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第一章 始まり

第四十一話 窮地

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「「「「「「「ワオ~~~~ン」」」」」」」

 無防備に自分達へと近づいてくる少年に対してワーウルフ達は雄たけびをあげた、涎をたらす口を大きく開けて少年へと襲い掛かった。
 しかし、その大きく開けた口は大きく裂けていった。それは少年による斬撃によるものであったがワーウルフ達は気にも留めずに少年へと襲い掛かっていく。周囲は尚も騒々しく狼の鳴き声が鳴り響いた。少年の斬撃が辺りの木を切り倒していく。
 
 しばらくすると周囲は静まり返り森の中に赤い泉ができあがる。むせ返るようなその泉に足首まで浸かっている少年は夜空の月を見上げて泣いた。

「こんな強さがほしかったわけじゃない」

 自分のした事をまるで悪い事のようにいう少年はむせび泣いた。心優しい少年は命を簡単に刈り取れる自分に恐怖に似た感情を抱いたのだった。
 少年は200はいた狼とワーウルフを屠って血の泉を作ってしまい泣き喚く。


「ウニャ~」

 少年が泣きはらした顔を拭っていると鎧が鳴きだした。主人にまだ終わっていないと告げた鎧は赤い泉から少年を引っ張り出すとそのままエリントスの方向へと歩かせる。

「どこに行かせるの?」

 少年は鎧に問いかける。その答えは少年の泣きはらした顔を怒りに染める物だった。








「なるほどね。あっちは囮だったか。こっちが本命って事かい!」

 アレイストは閉められた門を出た。ワーウルフの群れはいくつかの部隊に分かれていた。クルシュの屋敷へと向かった部隊は捨て駒だ、部隊の規模でアレイストの前に迫っている部隊の10分の一であった。それだけの数が今、正に街の正面の門へと駆け込んできている。迎え撃つは冒険者アレイストと門を守る衛兵のみだが、門の外にはアレイスト一人。アレイストは被害を出さないために一人外に出た。それは彼女の戦闘スタイルを考えると致し方ない事であった。

「なかなか厳しいね~。でもここで抑えなきゃAランクがすたるってね~」

 アレイストは自分のアイテムバッグから禍々しい黒い大剣を取り出した。彼女の持つ最強の剣ジャガルータ。ジャガルータは諸刃の剣、アレイストの体にジャガルータから伸びる蔓が食い込んでいく。彼女の褐色の体が更に赤黒く染まり目が充血していく。

「ジャガルータ、今こそお前の力を見せな!」

 眼前まで迫るワーウルフの群れ、街道に沿って走ってきていたワーウルフは一瞬で砕け散った。ジャガルータから放たれた黒い渦がワーウルフを襲ったのだ。渦は禍々しくまるで生きているかのようにワーウルフ達を食い荒らしていった。

「ハッハッハ、私の血を食わせてるんだ。こんなもんじゃないだろ!」

 アレイストは尚も迫ってくる生き残りのワーウルフ達を蹴散らしていく。ジャガルータを振るうと数匹のワーウルフが圧死し、アレイストの手に捕まったワーウルフは仲間を道ずれに爆発していく。彼女は最強だ。しかし、何故彼女が門の外へ出たのかがこの戦闘ではっきりとわかってくる。

「フハハハ!もっと血を吸わせろ!もっともっとだ!」

 正気を失ったアレイスト、ジャガルータは諸刃の剣、彼女の剣は味方にも及ぶ、彼女はパーティを組まないんじゃない組めないのだ。彼女の本気は味方を巻き込むから。
 しばらく、すると狼の声は聞こえなくなる。ジャガルータは気がすんだのかアレイストの体からツタを解き放ちアレイストは元の姿に戻って行く。

「・・・」

 彼女は脱力して後ろに倒れ込んで空を見上げた。指一本動かない状態の彼女は全力を出し尽くしてワーウルフを撃退した。
 しかし、その中にはノーブルもジェネラルもいなかった。

 ワオ~~~~ン!

 アレイストは見余った。先ほど倒した部隊が本隊だと思っていたのだ。しかしそれは違った。新しいワーウルフの部隊が走り込んでくるのが見える。今までの襲撃よりも少ないそれは全体の2割にも満たないがその全てがワーウルフで上位種といわれる者達だ。言わずもがなこの部隊がワーウルフ達の本隊である。

「や ら れ たねえ・・・」

 アレイストは出し切った体で漏れるような声をあげた。

 ワーウルフ達はアレイストを避けて城壁や門を攻撃していく、アレイストにもう戦う力がない事を悟ったのだろう。アレイストは悔し涙をながしてその光景を見ていた。

「・・・ジェネラルが二匹・・」

 城壁を攻撃するワーウルフ達の中に指揮をするはずのジェネラルが含まれていた。普通ならば一匹いれば危ないと言われるジェネラルが二匹いるのだ、彼女は唖然として何とか体を起こそうとするがピクリとも動かない体に悔し涙を流す。
 門の上から衛兵が攻撃するが数匹怯む程度で死にはしなかった。城壁は見る見る削れていく。






「クルシュ様!街の方に光点があがりました」
「なに!!」

 クルシュの屋敷に来たワーウルフ達は一掃された。ホッと胸を撫でおろしていたクルシュは街を見て驚愕した。

「まさか、こっちは囮だったのか。奴らにそんな知恵があるなんて」

 クルシュは握りこぶしを作ると血を滲ませた。

「皆!街が危ないすぐに向かってくれ」

 このままではゼル様から受け継いだ領地が血に染まってしまう、クルシュは騎兵と共に街へと駆ける。

「やらせん!」

 手綱を握る手は赤く染まった。
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