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第二章 黒煙

第六十話 やっと隠居生活・・・ああ、ダメですよね

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 ワティスさんの家について扉をたたくとクコが迎えてくれた。多少ダリルさんはクコを警戒するんだけどクコは気にしていないようですぐにワティスさんを呼んでくれた。

「これはこれはルークさんにダリルさん、今日はどういったご用ですか?」

 いつものソファーに座ると向かいにワティスさんが座る。ダリルさんも僕の横に座って話し出した。

「孤児院の事は知っていますよね。そこで子供達を多く受け入れたのですが何分、人がいなくて」
「なるほど、教育とお世話をする人がいないんですね」

 ダリルさんの言葉から大体の事を理解したワティスさん。流石商人、一を聞いて十を知るって感じで話が早くて助かります。

「では私の方で10人程手配しましょう。読み書きができる家政婦を。それで、ルークさんにはお願いが」
「あ、やっぱり無償じゃないですよね」
 
 そんな甘い話はないですよね。僕は苦笑いをしてワティスさんの条件を聞いていく。

「ひまわりを卸してもらうのと果物を卸してほしいのです。今回はメロンがいいのですが」
「そんな事ですか、いいですよ」
「おお、ありがとうございます。ではこれが前回のひまわりの代金です」
「・・・」

 またまたお金がいっぱいです。こんなにお金あって僕は何に使うのかな?家は自分で建てられるし、食べ物も作れるし。何に使ったらいいの?

「ルークさんはそのお金で国でも買うのですかな?」
「ワティスさんそれは冗談になっていないですな」
「「はっはっは」」

 ダリルさんとワティスさんが一緒になって僕を揶揄ってきた。僕が国なんて買うわけないじゃないか、英雄生活を通り越して王様生活ってどんな罰ゲームですか。英雄よりも過酷で大変でしょ、王様って。

「まあ、それは置いて置いて。人は二日三日で見つけて見せますよ」

 僕の出したメロンとひまわりの種を冷蔵室にしまうとワティスさんがそう話した。10人もそんな人材を確保できるなんて凄いな~。

「一人は儂何じゃけどな」
「あ~、そうか~、クコは歴史も知っているし適任だったね」
「うむ」

 クコは胸を張って鼻が高くなっている。クコなら危険があっても子供達を守れるし、確かに適任だね。

「クコは私よりも頭がいいですから最高の教師になると思いますよ」
「ワティスほどではないぞ。儂の愛した人間じゃからな。ワティスは凄いんじゃ」

 二人の間にハートマークが見える。ダリルさんと僕の前で堂々とイチャイチャしないでほしいんですけど。羨ましいったらないです。

 いい報告を聞けたはずなのに僕とダリルさんは俯き加減でワティスさんの家を出た。あんだけイチャイチャを見せられると流石にこんな気分になるよね。





 僕とダリルさんは一緒に嗜む子牛亭に帰ってきた。すると嗜む子牛亭の外で子供達が遊んでいて、それを傍らから見ていたティリス様とゼッバスチャンが僕を見つけると僕の方へと駆けてきた。何かあったのかな?

「ルーク!王都にはいつ行くの!もう準備できているわよ」
「ええ!もうですか?」
「ティリス様はルーク様達と一緒に行きたいと申しております」

 確かに世界樹のレインから王都の方にノーブルローズ様がいるって聞いたけど急げとは聞いていないんだよね。だからティリス様達に先に帰っていてもらって下調べして欲しかったんだけど。それに孤児院の人員の件もあるしね。すぐにはいけないよ。

「孤児院の事もあるのですぐにはいけませんよ」
「何!そうなのか...」
「先に行ってもらって色々調べてほしかったんだですけど」

 すぐに行けないと伝えると凄く残念そうにしたティリス様、何だか僕がいじめているみたいだけど、先に言ってて欲しいと言うとムスっとして黙っちゃった。

「ティリス様は寂しがり屋なのです。それにルーク様の馬車と私達の馬車では速度に差があり過ぎて先に行っても追いついてしまいますよ」

 無口になってしまったティリス様に代わってゼッバスチャンが説明してくれた。ティリス様はゼッバスチャンの言葉を聞いて恥ずかしいのか俯いてしまった。

「私はティリス様の唯一の執事なのです。ティリス様はその身分のせいでお友達といえる人はいないのです。普通の人と話したのもあなた達が初めてなのですよ」

 またまた、そんなわけないじゃないか。お姫様でも今まで話したことないなんて大袈裟だよね。って思ったんだけど、ティリス様が否定しないのを見ると本当なのかもしれない。

「分かりましたわかりましたよ。だけど、孤児院の人員を確保するまで離れるわけには行きません。子供達の方が大事ですからね」

 ゼッバスチャンが顔を近づけてきて圧をかけてきた。しょうがなく一緒に行くことにするけど孤児院の事は譲れない。

「わかった。無理をいってすまん。その間、子供達と遊んでいよう」
「フォフォフォ、ティリス様も遊びたい盛りですからな」

 何だか二人にはめられた感が強いけど仕方ないよね。王都に行く時は僕の馬車で行くことにしよう。流石に三週間も街道を行くのは飽きちゃうだろうからね。
 何で貴族の人達はそんな長い時間かけて王都に行くんだろうね。

「お帰りルーク」
「...ただいま」
「何か考え事かにゃ?」

 僕に気が付いたモナーナとニャムさん。考え事をしている僕を心配して顔を覗いてきた。

「何で貴族の人達は長旅をして街をまわるんだろう、何か良い事でもあるのかなって考えてたんだ」
「なるほどにゃ、ティリス様達と話していたのは王都に行く話だにゃ」
「ルークはそう言う所知らないんだね」

 僕の疑問に二人は知っている口のようです。僕だけ知らないって事は結構、常識なのかな?これでもエリントスで常識を学んだつもりなんだけど。

「そう言う事なら私がご説明いたしましょう」

 僕の背後からメイさんが顔を覗かせる。急に現れるもんだから僕はビクッとしてしまう。一緒に同行するようになってからメイさんは度々僕を脅かしてくる。完全に僕で遊んでいますね。

「貴族の方々は長旅をしてお金を落としているんです。更に王都から離れている領地を持っている貴族は王族から信用されていないとも言われています。お金を多く落とさせることでその貴族のお金を多く落とさせて貯金させない事で戦力を削いでいるのです。本来は地方にもお金を落とすという仕組みなのですがそれを利用して平和にも繋げているわけですね。ちなみにクルシュ様は王都の貴族からは嫌われています。優しすぎると色々と目障りなようですね」

 メイさんは得意気に説明しています。最後の方は愚痴っぽくなっているけどクルシュ様みたいに住民に優しい人は王都の貴族に嫌われるんだね。王都の貴族はどれだけ腐っているんだろうか、これから行くと思うと何だか気が重い。

 ルークは出来るだけ人員問題に時間がかかってほしいと思っていたのだがワティスさんのお陰で人員問題は解決していった。喜ばしい事だったのだがルークは素直に喜ぶことが出来ずにいたのだが、約束通り王都への準備をする事になってしまったルーク、寂し気なその背中がやる気のなさをかもし出していた。
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