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エピローグ「記憶から記録へ変わる日々」(完)4
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そんな、色んなことがあって、10年の時を経て、今ここにいる。
二人の子どもと隆ちゃんと一緒に映画の試写会に訪れている。
しかも、ただの試写会じゃない、”私たちの半生を描いた映画の試写会だ”
私はイヤリングや指輪などの装飾をして、折角だからと薄ピンク色のパーティードレスを着てやってきた。隆ちゃんは私に合わせざる負えなかったのかベージュ色のスーツ姿でネクタイをして上品にジェントルマンのように私の隣に着席している。
今回の映画は私の書いたエッセイ本を題材にしている。
映画として作るに当たって色々改良はされているものの、かなり当時の状況なども忠実に再現されたエンタメ系のノンフィクション映画として作られていて、私もこの日がやってくるのをドキドキしながら見守ってきた。
俳優さんは隆ちゃんに匹敵するくらいのイケメンだし、私の方はさすがにお手上げ状態になるくらい、小顔の上に色気もあってほっとけない感じの可愛い女優さんだ。しかも女優さんの方はなんと現役高校生だそうで、またそれが内容的に本当に大丈夫なのかなと心配になるほどだった。
依頼の打診が私のところにやって来たのはもう何年も前のことだけど、私のエッセイ本を読んで、震災の事とか、復興も進んで大きな話題もなく時間と共に風化してきたところだから、是非に制作の許可を頂きたいと製作スタッフが直々にウィーンにある自宅までやってきてお願いしてきた。
私はまさか自分たちの生きてきた日々が映画になるなんて信じられないし想像もしたことなかったから、思い出を記録する娯楽程度に書いたエッセイ本を読んで映画化をしたいと言い出したのがまるで信じられなかった。
話しを聞く中でその本気度の高さに段々と納得していって、私は隆ちゃんにも相談して承諾することを決めた。
それから取材なりで何度も製作スタッフとは話をして、今日の日を迎えた。
出演者からは私たちのことを見て”神様を見たかのように拝む勢い”で尊敬されたり、本物だぁ…と思われたりしたみたい。
なかなか先程の会場入りした時含め、会うたびに似たような反応をされて恥ずかしい限りだけど、でも、まだ10年でよかったか、とこっそり思った。
これが30年とか40年経過してから作られるとなると、なかなか映画とのギャップが激しくて人前に出づらくなるというものだ。
歳を取るというのは、外見の上ではなかなか受け入れがたいことが多くて困る。
後はちゃんと演奏家としてピアノを続けられているのも大きかった。
不幸なく演奏家を続けている以上、お互いにとって気に病むこともなくwin-winな関係でいられる。そういうことも、よく考えれば大きかったと思う。
これまでの事を振り返りながら、また新たな思い出が積み重なる瞬間が訪れる。
映画”震災のピアニスト”の上映が開始され、パッフェルベルのカノンが鳴り始めたのだ。
小学校の校舎がスクリーンに映り込み、心だけでもあの頃に戻ったかのような懐かしさが全面に込み上げてくる。
カメラは校舎の外から第二音楽室を映し出し、揺れるカーテンの窓から徐々にクローズアップして、真っ黒で艶やかなグランドピアノを演奏する役者が演じる小学四年生の私を映し出す。
”全てはあの日から始まったのだ。彼女の奏でるパッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように出会った、あの日から”
―—―その通りだね。
そんなモノローグで始まる映画に私は心の中でそう思った。
―――隆ちゃん、そうだよね、あの日から私たちは始まったんだよね。
私は止めようのない感動で開幕から瞳に涙を滲ませながら、ギュッと隆ちゃんの手を強く握る。
私の気持ちを察してか、彼は結婚指輪を身に着けた私の指を優しく撫でてくれた。
「……じゃあ、せっかくだから、一曲だけ弾いていってもいいかな?」
「はい、遠慮なくどうぞ。私はそこの椅子に座って聞いていますので」
―――私は幸せだよ、一生ものの出会いをして、こんなにずっと大切にしてもらえて。
