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第一章 

第3話 新たな生活へ

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「装備まで買ってくれるんですか?」

 グレンさんに引きずられてやってきたのは冒険者の武器や防具を取り扱っているドンテ武具屋。
 グレンさんの行きつけの店のようで安くしてもらえるらしい。
 ドンテさんはドワーフと言われる鍛冶の得意な種族。鍛冶の趣味が高じて武具屋を営むことになったらしい。うん、どの武具も手入れが行き届いてる。

「グレン、その坊主と依頼に行くのか?」

「ああ、少し強くなって戦えるようになったみたいだからな」

「そうか……、坊主、このおとこをよろしく頼むぞ」

「え? 僕の方がお世話になると思いますけど」

 ドンテさんにそう答えると二人で顔を見合って笑い始めた。
 僕みたいな初心者じゃお世話になると思うからね。って本当に僕なんかとパーティー組むのかな。

「グレンさん、本当に僕なんかと?」

「ああ、ザックとの決闘も勝手に決めちまったしな。心配するなよ。俺の勘じゃ一週間もたたずにやつを超えられるさ」

「本当ですか?」

 大きく頷くグレンさん。その横でドンテさんはため息をついてる。

「グレンは嘘はつかんさ。ただわがままに付き合わされてやってくれ。こいつは弟の事をわすれられないんだ」

「ちょ、ドンテ。なにを」

「付き合ってくれるんだから知っておいたほうが良いだろ」

 ドンテさんとグレンさんが言い合いになる。
 グレンさんの弟さんと僕が何か関係あるのかな?

「こいつはな弟を亡くしてるんだ」

「えっ!? 弟さんを」

「ああ」

「……買いたいものが見つかったら呼んでくれ」

 いたたまれない様子のグレンさん。居心地が悪くなったみたいで店の外にいっちゃった。

「丁度おめえと同い年くらいの時だ。グレンも新米でな。ここに来るのも初めての時だった。奴の弟は刀が好きで大小の刀を買っていったのを覚えてる」

 煙草をふかしながら思い出していくドンテさん。刀か……剣士スキルで行けるかな?

「やつはおめえを弟と重ねてんだろうよ」

「だから良くしてくれるんですね。なんだか申し訳ない」

「おう。だからな、少しの間付き合ってやってくれ。これは俺のわがままになっちまうがな」

 ドンテさんは僕の頭をポンポンと叩いて微笑んだ。

「じゃあ、刀ありますか?」

「ん? 別にそこまで合わせなくてもいいんだぞ」

「いえ、必要なものってよくわからないのでカッコいいからいいかなって」

「ははは、そういうことなら俺が見繕ってやるよ。あの時は金がなかったグレンだが、今は腐るほど持っているはずだ。安全に事が済むように最強の刀と防具を見繕ってやる」

 ドンテさんは得意げにそういって奥の部屋に入って行った。
 しばらくすると大風呂敷に装備一式を包んで持ってきてにっこりと微笑む。

「こいつは業物でな。【カゲツナ】と言われるものだ。小太刀だが、よく切れる。ナイフ代わりに使っても刃がかけることがないから安心して使ってくれ。あとはこの太刀だな」

 小太刀を見せると次は太刀を取り出した。僕の身長よりも大きな太刀で背中に斜めに刺さないと使えなさそうだ。

「太刀、【オオグチ】と言われる業物だ。これも刃がかけたことがないと言われる一品。残念ながらこいつらは二つとも俺が作ったものじゃねえ。じゃまだから持っていってくれると助かるってことだ。あとは」

 太刀を見せてくれると頬をポリポリと掻いて照れ臭そうにしてる。
 そんな凄いものを紹介してくれるなんて僕はなんて幸運なんだろうか。
 しかし、グレンさんの財布が心配なんだけど。
 太刀以外の装備も充実してる。初心者冒険者がよく装備している皮鎧かと思ったらボアスネークの皮で作った鎧だった。
 見た目は初心者っぽいのに防御力がかなり上がる装備、Cランクの冒険者でもそうそう装備していないんじゃないかな?
 だって、ボアスネークって言ったらAランクの魔物で、象くらい大きな蛇だからね。
 冒険者はEランクからD、C、B、A、Sってランクが上がる。Cランクから昇格には試験が設けられていて、ギルドや国に貢献すると試験の話が持ちかけられるらしい。
 魔物のランクもギルドが決めてる。依頼の難易度を決めるときに重要な要素だからね。無視は出来ない話だ。
 確かグレンさんはAランクの冒険者だから、Eランクの僕とじゃ釣り合わないな。

「こんなものか、そろそろグレンを呼ぶぞ。グレン、決まったぞ」

「ああ……」

 外に向かってドンテさんが声をあげると恥ずかしそうに頭を掻いたグレンさんが入ってきた。刀を背中に背負った僕を見てグレンさんは少し驚いてる。

「刀にしたのか……」

「はい。いいものがあるってことで」

 ドンテさんの話を聞いてと言うとグレンさんも気を使ってしまいそうだから言わないでおこう。ドンテさんに目配せもしておいたので言わないでおいてくれる。

「ドンテの宝物だろ」

「いいさ。宝だろうが何だろうが武器は使わねえと錆びちまうからな」

 グレンさんの言葉にドンテさんががははと笑った。そんな大事なものを、本当にいいのかな?

「代金は全部で白金貨一枚だ」

「おい。おかしいだろ。白金貨三枚くらいするだろ」

「ええ!? 白金貨三枚!?」

 白金貨って言ったら一枚で小さな家が2軒買えるよ! 三枚ってことはちょっとしたお店が買えるくらいだ。

「サービスだよ。それを期待してうちに来てんだろ」

「違えよ。値段よりも質だよ」

 ここに来るときはサービスしてくれるからって言っていたグレンさんだったけど、やっぱり質でドンテさんの店を選んでいたんだな。照れ隠しとはいえ、素直じゃないな~。

「グレンからはこれ以上は金を取らねえよ。出世払いでティルに払ってもらうさ」

 ウインクしてくるドンテさん。払える気はしないけど、頷いておこう。

「わかったよ。こりゃ、俺の責任重大だな」

 白金貨を一枚手渡すグレンさん。
 そんな大金をポンと出せるあたり、やっぱり冒険者って稼げるんだな~。

「よし、これで装備も整ったな。早速森に行くぞ」

「はい!」

「良い返事だ。とにかくティルは命を大事にしていけよ」

 グレンさんはそういって僕の頭を撫でる。
 ドンテさんに手を振って店をはなれる。
 初めての狩りだ。緊張するな。
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