上 下
102 / 165
第二章 黒煙

第五十八話 リナージュ

しおりを挟む
 僕らはティリス様達の待つ村はずれに帰ってきた。ティリス様は腕組をして仁王立ちしています。遠巻きに見ても怒っているのが伺える。

「おそい!いつまで待たせる」
「ティリス様落ち着いてください」

 ティリス様は憤りをみせて僕らに近づいてきた。ゼッバスチャンがそれを抑えているんだけど抑えられないようで僕は後ずさり。

「エルフの人達と話していたんだよ」
「それは知ってる。内容は?」
「それは言えないかな~」
「なんでじゃ!」
「だって僕はティリス様がどんな人か知らないし」
「そういえば名乗ってなかったわね」

 そう言って、フンスと鼻息荒くしたティリス様は、小さい体を大きく見せる為にゼッバスチャンを四つん這いにさせてゼッバスチャンの背中に乗った。それでもぎりぎり僕の方が背が高いです。

「私はリナージュ・ティリス、リナージュ・バルトの次女よ。どう?言う気になった?」
「・・・」

 僕はポカンとしています。リナージュって王都の名前でそれを名乗っているという事は貴族の人の可能性が高い、領主の方々も本来なら名乗ってもいいのだけどクルシュ様やルザーなんかは名乗ってなかった。
 それはみんなが知っているからなんだ。街の名前が頭にきてそれからその人の名前が入る。それは僕でも知っている常識。
 という事はこの人って王都の貴族の人って事になる。それも確か王都のリナージュを名乗るのを許されているのは王族だけだったような?

「ル、ルーク・・この人、現王の子供なんじゃ?」
「そうにゃ、確か、バルト様にはアリス様とティリス様の二人の子供がいるって聞いたにゃ。あまり表に出ないから顔は知らなかったにゃ」

 モナーナとニャムさんもその事を思い出して声に出した。それを聞いて僕は更にポカン、王族の人に世界樹の話をして大丈夫なのか?否、絶対に英雄生活に及んでしまうでしょう。
 ではどうするか?貴族の命令は絶対、ましてや王族です。逆らったらどうなっちゃうの?

「フンスッ、分かればいいのだ。それで何を言われたんだ?あんな世界樹を有しているエルフ達に何をお願いされたんだ。そもそも、なぜルークはエルフに呼ばれた?」

 胸を張って話すティリス様。色々説明を要求されてしまった。僕は俯いて考える。正直に言っても理解されないだろう。

「それは私がご説明しましょう」

 どうしようと考えているとエルフの村の方からルナさんがやってきた。

「私達は世界樹のレイン様からお話を聞く技を持っています。それによって、この地で一番、木の心を理解できる人を探した結果、ルークさんが見つかったのです。ルークさんの作った孤児院を見たでしょう。木々達は喜んで壁や柱になり聖なる波動で建物を守っていました。あんなことが出来るのはエルフの大工でも一人いるかいないかといったほどの者です。レイン様は彼にノーブルローズ様、大昔の世界樹の捜索をお願いしたのです」
「ノーブルローズ様?」

 ルナさんは僕の凄さを極力抑えて話していく、ティリス様はうんうんといったように何度も頷いて話を聞いている。あの姿はとても可愛らしくてまだまだ子供なのが分かる。

「ノーブルローズ様が王都の方角にいるというのか?」
「そのようなのです。そして、地面に面していないというのも謎が多く、ぜひ、あなた方人族の王族にも協力して欲しいのです」
「う~む」

 話を一通り聞くとティリス様は顎に手をあてて考え始めた。しかし、王族の人が同行者一人で出歩いて大丈夫なのかな?盗賊とかにあったら大変なんじゃないの?まあ、大丈夫ならいいんだけどね。

「わかった。私がお父様に言ってみよう」
「ありがとうございます」

 話は順調に進んでティリス様は意気揚々と馬車に乗って行った。そして、ルナさんが僕に近づいてきて耳打ちをする。

「あなたが強い事は内緒なんですよね」
「出来ればお願いします」
「わかりました」

 それだけ確認してルナさんは僕の馬車に乗り込んだ。あれ?まさかしてついてくるの?

「ルナさん?」
「レイン様の命令で手伝うように言われました。私の能力は知っているでしょ?役に立つと思いますよ」
「そうだけど・・・」

 僕はモナーナとニャムさんを見ると微妙な表情をしている。歓迎していいんだか悪いんだかといった感じなのかな?最悪、孤児院のエルフの子達のお母さんになってもらおう。エルフの子も一人いるしね。

 妙な空気のまま、僕らは馬車に乗り込むとミスリーは走り出した。ティリス様たちの馬車も一緒なので来た時と同じだけ時間がかかってしまった。ティリス様達がいなければ小屋も出せて快適だったんだけどね。でも、しょうがない、僕の能力がばれてしまうと英雄身削り生活がやってきてしまうから。






 ルーク達が世界樹の麓についてすぐ、ワインプールではユアンが悲しみを背負いながらシャラを背負って王都リナージュへと向かった。

 ユアンはルークが自分に何も言わずに出かけていた事に驚いて一日悲しみに暮れていた。その間にアレイストが王都のギルドに連絡をとりシャラを捕獲したことを伝えたのだ。王都のギルドからは捕まえた本人とシャラを王都へと送れと言う返事が返ってきて今に至る。

