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第1章「会いたい人」1
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運命のような出来事はいつも唐突に訪れる
誰かが決めたことでもなく、誰の意思が働いたわけでもなく
唐突にやってくる
全ては6年前のあの日から始まったのだ
ピアノの音によって引き寄せられ
物語の鐘が鳴り響くかのように、僕らを引き合わせた、あの日から
*
僕の名前は佐藤隆之介。日本生まれで日本人の父親とヨーロッパで生まれた欧米人の母親の血が混ざった金色の髪と白い肌をしているいわゆるハーフで、運動は得意という程ではなく、好きなことは音楽でピアノを小さい頃から習っている。
まだ小学四年生だった当時の僕はある日の放課後、偶然忘れ物をしてしまい、学校の校舎に再び戻った時、第二音楽室から唐突に聞こえて来た、パッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように運命の女性と出会った。
彼女の音楽は最初に聞いたその時から優しさに溢れていた。それは自惚れのようだが、楽しそうにピアノを演奏する彼女の様子から見て明らかだった。
年相応といえばそれまでかもしれないけど、それでも僕にとっては彼女の姿は何者よりも可憐で美しく映った。
一方でピアノに向き合う僕はいつも一生懸命だった。ピアノを弾く楽しさをいつからか忘れていた。
そう、僕にとっての才能はピアノしかなかった。それ以外に取り柄もなく、ピアノを上手に演奏できなければ、弾くことができなければ、僕は生きる意味さえも見失ってしまうだろうという危機感にいつも苛まれていた。
だから、不安に駆られるように、暇さえあれば譜面を見つめ、演奏できるまで練習を繰り返した。
僕はたとえ指や腕が痛くても、躓いて泣き出しそうでも練習を続けるほかなかった。
つまりは自分の才能を信じたかったのだ。
その時、僕の演奏を聞いた彼女は嬉しそうに目を輝かせて、こんな僕のために眩しいばかりの笑顔を浮かべてくれた。
そして、僕のことを捲くし立てるように興奮した様子で褒めてくれるのだ。
僕はそんな人見知りしない態度の彼女の姿を見て思わず笑った。
久々に人前で笑った気がした。ピアノの前ですら上手に笑えることが少ない自分が、同世代の女の子の前で自然に笑うことができた。彼女のおかげだった。
だから、この人は僕にとっての運命の人なのだろうと、この時、一瞬で思ったのだ。
「噂に聞いてたの……、式見先生が、とってもピアノが上手な同学年の男子生徒がいるって……。
それって、君のことだよね?
私はね、四方晶子っていうの、君がその子だとしたら、同じ小学四年生だよ!」
太陽のように眩しい調子で彼女が僕の演奏を聞いて言ってくれた、ずっと忘れてることのなかった出会いの日の愛しい言葉。
その声も、その時浮かべた彼女の笑顔も、ピアノの音も決して忘れることはない。
僕にとって唯一の大切な人。
いずれ再会すると約束していた、最愛の人。
誰かが決めたことでもなく、誰の意思が働いたわけでもなく
唐突にやってくる
全ては6年前のあの日から始まったのだ
ピアノの音によって引き寄せられ
物語の鐘が鳴り響くかのように、僕らを引き合わせた、あの日から
*
僕の名前は佐藤隆之介。日本生まれで日本人の父親とヨーロッパで生まれた欧米人の母親の血が混ざった金色の髪と白い肌をしているいわゆるハーフで、運動は得意という程ではなく、好きなことは音楽でピアノを小さい頃から習っている。
まだ小学四年生だった当時の僕はある日の放課後、偶然忘れ物をしてしまい、学校の校舎に再び戻った時、第二音楽室から唐突に聞こえて来た、パッヘルベルのカノンの音色に引き寄せられるように運命の女性と出会った。
彼女の音楽は最初に聞いたその時から優しさに溢れていた。それは自惚れのようだが、楽しそうにピアノを演奏する彼女の様子から見て明らかだった。
年相応といえばそれまでかもしれないけど、それでも僕にとっては彼女の姿は何者よりも可憐で美しく映った。
一方でピアノに向き合う僕はいつも一生懸命だった。ピアノを弾く楽しさをいつからか忘れていた。
そう、僕にとっての才能はピアノしかなかった。それ以外に取り柄もなく、ピアノを上手に演奏できなければ、弾くことができなければ、僕は生きる意味さえも見失ってしまうだろうという危機感にいつも苛まれていた。
だから、不安に駆られるように、暇さえあれば譜面を見つめ、演奏できるまで練習を繰り返した。
僕はたとえ指や腕が痛くても、躓いて泣き出しそうでも練習を続けるほかなかった。
つまりは自分の才能を信じたかったのだ。
その時、僕の演奏を聞いた彼女は嬉しそうに目を輝かせて、こんな僕のために眩しいばかりの笑顔を浮かべてくれた。
そして、僕のことを捲くし立てるように興奮した様子で褒めてくれるのだ。
僕はそんな人見知りしない態度の彼女の姿を見て思わず笑った。
久々に人前で笑った気がした。ピアノの前ですら上手に笑えることが少ない自分が、同世代の女の子の前で自然に笑うことができた。彼女のおかげだった。
だから、この人は僕にとっての運命の人なのだろうと、この時、一瞬で思ったのだ。
「噂に聞いてたの……、式見先生が、とってもピアノが上手な同学年の男子生徒がいるって……。
それって、君のことだよね?
私はね、四方晶子っていうの、君がその子だとしたら、同じ小学四年生だよ!」
太陽のように眩しい調子で彼女が僕の演奏を聞いて言ってくれた、ずっと忘れてることのなかった出会いの日の愛しい言葉。
その声も、その時浮かべた彼女の笑顔も、ピアノの音も決して忘れることはない。
僕にとって唯一の大切な人。
いずれ再会すると約束していた、最愛の人。
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