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第六話「期待と不安と」1

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 私は脚本を仕上げるために夜通しで学生寮として使っているアパートの4階にある角部屋に籠って執筆作業を行った。
 いざ脚本作りをやり始めると、思っていたよりも考えることは多い。
 
 浩二には隠していたことだけど、私はこのエッセイ本の映画を参考にしてすでに一度、舞台劇のための脚本を書いている。
 それをすぐに浩二に見せるのはさすがに気が引けたので、こうして確認しながら修正をしてから、見せようとしているのだけど、書いていると浩二の凄さが一層よく分かった。

 照明やBGM、演技の付け方など、脚本として考えて書いておかなければならないことは実に多い、私は無知であったと自覚するほど、考えが甘かった。

 時間はあまり残されていないということを実感する日々の中で、なんとか形にして、クラスメイトに持っていこうと参考書を机に備えながら、私の執筆作業は続いた。

「にゃーー!!」

 鳴き声が聞こえた気がした。
 少し頭痛がして張りつめていた集中がふいに途切れる。

「ちょっと、マルちゃん!! 邪魔しちゃだめだよ……」

 そして急に机に飛び乗って、キーボードに乗りかかって邪魔をしてくるペットの身体を私は掴んで、なんとかキーボードから離した。

 集中しすぎていたのか意識が朦朧もうろうとしているけど、掴むと思ったよりゴツゴツとして体格が大きく重たく、電気スタンドしか付けていなかったからか視界も良くなかった。

 自分で言うのもアレだけど、普段一人で部屋にいる時の私はだらんとしている。
 決まった時間に寝るわけでもなくラフな格好をしていて、ブラを付けてないことだってある。

 視界も悪い中、ペットとじゃれついている時間もそうだし、年頃の女子と変わらないくらい可愛らしいぬいぐるみも部屋にいて、ベッドにも一緒に寝る用のぬいぐるみが置いてある。

「にゃーー!! にゃーー!!」

 また鳴き声が聞こえる、ちょっと耳障りなぐらい頭の奥の方まで響く。
 軽く頭痛もする、疲れているのかもしれない。
 時々、何匹ペットを飼っているのか分からなくなる時もある。一人暮らしがもう長いからかもしれない、実家で飼っていた猫の事が記憶に残っているからなのかも。

 とはいえ、ぴょんぴょんと狭い部屋でも飛び回っていて、今日もマルちゃんはいつも通りに元気いっぱいだ。

 遊び相手になってほしいのか、近くに寄って来ては私の邪魔をしてくる。
 私は仕方ないなぁと思いながら椅子から降りてマルちゃんをこちょこちょしてあげる。
 
「こちょこちょこちょー!!」

 私は他の人の前では見せないテンションでマルちゃんをあやした。
 お腹を出して無邪気に喜ぶマルちゃんを見ながら、また私の時間が潰れていくのだった。

 マルちゃんは家を抜け出して、公園の段ボールに入っていたこともある。
 きっと仲間がいなくて寂しかったのだろう。

 孤独な者同士の遊戯がしばらく続いて、私ははっと我に返り執筆の続きに入った。
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