「何で兄さんは僕に言ってくれなかったんだ」
「お前はあのルークとか言う小僧から嫌われているんじゃないのか?」
「うるさいぞシャラ」

 ユアンの不安をかきたてるようにシャラが口を挟んだ。ユアンがそんな言葉に耳を貸すはずもない。ユアンにとってルークは信仰の対象と言ってもいいほどの信頼がある。シャラ如きの言葉でユアンは揺るがない。

「では何故、お前は今、一人で王都に向かっているのだ?おかしいだろう。それにあの小僧はお前に英雄になって身を削れといっているんだぞ。おかしいだろう」
「それは違うよシャラ。僕は自分から英雄を目指しているんだ。兄さんの為とかそう言うんじゃない。それに僕だけだったら君を殺さずに捕獲なんて絶対に無理だった。君を殺して自分も無事じゃすまなかったよ。君も兄さんに感謝した方がいい。僕と君は兄さんに生かされたんだ。僕の一番大切な兄さんのおかげでね」

 恋する乙女の表情をしてルークを思うユアン。そのユアンの言葉に歯軋りをするシャラ。シャラは負けたとは思っていない。龍達にとっての完璧な負けとは死を意味している、それを味わいもせずに彼女は負けを認める事はできないのだ。

「俺はあの小僧に負けた覚えはない。あの小娘の魔法でひれ伏しただけだ。油断しているときにやりおって。今度会ったら油断している隙に」
「無駄だよシャラ。彼女は兄さんの加護の元にいるんだ。僕が羨むほどの加護の中に。兄さんの作った武器をつけて兄さんの作った防具を身に着けている。それに・・・秘密を共有するのは彼女達が初めてだったからね」

 シャラの殺気のこもった言葉にユアンは口を挟んだ。ユアンはモナーナへの嫉妬を語った。しかし、モナーナとニャムさんとは秘密を共有する仲、嫉妬はするものの憎みはしない。ユアンは密かにルークの武器や防具を欲していた。ユアンから欲しいと言うだけで彼は作ってくれるのだが、最近色々と忙しかったので言えずにいたのだった。

「早くお前を王都の牢獄に入れてすぐに戻らないと!」
「しかし、お前、早いな。俺を倒すというだけはある」
「そういえば、来るときよりも早いかもね。兄さんの指輪のおかげかな?」

 ユアンの移動速度はエリントスからワインプールの時よりも更に早くなっている。これはルーク成分を多く確保できたから・・・ではなく、ルークの作った物を持っていたからである。付喪神の宿っているものはルークと会う事で魔力を補充できる。その魔力が満タンになった事で本来の力を発揮したのだ。その力がなくても十分な力を保有しているのだが魔力が満タンになった時の効力は更に凄い物になっているのだった。

「これなら四日で着くかな~。たぶん、王様に謁見してまたお金をたくさんもらって困るんだろうな」
「ふんっ」
 
 ユアンの言葉にシャラは苛立ちを見せた。早く着けばつくほどにシャラが牢に入れられるのが早まるのだから苛立つのもわかる。災厄の龍として世界に名を轟かせたシャラ、最後の外での生活も近いだろう。





 ユアン達が向かう、王都リナージュのある屋敷では酒におぼれた大人が一人黄昏ていた。

「豪華な屋敷にお金と私・・・あの人が生きていれば、もっと幸せだったのに」

 王城の横に建設されたユアンの屋敷。外観はまるで宮殿、その屋敷のテラスから夜空を見上げて呟いている女性。彼女はユアンの実の母、カテジナだった。

 カテジナは王都に来てからずっと悠々自適な生活を送っていた。流石に男を買う事は出来ずにいたので酒だけが彼女の楽しみになっていった。

「お金、ふふふ。お金がいっぱいあってもそれ目当ての男ばかり。私を見てくれない。子供達だって私からいなくなった。私って何なんだろう」

 今になってカテジナは子供達の大切さを思い出し始めた。酒の何とも言えない喪失感がそうさせるのかもしれないがウスウス彼女は気付き始めていた。血のつながりとは何物にも劣らないという事に。

「あの子は今どこにいるのかしら。龍を追いかけていったって言っていたけど、まさか、行方不明に。いえ、大丈夫、ギルドに連絡があったっていっていたわ。災厄の龍を捕獲したって。エリントスの方角の街、ワインプールとか言ったかしら、そこに行ったのよね。ルークも元気にしているのかしら、同じワインプールって事は兄妹水入らず...今更私は不要よね」

 彼女は後悔を口にした。ルークに冷たい態度をとっていた自分に後悔を感じたのだ。当の本人ルークは健気に仕送りを送っている。カテジナの事を悪く思わなくなったルークにとって昔の事など関係ないのだった。

「早くユアンに会いたいわ」

 一人寂しくお酒を飲んで寝るだけの生活に飽き飽きしたカテジナはユアンを待ち遠しく思うのだった。
しおりを挟む
感想 293

あなたにおすすめの小説

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...