「……どうだったかな? いつも一人で練習してばっかりで人にあまり聞かせたことないんだけど」
―――あの日、葉加瀬太郎の情熱大陸を聞かせてくれた隆ちゃん、昔から頑張り屋さんだった。私が一番よく知ってる。一番よく知ってるんだよ。
「そうなんだ……それじゃあ、改めまして、僕は佐藤隆之介です。学校の中で話すのは初めて……だよね」
―――本当に、あの頃の隆ちゃんが私に話しかけてくれているかのようだった。それほどに、役者の演技とは思えないほどに、私の思い出とリンクしていた。
それからも次々にシーンが移り替わり、熱量の込められた演技が繰り広げられる。
私と隆ちゃんの再会シーン、私を勇気づけてくれた隆ちゃんの演奏、本選前の海での語らい。
本選での演奏シーンは大迫力で、コンサートホールで聞くのとはまた色んなアングルも見られて新鮮そのものだった。
*
一時間ちょいの上映会が終わった後、私は何年分かと言いたいくらいに涙を流して隆ちゃんと二人の子どもと一緒に上映会場を後にした。
「やっぱりパッフェルベルのカノンはいつ聞いてもあの頃を思い出す名曲だね」
「ふふふっ、そうね。ちょっとうちの子たちにはこの良さがまだ分からないかもしれないけど。
ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第二番』もとってもよかった。
映画にしたらああいう切り取り方になるのね。
とっても壮大で、盛り上がりも良くって、たまらなかったわ」
「そうだね、また、何度でも観に行こう。
あの頃の僕らにいつでも会いに行けるようで、凄く良かった」
「全くその通りね、また観に行きましょう」
映画というものを通じて、また思い出話に花を咲かせるのも一興だと思った。
手を繋ぎ、子ども達と共に歩く東北の町並みは、少しずつあの頃のにぎやかさを取り戻し始めていて、私たちと同じように、この町もしっかり足を踏みしめながら生きているのだと感じた。
復興の速度は徐々に緩やかなものとなっていく。
それはようやく町自体が自立し始めた証拠でもあるのかもしれない。
この町で暮らす人々の暖かさに改めて触れながら、また私たちは明日へと向かって生きていく。
映画という形で、今を生きる人々に勇気を与えて、私たちの旅は次のステップを刻む、パッフェルベルのカノンの音色に耳を澄ませながら。
二人の子どもと隆ちゃんと一緒に映画の試写会に訪れている。
しかも、ただの試写会じゃない、”私たちの半生を描いた映画の試写会だ”
私はイヤリングや指輪などの装飾をして、折角だからと薄ピンク色のパーティードレスを着てやってきた。隆ちゃんは私に合わせざる負えなかったのかベージュ色のスーツ姿でネクタイをして上品にジェントルマンのように私の隣に着席している。
今回の映画は私の書いたエッセイ本を題材にしている。
映画として作るに当たって色々改良はされているものの、かなり当時の状況なども忠実に再現されたエンタメ系のノンフィクション映画として作られていて、私もこの日がやってくるのをドキドキしながら見守ってきた。
俳優さんは隆ちゃんに匹敵するくらいのイケメンだし、私の方はさすがにお手上げ状態になるくらい、小顔の上に色気もあってほっとけない感じの可愛い女優さんだ。しかも女優さんの方はなんと現役高校生だそうで、またそれが内容的に本当に大丈夫なのかなと心配になるほどだった。
依頼の打診が私のところにやって来たのはもう何年も前のことだけど、私のエッセイ本を読んで、震災の事とか、復興も進んで大きな話題もなく時間と共に風化してきたところだから、是非に制作の許可を頂きたいと製作スタッフが直々にウィーンにある自宅までやってきてお願いしてきた。
私はまさか自分たちの生きてきた日々が映画になるなんて信じられないし想像もしたことなかったから、思い出を記録する娯楽程度に書いたエッセイ本を読んで映画化をしたいと言い出したのがまるで信じられなかった。
話しを聞く中でその本気度の高さに段々と納得していって、私は隆ちゃんにも相談して承諾することを決めた。
それから取材なりで何度も製作スタッフとは話をして、今日の日を迎えた。
出演者からは私たちのことを見て”神様を見たかのように拝む勢い”で尊敬されたり、本物だぁ…と思われたりしたみたい。
なかなか先程の会場入りした時含め、会うたびに似たような反応をされて恥ずかしい限りだけど、でも、まだ10年でよかったか、とこっそり思った。
