上 下
43 / 165
第一章 始まり

第四十二話 奇蹟

しおりを挟む
「壁が壊されるぞ!門の横だ。何でもいい時間を稼げ!」

 衛兵のエイベルは周りに指示を飛ばす。城壁を木で補強しようとするのだがそれは無駄な事だった。城壁に人が通れるほどの穴が出来てその穴からワーウルフソルジャーが光る牙を見せた。

 衛兵達は硬直した。ワーウルフ達の咆哮をもろに受けてしまったのだ。ワーウルフはにやけながら衛兵に近づいて行く。

「ヒイィ~~」

 硬直したまま衛兵は声をあげて恐怖した。しかし、ワーウルフ達は兵士達を無視して街の中へと散らばっていく。兵士達は涙する。自分達が街を守れなかった事へと自分達を無視してもいい存在だと思われているという事への二つの意味で涙する。悔しさと惨めな気持ちが衛兵たちを襲ったのだった。
 ワーウルフ達はロードの命令で戦えないものを無視して子供を攫ってくるように指示している。ロードは子供を好んでいたのだ。

「ギャア!」
「お父さん!」

 街のそこら中でワーウルフ達は暴れまわった。抵抗した親子は無残にもワーウルフの爪の餌食になった。

「ルン!」
「お母さん!!」

 小鳥のさえずり亭でも同様、ワーウルフが暴れまわりルンがワーウルフに捕まり抱えられた。

「お母さん、お母さん!!」
「ルンを離せ!!」

 熱したフライパンを振り上げてワーウルフに当てるとワーウルフは熱で顔を歪めた。しかし、その行為はワーウルフを怒らせるだけだった。

「ガア!!」
「キャ!」

 スリンは爪に腕を裂かれた。スリンの腕から血が滴り落ちる。

「お母さん!!」
「ルン・・・」

 スリンはかすむ目でルンを見てすぐに床に倒れた。ルンは泣きじゃくり暴れまわる。

「お前なんか死んじゃえ~~!!」

 ワーウルフは暴れるルンを嫌い手を振りあげた。

「キャ~~!」

 ルンの声は街に響いた。




 街を静寂が襲った。

 街は静まり返り、まるで時が止まったようだった。

「お母さん!」

 ルンは床を這ってスリンに抱きついた。床にスリンの血が滲んでいる。

 ワーウルフは意識を失って倒れた、ルンは驚いている暇はなくお母さんであるスリンへと寄り添った。

「ルン、大丈夫なのかい?」
「うん、大丈夫」

 涙して抱きつく親子は奇蹟にであった。ワーウルフは勝手に息を引き取っていたのだ。この奇蹟はまだ終わらない。

「お母さん傷が消えてるよ」

 ルンは傷があるはずのスリンの腕をさすりながら話している。ルンの言う通り傷が塞がっていた。この奇蹟はここだけではなかった。

「おいらは確か爪で引っ掻かれて・・・」
「お父さん!」

 そこら中からそんな驚きの声が聞こえてくる。

 門の前にいたアレイストの体も奇蹟に見舞われる。全力を出し尽くして動かなかった体が全快したのだ。

「これはどういう事だい・・・」

 アレイストは唖然としている。今までこんな経験をしたことが無いといった様子だ。

 ジャガルータはHPだけじゃなくMPも枯渇させる、正に最終手段である。それが全快しているのだから驚きだ。

 この奇蹟はそれだけではない。

 ワーウルフ達は全員、息を引き取っていたのだ。ワーウルフは命を落として街の住人は全快している。この街は奇蹟に見舞われた。






「グルルルルル」

 森の奥深くに鎮座していたワーウルフ、他のワーウルフにはない威厳と経験が外見からうかがえる。このワーウルフはワーウルフロード、ワーウルフキングの更に上の存在にして今回の襲撃を指揮したワーウルフだ。
 ワーウルフロードは意思疎通のスキルを所有している為、遠隔で指揮が出来る。ロードは高みの見物を決め込んでいた。

 しかし、ロードは思いもよらない反撃を受けて悔しがっている

「君が指揮官だね・・」
「ガル!」

 不意に後ろから声をかけられたロードは驚き振り向いた。

 そこには彼がいた。彼は空気中の水分を操りロードの場所を見つけた。彼は今にも切りつけてしまいそうなほど怒っているが自分を押さえて言葉をつないでいく。

「君はやっちゃいけない事をした。僕の大切な人達を傷つけたんだ。僕を認めてくれた人達を」

 月下の剣が白く輝き掲げられる。剣を向けられているロードは恐怖で動けずにいた。傍から見ると隙だらけな上段の構えから月下の剣が振り下ろされた。驚異的なその振り下ろしはロードを真っ二つに裂き絶命させる。
 ロードとなればAランクの魔物、軍を率いていればSランクにも届く災害級の魔物、しかし、少年の剣の攻撃によって一撃で葬り去られた。

「誰一人死なずにすんでよかった」
「ウニャ・・」

 少年は街全体に水による攻撃を行った。雨を降らせて街全体のワーウルフを仕留めたのだ。少年の名はルーク。血の泉で泣いていた彼はミスリーに引っ張られてエリントスへと向かった。
 城壁の外についたルークはワーウルフが中に入ったのを知ってすぐに雨を降らせた。雨はワーウルフの体内に入り心臓を締め付ける。
 傷を負った街の住人達には、設置したポーション自販機のポーションや自分で持っていたポーションを操り与えていった。彼のポーションは普通のポーションよりも回復量が高く欠損まで回復出来てしまう。この世界のポーションではありえない現象だ。だがそのおかげでみんなの命が助かった。

しおりを挟む
感想 293

あなたにおすすめの小説

スキル【僕だけの農場】はチートでした~辺境領地を世界で一番住みやすい国にします~

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
旧題:スキル【僕だけの農場】はチートでした なのでお父様の領地を改造していきます!! 僕は異世界転生してしまう 大好きな農場ゲームで、やっと大好きな女の子と結婚まで行ったら過労で死んでしまった 仕事とゲームで過労になってしまったようだ とても可哀そうだと神様が僕だけの農場というスキル、チートを授けてくれた 転生先は貴族と恵まれていると思ったら砂漠と海の領地で作物も育たないダメな領地だった 住民はとてもいい人達で両親もいい人、僕はこの領地をチートの力で一番にしてみせる ◇ HOTランキング一位獲得! 皆さま本当にありがとうございます! 無事に書籍化となり絶賛発売中です よかったら手に取っていただけると嬉しいです これからも日々勉強していきたいと思います ◇ 僕だけの農場二巻発売ということで少しだけウィンたちが前へと進むこととなりました 毎日投稿とはいきませんが少しずつ進んでいきます

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

処理中です...