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第八話「愛に変わった日~救世主の再臨~」7
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顔を隠したままの不機嫌そうな男の一言で一旦、この場は静まり返り、私はなんとか身体を起こして、助けに来た様子の女性の方を再度よく観察した。
特別鍛えているようにはとても見えない、凛々しさは感じるが、特段、おかしな様子のない普通の成人女性に見える。
見た目には年齢の判断しづらい容姿だが、腕には数珠を付け、黒いワンピースと綺麗なネックレスを着けた、スラっとした体形の八方美人のような女性で、その堂々とした振る舞いからは余裕さえも伺え、自然と大人の貫禄を感じさせた。
だが、この緊迫した状況の中で、慌てる様子一つなく、まるで荒事に慣れているかのような堂々とした佇まいは、私なんかとは全然雰囲気が違っていた。
「うーん、今日のところは救世主(メシア)とでも名乗っておきましょうか。こういう現場を見ると、見過ごすわけにはいかないのよね。私の性分としてはね」
視線を逸らすことなく、軽い口調で私の疑問に答えてくれた女性。
女性は武器を所持していないにもかかわらず、目の前の光景に恐れている様子を微塵も見せない。
この女性の絶対的な自信がどこからやって来るのか、私は不思議でならなかった。
「もう一度警告する、この子どもの命が惜しければ、この場から立ち去りな」
男は自分たちが優位に立っているという立場に変わらぬ様相で、助けが来たこの状況でも諦める様子はなく、牙をむいた。
「綾芽、その子たちをお願い、ここは私が引き受けるわ」
救世主と名乗った女性は軽く微笑み、自信を覗かせたまま、綾芽と呼んだ少女に指示をした。
一度こちらに振り向いた女性からは香水のほのかな香りが漂い、私の気持ちまでも優しく安心させてくれているかのようだった。
「ラジャーです」
怖じ気いてしまっている私に駆け寄ってきたのは、綾芽と女性に呼ばれている中学生くらいの少女だった。
こんな修羅場と化した現場には似つかわしくない、人形のように可憐な黒髪の少女が私と樋坂君の間に入る。
「それじゃあ、この場は母様に任せて、引き揚げますよ?」
落ち着いた様子でそういって助けに来た少女は、血に染まった樋坂君の身体を迷いなく背負い上げる。
「ええっ?!」
私は驚いた。その小さな身体で樋坂君の身体をおんぶして歩き始めたのだ。
「ほら、お姉さんも早く、急いでください」
苦しい様子も見せず、私の方を見て少女はそう言った。
信じられないものを見ていると心に感じながら、私はなんとかこの場から引き揚げようと立ち上がり、再度、誘拐犯と対峙する女性の方を見た。
「大丈夫よ、心配しないで。こういう荒事には慣れてるから。
無事、お子さんは助けて見せるわ。外で待っていて、急いで治療しないと、その男の子危ないわよ」
「―――はい、よろしくお願いします」
荒事を生業とする威圧的態度で人質を取る男たちの前に、女性は臆することなく一歩踏み出し、毅然とした態度で立ち向かおうとしている。
威厳をその身一つで示す女性を前に、邪魔をするわけにはいかず、もう私にはそう答えるほかなかった。
「さぁ、行きなさい。この場は任せて」
私を安心させるために女神のように優しく微笑む女性。
この突然現れた“救世主”のことを信じて任せるしか、それしか選択肢はもう私に残されていなかった。
私は女性の言葉に頷き、緊迫感のある状況に心臓をバクバクさせながら、樋坂君の身体をおんぶする少女を追って体育館を出る。
一体、何が起こっているのか、この人たちは何者なのか、そんなことまるで想像が付かないまま、私は体育館の外に出て、ようやく陽の光を浴びることが出来た。
特別鍛えているようにはとても見えない、凛々しさは感じるが、特段、おかしな様子のない普通の成人女性に見える。
見た目には年齢の判断しづらい容姿だが、腕には数珠を付け、黒いワンピースと綺麗なネックレスを着けた、スラっとした体形の八方美人のような女性で、その堂々とした振る舞いからは余裕さえも伺え、自然と大人の貫禄を感じさせた。
だが、この緊迫した状況の中で、慌てる様子一つなく、まるで荒事に慣れているかのような堂々とした佇まいは、私なんかとは全然雰囲気が違っていた。
「うーん、今日のところは救世主(メシア)とでも名乗っておきましょうか。こういう現場を見ると、見過ごすわけにはいかないのよね。私の性分としてはね」
視線を逸らすことなく、軽い口調で私の疑問に答えてくれた女性。
女性は武器を所持していないにもかかわらず、目の前の光景に恐れている様子を微塵も見せない。
この女性の絶対的な自信がどこからやって来るのか、私は不思議でならなかった。
「もう一度警告する、この子どもの命が惜しければ、この場から立ち去りな」
男は自分たちが優位に立っているという立場に変わらぬ様相で、助けが来たこの状況でも諦める様子はなく、牙をむいた。
「綾芽、その子たちをお願い、ここは私が引き受けるわ」
救世主と名乗った女性は軽く微笑み、自信を覗かせたまま、綾芽と呼んだ少女に指示をした。
一度こちらに振り向いた女性からは香水のほのかな香りが漂い、私の気持ちまでも優しく安心させてくれているかのようだった。
「ラジャーです」
怖じ気いてしまっている私に駆け寄ってきたのは、綾芽と女性に呼ばれている中学生くらいの少女だった。
こんな修羅場と化した現場には似つかわしくない、人形のように可憐な黒髪の少女が私と樋坂君の間に入る。
「それじゃあ、この場は母様に任せて、引き揚げますよ?」
落ち着いた様子でそういって助けに来た少女は、血に染まった樋坂君の身体を迷いなく背負い上げる。
「ええっ?!」
私は驚いた。その小さな身体で樋坂君の身体をおんぶして歩き始めたのだ。
「ほら、お姉さんも早く、急いでください」
苦しい様子も見せず、私の方を見て少女はそう言った。
信じられないものを見ていると心に感じながら、私はなんとかこの場から引き揚げようと立ち上がり、再度、誘拐犯と対峙する女性の方を見た。
「大丈夫よ、心配しないで。こういう荒事には慣れてるから。
無事、お子さんは助けて見せるわ。外で待っていて、急いで治療しないと、その男の子危ないわよ」
「―――はい、よろしくお願いします」
荒事を生業とする威圧的態度で人質を取る男たちの前に、女性は臆することなく一歩踏み出し、毅然とした態度で立ち向かおうとしている。
威厳をその身一つで示す女性を前に、邪魔をするわけにはいかず、もう私にはそう答えるほかなかった。
「さぁ、行きなさい。この場は任せて」
私を安心させるために女神のように優しく微笑む女性。
この突然現れた“救世主”のことを信じて任せるしか、それしか選択肢はもう私に残されていなかった。
私は女性の言葉に頷き、緊迫感のある状況に心臓をバクバクさせながら、樋坂君の身体をおんぶする少女を追って体育館を出る。
一体、何が起こっているのか、この人たちは何者なのか、そんなことまるで想像が付かないまま、私は体育館の外に出て、ようやく陽の光を浴びることが出来た。
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