これが30年とか40年経過してから作られるとなると、なかなか映画とのギャップが激しくて人前に出づらくなるというものだ。
歳を取るというのは、外見の上ではなかなか受け入れがたいことが多くて困る。
後はちゃんと演奏家としてピアノを続けられているのも大きかった。
不幸なく演奏家を続けている以上、お互いにとって気に病むこともなくwin-winな関係でいられる。そういうことも、よく考えれば大きかったと思う。
これまでの事を振り返りながら、また新たな思い出が積み重なる瞬間が訪れる。
映画”震災のピアニスト”の上映が開始され、パッフェルベルのカノンが鳴り始めたのだ。
小学校の校舎がスクリーンに映り込み、心だけでもあの頃に戻ったかのような懐かしさが全面に込み上げてくる。
カメラは校舎の外から第二音楽室を映し出し、揺れるカーテンの窓から徐々にクローズアップして、真っ黒で艶やかなグランドピアノを演奏する役者が演じる小学四年生の私を映し出す。
”全てはあの日から始まったのだ。彼女の奏でるパッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように出会った、あの日から”
―—―その通りだね。
そんなモノローグで始まる映画に私は心の中でそう思った。
―――隆ちゃん、そうだよね、あの日から私たちは始まったんだよね。
私は止めようのない感動で開幕から瞳に涙を滲ませながら、ギュッと隆ちゃんの手を強く握る。
私の気持ちを察してか、彼は結婚指輪を身に着けた私の指を優しく撫でてくれた。
「……じゃあ、せっかくだから、一曲だけ弾いていってもいいかな?」
「はい、遠慮なくどうぞ。私はそこの椅子に座って聞いていますので」
―――私は幸せだよ、一生ものの出会いをして、こんなにずっと大切にしてもらえて。
「……どうだったかな? いつも一人で練習してばっかりで人にあまり聞かせたことないんだけど」
―――あの日、葉加瀬太郎の情熱大陸を聞かせてくれた隆ちゃん、昔から頑張り屋さんだった。私が一番よく知ってる。一番よく知ってるんだよ。
「そうなんだ……それじゃあ、改めまして、僕は佐藤隆之介です。学校の中で話すのは初めて……だよね」
―――本当に、あの頃の隆ちゃんが私に話しかけてくれているかのようだった。それほどに、役者の演技とは思えないほどに、私の思い出とリンクしていた。
それからも次々にシーンが移り替わり、熱量の込められた演技が繰り広げられる。
私と隆ちゃんの再会シーン、私を勇気づけてくれた隆ちゃんの演奏、本選前の海での語らい。
本選での演奏シーンは大迫力で、コンサートホールで聞くのとはまた色んなアングルも見られて新鮮そのものだった。
*
一時間ちょいの上映会が終わった後、私は何年分かと言いたいくらいに涙を流して隆ちゃんと二人の子どもと一緒に上映会場を後にした。
「やっぱりパッフェルベルのカノンはいつ聞いてもあの頃を思い出す名曲だね」
「ふふふっ、そうね。ちょっとうちの子たちにはこの良さがまだ分からないかもしれないけど。
ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第二番』もとってもよかった。
映画にしたらああいう切り取り方になるのね。
とっても壮大で、盛り上がりも良くって、たまらなかったわ」
「そうだね、また、何度でも観に行こう。
あの頃の僕らにいつでも会いに行けるようで、凄く良かった」
「全くその通りね、また観に行きましょう」
映画というものを通じて、また思い出話に花を咲かせるのも一興だと思った。
手を繋ぎ、子ども達と共に歩く東北の町並みは、少しずつあの頃のにぎやかさを取り戻し始めていて、私たちと同じように、この町もしっかり足を踏みしめながら生きているのだと感じた。
復興の速度は徐々に緩やかなものとなっていく。
それはようやく町自体が自立し始めた証拠でもあるのかもしれない。
この町で暮らす人々の暖かさに改めて触れながら、また私たちは明日へと向かって生きていく。
映画という形で、今を生きる人々に勇気を与えて、私たちの旅は次のステップを刻む、パッフェルベルのカノンの音色に耳を澄ませながら。
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