで同じような活動をしている人が口にする言葉を他人事のように見ていたが、いざ自分で口にしてみると、それはあまりにリアリティーがあり、心を抉るように不安に陥ってしまうものだった。
「相手にされないだけだったら、まだいいけどね」
思わずウズメも便乗して、本音が漏れ出た。
身体も大きくて、気楽な立場にある男子が手のひら返しをすれば、一体どんな嫌がらせを受けるのか、想像もしたくないのが本音だった。
「本当にさ、気にしたって疲れるだけだよ、そういうの。
あたし達に出来るのは、努力してこの劇をなんとかすることしかないんだから」
慰めに掛けた言葉だったが、ウズメの言葉でリズの心が晴れることはなかった。
「それじゃあ、また明日ね」
分かれ道まで来て、ウズメは言った。
「うん」
リズはウズメの方を見ることなく力ない返事だけをして、そのまま自分の家へと道を歩いていく。
「このままじゃ、リズ、“孤立するわよ”」
ウズメはリズの姿が見えなくなった後で呟いた。
「私はこれ以上擁護できないから。
でも、リズがこのままだったら……、どうなるのかしらね」
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